幽霊令嬢と呼ばれていますが、私にだけ見えるイケメンな縛霊様と恋に落ちました

夏見ナイ

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第51話 事件の顛末

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王城からの帰り道、馬車に揺られながら私の頭の中はゲオルグが残した『我らが主が、玉座にてお前を待っている』という言葉でいっぱいだった。
闇の魔術師団の頂点に立つ謎の『主』。宰相ヴァルデマールさえも駒として使う、その正体とは。そして、なぜ彼は私を求めるのか。
渦巻く謎の中心に自分と、そしてルークがいる。その事実は重い宿命となって私の両肩にのしかかっていた。

寮に戻ると、談話室でアンナが心配そうに私を待っていた。
私はアラン王子から聞いた全てを彼女に正直に話した。捕らえた幹部の自決、残された謎の言葉、そしてヴァルデマール宰相の裏切り。
アンナは話が進むにつれて青ざめていき、全てを聞き終えた時にはわなわなと拳を震わせていた。

「ひどい……。ひどすぎるよ……!学園のみんなをあんな目に遭わせておいて、自分だけ死んで逃げるなんて!それに、宰相様が黒幕だったなんて……!」
「ええ。わたくしたちが思っていた以上に、敵の根は深く、そして邪悪ですわ」
「でも……」

アンナは私の手をぎゅっと握りしめた。その瞳には恐怖ではなく、燃えるような怒りと決意が宿っている。

「でも、負けないよ!絶対に!だって、リリアーナさんとカインさんと私がいるんだもん!それに、あの聡明なアラン王子も味方なんだから!」

彼女の屈託のない強さが、私の沈みかけた心を力強く引き上げてくれた。
そうだ。私は一人じゃない。
私たちはこの日から調査を本格化させることを誓い合った。どんな小さなことでも情報を共有し、三人(と、見えない一人)の知恵で、この巨大な悪意に立ち向かうのだと。

学園は事件の顛末に揺れていた。
公式には「外部の過激派魔術師集団によるテロ行為」として発表され、宰相ヴァルデマールは「事件の混乱に乗じて国の機密文書と共に逃亡した大逆賊」として全国に指名手配された。
真実を知る者はごく一握り。生徒たちのほとんどは公式発表を信じ、恐怖しながらも騎士団による厳重な警備の下で少しずつ日常を取り戻し始めていた。

だが、私の日常はもう元には戻らなかった。
あの夜、聖なる力で仲間を救った私の姿は多くの生徒たちの目に焼き付いていた。私はもはやただの主席合格者ではなく、「学園を救った聖女」として畏敬と、そして一種の崇拝の対象となっていたのだ。
廊下を歩けば誰もが道を空け、深々と頭を下げる。カフェテリアに座れば、遠巻きに囁き声が聞こえてくる。それはかつての侮蔑や好奇とは全く違う、善意からくるものだと分かってはいても、私の心を息苦しくさせた。

『有名税というやつだな。仕方のないことだ』

ルークはそう言って慰めてくれるが、私の心は晴れなかった。
私が望んだのはこんな特別な扱いではない。アンナやカインとただ笑い合える、普通の学園生活だったはずなのに。

そんなある日、私の元に国王陛下の紋章が押された一通の正式な召喚状が届いた。
国王陛下が私に直接会って話がしたい、と。

「国王陛下が……!?」

アンナは目を丸くして驚いている。
私自身も信じられない思いだった。一介の学生に過ぎない私が、この国の頂点に立つ人物に謁見するなど前代未聞のことだ。

「これは君の活躍が正式に認められたということだ」

私の心の中のルークが静かに言った。
「おそらくアラン王子が君の功績を正しく報告したのだろう。これは君にとって大きな好機になる。胸を張って臨むといい」

謁見当日、私はアラン王子の計らいで友人として同席を許されたアンナと共に、再び王城を訪れた。
通されたのは豪華絢爛な謁見の間。高い天井、磨き上げられた大理石の床、壁にかけられた巨大なタペストリー。その全てが王家の威光を物語っている。
部屋の最も奥。一段高くなった玉座に、この国の王、アルベルト・フォン・クラウゼルは静かに座していた。
白髪交じりの髪、深く刻まれた皺。その顔には宰相に裏切られた心労が色濃く浮かんでいる。だが、その瞳は老いてなお鋭い光を失っておらず、国の頂点に立つ者の威厳に満ちていた。

私たちは玉座の前まで進み出ると、深々と臣下の礼をとった。
謁見の間には重い沈黙が流れる。国王の鋭い視線が私の全身を射抜くように注がれているのが分かった。

やがて国王は重々しく口を開いた。
その声は老いてなお、部屋全体を震わせるほどの威厳を持っていた。

「……面を上げよ、リリアーナ・フォン・エルシュタット」

言われるままに私はゆっくりと顔を上げた。
国王の瞳と私の瞳が正面から交差する。

「アランより、全て聞いた」

国王は静かに言った。
「宰相ヴァルデマールの裏切り、闇の魔術師団の暗躍、そして学園を襲った悲劇。その全てをだ。そして、その絶望的な状況の中、そなたが身を挺して多くの命を救ったということも」

彼の声には非難の色はなかった。
ただ、深い、深い感慨のようなものが滲んでいる。

「そなたの勇気と、その聖なる力に、この国の王として心から感謝する。よくやってくれた」

その思いがけない労いの言葉に、私は胸が熱くなるのを感じた。

「わたくしはただ、友人を守りたかっただけでございます」
「うむ。その純粋な想いこそが、真の強さの源なのだろうな」

国王は深く頷くと、続けた。
「今回の功績に報いねばなるまい。そなたに褒賞を与える。望むものを申してみよ。可能な限り叶えよう」

褒賞。
私は一瞬言葉に詰まった。私が望むもの。それはルークを救うための情報。
だが、それをどう伝えれば……。

私が言い淀んでいると、国王は何かを察したように自ら言葉を続けた。

「……そなたは何かを探しているようだな。自分の力の根源、そしてこの国に巣食う闇の正体を」
「……!」
「アランの報告によれば、そなたは学園の禁書庫にさえ忍び込んだとか。その探究心、気に入った」

国王はそう言うと、わずかに口の端を上げて笑った。

「ならば、これを与えよう。そなたに王家の禁書庫への自由な立ち入りを許可する」
「え……!」

それは私の想像を遥かに超えた、最高の褒賞だった。
王家の禁書庫。そこはこの国の全ての歴史、全ての秘密が眠る場所。学園の禁書庫など比べ物にならないほどの知の聖域。

「思う存分調べるといい。そなたが求める真実が、そこにあるかもしれん。そして何かを掴んだならば私に報告せよ。この国を蝕む闇を打ち払うため、そなたの力を王家は必要としている」

国王の言葉は、私をただの学生としてではなく、この国難に共に立ち向かう対等な協力者として認めるものだった。
事件の顛末は、私を新たなステージへと押し上げてくれたのだ。

私は込み上げてくる熱い思いを胸に、再び深く、深く頭を下げた。

「陛下。その御心、生涯忘れません。このリリアーナ・フォン・エルシュタット、我が身の全てを懸けて、ご期待に応えることをお誓い申し上げます」

私の決意に国王は満足げに頷いた。
謁見の間を退出する私の背中に、彼の最後の言葉が静かにかけられた。

「――頼んだぞ、聖女殿」

その称号の重みを、私は今、確かに受け止めていた。
私の活躍はついに国王の耳に届き、そして彼からの絶大な信頼と次なる戦いへの道筋を私にもたらしてくれたのだ。
王家の禁書庫。
そこにルークを救うための全ての答えが眠っている。
私の胸には新たな希望の光が力強く灯っていた。
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