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三秋
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*ハッピーエンドではありません*
*苦手な方はご遠慮ください*
草矢は、笑顔で俺に言う。
「三秋、わかってるよな?」
俺はこの言葉に、イエス以外答えられるはずがない。
草矢はそれをわかって言っている。
俺は昔、草矢が一番嫌っていることをしてしまった。
あの時は自分がしてしまったことに全く気づいていなかったけれど、草矢のその時の顔を見て、俺は事の重大さがわかった。
これは草矢に対する裏切りだったんだ、と。そして、もう元には戻らないんだ、と。
その日以来、草矢は笑顔をやめた。……俺以外には。
草矢はあの日のことを見せしめとするように、笑顔になる。
「…………………わかってる」
そしてオレは、もちろんイエスの意味で草矢に返事をする。泣きたいような、嬉しいような、怯えるような、困ったような、自分でもわからない顔で。
あの時に戻れたらと、思わない日は無い。しかしそんなことはできるはずもなく、俺は自分の浅はかさを呪うしかない。
いっそのこと、許してほしいと縋って泣いて心の内を叫べば……と思うこともない訳ではない。
しかしそう考えた瞬間に、俺の足は竦む。
それは、怖いからだ。いつかその笑顔すら見せてもらえなくなる気がして。草矢に二度と会えなくなる気がして。
ほんの少しでもいい。側にいれば、いつかまた、あの頃の草矢に会えるかもしれない…………
俺はこの、草矢の気分次第で消えてしまう脆い繋がりを、藁をも縋る思いだとは分かっているけれど、大切にしたいんだ。
草矢と俺は、幼い頃から親戚付き合いがある。草矢の家に集まる盆と正月は、一緒に遊べるような年代は俺たち二人だけで、必然的に二人きりで部屋にいることが多かった。
この頃の俺にとって草矢は、難しい言葉をたくさん知ってて頭が良いけれど気取ってなくて良いヤツだった。明るく振る舞うクセに笑顔を隠すのは気になっていたけれど、しゃべっていてそれを上回る楽しさがあった。
大人を中心に考えられた大きな家で遊びに困ると、すぐに新しいゲームを思いつく草矢。あちこちにある紙やら何やらを集めてあっという間に楽しくしてしまう草矢に、俺はいつの間にか憧れを抱いていた。
ある日。
俺は偶然、草矢の笑顔を見た。俺が知ってる一般的な笑顔にはほど遠いそれに、
驚きのあまり思わず本音を言ってしまった。
もちろん草矢にはその場で泣かれたし、大人たちにはこっぴどく叱られた。でも、本音を隠して何もせず微妙に距離を取るだけの大人たちの方が、俺は酷いと思った。
どんな笑顔であろうと、オレは草矢と一緒にいたい気持ちに変わりはなかった。
けれど大粒の涙を流す草矢を見ていると、もう会ってもらえないかも……二度と会えなくなるかも……そんな気持ちが過った。
その瞬間、全身が凍りついた。
それだけは絶対に絶好に絶好に嫌だ!!
オレは頭を巡らせ、なんとかして側にいられる方法を見つけ出そうとした。
笑顔が理由で一緒にいられないなら、それを直せば……
「俺が、笑顔……教えてやるっ!!」
びっくりした顔で、でも草矢はゆっくりと頷いてくれた。
この時オレは、心の底から安堵したことを覚えている。
住んでいる場所が遠いため年に数回しか会えなかったけれど、それからも草矢は笑顔を見せる前と同じように接してくれた。
俺も、草矢の隣にいるといつでもワクワクが止まらない俺に戻っていった。
しかし。
笑顔を教えてやる……勢いでそう言った手前、何かアクションを起こさなければと俺は悩んでいた。けれど良い案は何も浮かばない。
その時だ。草矢にこっそりと打ち明けられた秘密……それが、笑顔の練習だった。
憧れていた草矢からの、秘密の共有。俺にとって草矢は、笑顔以外完璧で、何も無いところから魔法のようにワクワクを作ってしまう、手の届かないような存在だった。そんな草矢の、心の、一番柔らかくて弱いところを教えてくれた……その事実は、オレの胸を甘く震わせた。
それからの俺は、ますます草矢にのめり込んでいった。
それから少し後。互いにスマホを持ち始め、離れていても連絡を取り合うようになった。
この頃から、俺は以前よりも本気で草矢の力になりたいと思い始めた。
草矢が望む笑顔になること、そうなることで草矢が望んでいることを叶えたかった。草矢の望んでいるもの………それは、一線を引いたり遠巻きに眺めたりしない、他人の存在だ。
草矢がすごいことを知ってるのは俺だけでいい……ふと浮かんできたそんな気持ちを、俺は心の中で握り潰した。
俺は笑顔の練習と同時進行で、皆との距離を縮めようと考え始めた。
皆との距離を縮めるため、まずは草矢の作るワクワクを知ってもらえたら……そう思った俺は、草矢に許可をもらい、草矢が考えたゲームを学校のみんなに見せることにした。そしてそれはあっという間にブームになった。
草矢のすごさが皆のワクワク顔を作っているんだと思うと、俺も誇らしかった。
「あのさ、横沢。ここなんだけど、ちょっとよくわからなくて」
「あぁ、ちょっと待ってて」
クラスメイトたちに囲まれゲームのルールについて聞かれたため、俺は確認しようとスマホ画面をスライドさせていた。草矢が書いた説明を撮った写真があったはず、どこだったかな……と過去の画像を漁っていると、以前撮った草矢の笑顔の写真が出てくる。すぐにスライドされて見えなくなったけれど、オレはこのゲームを広める意味を再認識した。
俺は俺を囲んでいたクラスメイトにメモを見せながら説明をした。その後すぐにそのクラスメイトはみんなの輪に帰り、そこは活気が戻る。あーでもないこーでもないと盛り上がる皆。誰も彼も草矢のゲームに夢中だ。
俺はこの景色を草矢に見せてやりたいと思った。
次に草矢に会ったとき、俺は真っ先に皆の反応を報告した。
もちろん、草矢も喜んでくれた。オレは、草矢のためになることができて、飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。
あぁすれば、こうすればと話している時間は何よりも楽しかった。次に会える時も、来年もその先もずっと、草矢とのこんな時間が続くと思っていた。
もっと草矢に喜んでほしい、草矢のためになりたい……その気持ちは俺の中でどんどん膨らんでいった。
けれど、そんな時間はいつまでも続かなかった。
俺はクラスメイトのから貰った質問を草矢に聞こうと、スマホをスライドさせて草矢の書いた説明の画像を探していた。
「ぁ……」
そのときだ。喉の奥から絞り出したような、悲鳴にも似た声が聞こえた。
草矢!?
驚いて隣を見ると、草矢の顔から血の気が引いていくのがわかる。視線は俺のスマホに釘付けのままで。
「草矢どうした?」
俺は草矢の肩をつかみ、顔を覗き込む。
「ぁ……」
草矢の動くだけの唇が、言葉にならない何かを絞り出す。
「っ……そ、れ……………」
「ん?この写真?これは草矢が前に書いてくれたゲームのルールだよ。ほら」
俺は画面を見せながら、スライドさせていく。
「っ、ちが…………」
「ん?こっち?こっちはこの前出かけたとき、雲がおもしろい形してたから撮ったやつで……」
「も、っと、前……だ……」
画面と草矢の顔を交互に見ていると、草矢は突然、スマホごと俺の手をつかんだ。
「おま、え……他のヤツの前、でも、っ、そうやって、見せたん、だな…………」
その瞬間、草矢の目の色が変わったのがわかった。
普段からは想像もできないくらい強く握りしめる草矢の手の中で、俺の右手はだんだんと痺れ始める。
「あ……」
その時俺はやっと、全部を理解した。
クラスメイトに、草矢の笑顔の写真が見られてしまったかもしれない……
写真を見たヤツがもしどこかで草矢を見かけたら……写真の顔を思い出してしまったら………ソイツは思うだろう。草矢の笑顔は……だと。そしてそれを他人に言ってしまうこともあるだろう。
俺は、こそこそと何かを言い遠巻きに見るだけで何もしない他人を増やしてしまったのだ。
……草矢はそれを何よりも嫌っているのに。
俺は自分の浅はかさを呪うしかなかった。
一瞬で視界が横転し、俺は拳を振り下ろす草矢を床から見上げていた。
そこには醜いだけの笑顔があった。
俺は、もうこの先ずっと、草矢の本当の笑顔……見た目は醜いけれど、心の底から笑っている笑顔を、見ることはないんだと、思った。
俺は草矢に言われてすぐ、俺はこの曜日毎の恋人制度を作った。
何が恋人だ!本当にくだらない。オマエたちなんて草矢のことなにも知らないくせに……
恋人と言っても、草矢が一方的に好きを得たいがための制度だ。そして草矢はその好きに身体で返す………事実、ただの処理だ。
しかも、夢中になっているのは、草矢と俺を除いた他人だ。俺を楽しませようとあれこれ考えていた、一緒に楽しんでいたあの頃のゲームとは、違う。でも……
こんな新しい遊びを思いつくなんて……
くだらないくだらないとは思いつつも、心の隅にぽっと明かりが灯るのがわかる。
相変わらず草矢は……
俺の心は、草矢の中にあの頃の片鱗を見つけ、惹かれてやまない。
俺は今日も、二人だけの空間で、中身の無い笑顔を見る。
この笑顔を見せるのは、俺にだけ……
遠巻きに見ないだけで、遠巻きに見ている他人と変わらない自称恋人たちに、今の草矢は笑顔を見せるはずがない。そんなことしたら今ごろクレームの嵐だろう。
何の感情もない、ただの歪んだだけの顔。それを見ると、頭を掻き毟りたくて、泣き叫びたくて、逃げ出したくて、たまらなくなる。けれど、この笑顔が見られるのは俺だけだと思うと、心の奥底からあの頃の気持ちが湧き上がってくる。
俺の心を震わせるのは、いつも草矢の笑顔だ。
再びやって来た秘密の共有は、以前よりももっと甘く、オレの胸を震わせ続ける。
*苦手な方はご遠慮ください*
草矢は、笑顔で俺に言う。
「三秋、わかってるよな?」
俺はこの言葉に、イエス以外答えられるはずがない。
草矢はそれをわかって言っている。
俺は昔、草矢が一番嫌っていることをしてしまった。
あの時は自分がしてしまったことに全く気づいていなかったけれど、草矢のその時の顔を見て、俺は事の重大さがわかった。
これは草矢に対する裏切りだったんだ、と。そして、もう元には戻らないんだ、と。
その日以来、草矢は笑顔をやめた。……俺以外には。
草矢はあの日のことを見せしめとするように、笑顔になる。
「…………………わかってる」
そしてオレは、もちろんイエスの意味で草矢に返事をする。泣きたいような、嬉しいような、怯えるような、困ったような、自分でもわからない顔で。
あの時に戻れたらと、思わない日は無い。しかしそんなことはできるはずもなく、俺は自分の浅はかさを呪うしかない。
いっそのこと、許してほしいと縋って泣いて心の内を叫べば……と思うこともない訳ではない。
しかしそう考えた瞬間に、俺の足は竦む。
それは、怖いからだ。いつかその笑顔すら見せてもらえなくなる気がして。草矢に二度と会えなくなる気がして。
ほんの少しでもいい。側にいれば、いつかまた、あの頃の草矢に会えるかもしれない…………
俺はこの、草矢の気分次第で消えてしまう脆い繋がりを、藁をも縋る思いだとは分かっているけれど、大切にしたいんだ。
草矢と俺は、幼い頃から親戚付き合いがある。草矢の家に集まる盆と正月は、一緒に遊べるような年代は俺たち二人だけで、必然的に二人きりで部屋にいることが多かった。
この頃の俺にとって草矢は、難しい言葉をたくさん知ってて頭が良いけれど気取ってなくて良いヤツだった。明るく振る舞うクセに笑顔を隠すのは気になっていたけれど、しゃべっていてそれを上回る楽しさがあった。
大人を中心に考えられた大きな家で遊びに困ると、すぐに新しいゲームを思いつく草矢。あちこちにある紙やら何やらを集めてあっという間に楽しくしてしまう草矢に、俺はいつの間にか憧れを抱いていた。
ある日。
俺は偶然、草矢の笑顔を見た。俺が知ってる一般的な笑顔にはほど遠いそれに、
驚きのあまり思わず本音を言ってしまった。
もちろん草矢にはその場で泣かれたし、大人たちにはこっぴどく叱られた。でも、本音を隠して何もせず微妙に距離を取るだけの大人たちの方が、俺は酷いと思った。
どんな笑顔であろうと、オレは草矢と一緒にいたい気持ちに変わりはなかった。
けれど大粒の涙を流す草矢を見ていると、もう会ってもらえないかも……二度と会えなくなるかも……そんな気持ちが過った。
その瞬間、全身が凍りついた。
それだけは絶対に絶好に絶好に嫌だ!!
オレは頭を巡らせ、なんとかして側にいられる方法を見つけ出そうとした。
笑顔が理由で一緒にいられないなら、それを直せば……
「俺が、笑顔……教えてやるっ!!」
びっくりした顔で、でも草矢はゆっくりと頷いてくれた。
この時オレは、心の底から安堵したことを覚えている。
住んでいる場所が遠いため年に数回しか会えなかったけれど、それからも草矢は笑顔を見せる前と同じように接してくれた。
俺も、草矢の隣にいるといつでもワクワクが止まらない俺に戻っていった。
しかし。
笑顔を教えてやる……勢いでそう言った手前、何かアクションを起こさなければと俺は悩んでいた。けれど良い案は何も浮かばない。
その時だ。草矢にこっそりと打ち明けられた秘密……それが、笑顔の練習だった。
憧れていた草矢からの、秘密の共有。俺にとって草矢は、笑顔以外完璧で、何も無いところから魔法のようにワクワクを作ってしまう、手の届かないような存在だった。そんな草矢の、心の、一番柔らかくて弱いところを教えてくれた……その事実は、オレの胸を甘く震わせた。
それからの俺は、ますます草矢にのめり込んでいった。
それから少し後。互いにスマホを持ち始め、離れていても連絡を取り合うようになった。
この頃から、俺は以前よりも本気で草矢の力になりたいと思い始めた。
草矢が望む笑顔になること、そうなることで草矢が望んでいることを叶えたかった。草矢の望んでいるもの………それは、一線を引いたり遠巻きに眺めたりしない、他人の存在だ。
草矢がすごいことを知ってるのは俺だけでいい……ふと浮かんできたそんな気持ちを、俺は心の中で握り潰した。
俺は笑顔の練習と同時進行で、皆との距離を縮めようと考え始めた。
皆との距離を縮めるため、まずは草矢の作るワクワクを知ってもらえたら……そう思った俺は、草矢に許可をもらい、草矢が考えたゲームを学校のみんなに見せることにした。そしてそれはあっという間にブームになった。
草矢のすごさが皆のワクワク顔を作っているんだと思うと、俺も誇らしかった。
「あのさ、横沢。ここなんだけど、ちょっとよくわからなくて」
「あぁ、ちょっと待ってて」
クラスメイトたちに囲まれゲームのルールについて聞かれたため、俺は確認しようとスマホ画面をスライドさせていた。草矢が書いた説明を撮った写真があったはず、どこだったかな……と過去の画像を漁っていると、以前撮った草矢の笑顔の写真が出てくる。すぐにスライドされて見えなくなったけれど、オレはこのゲームを広める意味を再認識した。
俺は俺を囲んでいたクラスメイトにメモを見せながら説明をした。その後すぐにそのクラスメイトはみんなの輪に帰り、そこは活気が戻る。あーでもないこーでもないと盛り上がる皆。誰も彼も草矢のゲームに夢中だ。
俺はこの景色を草矢に見せてやりたいと思った。
次に草矢に会ったとき、俺は真っ先に皆の反応を報告した。
もちろん、草矢も喜んでくれた。オレは、草矢のためになることができて、飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。
あぁすれば、こうすればと話している時間は何よりも楽しかった。次に会える時も、来年もその先もずっと、草矢とのこんな時間が続くと思っていた。
もっと草矢に喜んでほしい、草矢のためになりたい……その気持ちは俺の中でどんどん膨らんでいった。
けれど、そんな時間はいつまでも続かなかった。
俺はクラスメイトのから貰った質問を草矢に聞こうと、スマホをスライドさせて草矢の書いた説明の画像を探していた。
「ぁ……」
そのときだ。喉の奥から絞り出したような、悲鳴にも似た声が聞こえた。
草矢!?
驚いて隣を見ると、草矢の顔から血の気が引いていくのがわかる。視線は俺のスマホに釘付けのままで。
「草矢どうした?」
俺は草矢の肩をつかみ、顔を覗き込む。
「ぁ……」
草矢の動くだけの唇が、言葉にならない何かを絞り出す。
「っ……そ、れ……………」
「ん?この写真?これは草矢が前に書いてくれたゲームのルールだよ。ほら」
俺は画面を見せながら、スライドさせていく。
「っ、ちが…………」
「ん?こっち?こっちはこの前出かけたとき、雲がおもしろい形してたから撮ったやつで……」
「も、っと、前……だ……」
画面と草矢の顔を交互に見ていると、草矢は突然、スマホごと俺の手をつかんだ。
「おま、え……他のヤツの前、でも、っ、そうやって、見せたん、だな…………」
その瞬間、草矢の目の色が変わったのがわかった。
普段からは想像もできないくらい強く握りしめる草矢の手の中で、俺の右手はだんだんと痺れ始める。
「あ……」
その時俺はやっと、全部を理解した。
クラスメイトに、草矢の笑顔の写真が見られてしまったかもしれない……
写真を見たヤツがもしどこかで草矢を見かけたら……写真の顔を思い出してしまったら………ソイツは思うだろう。草矢の笑顔は……だと。そしてそれを他人に言ってしまうこともあるだろう。
俺は、こそこそと何かを言い遠巻きに見るだけで何もしない他人を増やしてしまったのだ。
……草矢はそれを何よりも嫌っているのに。
俺は自分の浅はかさを呪うしかなかった。
一瞬で視界が横転し、俺は拳を振り下ろす草矢を床から見上げていた。
そこには醜いだけの笑顔があった。
俺は、もうこの先ずっと、草矢の本当の笑顔……見た目は醜いけれど、心の底から笑っている笑顔を、見ることはないんだと、思った。
俺は草矢に言われてすぐ、俺はこの曜日毎の恋人制度を作った。
何が恋人だ!本当にくだらない。オマエたちなんて草矢のことなにも知らないくせに……
恋人と言っても、草矢が一方的に好きを得たいがための制度だ。そして草矢はその好きに身体で返す………事実、ただの処理だ。
しかも、夢中になっているのは、草矢と俺を除いた他人だ。俺を楽しませようとあれこれ考えていた、一緒に楽しんでいたあの頃のゲームとは、違う。でも……
こんな新しい遊びを思いつくなんて……
くだらないくだらないとは思いつつも、心の隅にぽっと明かりが灯るのがわかる。
相変わらず草矢は……
俺の心は、草矢の中にあの頃の片鱗を見つけ、惹かれてやまない。
俺は今日も、二人だけの空間で、中身の無い笑顔を見る。
この笑顔を見せるのは、俺にだけ……
遠巻きに見ないだけで、遠巻きに見ている他人と変わらない自称恋人たちに、今の草矢は笑顔を見せるはずがない。そんなことしたら今ごろクレームの嵐だろう。
何の感情もない、ただの歪んだだけの顔。それを見ると、頭を掻き毟りたくて、泣き叫びたくて、逃げ出したくて、たまらなくなる。けれど、この笑顔が見られるのは俺だけだと思うと、心の奥底からあの頃の気持ちが湧き上がってくる。
俺の心を震わせるのは、いつも草矢の笑顔だ。
再びやって来た秘密の共有は、以前よりももっと甘く、オレの胸を震わせ続ける。
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