僕はずっと一緒にいたかっただけなんだ

曲がる定規

文字の大きさ
7 / 8

草矢

しおりを挟む
*ハッピーエンドではありません*
*苦手な方はご遠慮ください*







 オレは、鏡に映る自分の顔を見る。

 片側だけ上がる口角、痙攣するかのようにヒクヒクする片頬、下がる眉尻、シャーペンで線を引いたかのように細くなる目。


 これが、オレの、見たくもないオレの笑顔だ。


 気づいた時にはこうだった。家族からは心配されるがどことなく気を使われるし、他人はもちろん距離を取る。
 けれどオレは、どんな時でも無理やり明るく振る舞っていた。少しでも気づいてしまったら、その寂しさに耐えられそうになかったから。


 三秋に会うまでは。






 幼い頃から親戚付き合いのある三秋。三秋にこの笑顔を知られるまで、オレは一人で笑顔の練習をしていた。しかし、二人になってもどんなに練習しようとも、鏡に映るのはこの歪んだ顔だけだった。


 そして、オレはあるきっかけで練習を止め……笑顔をやめた。






 しかし、そこから人生が大きく変わった。
 その無表情がミステリアスな雰囲気を帯びていてカッコイイ、と、言われた始めたのだ。

 熱っぽい視線で遠巻きに眺める他人たち。好意を隠さず寄ってくる他人たち。

 笑顔をみせるたび周囲から人が離れて行ったのが、嘘のようだった。



 なんだ、こんなに簡単なことだったのか………


 オレはこの初めての体験に浮かれていた。嘘か本当か知らないが、学内にファンクラブがあるとのウワサなんてものが聞こえてきた。
 目をハートにしている他人たちを見ると、幼い頃あんなにも懸命に笑顔を作り他人を求めていた自分がバカらしくて仕方がない。


 次第にオレは、もっと多くの他人、そしてもっと濃いもの……『好き』を求めるようになっていった。










 オレは、あることを思いついた。


「三秋」

「なんだ?」


 オレに呼ばれて振り返る三秋は、今にも泣き出しそうな顔と笑顔と困惑が混ざった顔で返事をする。
 そんな三秋に、オレは笑顔で言った。


「オレの言いたいこと、わかってるよな」

「………………………わかってる」


 同じ学校に通っている三秋に、オレはこの制度を作らせた。


 なんとなく思いつきで言った、このマンガみたいな制度……まさか、そっくりそのまま作るとはな。


 オレは鼻で笑うしかなかった。


 まぁ、オレがどんなに無茶な提案をしようとも、三秋は逆らうことができないんだ。


 オレが笑顔を止めた原因は、三秋だから……








 まだオレが笑顔の練習をしていた頃だ。遠い親戚である三秋とは、なんやかんや会うことが多かった。大人たちやその周囲では、空気を読み合って、オレの笑顔にはなるべく触れないでいてくれた。
 が、そんな中で同じく幼い三秋は、面と向かって『笑顔がキモい』と言ってきたのだ。

 初めはあまりのショックで涙が止まらなかった。
 しかし……笑顔を教えてやると言い出した三秋の飾らない真剣な眼差しに、オレは次第に心を許していった。






 曖昧な表情でその場を乗り切ろうとする他人の中で、唯一、一緒に並んで歩こう言ってくれた三秋。オレのたった一人の友人だった。

 オレは、一人でしていた笑顔の練習をこっそり打ち明けた。秘密の共有は、くすぐったいような、甘いものが胸に広がっていくような特別感を持ち、オレの心を震わせた。

 写真を撮って笑顔を練習する方法を考えたのは三秋だ。アプリで加工したり、落書きしてみたり。大した成果は得られなかったけれど、三秋と過ごすその時間はとても楽しかった。





 しかし、その時間はそう長くは続かなかった。



 数か月振りに会った三秋といつものように話していた時。

 ふと横にいる三秋の方を見ると、オレの目にある写真が飛び込んできた。
 三秋が何かを探すためにスマホ画面をスライドさせている、その画面に一瞬映ったもの……オレの笑顔の写真だ。

 オレの前でもするくらいだ。そのスマホ画面をスライドする何気ない日常の動作を、三秋は他人の前でもしていると確信した。




 オレは、身体中の血が沸騰したかと思った。気づけば三秋に馬乗りになっていた。


 写真を見た他人はきっと言ってるだろう。オレの笑顔が……だと。そしてそれは尾ヒレ背ビレが付いてどこまでも伝わっていく。今はどれだけの他人が知っているだろうか。
 見えないところで誰かが自分を笑っている、そんな辛さが、三秋にわかる訳ない。



 けれどそれよりも。
 三秋に裏切られたこと……それが、振り上げた拳の一番の理由だった。






 気づくとオレは白いベッドの上にいた。横には、あちこち包帯が巻かれ引っかき傷だらけの顔で、涙を溜め謝罪の言葉を述べる三秋がいる。けれどオレは、その謝罪を遮り言った。


「三秋。これからも……よろしくね」


 この時を境に、オレは笑顔を止めた。
 ……三秋以外には。







 それからオレは、曜日毎に時間制限付きの恋人を得た。
 時間内に他人の望むことをして、中には少々特殊な要求もあるが、ついでにケツに突っ込むだけで喜ばれる。
 それでオレは、言葉と態度で好きを存分に浴びられる。




 好きって、こんなにも簡単だったのか……



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

無口な愛情

結衣可
BL
 『兄の親友』のスピンオフ。    葛城律は、部下からも信頼される責任感の強い兄貴肌の存在。ただ、人に甘えることが苦手。  そんな律の前に現れたのが、同年代の部下・桐生隼人。  大柄で無口、感情をあまり表に出さないが、実は誰よりも誠実で優しい男だった。  最初はただの同僚として接していた二人。  しかし、律が「寂しくて眠れない」と漏らした夜、隼人が迷わず会いに来たことで関係は大きく動き出す。   無口で不器用ながらも行動で示してくれる隼人に、律は次第に素直な弱さを見せるようになり、  日常の中に溶け込むささやかな出来事が、二人の絆を少しずつ深めていく。

生真面目な護衛は王子の誘惑に耐えられない

すいかちゃん
BL
辺境の国で生まれたレアーナ。ある事情から隔離生活をさせられていた。護衛のウェイは、そんなレアーナに密かな恋心を抱いていた。だが、それは許されない事。ウェイは理性で欲望を抑えていた。 だが、ある夜。ウェイの寝室を訪れたレアーナに…。

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

処理中です...