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草矢
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*ハッピーエンドではありません*
*苦手な方はご遠慮ください*
オレは、鏡に映る自分の顔を見る。
片側だけ上がる口角、痙攣するかのようにヒクヒクする片頬、下がる眉尻、シャーペンで線を引いたかのように細くなる目。
これが、オレの、見たくもないオレの笑顔だ。
気づいた時にはこうだった。家族からは心配されるがどことなく気を使われるし、他人はもちろん距離を取る。
けれどオレは、どんな時でも無理やり明るく振る舞っていた。少しでも気づいてしまったら、その寂しさに耐えられそうになかったから。
三秋に会うまでは。
幼い頃から親戚付き合いのある三秋。三秋にこの笑顔を知られるまで、オレは一人で笑顔の練習をしていた。しかし、二人になってもどんなに練習しようとも、鏡に映るのはこの歪んだ顔だけだった。
そして、オレはあるきっかけで練習を止め……笑顔をやめた。
しかし、そこから人生が大きく変わった。
その無表情がミステリアスな雰囲気を帯びていてカッコイイ、と、言われた始めたのだ。
熱っぽい視線で遠巻きに眺める他人たち。好意を隠さず寄ってくる他人たち。
笑顔をみせるたび周囲から人が離れて行ったのが、嘘のようだった。
なんだ、こんなに簡単なことだったのか………
オレはこの初めての体験に浮かれていた。嘘か本当か知らないが、学内にファンクラブがあるとのウワサなんてものが聞こえてきた。
目をハートにしている他人たちを見ると、幼い頃あんなにも懸命に笑顔を作り他人を求めていた自分がバカらしくて仕方がない。
次第にオレは、もっと多くの他人、そしてもっと濃いもの……『好き』を求めるようになっていった。
オレは、あることを思いついた。
「三秋」
「なんだ?」
オレに呼ばれて振り返る三秋は、今にも泣き出しそうな顔と笑顔と困惑が混ざった顔で返事をする。
そんな三秋に、オレは笑顔で言った。
「オレの言いたいこと、わかってるよな」
「………………………わかってる」
同じ学校に通っている三秋に、オレはこの制度を作らせた。
なんとなく思いつきで言った、このマンガみたいな制度……まさか、そっくりそのまま作るとはな。
オレは鼻で笑うしかなかった。
まぁ、オレがどんなに無茶な提案をしようとも、三秋は逆らうことができないんだ。
オレが笑顔を止めた原因は、三秋だから……
まだオレが笑顔の練習をしていた頃だ。遠い親戚である三秋とは、なんやかんや会うことが多かった。大人たちやその周囲では、空気を読み合って、オレの笑顔にはなるべく触れないでいてくれた。
が、そんな中で同じく幼い三秋は、面と向かって『笑顔がキモい』と言ってきたのだ。
初めはあまりのショックで涙が止まらなかった。
しかし……笑顔を教えてやると言い出した三秋の飾らない真剣な眼差しに、オレは次第に心を許していった。
曖昧な表情でその場を乗り切ろうとする他人の中で、唯一、一緒に並んで歩こう言ってくれた三秋。オレのたった一人の友人だった。
オレは、一人でしていた笑顔の練習をこっそり打ち明けた。秘密の共有は、くすぐったいような、甘いものが胸に広がっていくような特別感を持ち、オレの心を震わせた。
写真を撮って笑顔を練習する方法を考えたのは三秋だ。アプリで加工したり、落書きしてみたり。大した成果は得られなかったけれど、三秋と過ごすその時間はとても楽しかった。
しかし、その時間はそう長くは続かなかった。
数か月振りに会った三秋といつものように話していた時。
ふと横にいる三秋の方を見ると、オレの目にある写真が飛び込んできた。
三秋が何かを探すためにスマホ画面をスライドさせている、その画面に一瞬映ったもの……オレの笑顔の写真だ。
オレの前でもするくらいだ。そのスマホ画面をスライドする何気ない日常の動作を、三秋は他人の前でもしていると確信した。
オレは、身体中の血が沸騰したかと思った。気づけば三秋に馬乗りになっていた。
写真を見た他人はきっと言ってるだろう。オレの笑顔が……だと。そしてそれは尾ヒレ背ビレが付いてどこまでも伝わっていく。今はどれだけの他人が知っているだろうか。
見えないところで誰かが自分を笑っている、そんな辛さが、三秋にわかる訳ない。
けれどそれよりも。
三秋に裏切られたこと……それが、振り上げた拳の一番の理由だった。
気づくとオレは白いベッドの上にいた。横には、あちこち包帯が巻かれ引っかき傷だらけの顔で、涙を溜め謝罪の言葉を述べる三秋がいる。けれどオレは、その謝罪を遮り言った。
「三秋。これからも……よろしくね」
この時を境に、オレは笑顔を止めた。
……三秋以外には。
それからオレは、曜日毎に時間制限付きの恋人を得た。
時間内に他人の望むことをして、中には少々特殊な要求もあるが、ついでにケツに突っ込むだけで喜ばれる。
それでオレは、言葉と態度で好きを存分に浴びられる。
好きって、こんなにも簡単だったのか……
*苦手な方はご遠慮ください*
オレは、鏡に映る自分の顔を見る。
片側だけ上がる口角、痙攣するかのようにヒクヒクする片頬、下がる眉尻、シャーペンで線を引いたかのように細くなる目。
これが、オレの、見たくもないオレの笑顔だ。
気づいた時にはこうだった。家族からは心配されるがどことなく気を使われるし、他人はもちろん距離を取る。
けれどオレは、どんな時でも無理やり明るく振る舞っていた。少しでも気づいてしまったら、その寂しさに耐えられそうになかったから。
三秋に会うまでは。
幼い頃から親戚付き合いのある三秋。三秋にこの笑顔を知られるまで、オレは一人で笑顔の練習をしていた。しかし、二人になってもどんなに練習しようとも、鏡に映るのはこの歪んだ顔だけだった。
そして、オレはあるきっかけで練習を止め……笑顔をやめた。
しかし、そこから人生が大きく変わった。
その無表情がミステリアスな雰囲気を帯びていてカッコイイ、と、言われた始めたのだ。
熱っぽい視線で遠巻きに眺める他人たち。好意を隠さず寄ってくる他人たち。
笑顔をみせるたび周囲から人が離れて行ったのが、嘘のようだった。
なんだ、こんなに簡単なことだったのか………
オレはこの初めての体験に浮かれていた。嘘か本当か知らないが、学内にファンクラブがあるとのウワサなんてものが聞こえてきた。
目をハートにしている他人たちを見ると、幼い頃あんなにも懸命に笑顔を作り他人を求めていた自分がバカらしくて仕方がない。
次第にオレは、もっと多くの他人、そしてもっと濃いもの……『好き』を求めるようになっていった。
オレは、あることを思いついた。
「三秋」
「なんだ?」
オレに呼ばれて振り返る三秋は、今にも泣き出しそうな顔と笑顔と困惑が混ざった顔で返事をする。
そんな三秋に、オレは笑顔で言った。
「オレの言いたいこと、わかってるよな」
「………………………わかってる」
同じ学校に通っている三秋に、オレはこの制度を作らせた。
なんとなく思いつきで言った、このマンガみたいな制度……まさか、そっくりそのまま作るとはな。
オレは鼻で笑うしかなかった。
まぁ、オレがどんなに無茶な提案をしようとも、三秋は逆らうことができないんだ。
オレが笑顔を止めた原因は、三秋だから……
まだオレが笑顔の練習をしていた頃だ。遠い親戚である三秋とは、なんやかんや会うことが多かった。大人たちやその周囲では、空気を読み合って、オレの笑顔にはなるべく触れないでいてくれた。
が、そんな中で同じく幼い三秋は、面と向かって『笑顔がキモい』と言ってきたのだ。
初めはあまりのショックで涙が止まらなかった。
しかし……笑顔を教えてやると言い出した三秋の飾らない真剣な眼差しに、オレは次第に心を許していった。
曖昧な表情でその場を乗り切ろうとする他人の中で、唯一、一緒に並んで歩こう言ってくれた三秋。オレのたった一人の友人だった。
オレは、一人でしていた笑顔の練習をこっそり打ち明けた。秘密の共有は、くすぐったいような、甘いものが胸に広がっていくような特別感を持ち、オレの心を震わせた。
写真を撮って笑顔を練習する方法を考えたのは三秋だ。アプリで加工したり、落書きしてみたり。大した成果は得られなかったけれど、三秋と過ごすその時間はとても楽しかった。
しかし、その時間はそう長くは続かなかった。
数か月振りに会った三秋といつものように話していた時。
ふと横にいる三秋の方を見ると、オレの目にある写真が飛び込んできた。
三秋が何かを探すためにスマホ画面をスライドさせている、その画面に一瞬映ったもの……オレの笑顔の写真だ。
オレの前でもするくらいだ。そのスマホ画面をスライドする何気ない日常の動作を、三秋は他人の前でもしていると確信した。
オレは、身体中の血が沸騰したかと思った。気づけば三秋に馬乗りになっていた。
写真を見た他人はきっと言ってるだろう。オレの笑顔が……だと。そしてそれは尾ヒレ背ビレが付いてどこまでも伝わっていく。今はどれだけの他人が知っているだろうか。
見えないところで誰かが自分を笑っている、そんな辛さが、三秋にわかる訳ない。
けれどそれよりも。
三秋に裏切られたこと……それが、振り上げた拳の一番の理由だった。
気づくとオレは白いベッドの上にいた。横には、あちこち包帯が巻かれ引っかき傷だらけの顔で、涙を溜め謝罪の言葉を述べる三秋がいる。けれどオレは、その謝罪を遮り言った。
「三秋。これからも……よろしくね」
この時を境に、オレは笑顔を止めた。
……三秋以外には。
それからオレは、曜日毎に時間制限付きの恋人を得た。
時間内に他人の望むことをして、中には少々特殊な要求もあるが、ついでにケツに突っ込むだけで喜ばれる。
それでオレは、言葉と態度で好きを存分に浴びられる。
好きって、こんなにも簡単だったのか……
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