初めての、そのあとは…

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嫉妬と薔薇と生徒会室6 〜茨と王子様

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 …んぅ?


『やっと目が覚めたか』


 えっ…?


『本当に…このおてんばめ』


 えぇぇ…?せ、せんぱ…


『心配かけさせるな』


 こ、この、唇に残る、このっ、感触、は…!?!?


『茨に閉ざされた深い眠りから、もう帰って来ないかと…』


 まさか…!?


『もう、このつぶらな瞳に光が灯ることはないかと…』


 そう言うと、せんぱいはぼくの顔に影を落とした…………


 あぁぁぁぁぁぁぁもうっ!!!
 せんぱい!
 咲々羅はいつでも、スタンバイokですぅぅぅっ!!



ーーーー

 妄想は24時間365日休まず営業中です☆






 むふふっ、むふふっ、むふふふふ~♪


 カフェからの帰り道。ぼくは上機嫌で廊下をスキップしていた。ついでにターンも。


 この写真を~、あーしてー、こーしてー…むふふふふふふっ♪







「オイコラ」

「むふふ~♪」

「オイ!!」


 浮かれすぎたぼくは階段に気づかず、そのまま……


「?……う、っわあぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」


 足が地面から離れ、身体が浮いた。


しぬ…!


 花びらのようにスローモーションで写真が舞い落ちる。


 あぁ神様、最後にお願いがあります…もしぼくが目を開くことがあればその時にはせんぱいを目の前に…いやどうせ願いを叶えてくれるならいっそのことせんぱいの濃っっっっ厚な口づけで目……


 そこでぼくの意識は途切れた。






「オイ」


 何かに呼ばれたような気がして、ぼくは目を開ける。


「…」


 ぼんやりとした視界に映るのは、誰かの顔。覗き込むようにしてるのか、上下逆さまだ。


「…オイ」


 あぁ神様!ありがとうございます!!ぼくのためにせんぱいを…


「オイ!」


 っていやいやいやいや、せんぱいは眼鏡かけてないし!こんなに髪は長くないし爽やかツーブロだし!そもそもこの人白衣だし!!


「おーい」


 神様のいじわるぅぅっ!


「…ぐぬぬ」

「気づいたんならさっさと返事しろよ」

「はーいー……ってぇぇぇ!!」


 ぼくは目の前の、眼鏡で髪がもさっと長くてそもそも制服じゃない男の、腕の中にいた。


 なんでぼくこいつに抱きしめられてんの!!??


「なにしてんだよっ!」

「うるっせぇな、助けてやったってのに…この、暴れんなっ!!」


 暴れるに決まってるっ!
 だって!ぼくが一番初めに腕の温もりを感じたいのは!ってかこんなあすなろ抱きもどきをしていいのは!せんぱいだけなんだからっ!!


「離せっ!!このこのこの………っ、いったぁぁぁぁぁいっ!」


 なにがなんでも離せと暴れまくるぼくの足首に、ピキーッ!と刺すような痛みが。


「うるせぇな」

「うぅぅ~…」


 涙がじわっとしてくるのがわかる。


「いちいち泣くんじゃねぇよ」


 ぼくの、初めては…全部全部、せんぱいとしたかったのに!!!!
…あと足が痛い!


「泣いて、ないっ、泣いてないっ!それより離せ!」


 ぼくは暴れるのは止めて、目の前の顔をキッと睨む。


「ピーピーピーピーうるせぇな」


 返ってくるのは、相変わらず面倒臭そうな声。さっきからのイライラも合わさって余計にムッとしたぼくは叫んだ。


「一体全体なにがどーしてこーなってこーなってんの!」


 しかし面倒臭そうだった態度から一変、眼鏡の奥の目がギリッと釣り上がる。


「はぁ!?オマエが他所見してっから階段から落ちたんだろーが!!何度も声かけたのに気づきもしねぇクソが」

「うっ……………」


そ、そうだった…


「助けてやったってのに」


 鋭い目を前に、気分は獣に追い詰められた小動物だ。


「…」


 助けてもらったのはありがたい。…けど!けどけどけど!


「あ?なんだその態度は」

「…スミマセンデシタアリガトウゴザイマシタタスカリマシタ!」


 そう言うとぼくは、さっさとこの場から逃げようと勢い良く立ち上が……れなかった。


「ふぅ。しょーがねぇな、仕事だ」


 白衣の男はよっこらせと面倒臭そうに立ち上がり、ホコリを払うように白衣をぽんぽんとした。

 捻った足の方から立ち上がろうとして情けなくぺしょんと倒れ込んだぼくは、その面倒臭そうな声の方を見上げる。そこには、声と同じ面倒臭そうな顔がある。
 その顔のまま、ぼくの腕をこれまた面倒臭そうに引っ張った。


「えっ?」

「大人しくしてろよ?」


 そう言うと、腕をつかんでない方の手がぼくの身体にのびる。


「ちょ…やめっ、うわぁっ」


 ぼくの、初めてのお姫様抱っこは…せんぱいじゃなきゃっ嫌!!


「よっこらせっ、と」

「う…」


 ぼくはそのまま脇腹を掴まれると、ヒョイと肩に担がれた。まるで荷物のように。


「…」


お姫様抱っこは絶対いやだけど、だからってぞんざいに扱ってもいいって訳でもないけど!けど…


 口をぎゅっと結んで、ぼくは大人しく身を任せた。




……

 しばらくすると、保健室の前に到着した。ぼくは一応お礼を言う。


「保健室、連れてきてくれて、アリ、ガ、トウ、ゴザイ、マス」

「お、しおらしいことも言うんだなオマエ」

「うるさぁい!」


 ぼくを担いだまま、白衣の男は慣れた様子で保健室のドアを開ける。そのとき、ふと思い出したように言った。


「あ。オマエ、二年の………クソチビか」

「名前くらい覚えておけよっ、このっ……」

「オマエこそ覚えてねぇじゃねぇか」

「うるさぁいっ、このヤニくさ教師っ!」

「あーハイハイ。なんでもいいんで、さっさと降りろクソチビ」

「もぅっ!」


 ぼくを椅子に座らせると、白衣の男は入ってきた扉とは反対の方へ歩いていく。


「おーい、急患!」


 そちらは外へ繋がる扉がある。面倒臭そうに足で開けると、そこにはしゃがんでいる保健医の後ろ姿があった。


「ちょっと金田先生?もう少し扉に優しく…って急患ですか!?」


 土いじりをしていたのか、保健室の主はスコップやらビニル袋やらを抱え小走りで戻ってきた。






「しばらく安静にしててくださいね」

「はぁい。環ちゃんありがとう」

「こら。先生、でしょう?」

「はぁい」


 保健室の先生である環先生は、全生徒と100回くらい繰り返しているだろうこのやり取り。ぼくはぷくぅとする先生に和む。

 包帯を巻かれた足首を見て、ちょっとはしゃぎ過ぎたかなと考えていたら。


「おいクソチビ、落としモン」


 少し離れた所にいた白衣の男…金田先生は、ポケットから取り出した写真をぼくによこした。


 あっ、忘れてた…そうだったそうだった……!


「…ってかここ、壁からして生徒会室か。オマエ、悪趣味なモン撮ってんなぁ」

「っ…うるさいなんだっていいだろっ!!」

「感想を率直に述べただけだろ」

「うるさぁい!」

「あ。オマエ、覗きが趣味なのか。あぁそりゃあ悪かったなぁ」


 せっかく和んだ気分が、というか写真を手にしてからの浮かれた気分が全て台無しだ。


「うるさぁぁぁいっ!!」


 ぼくは、せんぱいを…


「こら!二人とも!!」


 環先生のぴしゃりと言う声が、ぼくたちの諍いを遮った。


「静かに!ここは保健室ですよ」


 怒気を含んだ環ちゃんの声が、保健室に響き渡る。


 環ちゃんの声が一番大きいんじゃないか…と思ったけど、それは言わないでおこう。


「あと。生徒のプライバシーは守りましょうね、金田先生?」

「はいはい」







 ぼくたちは、保健室から追い出された。


 環ちゃんのあんな怖い顔…初めて見たかも。


 そんなことを考えていると、横から面倒臭そうな声がする。


「あーあ、オマエのせいで追い出されたじゃねぇか。このクソチビ」

「うるさいアンタが悪いと思いますけど!?」


 ぐぬぬぬぬ…と睨み合っていたが、後ろから扉を叩く音で休戦を余儀なくされた。振り向くとそこには扉のガラス越しに、環ちゃんが…


「般若の形相って、こんな顔なのかな…」

「ぷっ、はははははっ!クソチビ、なかなかおもしれぇこと言うなぁ。趣味はアレだが」

「うるさぁぁい!!!」


 ぼくはそう言いながら金田先生の顔を睨み上げる。


 あ……なんだ、怒ったり面倒臭そうな顔以外もあるじゃん…


 ぼくの珍しいものでも見るような視線を全く気にせず、ツボに入ったのか腹を抱えながら金田先生は口を開く。


「……歩けるか?」

「大丈夫です!!!」


 荷物のように運ばれるのはもうごめんだし!!


 ぼくは金田先生から顔を反らし歩き出した。


「そうか。ならよかった。気を付けて帰れよ」


 笑いがまだ治まらないのか、背後から聞こえてくるのは面倒臭そうではない声だ。
 

 やっぱ、ちゃんとお礼…言ったほうがいいよね……


「今日はありが…」

「オイ」


 しかし。
 振り返ったそこには、怒っても面倒臭そうでもない……ニヤニヤ顔があった。


「写真!ちゃんとイイコトに使えよ」

「うるさぁぁい!」


 なんなんだよもう!!




 ぼくは痛む足を庇いながら、鞄を回収すべく教室へ向かった。







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みんなの感想(1件)

松任 来(まっとう らい)
ネタバレ含む
曲がる定規
2021.03.22 曲がる定規

ありがとうございます!

ソファを設置したと考えると、もっと年齢が上でもよかったのかなぁと、読み直しながら気づいてしまいました…

マイペースでのんびりがんばります( ´∀` )

解除
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