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黒猫と共に迷い込む
おっさんは可愛くないよ?
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いつも通り起きて、いつも通り皆が起きていて、いつも通りコハクが水を運んで来て、いつも通り顔を洗って、いつも通りお食事に階下へ降りて行った。
今日もクロさん可愛い。はあはあ。
いつも通り人が少なくなっていく食堂で朝食を食べていると、いつもとは違った人達が宿屋に入ってきた。
兵士のような人達が、宿の人に何かを聞いている。
そして私達の方に振り返ると、ズンズン近づいて来た。
「失礼。そちらの男の子は、ハヤテ君という名前の子かな?」
声を掛けられ、ハヤテを見る。ハヤテは自分の名前を呼ばれて首を傾げている。
「あの、確かにこの子はハヤテですが、なんの御用でしょうか?」
クレナイとシロガネの目つきがちょっと危なくなっているよ。ここで暴れ出さないでおくれよ。
「いや、失礼。ちょっと探していただけで、捕まえようとかそういう事ではないのですよ。そして、その女の子は獣人の子かな?」
コハクが帽子に手をやった。きちんと被っているのに何故この人達はコハクの事が分かったのか。
「警戒させてしまって申し訳ない。貴女方はこの子達の保護者? こちらの方々が親御さん?」
クレナイとシロガネを見る。う~ん、確かにそう見えるのかもしれない。
「ええと、私が一応保護者です。あの、何かうちの子達がしたのですか?」
「ああ、失礼。ええと、この子達から何も聞いていないので?」
「?」
首を傾げる私に、兵士の人達がちょっと驚いたような顔をした。
「何も話していないのですか。この子達、今王都で騒がれていた、連続子供誘拐事件を解決してくれたのですよ」
連続子供誘拐事件?なんぞそれは?
「近頃子供が行方不明になる事件が多発しておりましてね。我々が捜査していたのですが、何も手掛かりが掴めなかったのです。それを、先日この子達が事件の首謀者を捕まえてくれまして。子供達は無事に親御さんの元へと返されたのですよ。この子達には報償金も出ていますし、親御さん達が是非ともお礼を言いたいと仰られまして、探していたのです」
コハクを見ると、あ、という顔をしている。
「コハク、心当たりあるの?」
「も、申し訳ありません! 帽子の事で頭がいっぱいで、忘れておりました!」
慌てて頭を下げて謝ってくるコハク。どんだけ帽子が大事だったんだ。
「ええと、確かに報告がなかった事は問題だけど、それは今置いといて、そんな事件を解決したの?」
「えと、はい。その、私とハヤテが出かけた折に、誘拐されまして。それで、ついでにアジトをハヤテが壊滅してくれました。そこに捕らわれていた子供達も一緒に外に出て、私が衛兵の方達を呼んで来ました」
「なんで言わなかったの」
「申し訳ありません!」
「本当だよ! そんな凄いことして、私が褒めちぎることが出来ないじゃない!!」
「…あの?」
「ああああ、ハヤテ、コハク、後で覚えてなさい。ナデナデの刑にしてやるからね…」
「それは、刑と言うので…?」
「刑です」
私達のやりとりを聞いていた兵士の方達がポカンとしている。
「あの、すいません。それで、うちの子達、どうしたら良いのでしょう?」
「ああ、そうです。それで、探しておりまして。よろしければ我々と一緒に、衛兵の詰め所まで来て頂ければ…」
「食べてからでいいでしょうか」
「もちろんです」
まだお食事の途中だったので、きちんと終わるまで待って貰いました。
きちんと食べないと、後でクレナイがうるさいですからね。
詰め所に行くと、攫われた子供達の親御さん方が沢山いた。私達が食事をしている間に出て行った衛兵の人が報せに行ったのだろう。
子供達も来ており、「ハヤテ君だー」とハヤテに群がった。コハクも「お姉ちゃん」と呼ばれて囲まれている。コハクがちょっと恥ずかしそうな顔をしてるのがまたたまらん。後でスリスリの刑も追加しよう。
一部こんな子供がという半信半疑の人達もいるようで、ありがとうと言う割に複雑な顔をしていた。まあね、信じがたいわよね。
皆の前で報奨金を受け取ると、拍手が沸き起こった。
よく分かっていないハヤテと、ちょっと恥ずかしそうなコハク。
おい、カメラ。カメラくれーーーーーー!
個別にお礼がしたいと言う人もいて、コハクは丁寧に断っていた。
「私には過ぎたことです。でも、もし何かされたいというのであれば、この先、獣人が困っていたら助けてあげて下さい。私はもういっぱいもらっていますから」
そう言って私の顔を見た。
そんなに何かあげてたかしら?まだ何もあげてない気がするけど…。
コハクの言葉を聞いて、人々は頷いていた。多少獣人蔑視が軽減してくれると良いな。
報奨の授与が終わると、子供達と名残惜しまれながら別れ、ギルドへ向かう。
「このお金はハヤテとコハクの口座に半分ずつ入れて貰おうね」
「え?! いえ、私の報酬はご主人様の物です!」
「入れておくから」
「でも…」
「入れてしまうから」
「・・・・・・」
諦めたコハク。
「おかね~?」
「そ。ハヤテのお金だよ~。お金が分かるようになったら使おうね」
「あい」
多分分かってない。まあいいでしょ。
「そか。クレナイとシロガネとリンちゃんの口座にも振り込んでおこうか」
「別に、妾達は金など必要とはしないがのう」
「我も」
リン
「クレナイ、暇な時に食べ歩きできるよ?」
「む…!」
「シロガネ、好きな時にお風呂に入れるよ?」
「ぬ…!」
「リンちゃんは…。念の為」
リン?
「あって困る物でもないし、いくらかは振り込んでおくよ。何かったら使って」
「ま、まあ、そうじゃのう。あって困る物でもないしのう」
「そうであるな。うむ」
リン?
ギルドに着いて、早速奥に連れて行かれそうになったけど、まずは銀行の手続きを先行して貰いました。てか、着いて即奥って、VIPか。
銀行が終わって、奥に連れて行かれると、すぐにギルマスのオンユさんがやって来た。
「やあ。なんだか早速、活躍したんだって?」
「知ってるんですか…」
「ギルドにも報せが来たからね。こんな子供を知らないかって」
「で、教えたんですか」
「事情を聞いてね。別に今回は悪いことではないだろう?」
一応何故探しているのか理由を聞いて、教えると判断したのだろう。その辺りは信用して良いのだろう。
「で、休んで、また依頼かい?」
「はい。残ってた依頼があったので、それを片付けてから、ちょっと王都を離れようかと」
「え?! 王都から出るのかい?!」
「はあ、まあ、そうですが…」
「そ、それはずっと…? それとも、一時…?」
なんか、すんごい前のめりで聞いてくるんだけど…。
「少しだけです。ちょっと、ナットーの街に用があって…」
「す、少しだけだね?! 本当に戻って来るんだね?!」
「なんか、しつこいと戻って来たくなくなるなぁ…」
「もちろん! どこに行ってもらっても構わないさ! 私はそんなに狭量な人間ではないからね!」
態度がガラリと変わったのだが。
それから、前々回の分のトレントの報酬と、前回のマンイーターの報酬を振り込んでもらう手続きをして、皆のランクもBに上がりました。
私とコハクはEのまま。安全を考慮してのことらしい。
Dに上がりたければ私とコハクは試験を受けなければならないとか。コハクなら受けられそうだな。私は無理だが。無理だよ?
マンイーターがなんで倒しにくいのかちょっと聞いてみたらば、マンイーターは近づきすぎると、匂いで操られてしまうらしい。それでちょっと納得。なにせ、チャージャが見本のように捕まっていたからね。
なるべく遠くから火系の魔法で焼くしかないらしいのだが、火は森では使えない。となると風の魔法だが、実はあんなでも、マンイーターは風の魔法をそこそこ使えるのだとか。風の障壁を張られると風の魔法の威力が減退する。そうなるとそれ以上の威力の魔法を放たなければならないのだが、そこまで威力のある風魔法の使い手もなかなかいないらしい。
王宮の魔導師を駆り出すとなると色々手続きがあって、なんやかんや大人の事情が絡んで、討伐隊を編成するにもああだこうだという面倒くさい事があるらしい。冒険者で手に負えなくなればさすがに国が動くが、その動くまでがかなり長いのだとか。そこは何処の世界も同じなのだね。お役所仕事は腰が重い。
国を待っているとどれだけの犠牲者が出ることになるのかということになり、小さな村では冒険者を心待ちにするのだそうだ。まあ、国が当てにならないなら、身近なヒーローを渇望するものだよね。
なので、私達の存在はとても有り難いことなのだと、オンユさんが力説してくれた。
分かってるけど、冒険者は自由なのだよね?
そう言ったら、オンユさんが捨てられた子犬のような目になった。
おっさんがそんな顔しても可愛くないからね。
今日もクロさん可愛い。はあはあ。
いつも通り人が少なくなっていく食堂で朝食を食べていると、いつもとは違った人達が宿屋に入ってきた。
兵士のような人達が、宿の人に何かを聞いている。
そして私達の方に振り返ると、ズンズン近づいて来た。
「失礼。そちらの男の子は、ハヤテ君という名前の子かな?」
声を掛けられ、ハヤテを見る。ハヤテは自分の名前を呼ばれて首を傾げている。
「あの、確かにこの子はハヤテですが、なんの御用でしょうか?」
クレナイとシロガネの目つきがちょっと危なくなっているよ。ここで暴れ出さないでおくれよ。
「いや、失礼。ちょっと探していただけで、捕まえようとかそういう事ではないのですよ。そして、その女の子は獣人の子かな?」
コハクが帽子に手をやった。きちんと被っているのに何故この人達はコハクの事が分かったのか。
「警戒させてしまって申し訳ない。貴女方はこの子達の保護者? こちらの方々が親御さん?」
クレナイとシロガネを見る。う~ん、確かにそう見えるのかもしれない。
「ええと、私が一応保護者です。あの、何かうちの子達がしたのですか?」
「ああ、失礼。ええと、この子達から何も聞いていないので?」
「?」
首を傾げる私に、兵士の人達がちょっと驚いたような顔をした。
「何も話していないのですか。この子達、今王都で騒がれていた、連続子供誘拐事件を解決してくれたのですよ」
連続子供誘拐事件?なんぞそれは?
「近頃子供が行方不明になる事件が多発しておりましてね。我々が捜査していたのですが、何も手掛かりが掴めなかったのです。それを、先日この子達が事件の首謀者を捕まえてくれまして。子供達は無事に親御さんの元へと返されたのですよ。この子達には報償金も出ていますし、親御さん達が是非ともお礼を言いたいと仰られまして、探していたのです」
コハクを見ると、あ、という顔をしている。
「コハク、心当たりあるの?」
「も、申し訳ありません! 帽子の事で頭がいっぱいで、忘れておりました!」
慌てて頭を下げて謝ってくるコハク。どんだけ帽子が大事だったんだ。
「ええと、確かに報告がなかった事は問題だけど、それは今置いといて、そんな事件を解決したの?」
「えと、はい。その、私とハヤテが出かけた折に、誘拐されまして。それで、ついでにアジトをハヤテが壊滅してくれました。そこに捕らわれていた子供達も一緒に外に出て、私が衛兵の方達を呼んで来ました」
「なんで言わなかったの」
「申し訳ありません!」
「本当だよ! そんな凄いことして、私が褒めちぎることが出来ないじゃない!!」
「…あの?」
「ああああ、ハヤテ、コハク、後で覚えてなさい。ナデナデの刑にしてやるからね…」
「それは、刑と言うので…?」
「刑です」
私達のやりとりを聞いていた兵士の方達がポカンとしている。
「あの、すいません。それで、うちの子達、どうしたら良いのでしょう?」
「ああ、そうです。それで、探しておりまして。よろしければ我々と一緒に、衛兵の詰め所まで来て頂ければ…」
「食べてからでいいでしょうか」
「もちろんです」
まだお食事の途中だったので、きちんと終わるまで待って貰いました。
きちんと食べないと、後でクレナイがうるさいですからね。
詰め所に行くと、攫われた子供達の親御さん方が沢山いた。私達が食事をしている間に出て行った衛兵の人が報せに行ったのだろう。
子供達も来ており、「ハヤテ君だー」とハヤテに群がった。コハクも「お姉ちゃん」と呼ばれて囲まれている。コハクがちょっと恥ずかしそうな顔をしてるのがまたたまらん。後でスリスリの刑も追加しよう。
一部こんな子供がという半信半疑の人達もいるようで、ありがとうと言う割に複雑な顔をしていた。まあね、信じがたいわよね。
皆の前で報奨金を受け取ると、拍手が沸き起こった。
よく分かっていないハヤテと、ちょっと恥ずかしそうなコハク。
おい、カメラ。カメラくれーーーーーー!
個別にお礼がしたいと言う人もいて、コハクは丁寧に断っていた。
「私には過ぎたことです。でも、もし何かされたいというのであれば、この先、獣人が困っていたら助けてあげて下さい。私はもういっぱいもらっていますから」
そう言って私の顔を見た。
そんなに何かあげてたかしら?まだ何もあげてない気がするけど…。
コハクの言葉を聞いて、人々は頷いていた。多少獣人蔑視が軽減してくれると良いな。
報奨の授与が終わると、子供達と名残惜しまれながら別れ、ギルドへ向かう。
「このお金はハヤテとコハクの口座に半分ずつ入れて貰おうね」
「え?! いえ、私の報酬はご主人様の物です!」
「入れておくから」
「でも…」
「入れてしまうから」
「・・・・・・」
諦めたコハク。
「おかね~?」
「そ。ハヤテのお金だよ~。お金が分かるようになったら使おうね」
「あい」
多分分かってない。まあいいでしょ。
「そか。クレナイとシロガネとリンちゃんの口座にも振り込んでおこうか」
「別に、妾達は金など必要とはしないがのう」
「我も」
リン
「クレナイ、暇な時に食べ歩きできるよ?」
「む…!」
「シロガネ、好きな時にお風呂に入れるよ?」
「ぬ…!」
「リンちゃんは…。念の為」
リン?
「あって困る物でもないし、いくらかは振り込んでおくよ。何かったら使って」
「ま、まあ、そうじゃのう。あって困る物でもないしのう」
「そうであるな。うむ」
リン?
ギルドに着いて、早速奥に連れて行かれそうになったけど、まずは銀行の手続きを先行して貰いました。てか、着いて即奥って、VIPか。
銀行が終わって、奥に連れて行かれると、すぐにギルマスのオンユさんがやって来た。
「やあ。なんだか早速、活躍したんだって?」
「知ってるんですか…」
「ギルドにも報せが来たからね。こんな子供を知らないかって」
「で、教えたんですか」
「事情を聞いてね。別に今回は悪いことではないだろう?」
一応何故探しているのか理由を聞いて、教えると判断したのだろう。その辺りは信用して良いのだろう。
「で、休んで、また依頼かい?」
「はい。残ってた依頼があったので、それを片付けてから、ちょっと王都を離れようかと」
「え?! 王都から出るのかい?!」
「はあ、まあ、そうですが…」
「そ、それはずっと…? それとも、一時…?」
なんか、すんごい前のめりで聞いてくるんだけど…。
「少しだけです。ちょっと、ナットーの街に用があって…」
「す、少しだけだね?! 本当に戻って来るんだね?!」
「なんか、しつこいと戻って来たくなくなるなぁ…」
「もちろん! どこに行ってもらっても構わないさ! 私はそんなに狭量な人間ではないからね!」
態度がガラリと変わったのだが。
それから、前々回の分のトレントの報酬と、前回のマンイーターの報酬を振り込んでもらう手続きをして、皆のランクもBに上がりました。
私とコハクはEのまま。安全を考慮してのことらしい。
Dに上がりたければ私とコハクは試験を受けなければならないとか。コハクなら受けられそうだな。私は無理だが。無理だよ?
マンイーターがなんで倒しにくいのかちょっと聞いてみたらば、マンイーターは近づきすぎると、匂いで操られてしまうらしい。それでちょっと納得。なにせ、チャージャが見本のように捕まっていたからね。
なるべく遠くから火系の魔法で焼くしかないらしいのだが、火は森では使えない。となると風の魔法だが、実はあんなでも、マンイーターは風の魔法をそこそこ使えるのだとか。風の障壁を張られると風の魔法の威力が減退する。そうなるとそれ以上の威力の魔法を放たなければならないのだが、そこまで威力のある風魔法の使い手もなかなかいないらしい。
王宮の魔導師を駆り出すとなると色々手続きがあって、なんやかんや大人の事情が絡んで、討伐隊を編成するにもああだこうだという面倒くさい事があるらしい。冒険者で手に負えなくなればさすがに国が動くが、その動くまでがかなり長いのだとか。そこは何処の世界も同じなのだね。お役所仕事は腰が重い。
国を待っているとどれだけの犠牲者が出ることになるのかということになり、小さな村では冒険者を心待ちにするのだそうだ。まあ、国が当てにならないなら、身近なヒーローを渇望するものだよね。
なので、私達の存在はとても有り難いことなのだと、オンユさんが力説してくれた。
分かってるけど、冒険者は自由なのだよね?
そう言ったら、オンユさんが捨てられた子犬のような目になった。
おっさんがそんな顔しても可愛くないからね。
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