異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

あり?やっちまった?

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ついでに遅くなったお昼を済ませて、シロガネに女王蟻を背負ってもらって、私達ももちろん乗せてもらって、街を目指した。
多少ふらついていたが、そこは根性を見せ、無事に街の近くに降り立った。
膝を付かなかったことは褒めよう。
人の姿になって、女王蟻を持つだけになって、ほっとしたような顔をしていたのは見ないことにする。
そのまま街に戻って、ギルドに直行。ギルドの扉を開けたら、エリーさんがこちらを見て、にこやかな笑顔を向けたまま固まった。なんか、最初の頃を思い出すなぁ。

「ただいま~、エリーさん。買い取りカウンターでいいのかな?」
「・・・。いいと思います」

何故不確定?
買い取りカウンターに行ったら、おや、いつぞやの臨時のお姉さん。

「お帰りなさいませ! で、何を獲って来たのですか?!」

何故そんなに嬉しそうなんだ。

「え~と、これなんですけど」

シロガネが持っていた女王蟻をカウンターに置いた。

「こ、これは! 女王キラーアント! な、何と見事な…!」

何故そんなに興奮しているのでしょう。

「しかも、傷がこんなに少ない…! 何と見事な…!」

口癖ですか?

「こんな珍しい魔獣を見られるなんて…。ハアハア…」

ちょっと距離を取りたくなってしまうぞ。

「スカーレット、落ち着いて」

エリーさんが買い取り嬢のお姉さんの袖を引っ張り、正気に戻す。

「は! 失礼致しました! あまりに見事なものだったので…。では、査定を致しますので、少々お待ち頂けますか?」

なんだかとても嬉しそうに女王キラーアントを奥に持って行ってしまったよ。いや、査定する為なんだろうけど…。
その間にエリーさんに、1枚だけ終了手続きをしてもらう。

「あら、ヤエコさん、Eに上がってたんですね。頑張ったんですね」
「えへへ、まあ…」

ほとんど従魔ズのおかげなんだけど。

「ああそれと、キラーアントの巣を討伐に行って、その、倒したキラーアントがいっぱい転がってるんですけど、あれはギルドで回収とかしてくれるんですかね?」

トレントの時はやってくれたんだけどな。

「なんですって?」

エリーさんの笑顔が怖くなったぞ。

「だから…、倒したキラーアントの回収を…」
「…何体くらいですか?」
「何体…」

何体あったろう?

「何体くらいあったっけ?」
「さてのう、とにかくあるだけ倒しておったからのう」

クレナイとハヤテとコハクを見るも、倒した数など覚えていないと。シロガネは、うん、期待してない。クロに聞くわけにもいかないし、さて、何体と言ったらいいかな?

「え~と、もしかしたら100くらいあるかもしれないです」

絶え間なく蟻が群がってたものね。
で、エリーさんの顔が笑顔なのに、何故か温度が下がってるんだが…。

「少々お待ち頂けますか?」

怖い笑顔のまま席を立ち、奥へと消えていった。
少しすると戻って来て、

「どうぞ、奥へ」

と奥へと通された。
なんか、このパターンは…。

「やあ、久しぶり」

ギルドマスターのコウジさんがやって来た。
やっぱりこうなるのか…。

「で、何かやらかしたんだって?」

どんな話を伝えたんですかエリーさん。
とりあえず今回の依頼の事を話す。
すると、コウジさんが頭を抱えた。

「どうしてそんなことになるんだよ…」

ええと、何かやらかした?

「キラーアントについて説明は聞かなかったの? 誰かに倒し方を聞くとか…」

そうか、普通は情報を集めて倒し方なんて調べるものか。

「適当に依頼を取ったから、気にしておらんかったのう」

クレナイが答えた。

「・・・。こちらの女性は?」
「ええと、途中で仲間になった…」

これまでのあらすじを話す。
さらに頭を抱える事になってしまった。なんか、すんません。

「その話を知っているのは、コーヒーの、闘技場の人達と、王都のギルドマスターなんだね?」
「そうです」

何故そこで盛大に溜息を吐く。

「なんで君はそんなにチートな力を集めるかな? 何がしたいの?」
「いや、普通にのんびり暮らしたいだけなんですけど」
「そんな過剰戦力持ってて、のんびり暮らせると思う?」
「・・・・・・」

思えない。

「まあ、まだ国が動いてないだけましなのかな…。気をつけてね。国が動いたらまた面倒な事に…」
「そういえば、この国の王様って人とバラ園で会いましたね」

コウジさんが固まった。

「あ、でも、非公式だって言ってましたよ」

また盛大な溜息を吐かれてしまった。
慌ててそうなった理由を話す。決して私のせいではない。

「そうか。そういう事なのか。てことは…」

何かをブツブツ呟いている。

「ある意味この国では自由は認められたんじゃないかな? 変な奴がちょっと手を出すかもしれないけど、そうなったらそうなったで、王様も嬉々としてそいつをふん縛るだろうな。ただ、この国から出て、他の国に行ったら、また気をつけてね。何処が手を出してくるか分からないから」

やはり戦力が過剰過ぎるのか…。まあ、ドラゴンがいるしね。

「ちなみに、キラーアントの駆除の仕方はね…」

コウジさんの話によると、キラーアントはある特定の花の匂いを嫌がる事が分かっているので、うん、それ、戦いの最中に分かったね。なので、その花の匂いを抽出したエキスを持って行って、巣の周辺にばらまくのだそうだ。
これだけ聞くと簡単そうなのだが、その周辺には大概、キラーアントを好んで食べる蛇がいるらしい。その名もキラーサーペントというのだそうだ。キラーアントのキラーとキラーをかけたのではないかと思える名だ。
こやつが体長10メートルにも及ぶほどの巨大な蛇で、キラーアントは好物だけど、その他の動物も好きらしい。つまり、人間も襲う。

そしてこの蛇には花の匂いは効かないので、出会ったら全力で逃げろと言われているらしい。もちろん、倒せる実力のある者なら倒すのだろうけど。
しかし、体長10メートルとなると、どれだけ素早く動くのだろうか…。蛇って何気に素早いしね。
つまり、キラーアントの駆除をしに行くには、その蛇との遭遇率が高くなるわけで。なので、キラーアントの依頼を受ける=キラーサーペントも相手にせねばならん、ということで不人気なのだそうだ。

「そういえば、そやつの討伐依頼も持っておったのじゃ」
「うん。大体キラーアントが見つかると、そいつも出るよ」

なるほど。近い、ね。
ちなみに、キラーサーペントはCランクなのだそうだ。キラーアントはDなのにね。
キラーアントは弱点が見つかっているからDなのだそうで。まあそうだわね。匂い振りまけば寄って来ないものね。

「しかし、どうやって女王キラーアントを…?」
「それはまあ、我が輩の企業秘密ということだの」

クロが喋った。ああそうだ。このコウジさんにはクロのこと知られてるんだっけ。

「ああ、君の力か。納得だ」

納得された。

「そのエキスって奴を、村の周りに撒けば良いんじゃないのかな?」

そうすれば蟻んこ寄って来れないよね?

「エキスはそこそこ値が張る物で、村の周りに撒く程買うなら、冒険者に依頼した方が安く済む。それに、匂いは雨で流れてしまうからね」

いくら買っても足りなくなるね。
その後、キラーアントの回収について、人を回してもらえることになり、

「早めにキラーサーペントも頼むよ」

とにっこりお願いされた。
















査定やらなんやらひっくるめて、報酬を振り込んでもらって、ギルドを出た。

「もう1つの依頼って何?」
「ん、最後の依頼かや? さて、此奴は何じゃったかのう?」

クレナイがペラリと紙を見る。
それを横から覗き込むと、

「ビッグフロッグ?」

蛙?

「近くの沼地で大量発生しておる故、退治して欲しいとな。はて、そう難しい依頼でもないと思うのじゃが」
「きっとキラーサーペントが原因だよ」
「なるほど。近場ならば遭遇率も確かに高まるが。そんなにひょこひょこ出会うものでもあるまいに」

確かに、今日は出会わなかったね。
そんな話をしながら、私達はとある食堂を目指していた。
ふふふ、それはもちろん、「猫耳亭」である。
一応お世話になったし、あそこの賄い美味しかったし、折角なのでご挨拶していこうかと。
お店に来ると、すでに営業しており、扉を開けて中に入った。

「いらっしゃいませー!」

元気な声が出迎える。

「って、あー! ヤエコ!」

キシュリーが私の姿を見て駆け寄ってきた。

「あれぇ?! 街を出たって聞いてたけど!」
「ちょっと帰って来たのよ。それでご挨拶と、久しぶりにここのご飯食べたくなって。席空いてる?」
「今の時間なら大丈夫よ! さ、こっち!」

少し奥まった所のテーブルに案内された。人数多いけど、ここなら邪魔にならないだろう。
ふと見れば、チャーちゃんもいつもの籠に入っていた。うん、いつも通り可愛い。
今日のおすすめを注文して、待っていると、リルケットがやって来た。

「久しぶりヤエコ!」
「お久しぶり~。足はもう大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! この通り!」

ぺしっと足を叩く。うん、大丈夫そうだ。
そして、顔を近づけ、

「で、2人の仲はどの程度?」
「それがさ、未だに微妙な距離なのよ。全く、全然進まないのも見てて呆れるわ」

相変わらずらしい。

「なんか2人がひっつく良い方法ない?」
「う~ん、良い方法あるかな~?」

頭を悩ませるが、そうそう良い方法なんて浮かぶものでもない。

「どうにか進展させたいのよね。なんか良い方法浮かんだら教えてよ。あたしも考えるけど、仕事が忙しくてね」
このお店、結構繁盛してるものね。

リルケットも忙しそうにテーブルから離れていった。
う~ん、何か良い方法ないかしら?

「主殿、つまり何か? あの先程の娘と、この食堂の男が、恋仲になっておるのか?」

クレナイが鼻を膨らませながら聞いて来た。うん、好きだよね、そういう話題。

「そうなのよね。この食堂の息子さんとさっきのキシュリーって子が良い感じなんだけど、仕事も忙しくてなかなか距離が縮まらないみたいなんだよね。なんか、吊り橋効果みたいなことがあればいいんだけどな」
「吊り橋効果とは、なんじゃ?」

クレナイが興味津々で聞いてくる。

「吊り橋効果って言うのは…」

吊り橋などの不安定な場所だと、怖くて胸がドキドキする。その時に異性なんかがいると、その胸のドキドキを恋のドキドキと勘違いしてしまい、2人の距離が縮まるのだそうだ。
ある種錯覚を利用しているとも言える。
マンネリ化した恋人や夫婦にも効くのだと昔テレビでやっていた。
マンネリ化したら吊り橋へ。ちなみにドキドキすればいいので、ホラー映画やお化け屋敷なども良いそうです。って、なんの勧めだ。

それを聞いてクレナイが興奮し始める。落ち着け。
コハクもかなり興味津々で聞いてるところ、興味あるのかな?
男2人はつまらなそうにしている。これは性別の差なのか、種族の差なのか…。
まあハヤテにはまだ早すぎる話題ではあるが。

「ご主人様、あの、あまりですけど、ちょっと考えたのですけど…」

おや?コハクが何やら考えついたようです。
その作戦を聞いて、ちょっとにんまりしてしまった。
確かにそれは、私達にしか出来ない事だねぇ。
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