死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

鳴咲ユーキ

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二章 神のお告げ

六話

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 朝。
 またあいつは来た。今度は窓からじゃなくて、ちゃんとドアから。

「なーなえ」
 陽気な雰囲気を醸しながら、俺を呼ぶ。俺は掛け布団をかぶって、聞こえないフリをした。

「奈々絵!!」
 掛け布団を俺からとって、奴は満足そうに笑った。

「寒い。あと、奈々絵って呼ぶな」
 不満げに俺は言う。
 今は春、四月だ。そんな季節に布団なしで寝っ転がるなんて寒い。
 携帯も持ってないから、こんなとこじゃ寝ることでしか時間を潰せないのに。
「やっと返事したな?」
 奴は口角を上げて、満足そうに言った。

「うざい」


「で? 奈々絵が嫌ならなんて呼べばいいんだよ?」
 傷ついた素振りも見せずに、奴は笑う。

「……なえ」
 わざと小さな声で呟く。

「それ却下。だって、なえってない、ねえ、なえからきてるだろ。あづもそう思うっしょ?」
 病室のドアにもたれかかっている男が言う。茶色い髪をした垂れ目の男だ。――俺の自殺を止めたもう一人の男。
 足音が聞こえなかった。青髪の奴――あづと話してたから聞こえなかったのか。
「んー、言われてみれば?」
 あづって、察するの下手なんだな。頭が回らない。
 いま同意しとけば、俺のこと名前で呼べたかもしれないのに。まぁ意地でも呼ばせないが。

「とにかく、俺はなえじゃねぇと返事しねえ」
「あーはいはい。わかったよなえ」
 茶髪の男が雑に俺をあしらう。
「潤雑だなー」
「いつも適当な奴に言われたくねぇよ」
 潤は不満げに言う。
「なっ?」
「フッ、冗談」
 頬を赤くしたあづをみて、潤は満足そうに笑った。
 ……仲良いんだな。別に羨ましくないけど。

「あづはわかるけど、お前面会の許可もらえたのか?」
「もらえた。でも面会の付き添いの看護師が、二人になるって」
「ああそう」
 それから一分もしないうちに、本当に付き添いの看護師が二人来た。
 頭を抱える。なんで病室に俺以外に四人も人がいるんだ。
「なえさ、なんで自殺なんてしたんだよ?」
 あづが首を傾げる。こいつは周りとか気にしないのだろうか。
「……どうでもいいだろ。そんなの」
 何もかも教える義理はない。
 命の恩人だから教える義務なんてない。それになにより、嫌なんだ。いじめや家族のことを話すの
は。思い出すのが辛すぎるから。
「よくねぇよ。気になる」
「……いいから、早く帰れ」
 それで忘れてくれ、俺のことなんか。頼むから、もう二度と来ないでくれ……。 
「嫌だね。お前が話してくれるまで、ここにいる」
 にやっと口角を上げて、あづは笑う。
「だって自殺なんて、かなりひどいことがないとしようと思わないだろ?」
 あづは俺を見下ろし、笑って言う。その態度が癪に障った。
「そんなのお前が辛い目に遭ったことがねぇから言えんだよ。いいよな恵まれてる奴は」
 何も知らないくせに。


「あ? もういっぺん言ってみろよ。殴んぞ」
 鋭い眼光で俺を睨み付け、あづは俺の腕を掴んだ。
「じゃあ殴れば? 病人に怪我させたら大問題だけどな」
「あーもうやめだやめ。こんな奴話すのも無駄だわ。あづもう行こうぜ」
 手を顔の前で左右に振ってから、潤はあづの腕を掴む。
「……わかった」
 俺の胸ぐらからあづは手を離した。
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