離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?

椿蛍

文字の大きさ
53 / 90
第3章

19 王都の外へ!

しおりを挟む
 王都の門を抜けるには、許可証が必要である。
 門の外に捨てられている魔石の素材、くず石の回収はフランに頼んでいたし、王都の外へ行く時は、いつもリアムが一緒だった。
 私は宮廷魔術師長の同行者として扱われ、簡単に出ることができたけど、今回は違う。
 許可証を申請し、しばらく待つ。

「サーラ様。申し訳ありません。許可は出せません」

 警備兵をとりまとめる兵長が現れ、私に許可できないと告げた。

 ――やっぱり無理でしたか。

「元妃であるサーラ様は、王宮の許可、もしくはルーカス様が許可された時のみ、門から外へ出ることができます。それに、サーラ様が書かれた理由もちょっと……」

 理由には竜の騒ぎをおさめるためと書いた。
 それも認められない理由のひとつだったらしく、兵長は難しい顔で書類を眺める。

「竜への対応は宮廷魔術師長、宮廷魔道具長がなさってます。サーラ様が行ったところで、なんの役にも立ちません」

 邪魔だから行くなという空気が伝わってくる。
 警備兵たちは私が強行突破できないように、フランが借りてきた馬車を囲んで、門から出るのを阻む。

「お願いします。竜が騒いでいる原因は、竜の卵が盗まれたからなんです」
「なぜそれをご存じなのですか?」
「竜と話したからです」

 兵長は呆れた顔で、私を見る。

「サーラ様。竜をご覧になりたいから、そんなことをおっしゃっているのでしょう」
「違います! 信じてください。竜族が攻めてくるまで、三日だけ猶予をもらいました。三日後の夜明けまでに、卵がどこにあるか探さないといけないんです」

 警備兵たちが声をひそめ、話し合うのが聞こえてきた。

「サーラ様は本当に竜と話したのだろうか?」
「そもそも竜と話せる人間などいないだろう。リアム様でさえ、少しわかる程度だというしな」
「リアム様かセアン様がおっしゃるならわかるが、サーラ様は王都の外へ遊びに行きたいだけではないか?」

 宮廷魔道具師になったとはいえ、天才と呼ばれる二人と私では、天と地ほどの差があるらしい。
 誰も私の言葉を信用してくれず、このままでは、今日一日が門の前で終わってしまう。

「サーラ。こうなったら、警備兵の目を盗んで、門を越えるしかないよ」

 フランがそう言ったけど、見つかって捕まったら、厳しく罰せられる。
 もし、私が捕まったら王宮へ連れ戻され、一生幽閉。
 そして、フランも国外に追放され、私の店も工房も奪われる。

 ――リスクが大きすぎます。

 けれど、このままでは竜族が大暴れして、ヴィフレア王国全土が火の海になるだろう。

 ――それを考えたら、捕まるのを覚悟して抜け出すしかない?

 そう思っていると、馬車の音が聞こえ、警備兵たちが慌てて整列する。
 馬車には王家の紋章があり、その馬車に乗っていたのは――

「やあ、サーラ。もめてるね」

 笑顔を浮かべたルーカス様が現れた。
 よりにもよって、こんな時にルーカス様が現れるなんて、最悪の状況である。

「どうして、ルーカス様がここに?」
「君が外へ行くと近衛騎士団から聞いたからだよ」

 ラーシュを護衛する近衛騎士団は、王宮に所属しており、彼らが慌ただしくしているのを見て、ルーカス様が気づいたのだろう。

「詳細は報告されてないから知らないけれど、竜族とのもめ事を解決しに行くんだって?」

 ヴィフレア王国の危機だというのに、ルーカス様は他人事のようだった。
 でも、もめ事をどうにかしたいというのは、間違いではないから、私はうなずいた。

「そのとおりです。門を通る許可をいただけませんか?」
「うーん。そうだなー」

 私になにか条件を出そうというのか、ルーカス様はもったいぶった態度をとる。

「ルーカス様。サーラ元妃は本当に竜語を理解され、話されていたのでしょうか?」

 門を通してくれなかった兵長は、私の理由が正当なものであるかどうか、ルーカス様に確認する。
 王立魔法学院で落ちこぼれだった過去を知っているルーカス様は、話せないと思っているようで笑っていた。

「サーラは身振り手振りでわかったんじゃないかな? 獣とは相性がいいみたいだしね」

 ルーカス様はフランを見て、くすりと笑う。
 でも、フランは魔石付きの双剣を持ち、フレアリザードの革の手袋とジャケット、ブーツ。
 身長も伸び、体つきもしっかりし、剣の腕は騎士団長テオドール仕込み。
 立派な剣士にしか見えない。
 ルーカス様が馬鹿にできたのは、そこまでだった。
 フランは私の隣に控え、ルーカス様を近づけさせない。

「でも、サーラ。君は僕の元妃で、いずれは王宮に戻ってもらいたいと思っている。そろそろ令嬢らしくしてもらわないと困るな」

 ルーカス様は私を王都どころか、王宮の外に出す気すらないのだとわかった。
 このままでは、王都の外へ出られない。
 なんとかルーカス様に、この危機的状況をわかってもらうしかなかった。

「ルーカス様。誰が竜の卵を盗んだか、すでにおわかりのはず。竜が飛来すれば、いくら魔術師が大勢いようと、王都も無事では済みません」
「六百年前の竜との戦いが再現されるということか」

 ルーカス様はまったく驚いていなかった。
 王都の危機なのに、なぜ笑えるのか、私には理解できない。

「今の父上が竜と戦えば、きっと死ぬだろうね」

 その声が、あまりに冷たくてゾッとした。

「ルーカス様。争いが起きれば多くの人が傷つき、竜族との仲はますます悪くなるだけです。でも、今ならまだ間に合います」
「僕がサーラに協力するメリットはない。そうだ。君が王宮に戻ったら……」
「いい加減にしてください!」

 その場にいた警備兵と王宮の御者、ルーカス様は驚き、怒鳴った私を見た。

「私は戦いを起こさないために、王都の外へ行くんです」

 ルーカス様がなにを望んでいるのかわからない。
 でも、ふざけている場合ではないことだけはたしかだ。

「私に無条件で許可をください」
「君は怒ると怖いな。それも無条件でか……」

 ルーカス様は苦笑した。

「いいよ。許可する」
「え?」

 一瞬、聞き間違えかと思った。

「どうして驚くのかな? 王都へ戻らないわけじゃないだろう?」
「それはそうですけど……」

 まさかルーカス様が、あっさり許可するとは思っていなかった。
 それは私だけではなく、警備兵たちも同じで、ざわめいていた。

「僕が乗ってきた馬車を使えばいい。王家の紋章が入った馬車なら、どこでも通れる」
「ルーカス様……」

 ――ルーカス様が私に協力する日が来るなんて。

 やっぱり、いろいろあってもヴィフレア王国の第一王子。
 危機感がないように見えたのは、私の気のせいだったのだとわかり、反省した。

「ほら、サーラ。手を出して? 馬車にのせてあげるよ」
「あ、ありがとうございます……」

 ルーカス様は私に手を貸し、馬車に乗せる。
 そして、私はフランの手を引く。
 フランを馬車に乗せるのを見た兵長は、私を激しく非難した。
 
「サーラ元妃! 獣人を王家の馬車に乗せるのですか!?」 
「フランは私の大事な仲間です。それに心強い護衛でもあります。フラン以上に私を竜から守ろうという気持ちが、あなたたちにありますか?」

 警備兵たちは反論できず、黙り込んだ。
 
「私はフランを頼りにしてます」

 私の隣でフランは泣きそうな顔をしているのに気づき、微笑んだ。

「フラン。危険なのに、私についてきてくれてありがとうございます」
「おれが一緒に行くのは当たり前だよ。サーラはおれが絶対守るから!」

 一番文句を言いそうなルーカス様は、私たちのやり取りを聞いていたからか、フランが馬車に乗ることを咎めなかった。

「サーラに護衛は必要だ。急ぐんだろう?」
「はい!」

 ルーカス様は馬車のドアを閉めると、御者に出発の合図を送る。
 馬車の窓から、ルーカス様に頭を下げると、笑顔で手を振って見送ってくれた。

 ――四大公爵家を重視するルーカス様だけど、フォルシアン公爵を止めたいという気持ちはあるみたいですね。

 ここに来たということは、騎士団から竜の一件について説明されているはずだった。
 馬車が動き出したけれど、まだ窓は開いたままで、車輪の音に混じり、聞こえてきたのは、ルーカス様のつぶやく声だった。

「サーラが王都いるとなにをするかわからないからね。ちょうどよかったよ」

 ――ちょうどよかった?

 許可をくれたルーカス様。
 でも、その言い方だと、まるで私が邪魔だから、いないほうがいいと言っているように聞こえた。

「サーラ? なんか忘れ物?」
「いいえ……。大丈夫です。忘れ物はないですよ」

 後ろを振り返った私をおかしく思ったのか、フランは同じように遠ざかる王都の門を眺めた。
 いつもと同じ風景が広がり、王都は平和そのもの。
 
 ――それなのに、どうしてこんな不安になるんでしょうか。

 私は竜のことで頭がいっぱいなはずなのに、胸がざわつき、落ち着かなかった。  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。