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21 trap【姫凪 視点】
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店内は青のライトに照らされて、まるで水中にいるような店内には巨大なアクアリウムがあり、中には色鮮やかな熱帯魚が泳いでいた。
手にしたグラスには金色のシャンパンが注がれ、一口飲むと洋梨とリンゴの芳香が口の中で広がり、初めて飲んだ高価なシャンパンはすごくゴージャスな気分になれる。
「今日は二人ともありがとう」
「いいえ。諏訪部さんが飲みに行きたいって、佐藤君からメールをもらって私達でいいのかなって話してたんですよー。ねっ、姫凪」
「そうなんです。諏訪部さんって、すごく格好いいし、お友達にも綺麗な女の人たくさんいるじゃないですか。私なんかが来てもよかったんですか?」
「もちろんだよ。な、佐藤」
「麻友子さんと姫凪さんに来て頂けて嬉しいですっ」
爽やかに佐藤君が微笑んだ。
諏訪部さんもかっこいいし、佐藤君もアイドルみたいにかわいくて、店内に入ってくる女性客はちらちらと二人を盗み見ていた。
「麻友子さん、僕のメールを見てファイルも開いてくれました?」
「もちろんよ。じゃなきゃ、ここにはいないわ」
麻友子は嬉しそうに二杯目のシャンパンを飲んだ。
「そうですか。乾杯しましょう」
「いいね」
諏訪部さんはさっきよりずっと機嫌がよくなった。
乾杯をし、運ばれてきたフランス料理には海老と貝をソテーしたものにソースがかかり、アスパラやエシャロットの焼き野菜が添えられて、それならばと三杯目は白ワインを頼んだ。
こんな贅沢なお店に誰も連れてきてくれない。
私と麻友子は大はしゃぎだった。
「すごいですよねー!時任社長は絶対にこんなお店に連れてきてくれませんもん」
「そうなんだ?」
「会社にいるのか、いないのか、よくわからない人ですからね」
「そうよね。いつもラフな服装だし」
「へえー。いつもスーツ姿なのかと思っていたな。この間、雑誌に載っていたからね」
時任社長がモデルをしたのは有名な話で、雑誌を買った女子社員も多かった。
会社周辺の本屋で売っていた雑誌は完売し、私も欲しかったのに買えずに会社から離れた本屋でやっと手に入れることができた。
この間、社長と副社長が二人でスーツのモデルをしていた雑誌も同じで、本屋では買えずに結局、ネットで買った。
「時任社長の成功は倉永副社長がいてこそだからね」
「副社長ってそんなにすごいんですか?私からみたら、ぼんやりしている人ってかんじなんですけどー」
麻友子はすでにほろ酔いで笑っていたけれど、諏訪部さんと佐藤君は少しも笑っていなかった。
「彼がいるだけで会社にとっては大きな武器になる」
「いいですよね」
「我が社に欲しいくらいだよ」
苦々しい口調で諏訪部さんは言った。
「けれど、もう彼らの時代は終わりだ」
「そうですね」
くす、と佐藤君は笑った。
「えー、困りますぅ。時任で働けなくなったら、お給料でないじゃないですかぁ」
「身内意識が強いのと、自分達の力を安売りしないで高く売るのはこの時代にあってないんだよ」
「そーですよね。安くてお手軽な契約がいいですよねー」
佐藤君は営業らしく、諏訪部社長の空になったグラスを下げて、次のワインを置いた。
慣れているようで好みまで把握していた。
なんて気が利くんだろう。
時任とは大違いだった。
重役の人達は個々の行動が多くてバラバラだし、お互いの好みもよくわかってないだろうし、みんなで飲みに行くのもそんな好きじゃないみたいで一緒に飲みに行く姿を見たことがない。
「おかわり頼みましょうか?僕のおすすめでいいですか?」
佐藤君はにっこりと微笑んだ。
「お願いします」
新しい飲み物を持ってきてもらうと、諏訪部さんが店員を呼んだ。
「あれ、用意してあげて」
そう諏訪部さんが店員に耳打ちした。
なんだろうと思っていると、しばらくしてから大きな皿にホールサイズのケーキが出てきた。
フルーツたっぷりで可愛いケーキに『HAPPY BIRTHDAY』の文字がチョコレートプレートに書かれてある。
「誕生日だよね?おめでとう」
「そうですっ!どうしてわかったんですか?」
「麻友子さんに聞いたんだよ。君のバースデーに彼氏もいないんじゃ寂しいだろうっていうからね。俺じゃダメだったかな?」
「いいえっ!私嬉しいです」
「泣かなくても」
「だって……感動してしまって……」
諏訪部さんはケーキに薔薇の花を添えてくれた。
まるで、夢のような時間―――とても素敵な誕生日になった。
手にしたグラスには金色のシャンパンが注がれ、一口飲むと洋梨とリンゴの芳香が口の中で広がり、初めて飲んだ高価なシャンパンはすごくゴージャスな気分になれる。
「今日は二人ともありがとう」
「いいえ。諏訪部さんが飲みに行きたいって、佐藤君からメールをもらって私達でいいのかなって話してたんですよー。ねっ、姫凪」
「そうなんです。諏訪部さんって、すごく格好いいし、お友達にも綺麗な女の人たくさんいるじゃないですか。私なんかが来てもよかったんですか?」
「もちろんだよ。な、佐藤」
「麻友子さんと姫凪さんに来て頂けて嬉しいですっ」
爽やかに佐藤君が微笑んだ。
諏訪部さんもかっこいいし、佐藤君もアイドルみたいにかわいくて、店内に入ってくる女性客はちらちらと二人を盗み見ていた。
「麻友子さん、僕のメールを見てファイルも開いてくれました?」
「もちろんよ。じゃなきゃ、ここにはいないわ」
麻友子は嬉しそうに二杯目のシャンパンを飲んだ。
「そうですか。乾杯しましょう」
「いいね」
諏訪部さんはさっきよりずっと機嫌がよくなった。
乾杯をし、運ばれてきたフランス料理には海老と貝をソテーしたものにソースがかかり、アスパラやエシャロットの焼き野菜が添えられて、それならばと三杯目は白ワインを頼んだ。
こんな贅沢なお店に誰も連れてきてくれない。
私と麻友子は大はしゃぎだった。
「すごいですよねー!時任社長は絶対にこんなお店に連れてきてくれませんもん」
「そうなんだ?」
「会社にいるのか、いないのか、よくわからない人ですからね」
「そうよね。いつもラフな服装だし」
「へえー。いつもスーツ姿なのかと思っていたな。この間、雑誌に載っていたからね」
時任社長がモデルをしたのは有名な話で、雑誌を買った女子社員も多かった。
会社周辺の本屋で売っていた雑誌は完売し、私も欲しかったのに買えずに会社から離れた本屋でやっと手に入れることができた。
この間、社長と副社長が二人でスーツのモデルをしていた雑誌も同じで、本屋では買えずに結局、ネットで買った。
「時任社長の成功は倉永副社長がいてこそだからね」
「副社長ってそんなにすごいんですか?私からみたら、ぼんやりしている人ってかんじなんですけどー」
麻友子はすでにほろ酔いで笑っていたけれど、諏訪部さんと佐藤君は少しも笑っていなかった。
「彼がいるだけで会社にとっては大きな武器になる」
「いいですよね」
「我が社に欲しいくらいだよ」
苦々しい口調で諏訪部さんは言った。
「けれど、もう彼らの時代は終わりだ」
「そうですね」
くす、と佐藤君は笑った。
「えー、困りますぅ。時任で働けなくなったら、お給料でないじゃないですかぁ」
「身内意識が強いのと、自分達の力を安売りしないで高く売るのはこの時代にあってないんだよ」
「そーですよね。安くてお手軽な契約がいいですよねー」
佐藤君は営業らしく、諏訪部社長の空になったグラスを下げて、次のワインを置いた。
慣れているようで好みまで把握していた。
なんて気が利くんだろう。
時任とは大違いだった。
重役の人達は個々の行動が多くてバラバラだし、お互いの好みもよくわかってないだろうし、みんなで飲みに行くのもそんな好きじゃないみたいで一緒に飲みに行く姿を見たことがない。
「おかわり頼みましょうか?僕のおすすめでいいですか?」
佐藤君はにっこりと微笑んだ。
「お願いします」
新しい飲み物を持ってきてもらうと、諏訪部さんが店員を呼んだ。
「あれ、用意してあげて」
そう諏訪部さんが店員に耳打ちした。
なんだろうと思っていると、しばらくしてから大きな皿にホールサイズのケーキが出てきた。
フルーツたっぷりで可愛いケーキに『HAPPY BIRTHDAY』の文字がチョコレートプレートに書かれてある。
「誕生日だよね?おめでとう」
「そうですっ!どうしてわかったんですか?」
「麻友子さんに聞いたんだよ。君のバースデーに彼氏もいないんじゃ寂しいだろうっていうからね。俺じゃダメだったかな?」
「いいえっ!私嬉しいです」
「泣かなくても」
「だって……感動してしまって……」
諏訪部さんはケーキに薔薇の花を添えてくれた。
まるで、夢のような時間―――とても素敵な誕生日になった。
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