21 / 43
21 trap【姫凪 視点】
しおりを挟む
店内は青のライトに照らされて、まるで水中にいるような店内には巨大なアクアリウムがあり、中には色鮮やかな熱帯魚が泳いでいた。
手にしたグラスには金色のシャンパンが注がれ、一口飲むと洋梨とリンゴの芳香が口の中で広がり、初めて飲んだ高価なシャンパンはすごくゴージャスな気分になれる。
「今日は二人ともありがとう」
「いいえ。諏訪部さんが飲みに行きたいって、佐藤君からメールをもらって私達でいいのかなって話してたんですよー。ねっ、姫凪」
「そうなんです。諏訪部さんって、すごく格好いいし、お友達にも綺麗な女の人たくさんいるじゃないですか。私なんかが来てもよかったんですか?」
「もちろんだよ。な、佐藤」
「麻友子さんと姫凪さんに来て頂けて嬉しいですっ」
爽やかに佐藤君が微笑んだ。
諏訪部さんもかっこいいし、佐藤君もアイドルみたいにかわいくて、店内に入ってくる女性客はちらちらと二人を盗み見ていた。
「麻友子さん、僕のメールを見てファイルも開いてくれました?」
「もちろんよ。じゃなきゃ、ここにはいないわ」
麻友子は嬉しそうに二杯目のシャンパンを飲んだ。
「そうですか。乾杯しましょう」
「いいね」
諏訪部さんはさっきよりずっと機嫌がよくなった。
乾杯をし、運ばれてきたフランス料理には海老と貝をソテーしたものにソースがかかり、アスパラやエシャロットの焼き野菜が添えられて、それならばと三杯目は白ワインを頼んだ。
こんな贅沢なお店に誰も連れてきてくれない。
私と麻友子は大はしゃぎだった。
「すごいですよねー!時任社長は絶対にこんなお店に連れてきてくれませんもん」
「そうなんだ?」
「会社にいるのか、いないのか、よくわからない人ですからね」
「そうよね。いつもラフな服装だし」
「へえー。いつもスーツ姿なのかと思っていたな。この間、雑誌に載っていたからね」
時任社長がモデルをしたのは有名な話で、雑誌を買った女子社員も多かった。
会社周辺の本屋で売っていた雑誌は完売し、私も欲しかったのに買えずに会社から離れた本屋でやっと手に入れることができた。
この間、社長と副社長が二人でスーツのモデルをしていた雑誌も同じで、本屋では買えずに結局、ネットで買った。
「時任社長の成功は倉永副社長がいてこそだからね」
「副社長ってそんなにすごいんですか?私からみたら、ぼんやりしている人ってかんじなんですけどー」
麻友子はすでにほろ酔いで笑っていたけれど、諏訪部さんと佐藤君は少しも笑っていなかった。
「彼がいるだけで会社にとっては大きな武器になる」
「いいですよね」
「我が社に欲しいくらいだよ」
苦々しい口調で諏訪部さんは言った。
「けれど、もう彼らの時代は終わりだ」
「そうですね」
くす、と佐藤君は笑った。
「えー、困りますぅ。時任で働けなくなったら、お給料でないじゃないですかぁ」
「身内意識が強いのと、自分達の力を安売りしないで高く売るのはこの時代にあってないんだよ」
「そーですよね。安くてお手軽な契約がいいですよねー」
佐藤君は営業らしく、諏訪部社長の空になったグラスを下げて、次のワインを置いた。
慣れているようで好みまで把握していた。
なんて気が利くんだろう。
時任とは大違いだった。
重役の人達は個々の行動が多くてバラバラだし、お互いの好みもよくわかってないだろうし、みんなで飲みに行くのもそんな好きじゃないみたいで一緒に飲みに行く姿を見たことがない。
「おかわり頼みましょうか?僕のおすすめでいいですか?」
佐藤君はにっこりと微笑んだ。
「お願いします」
新しい飲み物を持ってきてもらうと、諏訪部さんが店員を呼んだ。
「あれ、用意してあげて」
そう諏訪部さんが店員に耳打ちした。
なんだろうと思っていると、しばらくしてから大きな皿にホールサイズのケーキが出てきた。
フルーツたっぷりで可愛いケーキに『HAPPY BIRTHDAY』の文字がチョコレートプレートに書かれてある。
「誕生日だよね?おめでとう」
「そうですっ!どうしてわかったんですか?」
「麻友子さんに聞いたんだよ。君のバースデーに彼氏もいないんじゃ寂しいだろうっていうからね。俺じゃダメだったかな?」
「いいえっ!私嬉しいです」
「泣かなくても」
「だって……感動してしまって……」
諏訪部さんはケーキに薔薇の花を添えてくれた。
まるで、夢のような時間―――とても素敵な誕生日になった。
手にしたグラスには金色のシャンパンが注がれ、一口飲むと洋梨とリンゴの芳香が口の中で広がり、初めて飲んだ高価なシャンパンはすごくゴージャスな気分になれる。
「今日は二人ともありがとう」
「いいえ。諏訪部さんが飲みに行きたいって、佐藤君からメールをもらって私達でいいのかなって話してたんですよー。ねっ、姫凪」
「そうなんです。諏訪部さんって、すごく格好いいし、お友達にも綺麗な女の人たくさんいるじゃないですか。私なんかが来てもよかったんですか?」
「もちろんだよ。な、佐藤」
「麻友子さんと姫凪さんに来て頂けて嬉しいですっ」
爽やかに佐藤君が微笑んだ。
諏訪部さんもかっこいいし、佐藤君もアイドルみたいにかわいくて、店内に入ってくる女性客はちらちらと二人を盗み見ていた。
「麻友子さん、僕のメールを見てファイルも開いてくれました?」
「もちろんよ。じゃなきゃ、ここにはいないわ」
麻友子は嬉しそうに二杯目のシャンパンを飲んだ。
「そうですか。乾杯しましょう」
「いいね」
諏訪部さんはさっきよりずっと機嫌がよくなった。
乾杯をし、運ばれてきたフランス料理には海老と貝をソテーしたものにソースがかかり、アスパラやエシャロットの焼き野菜が添えられて、それならばと三杯目は白ワインを頼んだ。
こんな贅沢なお店に誰も連れてきてくれない。
私と麻友子は大はしゃぎだった。
「すごいですよねー!時任社長は絶対にこんなお店に連れてきてくれませんもん」
「そうなんだ?」
「会社にいるのか、いないのか、よくわからない人ですからね」
「そうよね。いつもラフな服装だし」
「へえー。いつもスーツ姿なのかと思っていたな。この間、雑誌に載っていたからね」
時任社長がモデルをしたのは有名な話で、雑誌を買った女子社員も多かった。
会社周辺の本屋で売っていた雑誌は完売し、私も欲しかったのに買えずに会社から離れた本屋でやっと手に入れることができた。
この間、社長と副社長が二人でスーツのモデルをしていた雑誌も同じで、本屋では買えずに結局、ネットで買った。
「時任社長の成功は倉永副社長がいてこそだからね」
「副社長ってそんなにすごいんですか?私からみたら、ぼんやりしている人ってかんじなんですけどー」
麻友子はすでにほろ酔いで笑っていたけれど、諏訪部さんと佐藤君は少しも笑っていなかった。
「彼がいるだけで会社にとっては大きな武器になる」
「いいですよね」
「我が社に欲しいくらいだよ」
苦々しい口調で諏訪部さんは言った。
「けれど、もう彼らの時代は終わりだ」
「そうですね」
くす、と佐藤君は笑った。
「えー、困りますぅ。時任で働けなくなったら、お給料でないじゃないですかぁ」
「身内意識が強いのと、自分達の力を安売りしないで高く売るのはこの時代にあってないんだよ」
「そーですよね。安くてお手軽な契約がいいですよねー」
佐藤君は営業らしく、諏訪部社長の空になったグラスを下げて、次のワインを置いた。
慣れているようで好みまで把握していた。
なんて気が利くんだろう。
時任とは大違いだった。
重役の人達は個々の行動が多くてバラバラだし、お互いの好みもよくわかってないだろうし、みんなで飲みに行くのもそんな好きじゃないみたいで一緒に飲みに行く姿を見たことがない。
「おかわり頼みましょうか?僕のおすすめでいいですか?」
佐藤君はにっこりと微笑んだ。
「お願いします」
新しい飲み物を持ってきてもらうと、諏訪部さんが店員を呼んだ。
「あれ、用意してあげて」
そう諏訪部さんが店員に耳打ちした。
なんだろうと思っていると、しばらくしてから大きな皿にホールサイズのケーキが出てきた。
フルーツたっぷりで可愛いケーキに『HAPPY BIRTHDAY』の文字がチョコレートプレートに書かれてある。
「誕生日だよね?おめでとう」
「そうですっ!どうしてわかったんですか?」
「麻友子さんに聞いたんだよ。君のバースデーに彼氏もいないんじゃ寂しいだろうっていうからね。俺じゃダメだったかな?」
「いいえっ!私嬉しいです」
「泣かなくても」
「だって……感動してしまって……」
諏訪部さんはケーキに薔薇の花を添えてくれた。
まるで、夢のような時間―――とても素敵な誕生日になった。
37
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる