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5 幼馴染はチェロ奏者
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重たい音が響く。
それは地の底からの唸り声みたいな音。
部屋を掃除し、換気しておこうと窓を開けたままだったのが悪かった。
「ちょっと!逢生!窓を閉めて練習しなさいよっ!」
心地よい私のお昼寝タイムを邪魔され、イライラしながら窓を開けた。
お隣から聴こえてくるのはチェロの音。
弾いているのは逢生なのはわかっている。
プロのチェリストだから練習でもしているのかもしれない。
それはいいけど、おじさんに作ってもらった防音設備バッチリな部屋で弾きなさいよ。
逢生のファンなら大喜びなんだろうけど。
雑誌にも載るくらいで、『クラシック界のプリンス』なんて呼ばれている。
なにがプリンスよ。
プリンスがもさもさ頭、グレーのパーカースウェット姿でチェロを弾かないでしょ!
しかも、嫌がらせみたいにこっちに向けて弾いてるし。
こっち向かなくても聴こるわよ、その大音量。
そんな逢生とは生まれた時からのお隣さんで幼馴染というより、もはや姉弟。
手のかかる弟よ!
まったく!
「奏花に聴かせてあげてた」
そうねぇ……プロの演奏だもんね。
うわぁ、ありがたーいって違う!
「あのねー!私は月曜日という強敵にそなえて大事な昼寝をしてんのっ!わかる?かっこよくいうとシエスタ!」
「別にかっこよくない」
う、うわぁー!!
なにこの押し問答。
ここで切らなきゃ、永遠のトークが始まる。
しかも、なに?
そのちょっと嬉しそうな顔。
私がしゃべってくれたみたいな空気をバシバシ飛ばしてくるんじゃないわよ。
このまま、ぴしゃりと窓を閉めるのも可哀想だったので仏心で聞いてみた。
「今の弾いていた曲はなに?」
「曲じゃない」
あれ、違うの……?
私に音楽の才能はない。
通っていたピアノ教室もほとんどサボっていた。
それくらい苦手中の苦手。
楽器が弾けるのってすごいなーって思うわよ?
私なんてカスタネットをたたくか、トライアングルをチーンと鳴らすくらいが精一杯。
「それじゃあ、練習?」
「それでもない」
イラッとして部屋のクッションを手にした。
話を引き延ばし始めたら、これを投げて窓を閉めよう。
そう決めて。
「お腹の音を表現した。お腹が空いたの音だよ」
あの唸るような重く低い音を思い出した。
なるほど。
確かにお腹の音だった。
「おじさんとおばさん、いないの?」
「いつものように仕事だよ」
「ご飯食べたの?」
「水は飲んだ」
それはご飯じゃない。
額に手をあてた。
「わかったわ……。うちにきて」
「今行く」
どうせお腹が空いたっていう理由だけで起こしたにちがいない。
ご飯を作って欲しくてわざと音を鳴らしたでしょ!
口で言いなさいよ、口で。
やれやれ、めんどうな……と思いながら、自分の部屋を出た。
おじさんもおばさんも息子が生き延びるためにカップ麺くらい置いていけばいいものを。
深月家は昔から放任よね。
うーんっと背筋を伸ばしながら、階段をおりて一階リビングに行くと私の母が仕事をしていた。
料理研究家の母は料理がうまい―――だが、作らない。
どういうことなんだって話だけど、事実なんだからしかなたない。
今も素敵な奥様を装うべく、テーブルセッティングの練習をしていた。
なによ、その花は。
花に興味なんかないくせに雑誌では『季節を感じられる空間で食事を』なんて書いてるんだもん。
もう料理研究家じゃなくて、詐欺研究家の間違いでしょ。
「お母さん。逢生がお腹空いたって」
「あら、そう。なにか作ってあげなさいよ」
これである。
しぶしぶ、冷蔵庫から卵とネギ、ハムを取り出して残りご飯でチャーハンを作る。
「お邪魔します」
「あらー!逢生君、いらっしゃい!今日もイケメンね!」
母よ……
さっきまで娘には無関心だったくせに逢生がきた途端にこれである。
しかも、逢生はさっきのもっさりした姿から髪と服をしっかりと整えてきた。
スウェットはどこへやら、ネイビーのカジュアルスーツを着ている。
嫌な予感がする。
「これ、よかったら」
逢生は母に賄賂を送る。
「あらー!まー!これ、コンサートのチケットじゃない。なかなか手に入らないのよ」
「だれの?」
「やあねぇ、奏花。だれのって決まってるでしょ。逢生君に」
「そんな人気なの?」
「今をときめくクラシック界のプリンスといえば、この三人でしょ」
母が二枚あるチケットを見せてくれた。
ピアニスト渋木唯冬、バイオリニスト陣川知久、チェリスト深月逢生―――飲み会を邪魔した悪の三人組の名前が書いてある。
高校生の頃から仲がいいわよね。
逢生が学校に遅刻しないよう二人が迎えにきていたのを思い出す。
寝坊してほとんど眠っているような状態の逢生をひきずって、黒塗りの車に放り込んで学校に運んで―――いや、通っていた。
黒塗りの車を初めてみた時は驚いた。
逢生がトランクにのせられたら警察を呼ばないとなんて思ったわよ。
それが、陣川さんも渋木さんも家はかなりのお金持ちって聞いて納得した。
あの二人、見るからに王子っぽいもんね。
ちなみに我が家は一般家庭。
逢生は両親が医者だから、けっこうお金持ちなんじゃないだろうか。
お隣の家はデザイナーズハウスでおしゃれな建物だ。
広いテラスに芝生、大きな窓ガラス、高い塀。
内装は白で統一されていて、ごちゃごちゃしたかんじは一切ない。
芸能人のお宅みたいだった。
まあ、暮らしているのは逢生なんだけどね。
そんなことを考えながら、チャーハンを作る。
ちょうど中華鍋にひいた油が熱くなった。
「チャーハンは火力が命!」
パラパラご飯をめざし、とうっと中華なべをもちあげる。
最後の隠し味に醤油をなべの側面にあてて香ばしさを出す。
ふっ……できた。
私の完璧なご飯パラパラチャーハンが。
カレー皿に大盛りのチャーハンを盛り付けた。
デザートには逢生が好きなアイスクリームを冷凍庫から取り出し、横に置いた。
それを見て嬉しそうに笑った。
本当に子供なんだから。
「食べたら帰ってね」
そして、私は安らかな昼寝をします。
グッドラック!
「いやだ」
なにっー!
反抗的な態度に腹が立ち、チャーハンが入った皿を奪おうとすると危険を察知した逢生が自分の方へ抱え込む。
「奏花。俺とデートしよう」
そんなチャーハンの皿を抱えて言われてもね。
「しない。昼寝をします」
即答である。
なにがデートだ。
正直言って逢生とでかけるのはめんどうだ。
だいたいそのセリフ、どこで覚えてきたのよ。
空腹に耐えかねた逢生はスプーンでチャーハンをすくって、もぐもぐと口に頬張った。
「どこなら行ってくれる?」
人の話をきかないのはいつものことだ。
動じずにその問いに答えた。
「そうねー。町内の駄菓子屋までならいいわよ」
「じゃあ。駄菓子屋で」
「行くかっ!」
こっちは遠回しに断ってんの!
察しなさいよ。
「もー、奏花。逢生君が可哀想でしょ?駄菓子屋くらい付き合ってあげなさいよ」
チケットを逢生からもらった母はご機嫌な顔で言った。
母よ、あなたに問いたい。
私達をいくつだと思っているのか。
二十歳をとうにすんだ男女が駄菓子屋デートに行くわけないでしょ!
しかも、逢生にそんな簡単に買収されちゃって!
「そんなに逢生のコンサートって人気なの?」
「完売するくらいには。奏花もコンサートきて」
逢生はチケットをくれるけど、一度も行ったことがない。
クラシック音楽に興味がないというわけじゃないけど、舞台の上にいる逢生はなんだかちょっと違う。
胸がもやもやする。
だから、逢生のコンクールの応援でしか聴いたことがなかった。
手元のチケットをまじまじとみた。
そのチケットにはタキシードを着てチェロを手にした逢生がいた。
私の知らない顔をした逢生。
キリッとしちゃって!
「たまには奏花も聴きに行ったら?ほら、奏花の初恋の人がチェロ奏者だったでしょ」
「ちょっとー!やめてよー!」
公園で会った名前も知らないチェリスト。
菱水音大附属高校の制服を着たかっこいいお兄さんだった。
大昔の甘酸っぱい思い出を掘り起こさないでよね。
しかも小学生の時の話だし。
「やっぱりあいつが初恋だったんだ」
逢生はむうっとした顔をした。
「逢生はその人のこと知っているの?プロになっているの?」
「知らない」
すいっーと目をそらした。
これは知ってるわね。
「共演したりしないの?」
「したくない」
「したくないってことはプロになってるわけね」
ハッとした顔で逢生が私を見る。
「年齢で行ったら三十すんだくらいじゃない?見てみたいなー」
「見なくていい」
私にくれたコンサートのチケットを没収されてしまった。
「え?くれるんじゃなかったの?」
「やっぱりやめた」
なにそれ。
ジャケットのポケットに隠した。
まったく子供なんだから。
「帰る」
「うん?私は昼寝をするわ。おやすみー」
「奏花のバカ」
な、なんだとー!
言い返そうにも逢生は不機嫌そうな顔で私をにらんで出ていった。
「こんなんじゃ、奏花に彼氏ができる日はこないかもね。繊細な男心をわからないダメ乙女ねー」
話を一部始終聞いていた母からダメだしされてしまった。
「誰がダメ乙女よ」
「チェロを弾いている逢生ちゃんは本当にかっこいいんだから。はい、これあげるからいってきなさい」
逢生からもらったコンサートのチケットを私にくれた。
「お母さんが行きたかったんじゃないの?」
「行きたかったけど、譲ってあげるわ。奏花も恋をしなくちゃ」
恋ねぇ。
じっーとチケットを見つめた。
真剣な逢生の顔。
それを見ていると不思議と今の逢生の演奏を聴いてみたくなった。
行ってみようかな。
そう私に思わせるだけの威力はあった。
タキシード姿で悪ガキ三人組が真剣な顔をしている姿は。
それは地の底からの唸り声みたいな音。
部屋を掃除し、換気しておこうと窓を開けたままだったのが悪かった。
「ちょっと!逢生!窓を閉めて練習しなさいよっ!」
心地よい私のお昼寝タイムを邪魔され、イライラしながら窓を開けた。
お隣から聴こえてくるのはチェロの音。
弾いているのは逢生なのはわかっている。
プロのチェリストだから練習でもしているのかもしれない。
それはいいけど、おじさんに作ってもらった防音設備バッチリな部屋で弾きなさいよ。
逢生のファンなら大喜びなんだろうけど。
雑誌にも載るくらいで、『クラシック界のプリンス』なんて呼ばれている。
なにがプリンスよ。
プリンスがもさもさ頭、グレーのパーカースウェット姿でチェロを弾かないでしょ!
しかも、嫌がらせみたいにこっちに向けて弾いてるし。
こっち向かなくても聴こるわよ、その大音量。
そんな逢生とは生まれた時からのお隣さんで幼馴染というより、もはや姉弟。
手のかかる弟よ!
まったく!
「奏花に聴かせてあげてた」
そうねぇ……プロの演奏だもんね。
うわぁ、ありがたーいって違う!
「あのねー!私は月曜日という強敵にそなえて大事な昼寝をしてんのっ!わかる?かっこよくいうとシエスタ!」
「別にかっこよくない」
う、うわぁー!!
なにこの押し問答。
ここで切らなきゃ、永遠のトークが始まる。
しかも、なに?
そのちょっと嬉しそうな顔。
私がしゃべってくれたみたいな空気をバシバシ飛ばしてくるんじゃないわよ。
このまま、ぴしゃりと窓を閉めるのも可哀想だったので仏心で聞いてみた。
「今の弾いていた曲はなに?」
「曲じゃない」
あれ、違うの……?
私に音楽の才能はない。
通っていたピアノ教室もほとんどサボっていた。
それくらい苦手中の苦手。
楽器が弾けるのってすごいなーって思うわよ?
私なんてカスタネットをたたくか、トライアングルをチーンと鳴らすくらいが精一杯。
「それじゃあ、練習?」
「それでもない」
イラッとして部屋のクッションを手にした。
話を引き延ばし始めたら、これを投げて窓を閉めよう。
そう決めて。
「お腹の音を表現した。お腹が空いたの音だよ」
あの唸るような重く低い音を思い出した。
なるほど。
確かにお腹の音だった。
「おじさんとおばさん、いないの?」
「いつものように仕事だよ」
「ご飯食べたの?」
「水は飲んだ」
それはご飯じゃない。
額に手をあてた。
「わかったわ……。うちにきて」
「今行く」
どうせお腹が空いたっていう理由だけで起こしたにちがいない。
ご飯を作って欲しくてわざと音を鳴らしたでしょ!
口で言いなさいよ、口で。
やれやれ、めんどうな……と思いながら、自分の部屋を出た。
おじさんもおばさんも息子が生き延びるためにカップ麺くらい置いていけばいいものを。
深月家は昔から放任よね。
うーんっと背筋を伸ばしながら、階段をおりて一階リビングに行くと私の母が仕事をしていた。
料理研究家の母は料理がうまい―――だが、作らない。
どういうことなんだって話だけど、事実なんだからしかなたない。
今も素敵な奥様を装うべく、テーブルセッティングの練習をしていた。
なによ、その花は。
花に興味なんかないくせに雑誌では『季節を感じられる空間で食事を』なんて書いてるんだもん。
もう料理研究家じゃなくて、詐欺研究家の間違いでしょ。
「お母さん。逢生がお腹空いたって」
「あら、そう。なにか作ってあげなさいよ」
これである。
しぶしぶ、冷蔵庫から卵とネギ、ハムを取り出して残りご飯でチャーハンを作る。
「お邪魔します」
「あらー!逢生君、いらっしゃい!今日もイケメンね!」
母よ……
さっきまで娘には無関心だったくせに逢生がきた途端にこれである。
しかも、逢生はさっきのもっさりした姿から髪と服をしっかりと整えてきた。
スウェットはどこへやら、ネイビーのカジュアルスーツを着ている。
嫌な予感がする。
「これ、よかったら」
逢生は母に賄賂を送る。
「あらー!まー!これ、コンサートのチケットじゃない。なかなか手に入らないのよ」
「だれの?」
「やあねぇ、奏花。だれのって決まってるでしょ。逢生君に」
「そんな人気なの?」
「今をときめくクラシック界のプリンスといえば、この三人でしょ」
母が二枚あるチケットを見せてくれた。
ピアニスト渋木唯冬、バイオリニスト陣川知久、チェリスト深月逢生―――飲み会を邪魔した悪の三人組の名前が書いてある。
高校生の頃から仲がいいわよね。
逢生が学校に遅刻しないよう二人が迎えにきていたのを思い出す。
寝坊してほとんど眠っているような状態の逢生をひきずって、黒塗りの車に放り込んで学校に運んで―――いや、通っていた。
黒塗りの車を初めてみた時は驚いた。
逢生がトランクにのせられたら警察を呼ばないとなんて思ったわよ。
それが、陣川さんも渋木さんも家はかなりのお金持ちって聞いて納得した。
あの二人、見るからに王子っぽいもんね。
ちなみに我が家は一般家庭。
逢生は両親が医者だから、けっこうお金持ちなんじゃないだろうか。
お隣の家はデザイナーズハウスでおしゃれな建物だ。
広いテラスに芝生、大きな窓ガラス、高い塀。
内装は白で統一されていて、ごちゃごちゃしたかんじは一切ない。
芸能人のお宅みたいだった。
まあ、暮らしているのは逢生なんだけどね。
そんなことを考えながら、チャーハンを作る。
ちょうど中華鍋にひいた油が熱くなった。
「チャーハンは火力が命!」
パラパラご飯をめざし、とうっと中華なべをもちあげる。
最後の隠し味に醤油をなべの側面にあてて香ばしさを出す。
ふっ……できた。
私の完璧なご飯パラパラチャーハンが。
カレー皿に大盛りのチャーハンを盛り付けた。
デザートには逢生が好きなアイスクリームを冷凍庫から取り出し、横に置いた。
それを見て嬉しそうに笑った。
本当に子供なんだから。
「食べたら帰ってね」
そして、私は安らかな昼寝をします。
グッドラック!
「いやだ」
なにっー!
反抗的な態度に腹が立ち、チャーハンが入った皿を奪おうとすると危険を察知した逢生が自分の方へ抱え込む。
「奏花。俺とデートしよう」
そんなチャーハンの皿を抱えて言われてもね。
「しない。昼寝をします」
即答である。
なにがデートだ。
正直言って逢生とでかけるのはめんどうだ。
だいたいそのセリフ、どこで覚えてきたのよ。
空腹に耐えかねた逢生はスプーンでチャーハンをすくって、もぐもぐと口に頬張った。
「どこなら行ってくれる?」
人の話をきかないのはいつものことだ。
動じずにその問いに答えた。
「そうねー。町内の駄菓子屋までならいいわよ」
「じゃあ。駄菓子屋で」
「行くかっ!」
こっちは遠回しに断ってんの!
察しなさいよ。
「もー、奏花。逢生君が可哀想でしょ?駄菓子屋くらい付き合ってあげなさいよ」
チケットを逢生からもらった母はご機嫌な顔で言った。
母よ、あなたに問いたい。
私達をいくつだと思っているのか。
二十歳をとうにすんだ男女が駄菓子屋デートに行くわけないでしょ!
しかも、逢生にそんな簡単に買収されちゃって!
「そんなに逢生のコンサートって人気なの?」
「完売するくらいには。奏花もコンサートきて」
逢生はチケットをくれるけど、一度も行ったことがない。
クラシック音楽に興味がないというわけじゃないけど、舞台の上にいる逢生はなんだかちょっと違う。
胸がもやもやする。
だから、逢生のコンクールの応援でしか聴いたことがなかった。
手元のチケットをまじまじとみた。
そのチケットにはタキシードを着てチェロを手にした逢生がいた。
私の知らない顔をした逢生。
キリッとしちゃって!
「たまには奏花も聴きに行ったら?ほら、奏花の初恋の人がチェロ奏者だったでしょ」
「ちょっとー!やめてよー!」
公園で会った名前も知らないチェリスト。
菱水音大附属高校の制服を着たかっこいいお兄さんだった。
大昔の甘酸っぱい思い出を掘り起こさないでよね。
しかも小学生の時の話だし。
「やっぱりあいつが初恋だったんだ」
逢生はむうっとした顔をした。
「逢生はその人のこと知っているの?プロになっているの?」
「知らない」
すいっーと目をそらした。
これは知ってるわね。
「共演したりしないの?」
「したくない」
「したくないってことはプロになってるわけね」
ハッとした顔で逢生が私を見る。
「年齢で行ったら三十すんだくらいじゃない?見てみたいなー」
「見なくていい」
私にくれたコンサートのチケットを没収されてしまった。
「え?くれるんじゃなかったの?」
「やっぱりやめた」
なにそれ。
ジャケットのポケットに隠した。
まったく子供なんだから。
「帰る」
「うん?私は昼寝をするわ。おやすみー」
「奏花のバカ」
な、なんだとー!
言い返そうにも逢生は不機嫌そうな顔で私をにらんで出ていった。
「こんなんじゃ、奏花に彼氏ができる日はこないかもね。繊細な男心をわからないダメ乙女ねー」
話を一部始終聞いていた母からダメだしされてしまった。
「誰がダメ乙女よ」
「チェロを弾いている逢生ちゃんは本当にかっこいいんだから。はい、これあげるからいってきなさい」
逢生からもらったコンサートのチケットを私にくれた。
「お母さんが行きたかったんじゃないの?」
「行きたかったけど、譲ってあげるわ。奏花も恋をしなくちゃ」
恋ねぇ。
じっーとチケットを見つめた。
真剣な逢生の顔。
それを見ていると不思議と今の逢生の演奏を聴いてみたくなった。
行ってみようかな。
そう私に思わせるだけの威力はあった。
タキシード姿で悪ガキ三人組が真剣な顔をしている姿は。
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