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7 あなたは誰?
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もうすぐ開演だし、どんな曲を演奏するのかなと思ってパンフレットを探した。
この時になって椅子に置いてあったパンフレットがないことに気づいた。
「あ、あれ?」
「ああ……これ、君のパンフレット?椅子から落ちていたよ」
「すみません」
前の席の人が拾ってくれたらしく、パンフレットを受け取った。
サングラスをかけた男の人でのぞいた目は深い黒。
目鼻立ちがくっきりとしていて、まつ毛が長く、ラテン系の顔をした男の人だった。
外国のモデルみたい。
それにセクシーな人ってこういう人のことを言うんだろうな―――
ふっと頭になにかよぎったけれど、それがなんだったのか思い出せなかった。
「前の男の人、すごくかっこいいわね。大人の男性ってかんじ」
寿実も同じことを思ったらしい。
本当に抜け目がないというか、なんというか……
「シャネルのエゴイストプラチナムが似合う男ねぇ。絶対モテるわね。女を山ほど泣かせてそう」
うん、それは同感って……なに言ってるのよ!
とっさにぼふっとパンフレットで寿実の口をふさいだ。
「前の人に聞こえるじゃない。失礼でしょっ」
小声で私が言うとくすりと笑う声がした。
こんな小さい声なのに聞こえちゃった?
ぎろりと寿実をにらむとさすがにおとなしくなった。
「愛の挨拶か。深月逢生には合わないと思うな」
前の席の男の人がぼそりとそう言うのが聞こえた。
逢生に合わない?
この曲が?
最初の曲はエルガーの愛の挨拶。
三人でやる三重奏からのスタート。
幕があがり、タキシードを着た三人にスポットライトがあたる。
ピアノ、バイオリン、チェローーー物音ひとつしない会場。
しんっとした無音の中でバイオリンを手にした陣川さんが軽く顔を渋木さんへと向ける。
渋木さんが小さくうなずくと白い鍵盤に指を置く。
優しいピアノの音。
あの冷たく人形のような顔をした渋木さんがこんな豊かな音を出すことに驚いた。
誰を想って弾いているんだろう。
そして弦楽器の二人が加わる。
ピアノの伴奏に合わせて弦楽器が歌を歌っているみたいだった。
逢生は昔よりずっと上手になっていた。
音楽のことなんかわからないけど、逢生の音はわかる。
ずっと聴いてきたから。
甘く優しく語る愛の声。
なぜかこっちが赤面してしまうくらい情感たっぷりの愛の挨拶。
曲が終わると拍手が起きた。
前の男性も拍手をしている。
上から目線のゆったりとした拍手だけど。
なにが逢生に合わないよ。
すごくよかったじゃないの。
「こんな演奏もできるんだな」
え?そんな感想?
いつもの演奏ってどんな演奏よ?
まさかお腹が空いたの音みたいな音じゃないわよね。
昼寝を邪魔されたあの迷惑な音を思い出していた。
次の曲は無伴奏チェロ組曲第一番。
逢生のソロってこと?
さっきまで三人だったのに今は逢生だけ。
逢生はふっと二階席を仰ぐ。
そして、弓を剣のように横にすっと出してから、息を吸う。
真剣な目をし、戦いを挑むかのように弓を弦に触れさせる。
もっと重たい音なのかと思っていたけど違っていた。
軽やかだけど深い音。
これが逢生の本気の音。
―――チェロを弾いている逢生ちゃんは本当にかっこいいんだから。
その言葉を思い出したのは私もそれは認めなくちゃいけないって思った。
いつもの省エネモードの逢生の姿はない。
逢生が子供用のチェロで練習していた姿からは想像もできないくらい立派になっていた。
短い曲じゃなかったのに私にはその時間があっという間に感じた。
第一番の曲すべて終わると拍手が起こる。
「今日の演奏、すごくいいわね」
「いつもより音が明るくない?」
近くの常連のファンの人達が小声で話していた。
盛大な拍手をおくられた逢生は深々とお辞儀をして去って行った。
次は渋木さんと陣川さんの二人の演奏が始まるというところで前の席の男の人が席を立った。
「深月逢生か。楽しみだな」
そんなことを言うのが耳に入り、ちらっとその人見た。
目が合い、しまった!と思ったけれど、その人はにっこりと私に微笑んだ。
うわ、笑った顔も大人の色気がある。
なんだか圧倒されてしまう。
「彼のファン?」
「え?ええ、そうですね」
わざわざ幼馴染みというのもおかしい気がしたから、そう答えた。
「そうか。どこかで会った気がするけど思い出せないな。まあ、いいか。じゃあね、可愛いお嬢さん」
『可愛いお嬢さん』
そのセリフに去って行った男の人の背中を見つめていた。
最後まで聴かずに帰って行った。
楽しみだな?
まるで批評家みたいなことを言ってたけど、さっきの人、プロの演奏家か雑誌の人とか?
でも逢生の評価は悪くなかったわよね。
それが嬉しくて微笑んだ。
私の幼馴染みはかっこいい。
いつのまにか遠くに行ってしまっていたけど、応援したい気持ちはずっとある。
逢生の演奏に数年ぶりの拍手をおくった。
この時になって椅子に置いてあったパンフレットがないことに気づいた。
「あ、あれ?」
「ああ……これ、君のパンフレット?椅子から落ちていたよ」
「すみません」
前の席の人が拾ってくれたらしく、パンフレットを受け取った。
サングラスをかけた男の人でのぞいた目は深い黒。
目鼻立ちがくっきりとしていて、まつ毛が長く、ラテン系の顔をした男の人だった。
外国のモデルみたい。
それにセクシーな人ってこういう人のことを言うんだろうな―――
ふっと頭になにかよぎったけれど、それがなんだったのか思い出せなかった。
「前の男の人、すごくかっこいいわね。大人の男性ってかんじ」
寿実も同じことを思ったらしい。
本当に抜け目がないというか、なんというか……
「シャネルのエゴイストプラチナムが似合う男ねぇ。絶対モテるわね。女を山ほど泣かせてそう」
うん、それは同感って……なに言ってるのよ!
とっさにぼふっとパンフレットで寿実の口をふさいだ。
「前の人に聞こえるじゃない。失礼でしょっ」
小声で私が言うとくすりと笑う声がした。
こんな小さい声なのに聞こえちゃった?
ぎろりと寿実をにらむとさすがにおとなしくなった。
「愛の挨拶か。深月逢生には合わないと思うな」
前の席の男の人がぼそりとそう言うのが聞こえた。
逢生に合わない?
この曲が?
最初の曲はエルガーの愛の挨拶。
三人でやる三重奏からのスタート。
幕があがり、タキシードを着た三人にスポットライトがあたる。
ピアノ、バイオリン、チェローーー物音ひとつしない会場。
しんっとした無音の中でバイオリンを手にした陣川さんが軽く顔を渋木さんへと向ける。
渋木さんが小さくうなずくと白い鍵盤に指を置く。
優しいピアノの音。
あの冷たく人形のような顔をした渋木さんがこんな豊かな音を出すことに驚いた。
誰を想って弾いているんだろう。
そして弦楽器の二人が加わる。
ピアノの伴奏に合わせて弦楽器が歌を歌っているみたいだった。
逢生は昔よりずっと上手になっていた。
音楽のことなんかわからないけど、逢生の音はわかる。
ずっと聴いてきたから。
甘く優しく語る愛の声。
なぜかこっちが赤面してしまうくらい情感たっぷりの愛の挨拶。
曲が終わると拍手が起きた。
前の男性も拍手をしている。
上から目線のゆったりとした拍手だけど。
なにが逢生に合わないよ。
すごくよかったじゃないの。
「こんな演奏もできるんだな」
え?そんな感想?
いつもの演奏ってどんな演奏よ?
まさかお腹が空いたの音みたいな音じゃないわよね。
昼寝を邪魔されたあの迷惑な音を思い出していた。
次の曲は無伴奏チェロ組曲第一番。
逢生のソロってこと?
さっきまで三人だったのに今は逢生だけ。
逢生はふっと二階席を仰ぐ。
そして、弓を剣のように横にすっと出してから、息を吸う。
真剣な目をし、戦いを挑むかのように弓を弦に触れさせる。
もっと重たい音なのかと思っていたけど違っていた。
軽やかだけど深い音。
これが逢生の本気の音。
―――チェロを弾いている逢生ちゃんは本当にかっこいいんだから。
その言葉を思い出したのは私もそれは認めなくちゃいけないって思った。
いつもの省エネモードの逢生の姿はない。
逢生が子供用のチェロで練習していた姿からは想像もできないくらい立派になっていた。
短い曲じゃなかったのに私にはその時間があっという間に感じた。
第一番の曲すべて終わると拍手が起こる。
「今日の演奏、すごくいいわね」
「いつもより音が明るくない?」
近くの常連のファンの人達が小声で話していた。
盛大な拍手をおくられた逢生は深々とお辞儀をして去って行った。
次は渋木さんと陣川さんの二人の演奏が始まるというところで前の席の男の人が席を立った。
「深月逢生か。楽しみだな」
そんなことを言うのが耳に入り、ちらっとその人見た。
目が合い、しまった!と思ったけれど、その人はにっこりと私に微笑んだ。
うわ、笑った顔も大人の色気がある。
なんだか圧倒されてしまう。
「彼のファン?」
「え?ええ、そうですね」
わざわざ幼馴染みというのもおかしい気がしたから、そう答えた。
「そうか。どこかで会った気がするけど思い出せないな。まあ、いいか。じゃあね、可愛いお嬢さん」
『可愛いお嬢さん』
そのセリフに去って行った男の人の背中を見つめていた。
最後まで聴かずに帰って行った。
楽しみだな?
まるで批評家みたいなことを言ってたけど、さっきの人、プロの演奏家か雑誌の人とか?
でも逢生の評価は悪くなかったわよね。
それが嬉しくて微笑んだ。
私の幼馴染みはかっこいい。
いつのまにか遠くに行ってしまっていたけど、応援したい気持ちはずっとある。
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