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コミカライズ記念 特別番外編【宮ノ入シリーズ①:恋人編】
8 それって焼きもちですか?
――瑞生さんが人形だなんて、思ったことないわ。
雅冬さんは瑞生さんを完璧な人間のように思っているようだけど、私は違う。
「午後から取引先との会食がありますが、お昼はサンドイッチを用意しました」
「だが……」
会議が始まる前に、午後からのスケジュールを告げた。
「前もって、会食の時間を十五分早めにスケジュールに組み込んであります」
瑞生さんは驚いた顔で私を見た。
「瑞生さんは会食でも話に集中して、あまり食べないでしょう? 少し食べておいた方がいいですよ」
「……なるほど。美桜のほうが一枚上手だったな」
時間ギリギリまで、仕事をしている瑞生さん。
毎日、瑞生さんのスケジュールは詰まっている。
完璧にすべての仕事をこなす姿を見て、私は考えた。
開始前や終了後の時間に少しだけゆとりを持たせることで、隙間時間が生まれる。
その時間を使い、自然に休憩を取れるように仕向ける――という作戦だった。
会議は重役から部長クラスまでが呼ばれ、海外事業部からは雅冬さんが参加していた。
私と目が合い、雅冬さんはにこりと微笑んだ。
その微笑みが意味ありげに見え、瑞生さんの顔が険しくなった。
――やきもち? まさか瑞生さんが……ね?
気のせいだと思い、仕事中でもあるし、余計なことを言わず黙っていた。
でも、心なしか、無表情なのに、八木沢さんクラスの黒いオーラが出ているような気がしなくもない……魔王ですか?
重役たちと部長が、軽く挨拶を交わし、会話をしているのが聴こえてきた。
「常務、雅冬さんは帰国されたばかりだというのに、仕事熱心ですなぁ」
「ははは。息子は部長止まりで終わらないよう必死ですよ」
「いやぁ、ご立派です。うちの息子など、雅冬さんのようにはなかなか!」
「海外支店でもずいぶん活躍されているとか。ああ、雅冬さん、噂は聞いてますよ」
「どうもありがとうございます」
常務と雅冬さんの周りには人が多く、とても華やかで明るい。
瑞生さんはその光景を眺めることもなく、無関心だった。
でも、他の人は違う。
瑞生さんを畏怖し、こちらを見ている。
なにも話さなくても、中心にいるのは王様――瑞生さんだった。
会議が始まり、海外事業部の事業計画書に、瑞生さんが作成した資料を配布する。
『なるほど』『さすが』という声があがる一方で、雅冬さんは険しい顔をしていた。
「提出された計画書の足りない部分を補った。それを何度も読んでおくように」
瑞生さんは表情を変えず、低い声で言い、雅冬さんへ視線をやる。
たったそれだけだったのに、会議室の中にびゅうっと冷たい風が吹き、吹雪が見えた気がした。
たぶん、この計画書を作成したのは、帰国したばかりの雅冬さんではなく、部下だと思う。
「海外事業部の部長は、この事業計画書に一度でも目を通したか?」
「帰国したばかりだったので」
「会議の前に確認するべきだ」
二人の間に不穏な空気が漂いだした。
「さすが社長は優秀ですね。一人でなんでもこなしてしまう」
わかりやすい嫌味に、周囲が凍り付き、『ひっ!』と声を上げた。
常務すら、「こ、こら、雅冬!」と小声で言って、やめろと手で制する。
社交的で明るい雅冬さんの周りには人がいる。
瑞生さんは王様で、人との間に壁がある。
それをわかっていて、雅冬さんは言ったのだ。
でも、瑞生さんは動じなかった。
「そうだな」
雅冬さんを相手にせず、『次の議題をどうぞ』と言わんばかりに他の部署の部長に手を差し向けた。
「は、は、はい……! しゃ、社長!」
この空気の中で、話さなくてはならなくなった営業部部長の手は震えていた。
王様を超えた魔王様ぶりに、さすがの私も苦笑した。
みかねた副社長が、「まあまあ」と手で宥める。
仲裁する副社長がいるお陰で、社内が派閥に分かれて争わずに済んでいる状況だ。
――せめて、瑞生さんに笑顔が……いえ、笑顔まではいかなくても、和やかな雰囲気を演出できれば、少しは違うかも。
予定時間きっかりに会議が終わり、全員が安堵のため息をついた。
まるで、雪山で遭難しかけたみたいに疲れ切っていた。
「美桜、行くぞ」
「は、はい」
瑞生さんは機械のように正確に動く。
私が瑞生さんの後を追って、会議室から出ようとしたところで、雅冬さんと目が合った。
雅冬さんは笑みを作り、軽く手をあげ、挨拶をする。
瑞生さんと気まずくても、その周辺の人とまで気まずくならないような配慮。
それが、雅冬さんはうまいと思う。
私が雅冬さんに会釈を返すと、こちらへ近づいてきた。
――近づかなくていいですからーっ!
ブリザード再びか。
そう思い、震え上がった。
「美桜さん、さっきは仕事中に話しかけてしまったけど、社長に叱られなかった?」
――美桜さん!?
名前呼びも気になったけど、その物腰の柔らかさはまるで女性を口説き落とすようスタイル。
甘い顔をし、キラキラオーラを放つ雅冬さんは、八木沢さんと真逆な空気を持つ。
彼からは育ちの良さがにじみ出て、お坊っちゃん的な華やかさがあった。
「え、えーと……。先ほどはコーヒーをありがとうございました」
社長秘書として、作り笑いを浮かべ、丁寧にお礼を言って立ち去るつもりだった。
それが――
「美桜、雅冬と話を?」
いつもなら颯爽と去るはずの瑞生さんが、会議室へ戻り、私たちの会話に割って入った。
まだ、副社長や常務が会議室にいたせいで、大きなざわめきが起きた。
しかも、仕事では、絶対に表情を崩さない瑞生さんが、ムッとした顔をしていた。
雅冬さんが可笑しそうに笑いをこらえ、さらに瑞生さんを煽る。
「さっき話をして、どんな人間なのか、もっと知りたくなった。また話したい。時間を作ってもらえるかな?」
「無理です! スケジュール管理もありますし、それに……」
「仕事中が無理なら、食事でも行く? 二人で?」
「雅冬。美桜が俺の恋人と知って誘うとはいい度胸だな」
「宮ノ入グループの社長が、自由に結婚相手を選べるとでも思っているのか?」
社長じゃない自分なら、まだ選べるとでも言うように、私を見る。
その挑発に瑞生さんが乗る形で、全員の前ではっきり告げた。
「社長だからこそ選べる。俺の地位は揺らがない」
絶対的な自信と宮ノ入の頂点に立つ強さ。
瑞生さんでなければ、言えないことだ。
雅冬さんはその発言に驚いていたけど、納得する部分もあるようで、目を逸らした。
瑞生さんは雅冬さんに近づき、耳元でささやいた。
それはまるで、悪魔のささやき。
「綾香と付き合い、副社長の協力を得ようとしているようだが、やめておけ。綾香に利用されるだけだぞ」
雅冬さんは焦ったように、バッと瑞生さんから離れた。
「すべてお見通しかよ」
「誰と手を組もうが、無駄だと教えてやったまで」
瑞生さんは私を先に会議室から出した。
「み、瑞……いえ、社長!?」
私が振り返ると、瑞生さんは雅冬にトドメの捨て台詞を吐いているところだった。
「できるものなら、俺から社長の椅子を奪ってみろ。お前に宮ノ入の社長は務まらないだろうがな」
八木沢さんを凌ぐ魔王感を漂わせ、挑発すると、自分も会議室から出て、ドアを閉めた。
ちらりと見えた雅冬さんは、俯き悔しそうな顔をしていた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「瑞生さん、大人げないですよ」
「そうかもな」
社長室に戻り、その周囲に誰もいないことを確認してから、私は瑞生さんに注意した。
「眉間にシワが寄ってます」
「気のせいだ」
「機嫌が悪い顔をしています」
「……これでも隠している」
瑞生さんは仕事で疲れていても、私の前では明るくて優しいというのに、今回は違った。
――不機嫌の原因は会議のこともあるだろうけど、八割は最後の雅冬のせい……
「雅冬さんと会話したのは五分程度で、綾香さんがやってきたので、正しくは途中で三人でした」
「あいつ……!」
わざと雅冬さんが嫉妬させるように話したのだと、瑞生さんはようやく気づいたようだ。
雅冬さんは瑞生さんを『人形だ』と言っていたけど、悔しがる姿に、思わず笑ってしまった。
「美桜、笑うな」
「ごめんなさい。さっきの会議の時と違いすぎて、つい」
「宮ノ入の中で、弱みは見せられない。そういうふうに、育てられたというのもあるが、感情を出すのは苦手だ。雅冬と違ってな」
「そうですね。雅冬さんは宮ノ入の中でも、(まだ)素直な気がします」
人がいいというか、感情を隠さないタイプで、それが周囲を安心させて人が集まる。
「雅冬は女性の扱いがうまい。直真には負けるが」
――八木沢さんの存在って。
思わず、苦笑してしまった。
「瑞生さんが焼きもちをやくなんて思いませんでした」
「気をつけろよ、美桜。俺は嫉妬深いからな」
「そう……みたいですね?」
気がつくと、瑞生さんは壁に手をつき、私が逃げられないように囲んでいた。
見下ろす瑞生さんに、慌てて言った。
「あ、あの、まだ言ってないことがあります」
「へえ、なんだ? 話を聞こうか?」
わざとだと思うけど、私に顔を近づけた。
「綾香さんから、撫子の宮会に招待されました」
「撫子の宮会に?」
「はい」
こくこくと首を縦に振った。
雅冬さんのように、瑞生さんも止めるかもと思っていたら、そんなことはなかった。
「出るのか?」
瑞生さんは話しながら、私の髪を指で弄ぶ。
「一度断ると二度と誘われないそうなので、出席したいと思ってます」
「なるほど」
瑞生さんは反対せず、撫子の宮会に出るなとも言わない。
「わかった」
すんなり私の出席を認め、笑みを浮かべた。
その笑みが気になる……
――なにを企んでいるの?
「じゃあ、美桜。浮気をしていない証拠に、俺にキスを」
「だっ、だめですよ! 次のスケジュールがありますからっ!」
「このまま、気持ちが落ち込んだままだと、次のスケジュールに差し支える」
「落ち込んでませんよね……っ!」
瑞生さんは私がキスしやすいように顔を近づけ、ギリギリのところで止めた。
「美桜?」
「仕事を盾におねだりするとは、とんでもない社長ですね」
「秘書が予想外の行動をしたせいだ」
そう言って笑う瑞生さんは、雅冬さん以上に素直だと思った……
雅冬さんは瑞生さんを完璧な人間のように思っているようだけど、私は違う。
「午後から取引先との会食がありますが、お昼はサンドイッチを用意しました」
「だが……」
会議が始まる前に、午後からのスケジュールを告げた。
「前もって、会食の時間を十五分早めにスケジュールに組み込んであります」
瑞生さんは驚いた顔で私を見た。
「瑞生さんは会食でも話に集中して、あまり食べないでしょう? 少し食べておいた方がいいですよ」
「……なるほど。美桜のほうが一枚上手だったな」
時間ギリギリまで、仕事をしている瑞生さん。
毎日、瑞生さんのスケジュールは詰まっている。
完璧にすべての仕事をこなす姿を見て、私は考えた。
開始前や終了後の時間に少しだけゆとりを持たせることで、隙間時間が生まれる。
その時間を使い、自然に休憩を取れるように仕向ける――という作戦だった。
会議は重役から部長クラスまでが呼ばれ、海外事業部からは雅冬さんが参加していた。
私と目が合い、雅冬さんはにこりと微笑んだ。
その微笑みが意味ありげに見え、瑞生さんの顔が険しくなった。
――やきもち? まさか瑞生さんが……ね?
気のせいだと思い、仕事中でもあるし、余計なことを言わず黙っていた。
でも、心なしか、無表情なのに、八木沢さんクラスの黒いオーラが出ているような気がしなくもない……魔王ですか?
重役たちと部長が、軽く挨拶を交わし、会話をしているのが聴こえてきた。
「常務、雅冬さんは帰国されたばかりだというのに、仕事熱心ですなぁ」
「ははは。息子は部長止まりで終わらないよう必死ですよ」
「いやぁ、ご立派です。うちの息子など、雅冬さんのようにはなかなか!」
「海外支店でもずいぶん活躍されているとか。ああ、雅冬さん、噂は聞いてますよ」
「どうもありがとうございます」
常務と雅冬さんの周りには人が多く、とても華やかで明るい。
瑞生さんはその光景を眺めることもなく、無関心だった。
でも、他の人は違う。
瑞生さんを畏怖し、こちらを見ている。
なにも話さなくても、中心にいるのは王様――瑞生さんだった。
会議が始まり、海外事業部の事業計画書に、瑞生さんが作成した資料を配布する。
『なるほど』『さすが』という声があがる一方で、雅冬さんは険しい顔をしていた。
「提出された計画書の足りない部分を補った。それを何度も読んでおくように」
瑞生さんは表情を変えず、低い声で言い、雅冬さんへ視線をやる。
たったそれだけだったのに、会議室の中にびゅうっと冷たい風が吹き、吹雪が見えた気がした。
たぶん、この計画書を作成したのは、帰国したばかりの雅冬さんではなく、部下だと思う。
「海外事業部の部長は、この事業計画書に一度でも目を通したか?」
「帰国したばかりだったので」
「会議の前に確認するべきだ」
二人の間に不穏な空気が漂いだした。
「さすが社長は優秀ですね。一人でなんでもこなしてしまう」
わかりやすい嫌味に、周囲が凍り付き、『ひっ!』と声を上げた。
常務すら、「こ、こら、雅冬!」と小声で言って、やめろと手で制する。
社交的で明るい雅冬さんの周りには人がいる。
瑞生さんは王様で、人との間に壁がある。
それをわかっていて、雅冬さんは言ったのだ。
でも、瑞生さんは動じなかった。
「そうだな」
雅冬さんを相手にせず、『次の議題をどうぞ』と言わんばかりに他の部署の部長に手を差し向けた。
「は、は、はい……! しゃ、社長!」
この空気の中で、話さなくてはならなくなった営業部部長の手は震えていた。
王様を超えた魔王様ぶりに、さすがの私も苦笑した。
みかねた副社長が、「まあまあ」と手で宥める。
仲裁する副社長がいるお陰で、社内が派閥に分かれて争わずに済んでいる状況だ。
――せめて、瑞生さんに笑顔が……いえ、笑顔まではいかなくても、和やかな雰囲気を演出できれば、少しは違うかも。
予定時間きっかりに会議が終わり、全員が安堵のため息をついた。
まるで、雪山で遭難しかけたみたいに疲れ切っていた。
「美桜、行くぞ」
「は、はい」
瑞生さんは機械のように正確に動く。
私が瑞生さんの後を追って、会議室から出ようとしたところで、雅冬さんと目が合った。
雅冬さんは笑みを作り、軽く手をあげ、挨拶をする。
瑞生さんと気まずくても、その周辺の人とまで気まずくならないような配慮。
それが、雅冬さんはうまいと思う。
私が雅冬さんに会釈を返すと、こちらへ近づいてきた。
――近づかなくていいですからーっ!
ブリザード再びか。
そう思い、震え上がった。
「美桜さん、さっきは仕事中に話しかけてしまったけど、社長に叱られなかった?」
――美桜さん!?
名前呼びも気になったけど、その物腰の柔らかさはまるで女性を口説き落とすようスタイル。
甘い顔をし、キラキラオーラを放つ雅冬さんは、八木沢さんと真逆な空気を持つ。
彼からは育ちの良さがにじみ出て、お坊っちゃん的な華やかさがあった。
「え、えーと……。先ほどはコーヒーをありがとうございました」
社長秘書として、作り笑いを浮かべ、丁寧にお礼を言って立ち去るつもりだった。
それが――
「美桜、雅冬と話を?」
いつもなら颯爽と去るはずの瑞生さんが、会議室へ戻り、私たちの会話に割って入った。
まだ、副社長や常務が会議室にいたせいで、大きなざわめきが起きた。
しかも、仕事では、絶対に表情を崩さない瑞生さんが、ムッとした顔をしていた。
雅冬さんが可笑しそうに笑いをこらえ、さらに瑞生さんを煽る。
「さっき話をして、どんな人間なのか、もっと知りたくなった。また話したい。時間を作ってもらえるかな?」
「無理です! スケジュール管理もありますし、それに……」
「仕事中が無理なら、食事でも行く? 二人で?」
「雅冬。美桜が俺の恋人と知って誘うとはいい度胸だな」
「宮ノ入グループの社長が、自由に結婚相手を選べるとでも思っているのか?」
社長じゃない自分なら、まだ選べるとでも言うように、私を見る。
その挑発に瑞生さんが乗る形で、全員の前ではっきり告げた。
「社長だからこそ選べる。俺の地位は揺らがない」
絶対的な自信と宮ノ入の頂点に立つ強さ。
瑞生さんでなければ、言えないことだ。
雅冬さんはその発言に驚いていたけど、納得する部分もあるようで、目を逸らした。
瑞生さんは雅冬さんに近づき、耳元でささやいた。
それはまるで、悪魔のささやき。
「綾香と付き合い、副社長の協力を得ようとしているようだが、やめておけ。綾香に利用されるだけだぞ」
雅冬さんは焦ったように、バッと瑞生さんから離れた。
「すべてお見通しかよ」
「誰と手を組もうが、無駄だと教えてやったまで」
瑞生さんは私を先に会議室から出した。
「み、瑞……いえ、社長!?」
私が振り返ると、瑞生さんは雅冬にトドメの捨て台詞を吐いているところだった。
「できるものなら、俺から社長の椅子を奪ってみろ。お前に宮ノ入の社長は務まらないだろうがな」
八木沢さんを凌ぐ魔王感を漂わせ、挑発すると、自分も会議室から出て、ドアを閉めた。
ちらりと見えた雅冬さんは、俯き悔しそうな顔をしていた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「瑞生さん、大人げないですよ」
「そうかもな」
社長室に戻り、その周囲に誰もいないことを確認してから、私は瑞生さんに注意した。
「眉間にシワが寄ってます」
「気のせいだ」
「機嫌が悪い顔をしています」
「……これでも隠している」
瑞生さんは仕事で疲れていても、私の前では明るくて優しいというのに、今回は違った。
――不機嫌の原因は会議のこともあるだろうけど、八割は最後の雅冬のせい……
「雅冬さんと会話したのは五分程度で、綾香さんがやってきたので、正しくは途中で三人でした」
「あいつ……!」
わざと雅冬さんが嫉妬させるように話したのだと、瑞生さんはようやく気づいたようだ。
雅冬さんは瑞生さんを『人形だ』と言っていたけど、悔しがる姿に、思わず笑ってしまった。
「美桜、笑うな」
「ごめんなさい。さっきの会議の時と違いすぎて、つい」
「宮ノ入の中で、弱みは見せられない。そういうふうに、育てられたというのもあるが、感情を出すのは苦手だ。雅冬と違ってな」
「そうですね。雅冬さんは宮ノ入の中でも、(まだ)素直な気がします」
人がいいというか、感情を隠さないタイプで、それが周囲を安心させて人が集まる。
「雅冬は女性の扱いがうまい。直真には負けるが」
――八木沢さんの存在って。
思わず、苦笑してしまった。
「瑞生さんが焼きもちをやくなんて思いませんでした」
「気をつけろよ、美桜。俺は嫉妬深いからな」
「そう……みたいですね?」
気がつくと、瑞生さんは壁に手をつき、私が逃げられないように囲んでいた。
見下ろす瑞生さんに、慌てて言った。
「あ、あの、まだ言ってないことがあります」
「へえ、なんだ? 話を聞こうか?」
わざとだと思うけど、私に顔を近づけた。
「綾香さんから、撫子の宮会に招待されました」
「撫子の宮会に?」
「はい」
こくこくと首を縦に振った。
雅冬さんのように、瑞生さんも止めるかもと思っていたら、そんなことはなかった。
「出るのか?」
瑞生さんは話しながら、私の髪を指で弄ぶ。
「一度断ると二度と誘われないそうなので、出席したいと思ってます」
「なるほど」
瑞生さんは反対せず、撫子の宮会に出るなとも言わない。
「わかった」
すんなり私の出席を認め、笑みを浮かべた。
その笑みが気になる……
――なにを企んでいるの?
「じゃあ、美桜。浮気をしていない証拠に、俺にキスを」
「だっ、だめですよ! 次のスケジュールがありますからっ!」
「このまま、気持ちが落ち込んだままだと、次のスケジュールに差し支える」
「落ち込んでませんよね……っ!」
瑞生さんは私がキスしやすいように顔を近づけ、ギリギリのところで止めた。
「美桜?」
「仕事を盾におねだりするとは、とんでもない社長ですね」
「秘書が予想外の行動をしたせいだ」
そう言って笑う瑞生さんは、雅冬さん以上に素直だと思った……
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