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第一章
17 妹の本心②
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金曜日の夜、会社近くのレストランで会うことになった。
個室より、フロアの方がいいだろうと、雅冬さんの知り合いの店に頼んで、端の方に席を作ってもらえた。
そばには大きな観葉植物を置き、その陰に雅冬さんが隠れていた。
約束の時間を少し過ぎて、凛々子は現れた。
「凛々子、久しぶりね。少し痩せたんじゃない?大丈夫?」
凛々子は痩せ、暗い顔をしていたので、思わず優しい言葉をかけてしまった。
「菜々子は太ったわね。あんまり太ったら、双子だって言われなくなるわよ」
ぐっ…。
最初からキツイ攻撃だった。
本当に好かれてる!?
やっぱり雅冬さんの勘違いじゃないかな……。
「お父さんやお母さんは元気?」
「元気だけど。帰ってきてよ、菜々子」
「それは…無理かな…。追い出された時、凛々子もいたじゃない。私が雅冬さんを諦めて、その代わりに凛々子と結婚させるとか……あんなひどいことを言われて、帰れるわけないでしょ?」
「二人とも感情的になっていただけだから。だいたいあんなの冗談なんだから」
雅冬さんと凛々子を結婚させようとしていたことはなかったことになっていた。
それが、一番辛かったのに。
「毎日、お惣菜だし、私にも生活費入れろっていうのよ」
それは―――当然では?
「二人ともまだ仕事をしているでしょ?たまに凛々子も夕飯を作るとか、掃除をするとか、協力してあげないと」
「私がどうしてそんなことしないといけないの?」
いやいや、今まで私がしてきたんですけど。
「菜々子が先に家を出るなんて、ずるいわよ。残された私のこと、可哀想だとは思わないの?」
「それは…」
「第一、菜々子は姉でしょ?もっと姉らしく、しっかりしてよ」
ガタンッと席を立つ音がした。
凛々子が驚き、目を見開いた。
隣に雅冬さんが座った。
「菜々子はしっかりしているぞ」
「雅冬さん!」
「言わせておくな。聞いてるこっちが辛いだろ」
ぐしゃ、と頭を掴まれた。
その手が温かく、思わず、気が緩んで涙がこぼれそうになった。
自分一人なら、こんな気持ちにはならなかっただろう。
「何しに来たの?」
「お前が素直に菜々子に言わないからだろ。菜々子がいないと寂しいってな」
「そっ…そんなの!」
「ふーん、寂しくないなら、いいんだぞ。それなら、菜々子と二度と会うなよ」
「本当に嫌な男ね!こんな奴と結婚していいの!?」
凛々子はぎろりと雅冬さんを睨んだ。
「雅冬さんは優しい人だよ」
「まあな」
褒められて得意顔でふんぞり返った。
「私、雅冬さんと結婚するの」
「信じられない!私、絶対に反対だから!」
「どうして?」
「こんなっ……」
凛々子は泣き出した。
「菜々子は私の側にいないとだめなんだから!絶対に邪魔してやるっ!」
えっ、ええええ?
ちらりと雅冬さんを見た。
やれやれとため息を吐いた。
「お前、今まで菜々子を奪われないように周りの男を排除してきただろ」
「うるさいわね!あんな簡単に騙されるような男が菜々子に相応しわけないでしょ!」
「俺は騙されなかったけどな」
「凛々子、私のことを嫌いだと思っていたんだけど」
「違うわよ」
鼻をすすりながら、凛々子は言った。
「私、友達なんかいないし、菜々子しか本当の自分を見せれないし、親も嫌いだし、大学だって私に譲ってくれたでしょ」
「友達いるじゃない。一緒に飲み会に行ってる子とか…」
「あんなの、友達じゃないわよ。誰も本心なんか話さないわ!」
本心ね……。
隣の雅冬さんは軽く引いていた。
ですよね……私もだよ。
「凛々子が私を嫌いじゃないのはわかったけど、私に嫌なこと言ったり、嫌がらせしなきゃいいと思うんだけど……」
ぷいっと凛々子は顔を背けた。
「おおかた、あれだろ。小学生男子が好きな女の子に嫌がらせするっていうやつだろ。菜々子の気を引きたくてやってたんだろうが、まあ、実際、逆効果だよな」
雅冬さんは呆れていた。
「凛々子。それ100%嫌われるパターンだからね?」
「なによ!私の事、嫌いなの!?」
嫌いだよ!!と、言いたかったけど、言えなかった。
泣いてる凛々子をこれ以上、追い詰めたら可哀想になったので。
「嫌がらせしないなら、まあ……」
「俺は二度と近寄らせたくないけどな」
弱っている凛々子にそこまで言えなかった。
「最低な男ね!」
「なんとでも言え。これを見ろ!」
ほら、と婚姻届けを自慢げに見せた。
「後は出すだけだからな」
なんて大人げない。
証人欄に八木沢直真、八木沢有里と書いてあった。
八木沢さんに頼んだんだ……。
今度、お礼を言っておこう。
「来週には出す。これで正式な夫婦だ」
凛々子の顔が赤くなった。
「もういいだろう。帰るぞ」
「ちょっとっっ!それを見せたかっただけじゃないの!?」
「そうだ」
即答だった。
なにこのやりとり。
「凛々子、雅冬さんはただ好きっていうだけじゃなくて、もう家族なの」
「私のことはどうでもいいの!?」
「どうでもいいわけじゃないけど。凛々子は私の妹だよ。これからも。だから、何かあったら相談してもいいし、会いにきてもいいから」
「………着信拒否はやめてよ」
けっこう、連絡をとれなかったことは、こたえていたようだった。
「わかったわ」
凛々子は泣きながら、小さい声で言った。
「言いたくないけど……結婚、おめでとう……」
「ありがとう」
今までのことを許せたわけではなかったけれど、祝福の言葉は素直に受けとめることができたのだった―――雅冬さんのおかげで。
個室より、フロアの方がいいだろうと、雅冬さんの知り合いの店に頼んで、端の方に席を作ってもらえた。
そばには大きな観葉植物を置き、その陰に雅冬さんが隠れていた。
約束の時間を少し過ぎて、凛々子は現れた。
「凛々子、久しぶりね。少し痩せたんじゃない?大丈夫?」
凛々子は痩せ、暗い顔をしていたので、思わず優しい言葉をかけてしまった。
「菜々子は太ったわね。あんまり太ったら、双子だって言われなくなるわよ」
ぐっ…。
最初からキツイ攻撃だった。
本当に好かれてる!?
やっぱり雅冬さんの勘違いじゃないかな……。
「お父さんやお母さんは元気?」
「元気だけど。帰ってきてよ、菜々子」
「それは…無理かな…。追い出された時、凛々子もいたじゃない。私が雅冬さんを諦めて、その代わりに凛々子と結婚させるとか……あんなひどいことを言われて、帰れるわけないでしょ?」
「二人とも感情的になっていただけだから。だいたいあんなの冗談なんだから」
雅冬さんと凛々子を結婚させようとしていたことはなかったことになっていた。
それが、一番辛かったのに。
「毎日、お惣菜だし、私にも生活費入れろっていうのよ」
それは―――当然では?
「二人ともまだ仕事をしているでしょ?たまに凛々子も夕飯を作るとか、掃除をするとか、協力してあげないと」
「私がどうしてそんなことしないといけないの?」
いやいや、今まで私がしてきたんですけど。
「菜々子が先に家を出るなんて、ずるいわよ。残された私のこと、可哀想だとは思わないの?」
「それは…」
「第一、菜々子は姉でしょ?もっと姉らしく、しっかりしてよ」
ガタンッと席を立つ音がした。
凛々子が驚き、目を見開いた。
隣に雅冬さんが座った。
「菜々子はしっかりしているぞ」
「雅冬さん!」
「言わせておくな。聞いてるこっちが辛いだろ」
ぐしゃ、と頭を掴まれた。
その手が温かく、思わず、気が緩んで涙がこぼれそうになった。
自分一人なら、こんな気持ちにはならなかっただろう。
「何しに来たの?」
「お前が素直に菜々子に言わないからだろ。菜々子がいないと寂しいってな」
「そっ…そんなの!」
「ふーん、寂しくないなら、いいんだぞ。それなら、菜々子と二度と会うなよ」
「本当に嫌な男ね!こんな奴と結婚していいの!?」
凛々子はぎろりと雅冬さんを睨んだ。
「雅冬さんは優しい人だよ」
「まあな」
褒められて得意顔でふんぞり返った。
「私、雅冬さんと結婚するの」
「信じられない!私、絶対に反対だから!」
「どうして?」
「こんなっ……」
凛々子は泣き出した。
「菜々子は私の側にいないとだめなんだから!絶対に邪魔してやるっ!」
えっ、ええええ?
ちらりと雅冬さんを見た。
やれやれとため息を吐いた。
「お前、今まで菜々子を奪われないように周りの男を排除してきただろ」
「うるさいわね!あんな簡単に騙されるような男が菜々子に相応しわけないでしょ!」
「俺は騙されなかったけどな」
「凛々子、私のことを嫌いだと思っていたんだけど」
「違うわよ」
鼻をすすりながら、凛々子は言った。
「私、友達なんかいないし、菜々子しか本当の自分を見せれないし、親も嫌いだし、大学だって私に譲ってくれたでしょ」
「友達いるじゃない。一緒に飲み会に行ってる子とか…」
「あんなの、友達じゃないわよ。誰も本心なんか話さないわ!」
本心ね……。
隣の雅冬さんは軽く引いていた。
ですよね……私もだよ。
「凛々子が私を嫌いじゃないのはわかったけど、私に嫌なこと言ったり、嫌がらせしなきゃいいと思うんだけど……」
ぷいっと凛々子は顔を背けた。
「おおかた、あれだろ。小学生男子が好きな女の子に嫌がらせするっていうやつだろ。菜々子の気を引きたくてやってたんだろうが、まあ、実際、逆効果だよな」
雅冬さんは呆れていた。
「凛々子。それ100%嫌われるパターンだからね?」
「なによ!私の事、嫌いなの!?」
嫌いだよ!!と、言いたかったけど、言えなかった。
泣いてる凛々子をこれ以上、追い詰めたら可哀想になったので。
「嫌がらせしないなら、まあ……」
「俺は二度と近寄らせたくないけどな」
弱っている凛々子にそこまで言えなかった。
「最低な男ね!」
「なんとでも言え。これを見ろ!」
ほら、と婚姻届けを自慢げに見せた。
「後は出すだけだからな」
なんて大人げない。
証人欄に八木沢直真、八木沢有里と書いてあった。
八木沢さんに頼んだんだ……。
今度、お礼を言っておこう。
「来週には出す。これで正式な夫婦だ」
凛々子の顔が赤くなった。
「もういいだろう。帰るぞ」
「ちょっとっっ!それを見せたかっただけじゃないの!?」
「そうだ」
即答だった。
なにこのやりとり。
「凛々子、雅冬さんはただ好きっていうだけじゃなくて、もう家族なの」
「私のことはどうでもいいの!?」
「どうでもいいわけじゃないけど。凛々子は私の妹だよ。これからも。だから、何かあったら相談してもいいし、会いにきてもいいから」
「………着信拒否はやめてよ」
けっこう、連絡をとれなかったことは、こたえていたようだった。
「わかったわ」
凛々子は泣きながら、小さい声で言った。
「言いたくないけど……結婚、おめでとう……」
「ありがとう」
今までのことを許せたわけではなかったけれど、祝福の言葉は素直に受けとめることができたのだった―――雅冬さんのおかげで。
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