28 / 41
第二章
8 変わらないもの 変わるもの
『宮ノ入にクーデター!』
『裏切者の末路』
『大企業宮ノ入のお家騒動』
などなど、週刊誌がこぞって報道した。
八木沢さんを誘惑している写真を使われてしまった綾香さんは会社に来れず、雅冬さんの両親は海外から急きょ、会長に呼び寄せられたらしい。
会長に弁明をしたけど、当然の如く聞きいれてはもらえなかった。
会長は裏切りを許さず、宮ノ入の名がつくすべての資産を奪い、マンションも当然、出入り禁止処分の上、使用不可とされた。
そして、雅冬さんのお父さんも綾香さんも解雇処分の上、子会社にすら、雇用を禁じるという、かなり厳しい処分に会長の怒りを感じた。
宮ノ入グループの受付ロビーにある新聞を閉じて、ソファーから立ち上がった。
雅冬さんと夕食を食べる約束で大学の授業が終わったら、副社長室にくるように言われていた。
あまり早くに行くと、仕事の邪魔になるかと思い、ロビーで時間を潰していたのだけど―――エレベーターから綾香さんが降りてきた。
「雅冬に会ってきたの」
「そうですか」
以前なら、動揺していたかもしれないけど、今は雅冬さんがどんな気持ちでいるのか、わかったから、何を言われても平気だった。
「私はね、宮ノ入の社長の椅子も欲しかったけど、雅冬を手にいれたかったのよ」
私は気づいていた。
綾香さんは雅冬さんのことをまだ好きだったことは。
多分、勘の良い雅冬さんも気づいていたはず。
「雅冬は一度も私に本当の自分を見せなかったわね」
綾香さんは少し寂しそうに言った。
そして、こっちをまじまじと見つめた。
「雅冬はあなたのどこがよかったのかしら」
「少なくともオバサンよりはよかったんでしょ!」
私にそっくりな声がした。
いや、私は言ってない。
言ってないよ!?
「凛々子!?どうして、ここに!?」
「春から沖重の営業になったのよ。仕事で宮ノ入にきてただけ。ちょうどエレベーター降りたら、化粧の濃い、オバサンと話してるから、聞いてたのよ」
「双子なの?あなた」
「見ればわかるでしょ?老眼なの?」
「凛々子っ!」
口を塞ぎたいくらいの心境だった。
「外見しか似てないわね」
「残念ながら、外見も似てないみたいですよー。私、雅冬さんを誘ったのに無理でしたもん」
綾香さんと凛々子は笑顔でにらみあっていた。
なに、この毒々しい戦いは。
「もぉー、だから、菜々子。言ったでしょ?」
「なに?」
「あんな男、やめておけってね!こんなオバサンと付き合ってたなんてー。最悪!」
凛々子は得意気な顔をして言った。
「雅冬をあんな男呼ばわりするの!?」
「ちょっと元カレと菜々子を会わせただけでキレるし、婚姻届けを見せびらかすし、こっちが泣き落としても、全然優しくしてくれないし」
綾香さんはぽかんと口をあけていた。
「雅冬が、そんな子供みたいなこと」
ガシッと凛々子が腕を掴んだ。
「菜々子、買い物に付き合ってよ!今日は半日休みなの」
「あ、綾香さん!それじゃ、失礼します」
凛々子はこっちの返事も待たずに手を掴むと引きずるようにして、その場から連れ去ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「夕食、食べに行こうって行ったのに凛々子に付き合わされてしまって。ごめんなさい」
まったく、強引なんだから。
結局、服や靴、化粧品売り場にまでつれ回され、お茶まで付き合った。
おかげで、雅冬さんを待つどころか、遅くなってしまった。
「楽しかったなら、別にいい。それにこういうのもたまにはいいだろ」
ベイエリアのベンチに座り、ファミレスでテイクアウトしたピザと飲み物を置いた。
潮風が心地よい。
出会った時と同じように橋や船がライトアップされ、遠くのビルからは灯りがキラキラと水面に映り、揺らめいていた。
「ほんのすこしだけ前なのに懐かしいよな」
「本当ですね。あの日会わなかったら、今もきっと私はここで、一人ぼっちで夕飯食べていましたよ」
「俺は一人で海を眺めていただろうな」
お互いの顔を見つめて笑った。
それでも、きっと。
すれ違いながら、何度目かで私達は出会っていた。
そんな気がした。
「ピザ食べますか?」
「ああ」
ファミレスも今ではバイトの子も大分変ったし、掃除のスタッフも新しい人が入った。
でも―――変わらないものもある。
「雅冬さん、ずっとそばにいてくださいね」
「それは俺の台詞だ」
ベンチの上に置かれた手を重ね合わせ、二人で海を眺めて微笑んだ。
二人の重なった手には銀色の指輪が輝いていた。
『裏切者の末路』
『大企業宮ノ入のお家騒動』
などなど、週刊誌がこぞって報道した。
八木沢さんを誘惑している写真を使われてしまった綾香さんは会社に来れず、雅冬さんの両親は海外から急きょ、会長に呼び寄せられたらしい。
会長に弁明をしたけど、当然の如く聞きいれてはもらえなかった。
会長は裏切りを許さず、宮ノ入の名がつくすべての資産を奪い、マンションも当然、出入り禁止処分の上、使用不可とされた。
そして、雅冬さんのお父さんも綾香さんも解雇処分の上、子会社にすら、雇用を禁じるという、かなり厳しい処分に会長の怒りを感じた。
宮ノ入グループの受付ロビーにある新聞を閉じて、ソファーから立ち上がった。
雅冬さんと夕食を食べる約束で大学の授業が終わったら、副社長室にくるように言われていた。
あまり早くに行くと、仕事の邪魔になるかと思い、ロビーで時間を潰していたのだけど―――エレベーターから綾香さんが降りてきた。
「雅冬に会ってきたの」
「そうですか」
以前なら、動揺していたかもしれないけど、今は雅冬さんがどんな気持ちでいるのか、わかったから、何を言われても平気だった。
「私はね、宮ノ入の社長の椅子も欲しかったけど、雅冬を手にいれたかったのよ」
私は気づいていた。
綾香さんは雅冬さんのことをまだ好きだったことは。
多分、勘の良い雅冬さんも気づいていたはず。
「雅冬は一度も私に本当の自分を見せなかったわね」
綾香さんは少し寂しそうに言った。
そして、こっちをまじまじと見つめた。
「雅冬はあなたのどこがよかったのかしら」
「少なくともオバサンよりはよかったんでしょ!」
私にそっくりな声がした。
いや、私は言ってない。
言ってないよ!?
「凛々子!?どうして、ここに!?」
「春から沖重の営業になったのよ。仕事で宮ノ入にきてただけ。ちょうどエレベーター降りたら、化粧の濃い、オバサンと話してるから、聞いてたのよ」
「双子なの?あなた」
「見ればわかるでしょ?老眼なの?」
「凛々子っ!」
口を塞ぎたいくらいの心境だった。
「外見しか似てないわね」
「残念ながら、外見も似てないみたいですよー。私、雅冬さんを誘ったのに無理でしたもん」
綾香さんと凛々子は笑顔でにらみあっていた。
なに、この毒々しい戦いは。
「もぉー、だから、菜々子。言ったでしょ?」
「なに?」
「あんな男、やめておけってね!こんなオバサンと付き合ってたなんてー。最悪!」
凛々子は得意気な顔をして言った。
「雅冬をあんな男呼ばわりするの!?」
「ちょっと元カレと菜々子を会わせただけでキレるし、婚姻届けを見せびらかすし、こっちが泣き落としても、全然優しくしてくれないし」
綾香さんはぽかんと口をあけていた。
「雅冬が、そんな子供みたいなこと」
ガシッと凛々子が腕を掴んだ。
「菜々子、買い物に付き合ってよ!今日は半日休みなの」
「あ、綾香さん!それじゃ、失礼します」
凛々子はこっちの返事も待たずに手を掴むと引きずるようにして、その場から連れ去ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「夕食、食べに行こうって行ったのに凛々子に付き合わされてしまって。ごめんなさい」
まったく、強引なんだから。
結局、服や靴、化粧品売り場にまでつれ回され、お茶まで付き合った。
おかげで、雅冬さんを待つどころか、遅くなってしまった。
「楽しかったなら、別にいい。それにこういうのもたまにはいいだろ」
ベイエリアのベンチに座り、ファミレスでテイクアウトしたピザと飲み物を置いた。
潮風が心地よい。
出会った時と同じように橋や船がライトアップされ、遠くのビルからは灯りがキラキラと水面に映り、揺らめいていた。
「ほんのすこしだけ前なのに懐かしいよな」
「本当ですね。あの日会わなかったら、今もきっと私はここで、一人ぼっちで夕飯食べていましたよ」
「俺は一人で海を眺めていただろうな」
お互いの顔を見つめて笑った。
それでも、きっと。
すれ違いながら、何度目かで私達は出会っていた。
そんな気がした。
「ピザ食べますか?」
「ああ」
ファミレスも今ではバイトの子も大分変ったし、掃除のスタッフも新しい人が入った。
でも―――変わらないものもある。
「雅冬さん、ずっとそばにいてくださいね」
「それは俺の台詞だ」
ベンチの上に置かれた手を重ね合わせ、二人で海を眺めて微笑んだ。
二人の重なった手には銀色の指輪が輝いていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
「職場では隙のない完璧な先輩が、家ではゆるニットで甘えてくる。それでも彼女は、まだ俺の恋人じゃない」
まさき
恋愛
会社では完璧で、誰も近づけない先輩。
そんな彼女と、俺は同じ部屋で暮らしている。
「…おかえり」
ゆるニット姿の彼女は、家でだけ甘い声を出す。
近い。甘い。それでも――
「ちゃんと付き合ってから」
彼女は知っている。自分が好きになりすぎることを。
嫌われるのが怖くて、迷惑になるのが怖くて。
だから一歩手前で、いつも笑って止まる。
最初から好きなくせに、言えない彼女と。
気づいているのに、待っている俺の話。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!