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第2章
12 正式な申し込み
有近家から正式にお見合いの話が来たのは、玲我さんと再会した日のことだった。
閉店作業中、憔悴し切った叔父さんが本店に戻ってきて、私は察した。
――お見合いの話は本当だったのね。
正直、玲我さんがからかっているのかもと疑っていた。
でも、そうではないとわかった。
「大変なことになった……」
叔父さんの声を聞いて、五十住さんが何事かとバックヤードの扉を開け、フロアに顔を出す。
「小椋さん。なにか問題でも起きました?」
「い、いや。その……。夕愛ちゃんに有近家から見合いの申し込みがきてね……」
「なっ!? 夕愛にお見合い!?」
私より早く反応したのは、光華だった。
ちょうど光華は別店舗での仕事が終わり、本店のほうへ顔を出していた。
「有近家に玲我さん以外の息子はいないはずよね?」
「相手は一人息子の玲我さんだ」
「う、嘘っ~! ほ、ほんとに!? 夕愛、すごいじゃない!」
光華は興奮気味に私の肩をつかんで体を揺さぶり、脳みそがシャッフルされた。
「ちょ、ちょっと光華……」
後からやってきたおばさんが、心配そうな顔で叔父さんに言った。
「うちは大きな会社でもないのに、どうして有近家から縁談が? 都久山の奥様たちになんて説明すればいいのかしら……」
おばさんは動揺していた。
それもそのはず。
海外から帰ってきたら結婚するだろうと、以前から噂があった。
玲我さんと海寿さんの二人は、特に注目されていて、都久山のお嬢様たちは誰が選ばれるのか気が気ではなかった。
光華が言っていたとおり、本当に『王子様』のような存在なのだ。
「とにかく、こちらからは断れない……。とりあえず、お見合い当日、向こうの話を聞いてみよう」
叔父夫婦に私と玲我さんが付き合っていましたと、打ち明けるべきかどうか悩んだ。
一度なかったことにされた関係が、今になって、どうして認められたのかわからない。
叔父から『なぜ今、認められたのか』と理由を聞かれたら、なんて説明すればいいのか……
――認められた理由はなんだったの? 私は大学を卒業したけど、デリカテッセン『オグラ』に働く一社員で、特に変わったところはないわ。
私が考え込んでいると、光華が明るい声で言った。
「ね、パパ。五十住さんはどうなるの? お店は? パパは五十住さんと夕愛を結婚させるつもりでいたけど、無理よね?」
本当にそのつもりでいたのか、叔父さんは額に手をあて、小さな声で『まいったな』と呟いたのを聞き逃さなかった。
叔父さんは五十住さんに申し訳なさそうな顔をし、頭を下げる。
「五十住君。申し訳ない。こんなことになるとは思わなかった……」
「まあ、相手が有近家じゃしかたないですね。敵に回したくない相手です」
五十住さんはあっさり引き下がり、苦笑した。
私と結婚して店を継がせようとしていた叔父さん。
叔父さんの計画は、私に話す前に終わってしまった。
まるで、このタイミングを狙ったかのように……
――まさか、そんなわけないわよね。
「頭を上げてください。小椋さんの立場はわかってます。都久山のお客様がいなかったら、店はやっていけません」
五十住さんは叔父さんを『社長』とは呼ばず、『小椋さん』と呼ぶ。
叔父さんが頼んで来てもらった料理人で、他の人とは扱いが違う。
五十住さんは私から見ても、いつ独立してもおかしくない人だ。
それなのに、ずっと店で働いてくれていたのは、私と結婚して店を継ぐためで――
「パパ! 私がいるわ! 夕愛がいなくなっても、私が五十住さんと結婚して、お店をやるのはどう?」
心苦しいと思った私の思考を吹き飛ばす光華の声。
光華は得意げな顔をして、叔父さんに言った。
「光華。店は遊びでやるものじゃない。昔から通ってくださっているお客様と社員がいる。信頼に応え続けるのは簡単なことではないんだよ」
「それって、私には任せられないってこと……?」
「そうだ」
叔父さんははっきりとした口調で答え、いつになく厳しい姿勢を見せた。
光華が泣くのではないかと心配していると、気の強い光華は泣かずに叔父さんにくってかかった。
「夕愛がよくて、私が駄目な理由を教えてよ!」
「それがわからないようなら、お前には絶対店を任せられん!」
二人の激しい言い争いが始まりそうな空気に、おばさんが困った顔をし、私は止めようとしたけど、いつものケンカと違って原因は私。
なんと言って止めたらいいかわからず、おろおろしてしまった。
そんな私を見て、五十住さんが二人の間に入った。
「小椋さん。光華お嬢さんはまだ子供です。あと数年、見てあげたらいいじゃないですか」
「子供? 私はもう子供じゃないわ! ちゃんとお店に出て働いているし、前より接客だってうまくなったんだから!」
「前よりじゃなく、誰よりもと言えるようになるまでは、光華お嬢さんに店は任せられないでしょうね」
光華は顔を赤くしてうつむいた。
光華だって、自分が未熟だとわかっている。
幼い頃から、店を手伝っていた私と違って、光華は大学を卒業してから本格的に店の仕事を覚え始めたところだ。
なにも言い返せない光華の頭をぽんっと五十住さんは叩いた。
「それと、光華お嬢さんに結婚はまだ早いですよ」
「遠回しに私をフッたわね……!」
「そうなりますね」
五十住さんは笑ってかわし、失恋した光華は泣きそうな顔をした。
私の横を通り過ぎる時、五十住さんは小声で私に言った。
「ずっと待っていた王子様が迎えに来てくれたな」
私が誰かを待っていたとわかっていた五十住さん。
――五十住さんは知らないはず。どうして、私がずっと想っていた相手が玲我さんだとわかったの?
知っている人は何人かいるかもしれない。
でも、その誰もが五十住さんと接点が見つからなかった。
五十住さんは『お先に』と言う代わりに軽く手をあげた。
コックコートを脱ぎ、タイムカードを押すと帰っていった。
叔父さんとおばさんは週末のお見合いについて話し込んでいて、光華は泣くのをこらえている。
――私はどうしたらいいの?
このままだと、わけもわからず玲我さんと結婚することになる。
嬉しいはずなのに、素直に喜べないのは、あれほど反対していた有近家が急に手のひらを返した理由がわからないから。
不安な気持ちのほうが大きい。
「あなた、やっぱり着物かしら?」
「そうだろう。着物だ。一番いい着物で!」
「有近の奥様より目立つような服装は駄目よ。なるべく控えめにしなくちゃ。美容院を予約して、それから……」
「店のシフトを変えないと。夕愛ちゃんはお見合いの後、店に出るのを控えてもらおうと思う」
「えっ……!?」
私が驚くと、叔父さんはため息をついた。
「お見合いすれば、話は都久山に広まって、店まで常連がやってきて話し込む。営業に支障が出るのは間違いないだろう」
「そうですね……」
「夕愛ちゃんはほとんど休みなしで働いてくれていたんだ。ここで一週間ほど休むのも悪くない。旅行でも行っておいで」
「……ありがとうございます」
旅行に行く気分になれるとは思えない。
どちらかといえば、逃亡者みたいな気分になりそう……
――逃亡ってなにから?
私は四年ぶりに見た玲我さんの顔を思い出していた。
気のせいかもしれないけど、四年という月日のせいか、私が知っている玲我さんと少し印象が違う気がした。
「恐ろしいよ」
叔父さんの言葉にドキッとした。
「有近家に普通の家庭の娘が嫁ぐ……昔ならスキャンダルだ」
「まあ! そんな大変なお話なの?」
「ああ」
叔父さんは都久山の坂の下で生まれ育ったから、私のお見合いがいかに異常な事態なのか理解していた。
「我々と感覚がまったく違う。動くお金の金額もな」
「都久山のお客様と接していたら、感覚が違うというのはわかりますけど……」
都久山の奥様たちで行く旅行企画を相談されたことがある。
『夕愛さん。山と海、どちらがいいかしら?』
その山がカナダかスイスでスキーをするか、カリブ海でクルージングかという選択で、私が知っている山と海ではなかった。
「夕愛ちゃんが心配だわ。嫁いで苦労しないかしら?」
「まあ、光華よりはしっかりしてるし、そこは安心できる」
光華はその話を聞いて、ムッとした。
「なによ! 夕愛ばかり気にかけて!」
「光華。そんなことないわ」
私が否定すると、ますます光華の機嫌が悪くなった。
「誰も私のことなんて好きじゃない。パパもママも! 五十住さんだって夕愛が好きで、私のこと見向きもしなかった!」
泣き出した光華を見たら悲しくなった。
私にとって光華は妹同然。
「光華。そんなことないわ。私にとって光華は妹みたいに大事な存在だし、叔父さんたちだって……」
「今は夕愛といたくない。夕愛をうらやましいって妬みたくないもん」
「こら! 光華!」
「光華。夕愛ちゃんの両親の代わりに、私たちがちゃんとお嫁に行く準備してあげたいって思っていたの。もちろん、光華の時もね」
泣いている光華におばさんは慰めるように話しかけた。
でも、それは逆効果だったようだ。
「私がお嫁にいくって決めないでよ。どうして、お店を継がないって決めつけるの?」
おばさんはしまったという顔をしたけど、もう遅い。
光華は怒り、宣言した。
「しばらく家出するからっ!」
「店を継ぎたいのなら、仕事にはちゃんと来るんだぞ。今の自分にできることをきっちりやる。まずはそこからだ」
おじさんは光華を甘やかしているようで甘やかさない。
「も、もぉっ~! わかってるっ!」
やっぱり光華は素直で可愛らしい。
私を妬みたくないって光華は言うけれど、うらやましいって思ってるのはきっと私のほう。
行動力があって、自分の気持ちをしっかり言える光華。
私にないものを持っている。
叔父さんはやれやれという顔をして、光華を見送り、おばさんは『ここのホテルに泊まりなさい』とわざわざ予約してあげていた。
――親が行き先を把握して、ホテルの代金まで支払う家出って……
どんなにケンカをしても叔父さんと光華はしばらくしたら元通り。
私には絶対できない。
光華は私をずるいと言ったけど、本当にずるいのは光華だから。
辛い時も甘えられて、支えてくれる両親がいる。
遠慮せず、ケンカする光華を遠い世界のことのように眺めていた。
結婚した後、私は玲我さんとこんな家庭を作れるのだろうか――
閉店作業中、憔悴し切った叔父さんが本店に戻ってきて、私は察した。
――お見合いの話は本当だったのね。
正直、玲我さんがからかっているのかもと疑っていた。
でも、そうではないとわかった。
「大変なことになった……」
叔父さんの声を聞いて、五十住さんが何事かとバックヤードの扉を開け、フロアに顔を出す。
「小椋さん。なにか問題でも起きました?」
「い、いや。その……。夕愛ちゃんに有近家から見合いの申し込みがきてね……」
「なっ!? 夕愛にお見合い!?」
私より早く反応したのは、光華だった。
ちょうど光華は別店舗での仕事が終わり、本店のほうへ顔を出していた。
「有近家に玲我さん以外の息子はいないはずよね?」
「相手は一人息子の玲我さんだ」
「う、嘘っ~! ほ、ほんとに!? 夕愛、すごいじゃない!」
光華は興奮気味に私の肩をつかんで体を揺さぶり、脳みそがシャッフルされた。
「ちょ、ちょっと光華……」
後からやってきたおばさんが、心配そうな顔で叔父さんに言った。
「うちは大きな会社でもないのに、どうして有近家から縁談が? 都久山の奥様たちになんて説明すればいいのかしら……」
おばさんは動揺していた。
それもそのはず。
海外から帰ってきたら結婚するだろうと、以前から噂があった。
玲我さんと海寿さんの二人は、特に注目されていて、都久山のお嬢様たちは誰が選ばれるのか気が気ではなかった。
光華が言っていたとおり、本当に『王子様』のような存在なのだ。
「とにかく、こちらからは断れない……。とりあえず、お見合い当日、向こうの話を聞いてみよう」
叔父夫婦に私と玲我さんが付き合っていましたと、打ち明けるべきかどうか悩んだ。
一度なかったことにされた関係が、今になって、どうして認められたのかわからない。
叔父から『なぜ今、認められたのか』と理由を聞かれたら、なんて説明すればいいのか……
――認められた理由はなんだったの? 私は大学を卒業したけど、デリカテッセン『オグラ』に働く一社員で、特に変わったところはないわ。
私が考え込んでいると、光華が明るい声で言った。
「ね、パパ。五十住さんはどうなるの? お店は? パパは五十住さんと夕愛を結婚させるつもりでいたけど、無理よね?」
本当にそのつもりでいたのか、叔父さんは額に手をあて、小さな声で『まいったな』と呟いたのを聞き逃さなかった。
叔父さんは五十住さんに申し訳なさそうな顔をし、頭を下げる。
「五十住君。申し訳ない。こんなことになるとは思わなかった……」
「まあ、相手が有近家じゃしかたないですね。敵に回したくない相手です」
五十住さんはあっさり引き下がり、苦笑した。
私と結婚して店を継がせようとしていた叔父さん。
叔父さんの計画は、私に話す前に終わってしまった。
まるで、このタイミングを狙ったかのように……
――まさか、そんなわけないわよね。
「頭を上げてください。小椋さんの立場はわかってます。都久山のお客様がいなかったら、店はやっていけません」
五十住さんは叔父さんを『社長』とは呼ばず、『小椋さん』と呼ぶ。
叔父さんが頼んで来てもらった料理人で、他の人とは扱いが違う。
五十住さんは私から見ても、いつ独立してもおかしくない人だ。
それなのに、ずっと店で働いてくれていたのは、私と結婚して店を継ぐためで――
「パパ! 私がいるわ! 夕愛がいなくなっても、私が五十住さんと結婚して、お店をやるのはどう?」
心苦しいと思った私の思考を吹き飛ばす光華の声。
光華は得意げな顔をして、叔父さんに言った。
「光華。店は遊びでやるものじゃない。昔から通ってくださっているお客様と社員がいる。信頼に応え続けるのは簡単なことではないんだよ」
「それって、私には任せられないってこと……?」
「そうだ」
叔父さんははっきりとした口調で答え、いつになく厳しい姿勢を見せた。
光華が泣くのではないかと心配していると、気の強い光華は泣かずに叔父さんにくってかかった。
「夕愛がよくて、私が駄目な理由を教えてよ!」
「それがわからないようなら、お前には絶対店を任せられん!」
二人の激しい言い争いが始まりそうな空気に、おばさんが困った顔をし、私は止めようとしたけど、いつものケンカと違って原因は私。
なんと言って止めたらいいかわからず、おろおろしてしまった。
そんな私を見て、五十住さんが二人の間に入った。
「小椋さん。光華お嬢さんはまだ子供です。あと数年、見てあげたらいいじゃないですか」
「子供? 私はもう子供じゃないわ! ちゃんとお店に出て働いているし、前より接客だってうまくなったんだから!」
「前よりじゃなく、誰よりもと言えるようになるまでは、光華お嬢さんに店は任せられないでしょうね」
光華は顔を赤くしてうつむいた。
光華だって、自分が未熟だとわかっている。
幼い頃から、店を手伝っていた私と違って、光華は大学を卒業してから本格的に店の仕事を覚え始めたところだ。
なにも言い返せない光華の頭をぽんっと五十住さんは叩いた。
「それと、光華お嬢さんに結婚はまだ早いですよ」
「遠回しに私をフッたわね……!」
「そうなりますね」
五十住さんは笑ってかわし、失恋した光華は泣きそうな顔をした。
私の横を通り過ぎる時、五十住さんは小声で私に言った。
「ずっと待っていた王子様が迎えに来てくれたな」
私が誰かを待っていたとわかっていた五十住さん。
――五十住さんは知らないはず。どうして、私がずっと想っていた相手が玲我さんだとわかったの?
知っている人は何人かいるかもしれない。
でも、その誰もが五十住さんと接点が見つからなかった。
五十住さんは『お先に』と言う代わりに軽く手をあげた。
コックコートを脱ぎ、タイムカードを押すと帰っていった。
叔父さんとおばさんは週末のお見合いについて話し込んでいて、光華は泣くのをこらえている。
――私はどうしたらいいの?
このままだと、わけもわからず玲我さんと結婚することになる。
嬉しいはずなのに、素直に喜べないのは、あれほど反対していた有近家が急に手のひらを返した理由がわからないから。
不安な気持ちのほうが大きい。
「あなた、やっぱり着物かしら?」
「そうだろう。着物だ。一番いい着物で!」
「有近の奥様より目立つような服装は駄目よ。なるべく控えめにしなくちゃ。美容院を予約して、それから……」
「店のシフトを変えないと。夕愛ちゃんはお見合いの後、店に出るのを控えてもらおうと思う」
「えっ……!?」
私が驚くと、叔父さんはため息をついた。
「お見合いすれば、話は都久山に広まって、店まで常連がやってきて話し込む。営業に支障が出るのは間違いないだろう」
「そうですね……」
「夕愛ちゃんはほとんど休みなしで働いてくれていたんだ。ここで一週間ほど休むのも悪くない。旅行でも行っておいで」
「……ありがとうございます」
旅行に行く気分になれるとは思えない。
どちらかといえば、逃亡者みたいな気分になりそう……
――逃亡ってなにから?
私は四年ぶりに見た玲我さんの顔を思い出していた。
気のせいかもしれないけど、四年という月日のせいか、私が知っている玲我さんと少し印象が違う気がした。
「恐ろしいよ」
叔父さんの言葉にドキッとした。
「有近家に普通の家庭の娘が嫁ぐ……昔ならスキャンダルだ」
「まあ! そんな大変なお話なの?」
「ああ」
叔父さんは都久山の坂の下で生まれ育ったから、私のお見合いがいかに異常な事態なのか理解していた。
「我々と感覚がまったく違う。動くお金の金額もな」
「都久山のお客様と接していたら、感覚が違うというのはわかりますけど……」
都久山の奥様たちで行く旅行企画を相談されたことがある。
『夕愛さん。山と海、どちらがいいかしら?』
その山がカナダかスイスでスキーをするか、カリブ海でクルージングかという選択で、私が知っている山と海ではなかった。
「夕愛ちゃんが心配だわ。嫁いで苦労しないかしら?」
「まあ、光華よりはしっかりしてるし、そこは安心できる」
光華はその話を聞いて、ムッとした。
「なによ! 夕愛ばかり気にかけて!」
「光華。そんなことないわ」
私が否定すると、ますます光華の機嫌が悪くなった。
「誰も私のことなんて好きじゃない。パパもママも! 五十住さんだって夕愛が好きで、私のこと見向きもしなかった!」
泣き出した光華を見たら悲しくなった。
私にとって光華は妹同然。
「光華。そんなことないわ。私にとって光華は妹みたいに大事な存在だし、叔父さんたちだって……」
「今は夕愛といたくない。夕愛をうらやましいって妬みたくないもん」
「こら! 光華!」
「光華。夕愛ちゃんの両親の代わりに、私たちがちゃんとお嫁に行く準備してあげたいって思っていたの。もちろん、光華の時もね」
泣いている光華におばさんは慰めるように話しかけた。
でも、それは逆効果だったようだ。
「私がお嫁にいくって決めないでよ。どうして、お店を継がないって決めつけるの?」
おばさんはしまったという顔をしたけど、もう遅い。
光華は怒り、宣言した。
「しばらく家出するからっ!」
「店を継ぎたいのなら、仕事にはちゃんと来るんだぞ。今の自分にできることをきっちりやる。まずはそこからだ」
おじさんは光華を甘やかしているようで甘やかさない。
「も、もぉっ~! わかってるっ!」
やっぱり光華は素直で可愛らしい。
私を妬みたくないって光華は言うけれど、うらやましいって思ってるのはきっと私のほう。
行動力があって、自分の気持ちをしっかり言える光華。
私にないものを持っている。
叔父さんはやれやれという顔をして、光華を見送り、おばさんは『ここのホテルに泊まりなさい』とわざわざ予約してあげていた。
――親が行き先を把握して、ホテルの代金まで支払う家出って……
どんなにケンカをしても叔父さんと光華はしばらくしたら元通り。
私には絶対できない。
光華は私をずるいと言ったけど、本当にずるいのは光華だから。
辛い時も甘えられて、支えてくれる両親がいる。
遠慮せず、ケンカする光華を遠い世界のことのように眺めていた。
結婚した後、私は玲我さんとこんな家庭を作れるのだろうか――
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