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第3章
31 私の恋は ※笑茉
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夕愛さんと玲我さんは結婚はまだだけど、長年連れ添った夫婦のような空気があった。
今日も出勤前に玲我さんが店に寄って、昼食用のランチボックスを購入し、会話を少しして去っていく。
自然な二人はお似合いで、そんな素敵な恋人関係に憧れてしまう。
――それに比べて。
「笑茉。お前、いつになったら彼氏ができるんだよ」
病院のベッドに寝ている幼馴染みに言われた言葉がこれである。
「あのね、骨折したって言うからバイト帰りにお見舞いに寄ったのに、それはないでしょ!?」
「そうよぉ。笑茉が可愛そうじゃない。彼氏がいないなんて、言いたくないわよね~」
そう言ったのは、もう一人の幼馴染みである。
男一人、女二人の幼馴染みの三人。
初恋は幼馴染みで、ずっと片想いしていた。
でも、私は選ばれず、選ばれたのはもう一人の幼馴染みだった。
可愛い洋館に住む白いワンピースが似合うような女の子。
二人は高校から付き合い始めて、大学になってから、ようやく離れてホッとしていた。
なのに、お隣に住んでいるっていうだけで、両親はお見舞いに行けってあんまりだ。
――私はもうブチッと縁を切っているんだからっ!
「元気そうだから帰るね」
「見送ってやるよ」
「車椅子で移動が大変でしょ? 別に見送らなくても大丈夫よ。危ないから、病室にいて」
はっきり断ったのに、なぜか彼は頑張って車椅子に乗る。
「じゃあ~。私が押すね~?」
「ああ。悪いな」
――あっ! これがしたかったわけですか……。
彼女に車椅子を押してもらい、友達を見送るシチュエーション。
そんなシチュエーションを楽しみたかったらしい。
病室を出て、ロビーへ降りていく間も二人はいちゃいちゃしていた。
なんで、私はこんな男が好きだった時期があるんだろう。
もはや黒歴史である。
夕愛さんみたいに素敵な人を思い続けて四年間――そんな四年間を過ごしたかった。
「じゃあ、さようなら。お大事に」
エレベーターを降りてロビーまで来ると、早く別れたくて、急いで挨拶をした。
二人に背を向け、人の多い病院のロビーを歩き出そうとした時――
「笑茉、待てよ」
「これ、返しておくわ」
私が持ってきたお見舞いの花束を返された。
「え? これ私がさっき渡した花束じゃ……」
「小さい花瓶がないの。笑茉の家になら、ちょうどいい花瓶があると思うなら。家で飾るといいわ」
小さいと言われて、頬が熱くなるのがわかった。
大きな花束でないけど、言われるほど小さいわけでもない。
そこそこの大きさだと思う。
花屋でお見舞い用の花束をお願いしますと頼んだから、花束だってちゃんとしたものだ。
「笑茉はまだ俺を諦めてなかったんだな。お見舞いに来るってことはそういうことだろ?」
「幼馴染みだから、会っても仕方ないって思ってる。でも、恋人は私なの!」
――ま、まさか。私が彼を奪いにきたって勘違いされた?
二人は絆の強さを見せつけるように、お互いの手を握りしめていた。
「あの、盛り上がってるところ悪いけど……。親に言われてお見舞いに来ただけで、特になんの意味もないっていうか……」
「ふぅ~ん。親を言い訳に使うのね」
「花束一つで、俺の心を動かせると思ったら大間違いだ!」
ロビーには人が多く、私たちは注目を集めていた。
私のポジションは、恋人の二人を邪魔する悪者で、とても気まずい。
――恋をするんじゃなかった。
どうして、私はこんなつまらない恋をしてしまったのだろう。
情けなくて、泣きそうになった。
でも、二人の前で泣きたくなくて、なんとか涙をこらえた――その時。
「笑茉ちゃん」
明るい声が聞こえて、顔を上げた。
一目でわかる上等なスーツと大人な香水の香り、品のいい雰囲気と整った顔立ち。
そこにいるだけで、人を引きつける力がある。
一瞬で、私に集中していた視線をすべて奪った。
そして、私のそばにきて肩を抱く。
「遅いから迎えに来たよ」
「海寿さん!?」
「笑茉。まさか、お前の彼氏か……?」
「そんなわけないでしょ! 貧乏人の笑茉にこんなお金持ちそうな彼氏できるわけないわよ!」
海寿さんはだいたいなにがあったのか察しているらしく、悪い顔をして笑った。
そして、とても楽しそうだ。
「失礼だな。俺は笑茉ちゃんが好きなのに」
――それって小動物的な可愛さですよね?
勘違いした二人は息を呑む。
海寿さんは嘘をついてないけど、私への好意が子犬ちゃんかウサギちゃん的な可愛さかと思うと、なんだか複雑な気持ちになる。
「じゃあ、行こうか」
二人に見せつけるように海寿さんは私の肩を抱き、歩きだした。
去り際見えた二人の顔は呆然としていて、繋いでいた手をほどき、悔しそうに唇をかみしめていた。
――すごい。あっという間に二人を黙らせてしまうなんて。
病院の外まで、海寿さんは私を連れていってくれた。
私に向けられていた視線は消えて、外の空気に触れてホッとした。
「海寿さん。ありがとうございました」
「いえいえ。俺が笑茉ちゃんを気に入ってて、好きなのは本当だし」
真に受けてはいけないと思いながらも、好きと言われて嬉しかった。
「笑茉ちゃん。これから、バイト?」
「そうです」
「じゃあ、うちの運転手に送らせるよ」
海寿さんが乗ってきたのか、黒塗りの車が病院前の駐車場に停まっていた。
「そんな悪いです! 助けてもらった挙げ句、送ってもらうなんて」
「いいよ。どうせ都久山まで戻る車だから」
その言葉で、海寿さんが乗ってきた車ではないとわかった。
――じゃあ、誰が?
この車を使えるのは、海寿さん以外ではご両親だけ。
「笑茉ちゃん。ここで会ったことは誰にも言わないでくれるかな?」
「それは構いませんけど……。もしかして、お父様の具合が悪いんですか?」
海寿さんは驚いていた。
「よくわかったね」
「いえ。海寿さんが私に黙っていてほしいってことは、きっと鷹沢の家だけの話じゃないんだろうなって思ったので……」
鷹沢は大きな会社だと聞いている。
社長になにかあれば、会社にも関わってくる話になる。
「お父様が早くよくなるといいですね……」
「……笑茉ちゃんの家族はきっと楽しくて面白い家族なんだろうな」
「お金持ちじゃないですけど、家族の仲はいいです。毎日、賑やかでうるさいくらいなんですよ」
家族の賑やかな姿を思い浮かべ、笑いながら答えると、海寿さんから笑顔が消えた。
同じタイミングで太陽が隠れ、日が陰り、雨がザァッ―と降ってきた。
蒸し暑い空気は雨が降ってもそのままで、雨の匂いが漂う。
「海寿さん?」
ほんの一瞬だった。
私の唇に海寿さんの唇が触れた――まばたきするくらいの時間で、今のが夢だったのか、現実だったのかわからない。
手から滑り落ちた花束は地面に落ちて、雨に濡れた。
その花束を海寿さんは拾って、私になにもなかったかのような口調で言った。
「この花束。いらないなら、俺が花束をもらっていい?」
「えっ……! は、はい……」
海寿さんは普通だ。
だから、さっきのは夢……本当に夢だった!?
自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらい早い。
「またね。笑茉ちゃん」
車のドアを開けて、私に乗るよう促した。
運転手さんは見ていなかったのか、顔を前に向けたまま微動だにしない。
「彼女をデリカテッセン『オグラ』まで送ってくれ」
「かしこまりました」
海寿さんは風みたいにするりと私の横を通りすぎ、病院の中へ入っていった。
――キスだったよね?
震える手で唇を覆い、うつむいた。
私の真っ赤な顔を誰にも見せたくなかった。
さっきまで、恋なんてしない、最悪だって思っていたのに、よりにもよって新しい恋の相手が都久山の王子様だなんて……
まるで、嫌がらせか呪いのようなキス。
私は報われない恋をする運命にあるらしい。
今日も出勤前に玲我さんが店に寄って、昼食用のランチボックスを購入し、会話を少しして去っていく。
自然な二人はお似合いで、そんな素敵な恋人関係に憧れてしまう。
――それに比べて。
「笑茉。お前、いつになったら彼氏ができるんだよ」
病院のベッドに寝ている幼馴染みに言われた言葉がこれである。
「あのね、骨折したって言うからバイト帰りにお見舞いに寄ったのに、それはないでしょ!?」
「そうよぉ。笑茉が可愛そうじゃない。彼氏がいないなんて、言いたくないわよね~」
そう言ったのは、もう一人の幼馴染みである。
男一人、女二人の幼馴染みの三人。
初恋は幼馴染みで、ずっと片想いしていた。
でも、私は選ばれず、選ばれたのはもう一人の幼馴染みだった。
可愛い洋館に住む白いワンピースが似合うような女の子。
二人は高校から付き合い始めて、大学になってから、ようやく離れてホッとしていた。
なのに、お隣に住んでいるっていうだけで、両親はお見舞いに行けってあんまりだ。
――私はもうブチッと縁を切っているんだからっ!
「元気そうだから帰るね」
「見送ってやるよ」
「車椅子で移動が大変でしょ? 別に見送らなくても大丈夫よ。危ないから、病室にいて」
はっきり断ったのに、なぜか彼は頑張って車椅子に乗る。
「じゃあ~。私が押すね~?」
「ああ。悪いな」
――あっ! これがしたかったわけですか……。
彼女に車椅子を押してもらい、友達を見送るシチュエーション。
そんなシチュエーションを楽しみたかったらしい。
病室を出て、ロビーへ降りていく間も二人はいちゃいちゃしていた。
なんで、私はこんな男が好きだった時期があるんだろう。
もはや黒歴史である。
夕愛さんみたいに素敵な人を思い続けて四年間――そんな四年間を過ごしたかった。
「じゃあ、さようなら。お大事に」
エレベーターを降りてロビーまで来ると、早く別れたくて、急いで挨拶をした。
二人に背を向け、人の多い病院のロビーを歩き出そうとした時――
「笑茉、待てよ」
「これ、返しておくわ」
私が持ってきたお見舞いの花束を返された。
「え? これ私がさっき渡した花束じゃ……」
「小さい花瓶がないの。笑茉の家になら、ちょうどいい花瓶があると思うなら。家で飾るといいわ」
小さいと言われて、頬が熱くなるのがわかった。
大きな花束でないけど、言われるほど小さいわけでもない。
そこそこの大きさだと思う。
花屋でお見舞い用の花束をお願いしますと頼んだから、花束だってちゃんとしたものだ。
「笑茉はまだ俺を諦めてなかったんだな。お見舞いに来るってことはそういうことだろ?」
「幼馴染みだから、会っても仕方ないって思ってる。でも、恋人は私なの!」
――ま、まさか。私が彼を奪いにきたって勘違いされた?
二人は絆の強さを見せつけるように、お互いの手を握りしめていた。
「あの、盛り上がってるところ悪いけど……。親に言われてお見舞いに来ただけで、特になんの意味もないっていうか……」
「ふぅ~ん。親を言い訳に使うのね」
「花束一つで、俺の心を動かせると思ったら大間違いだ!」
ロビーには人が多く、私たちは注目を集めていた。
私のポジションは、恋人の二人を邪魔する悪者で、とても気まずい。
――恋をするんじゃなかった。
どうして、私はこんなつまらない恋をしてしまったのだろう。
情けなくて、泣きそうになった。
でも、二人の前で泣きたくなくて、なんとか涙をこらえた――その時。
「笑茉ちゃん」
明るい声が聞こえて、顔を上げた。
一目でわかる上等なスーツと大人な香水の香り、品のいい雰囲気と整った顔立ち。
そこにいるだけで、人を引きつける力がある。
一瞬で、私に集中していた視線をすべて奪った。
そして、私のそばにきて肩を抱く。
「遅いから迎えに来たよ」
「海寿さん!?」
「笑茉。まさか、お前の彼氏か……?」
「そんなわけないでしょ! 貧乏人の笑茉にこんなお金持ちそうな彼氏できるわけないわよ!」
海寿さんはだいたいなにがあったのか察しているらしく、悪い顔をして笑った。
そして、とても楽しそうだ。
「失礼だな。俺は笑茉ちゃんが好きなのに」
――それって小動物的な可愛さですよね?
勘違いした二人は息を呑む。
海寿さんは嘘をついてないけど、私への好意が子犬ちゃんかウサギちゃん的な可愛さかと思うと、なんだか複雑な気持ちになる。
「じゃあ、行こうか」
二人に見せつけるように海寿さんは私の肩を抱き、歩きだした。
去り際見えた二人の顔は呆然としていて、繋いでいた手をほどき、悔しそうに唇をかみしめていた。
――すごい。あっという間に二人を黙らせてしまうなんて。
病院の外まで、海寿さんは私を連れていってくれた。
私に向けられていた視線は消えて、外の空気に触れてホッとした。
「海寿さん。ありがとうございました」
「いえいえ。俺が笑茉ちゃんを気に入ってて、好きなのは本当だし」
真に受けてはいけないと思いながらも、好きと言われて嬉しかった。
「笑茉ちゃん。これから、バイト?」
「そうです」
「じゃあ、うちの運転手に送らせるよ」
海寿さんが乗ってきたのか、黒塗りの車が病院前の駐車場に停まっていた。
「そんな悪いです! 助けてもらった挙げ句、送ってもらうなんて」
「いいよ。どうせ都久山まで戻る車だから」
その言葉で、海寿さんが乗ってきた車ではないとわかった。
――じゃあ、誰が?
この車を使えるのは、海寿さん以外ではご両親だけ。
「笑茉ちゃん。ここで会ったことは誰にも言わないでくれるかな?」
「それは構いませんけど……。もしかして、お父様の具合が悪いんですか?」
海寿さんは驚いていた。
「よくわかったね」
「いえ。海寿さんが私に黙っていてほしいってことは、きっと鷹沢の家だけの話じゃないんだろうなって思ったので……」
鷹沢は大きな会社だと聞いている。
社長になにかあれば、会社にも関わってくる話になる。
「お父様が早くよくなるといいですね……」
「……笑茉ちゃんの家族はきっと楽しくて面白い家族なんだろうな」
「お金持ちじゃないですけど、家族の仲はいいです。毎日、賑やかでうるさいくらいなんですよ」
家族の賑やかな姿を思い浮かべ、笑いながら答えると、海寿さんから笑顔が消えた。
同じタイミングで太陽が隠れ、日が陰り、雨がザァッ―と降ってきた。
蒸し暑い空気は雨が降ってもそのままで、雨の匂いが漂う。
「海寿さん?」
ほんの一瞬だった。
私の唇に海寿さんの唇が触れた――まばたきするくらいの時間で、今のが夢だったのか、現実だったのかわからない。
手から滑り落ちた花束は地面に落ちて、雨に濡れた。
その花束を海寿さんは拾って、私になにもなかったかのような口調で言った。
「この花束。いらないなら、俺が花束をもらっていい?」
「えっ……! は、はい……」
海寿さんは普通だ。
だから、さっきのは夢……本当に夢だった!?
自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらい早い。
「またね。笑茉ちゃん」
車のドアを開けて、私に乗るよう促した。
運転手さんは見ていなかったのか、顔を前に向けたまま微動だにしない。
「彼女をデリカテッセン『オグラ』まで送ってくれ」
「かしこまりました」
海寿さんは風みたいにするりと私の横を通りすぎ、病院の中へ入っていった。
――キスだったよね?
震える手で唇を覆い、うつむいた。
私の真っ赤な顔を誰にも見せたくなかった。
さっきまで、恋なんてしない、最悪だって思っていたのに、よりにもよって新しい恋の相手が都久山の王子様だなんて……
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