私達は結婚したのでもう手遅れです!

椿蛍

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本編

18 色気……?【冬悟】

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嶋倉しまくら羽花うかか―――その名前の響きに一人、幸せを感じるのは最悪なことだ。
本当なら、二人で幸せだと感じたかった。
罪悪感が胸を黒く染めた。
羽花を矢郷やごう玄馬はるまから守るためというのは建前。
無理矢理結婚させたようなものだ。
俺のことを羽花はきっと軽蔑しただろう。
親戚もはっきりと口には出さなかったが、『娘がいてよかった』『おかげで柳屋が助かった』と言っていた。
つまり、周りは羽花を俺が三千万円で買ったと思っている。

「……間違いじゃないか」

さすがに飲みすぎて眠い。
目を閉じてベッドに横になった。
羽花は風呂に入っている。
家族との別れで泣いているかもしれない。
風呂を終えたのか、ぱたぱたと軽い足音が聞こえて、寝室のドアが開く。
泣きはらした目を見たくなくて、腕をまぶたの上に置いて隠していると羽花がのぞきこんできた。
予想外すぎた。
なぜ、俺の顔をのぞきこんだ?

「なんだ?」

無視したままもおかしいと思い、腕をどかして羽花を見た。

「眠っているのかと思いました」

「……眠ろうと思っていた」

「あ……すみません」

今日の羽花は自分の家から持ってきたパンダ柄のTシャツとパンダ柄のズボンをはいている。
オールパンダ。

「なんだ、そのパンダ柄のパジャマは。俺が選んだパジャマを用意してあっただろう?」

「このパンダ柄のパジャマは私の一番お気に入りなんです。すっごく落ち着くんです。冬悟さんもパンダに癒されてください。だいたい、あんな肌の露出が多いお色気パジャマは恥ずかしいです!」

ぶんぶんっと首を力いっぱい振って、反論してきた。
そのパンダ柄パジャマは恥ずかしくないのかよ……。

「俺が選んだパジャマのどこがお色気パジャマだ」

「わかってます。冬悟さんの色気に比べたら、私は足元にも及びません」

はぁっと憂鬱そうに頬に手をそえてため息をついた。
俺の色気?
なんだそれ?
わけがわからないことを言う。
羽花は自分の境遇を悲観して、泣いていたかと思っていたのにケロリとしている。
そして、ベッドの上に正座だ。
なにが始まるのだろうかと羽花を見ていると三つ指をついて深々と頭を下げた。

「ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いします」

「……あ……ああ」

驚いてうまく声がでなかった。
この理不尽な状況を受け入れるというのだろうか。
なんの疑問もなくあっさりと。
悪いのは継母だとか、俺に文句の一つも言うかと思っていた。
さすがに起き上がり、羽花の両肩をつかんだ。

「おい。自分の立場をわかってるのか?」

「はい。嶋倉羽花になりました!」

まるで稚魚が出世魚になりましたとでも言うかのような得意顔だった。
大丈夫か?
いや、落ち着け。
羽花は俺の本当の姿を知らないから、『嶋倉建設の社長の奥様』程度の気楽な気持ちなのだ。
いや、それでいい。
それでいいんだが順応するのが早くないか!?

「……わかっているならいい」

羽花はこくっと首を縦に振る。

「三千万円を肩代わりしていただき、ありがとうございました。おかげで父も和菓子を作り続けることができます。修行中の弟も安心して後を『柳屋』を継げます」

三千万円で買われた妻。
そう思っているのだろうか。
いや、事実だ。
そうなるように俺が仕向けたことだ。
苦い気持ちで自分の体をどさりと横に倒した。

「親戚の方にもうまく説明してもらえて助かりました。やっぱり冬悟さんはすごいですね」

「……普通だ」

「どうして怒ってるんですか?私、失礼なことを言ってしまいましたか?」

「いや、なにも言ってない」

ちらりと見ると困った顔をした羽花が俺を真っ直ぐ見つめていた。
可愛いな―――そう思って、その頬に手を触れた。
羽花は強い。
俺が怖くないのだろうか。
昨晩、あんなひどいことをした俺を拒まないのか?

「今日もするんですか?」

そのセリフに思わず、手を止めた。

「お前っ……」

「夫婦になったんですから、覚悟はできてます!」

ガッツポーズをしてみせる。
なんだ、そのポーズと気合いは。

「なんの覚悟だ?」

「それはもうアレですよ。夫婦なんですからっ」

照れた羽花がどんっと体を突き飛ばしてきた。
それもけっこう強めに。

「しねえよ」

「そうですか……」

そう返事をした羽花の顔か残念そうに見え、内心動揺していた。

「なんだ?昨日みたいにされたかったのか?」

それとも、もっと先のことか?
意外と積極的だな。
俺はいつでもいいけどな。

「いいえっ!」

羽花は赤い顔で慌てだした。

「どうして私と結婚したのか、わからなくて」

純粋な気持ちで羽花は考えていたのだろう。
自分の体目当てかと思った羽花は俺を試すために言ってみただけらしい。
危険な発言すぎる。
はぁっとため息をついた。
無意識で誘ってくるなよ……俺だって理性の塊じゃねえんだからな。

「おい」

「はい」

「こっちにこい」

「やっぱりするんですか?」

「そういうことをサラッと言うな」

腕を強く引き、ベッドに押し倒すと羽花の体を抱え込んだ。
小さくて暖かくて柔らかい。
同じシャンプーの香りがする髪に顔を埋めた。

「今日はよく頑張ったな。もう寝ろ」

「……はい」

無理する必要はない。
自分から俺に抱かれようなんて思うな。
抱く時は俺が決める。
頭をゆっくりなでてやった。
山ほどひどいことを言われて傷ついているはずだ。
俺相手に羽花が我慢する必要はない。
その気持ちが伝わったのか、腕の中で羽花が泣いていた。
家族との別れ、そして不安からかもしれない。
羽花の気持ちを全部腕の中に包み込むようにして抱きしめて眠った。
自分にとってもそれは幸福な眠りだった―――

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