私達は結婚したのでもう手遅れです!

椿蛍

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本編

29 再々戦

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社長秘書―――それは社長のサポートをする仕事。
そんな認識で間違っていないはず。
それなのに私の机の上には―――
『わくわくプランで行く新婚旅行』
『南の楽園へようこそ~ロマンチックなハネムーン特集~』
『オーロラクルーズへ旅立とう!特別なひとときを~新婚旅行にもおすすめ~』
なんてパンプレットが山積みになっていた。
それと旅行雑誌や英会話の本。
『旅行で困らない英会話』なんて本が見えて、付箋がしてある。
なにか重要なページなのかな。
気になって、その付箋のページをめくると『迷子になった時はこう言おう』と書いてあった。
えっと……迷子って……私のことですか?
ぱたんと本を閉じた。

「あの、冬悟さん」

「どうかしたか?」

冬悟さんは忙しそうに書類をめくっている。
その横には直立不動の仙崎せんざきさんが立っていた。

「これ、仕事じゃないですよね」

「仕事だ」

えっ!?
二度見したけど、どこからどうみても新婚旅行って書いてある……
目をこすってみたけど、もちろん字が変わるわけがなかった。
どういうことですか……?

「もしかして、私が嶋倉建設の社員旅行先を選ぶんですか?」

「どこをどうみたら、社員旅行に見えるんだ?俺と羽花の新婚旅行に決まっている。旅行期間は二週間だ―――もしかして羽花……」

「はいっ!」

わぁー!やっと気づいてくれた?
そう、仕事、仕事ですっ!
私に秘書っぽい仕事をいただきたいです。
キラキラした目で冬悟を見つめた。

「その中に行きたい場所がなかったとか?」

バサッーとそのパンプレットの山の中に倒れこんでしまった

「ちっ、違いますっ!私は仕事にきたんです。新婚旅行を選ぶためじゃありません……」

涙目になっていると、仙崎さんがやってきて、南の島のパンフレットをスッと私に差し出した。

「冬悟さんの代わりに新婚旅行の行き先を選ぶという立派な仕事です」

「そうだ。好きな場所を選べ。どこでもいいぞ」

「待ってください!多数決で決めましょう!」

「いいぞ。羽花の行きたいところでいいと思っている人間は?」

冬悟さんと仙崎さんが手をあげる。
私だけが手をあげていない。
二対一。
多数決は圧倒的に私が不利なような気がした。
でも、決まってしまったのでおとなしく新婚旅行先を選ぶという仕事を始めた。
なんとなく、腑に落ちない気持ちのまま、パンフレットをめくった。
さっき、さりげなく仙崎さんがくれたパンフレットは私の好みにぴったりなものだった。
南国の綺麗な景色が目を引く。
さすが仙崎さん。
チョイスが大人だ。
プライベートビーチから見える夕焼け、白い砂浜の写真はもうムードたっぷり。
私と冬悟さんのイチャイチャビーチ想像する。
素敵すぎるっ!
ここキープ、キープですよ!
一番大きい付箋を貼りつけた。

「羽花。新婚旅行先を選んだら次は結婚式を選ぶ仕事が待ってるぞ」

「えええっー!」

「なんだ?結婚式をした後に新婚旅行がいいのか?」

「違いますっ!結婚式まで私が決めていいんですか?」

「いいぞ。そうだな―――」

じぃっーと私を見る。

「仙崎。お色直しのドレスは何回までやれるか確認をしておいてくれ」

「わかりました」

「……そんなのやらなくても」

「だめだ」

厳しい。
もしかして、嶋倉家のしきたり?

「俺が見たい」

ズサッ―とまたパンフレットの山に突っ込んでしまった。

「やはり、羽花さんは着物が似合いますから、和装と洋装の両方をするべきかと」

「嶋倉の家でお披露目は和装、仕事関係者は洋装だな」

真面目に答える仙崎さんと真剣な冬悟さん。
私よりも結婚式を楽しみにしているような気がする。
そして、段取りだけは決められているらしい。
もう抵抗しても無駄な気がして、新婚旅行の行きたい場所をピックアップして付箋した。

「冬悟さん。コピーしてきてもいいですか?」

「コピー?」

「表を作ったんです」

じゃーんっと冬悟さんに見せた。
行きたい国ごとにめぐりたい観光名所をまとめてみた。
そのタイムスケジュールも。
仙崎さんはその表を見て感心していた。

「羽花さんは旅行のしおりを作るタイプの人ですね」

「あ、わかりますか?私、結構こういうの得意なんです」

えへへっと照れていると冬悟さんは笑った。

「いいぞ。コピー機は秘書室にあるから、それを使えばいい」

「はーい!じゃあ。いってきますね!」

新婚旅行かぁ。
旅行なんて、なかなか行けなかったから嬉しいな。
家はお店をしているし、継母とはあまりうまくいってなかったから、家族で旅行に行ったことがない。
継母は弟だけを連れて二人で旅行に行っていたけど、私や百花はいつもお留守番だった。
だから、本音を言えば、すっごく楽しみだった。
じっと自分が作った新婚旅行案を見つめた。

「なに?その学級新聞みたいな紙切れは」
 
「わっ!」

いきなり背後から声をかけられ、驚いて紙を落としそうになった。

「れ、礼華れいかさん!」

「新婚旅行?そう……そうなの……」

礼華さんは表情を曇らせた。
あ……、そうだよね。
礼華さんは冬悟さんのことが好きだったんだから、見たくないはず。

「……ごめんなさい」

申し訳ない気持ちで、そっとその紙を折りたたんだ。

「いいの。冬悟は私のことなんて相手にもしてくれてなかったことはわかってるから」

「礼華さん……」

「よかったら、羽花さん。一階のカフェでお茶でもどう?美味しいフルーツロールがあるのよ」

「美味しいフルーツロール!?」

「季節によって中身のフルーツが変わるんだけど、今はイチゴがたくさん入ってるのよ」

「イチゴが!!」

イチゴのフルーツロールなんて絶対においしいに決まっている。
洋菓子はなかなか食べる機会がなかった身としては興味がある―――というよりも、すごく食べたい。

「生クリームたっぷりで甘さも控えめなのよ」

「生クリームたっぷり……」

なんて素敵な響きだろう。

「それに昔の冬悟がどんな子供だったか、教えてあげるわよ。少しの時間だけならいいでしょ?」
 
「そうですね!」

私が知らない冬悟さん。
その魅力的な言葉に誘われて、私は礼華さんと一緒に会社一階のカフェへと向かった。
それが罠だとは気づかずに―――
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