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19 婚約者だから【優奈子】
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「斗翔さん、おかえりなさい。どこに行っていたの?」
ホテルに帰ってきた斗翔さんは以前より顔色がよく熱を取り戻していた。
それなのに私を見る目だけは冷たい。
まるで親の敵にでも会ったかのような態度。
婚約者に対して酷い扱いよね―――
「夏永のところだけど?」
そうだと思っていたけれど、そんな堂々と言われるのは我慢ならない。
せめて隠すべきじゃないかしら。
「浮気は困るわ。斗翔さん」
「浮気?俺が好きなのは夏永だけだ。今までもこれからも、ずっと」
「あんな平凡な人、斗翔さんには似合わないわ」
「夏永は俺だけの特別で俺が夏永にとって特別であればそれでいい」
大切そうにその言葉を斗翔さんは言う。
夏永さんを思い出してか、少しだけ微笑んでいる表情にイライラした。
「まだわからないの?私は斗翔さんの婚約者なのよ」
「そうだね。俺は好きじゃないけど」
「好きになってもらうわ!」
「人の心はそんな簡単に変えられない」
戻ってきた斗翔さんの目は前とは違う。
強さを取り戻しつつあった。
だから、私はもっと彼に酷いことをしなくちゃいけなくなるの。
「わかったわ。私をもっと理解してもらわないとね?一緒に暮らしましょう。婚約者だもの、当り前よね?」
「そっちが勝手に決めただけのね」
「私が森崎建設の将来を握ってるってこと忘れないでよ。社員のみんなから恨まれるのは斗翔さんだけじゃないのよ?夏永さんを選んだら、森崎建設は潰れるんだから!そうなれば、夏永さんも恨まれるでしょうね」
「最低だな」
嫌悪感でにじんだ声と軽蔑の眼差し。
近寄ってその頬に触れる。
これはわたしのもの。
わたしだけのものよ。
「私を最低な女にしてるのは斗翔さんなの。それに気づいてね」
顔を歪ませた彼の耳元に唇を寄せて囁いた。
「斗翔さんが帰る場所は私のところだけ。家はもういらないわよね?」
「なにをする気だ」
「夏永さんとの思い出なんか何一ついらない。全部捨ててもらうわ」
スマホを手にすると父の秘書に電話をした。
あの古い家を壊して、過去の荷物をすべて処分してもらうために―――過去の清算ってやつかしら?
さよなら、夏永さん。
あなたはもう斗翔さんに思い出してもらえないわ。
全部、消えて。
「それじゃあ、斗翔さん、ここを出ましょうか?」
逃げ出せるような場所に置いておくわけにはいかない。
その日のうちにホテルを引き払いマンションに引っ越した。
昔の物は一切ない。
全部新しく買いそろえられてあったのが、かなりこたえたのか、おとなしい。
「ねえ、斗翔さん。素敵な部屋でしょ?広くて眺めもいいし」
斗翔さんは無言で外を眺めていた。
窓ガラスに映った彼の顔は険しい。
後ろからそっと彼を抱きしめた。
「斗翔さん。好きよ」
前に回した手で彼の体をなでた。
そして、服を脱いでいく。
「もういいわよね?」
下着姿になって斗翔さんの体に密着させ、そっと上目遣いで彼を見上げた。
熱のない目で私を見下し、手を体からほどくと、落ちた服を拾って体にかけた。
「俺が抱きたいのは夏永だけだ」
「まだそんなこと言えるのね。もうあなたには何一つ残ってないのよ?夏永さんだって、あなたをもう忘れたわ!」
バンッと壁を叩かれた。
「今、なんて?」
「だ、だから、夏永さんはあなたを忘れたって」
「忘れないよ、夏永は」
凶暴な目は私ではなく違う場所を睨みつけていた。
まるで人が変わったように。
なに―――なんなの。
「俺を忘れられない」
そう言って、離れるといつの間に私から鍵を奪ったのか、マンションの鍵を彼は手にして笑った。
「寝る。入ってこないで。入れないだろうけど」
「えっ!?ちょっと!
寝室のドアを閉めて、中から鍵がかけられたのがわかった。
私が抱きしめた時に奪われてしまうなんて思わなった。
油断ならない。
彼は私が思うより、一筋縄ではいかない人間のようだった。
扱いが難しい。
「……まあ、いいわ。そのほうが手に入れた時が楽しいものね」
ぐっと悔しさを堪えた。
下着姿にまでなって、こんな扱いされるとは思ってもなかったわ……
無様な私の姿が窓ガラスに映っていた。
けれど、この怒りの矛先を向ける場所がない。
夏永さんはどこまで私の幸せの邪魔をするつもりなの?
私なら彼が欲しいものも必要なものもなんだって揃えてあげれるのに何が足りないというのだろう。
「彼は天才だからこだわりが強いのかもね」
それなら、少しずつ距離を縮めてみせる。
そう、彼は私の手の中にあるのだから。
ここに彼はいる。
あなたのそばではないわ。
夏永さん―――
ホテルに帰ってきた斗翔さんは以前より顔色がよく熱を取り戻していた。
それなのに私を見る目だけは冷たい。
まるで親の敵にでも会ったかのような態度。
婚約者に対して酷い扱いよね―――
「夏永のところだけど?」
そうだと思っていたけれど、そんな堂々と言われるのは我慢ならない。
せめて隠すべきじゃないかしら。
「浮気は困るわ。斗翔さん」
「浮気?俺が好きなのは夏永だけだ。今までもこれからも、ずっと」
「あんな平凡な人、斗翔さんには似合わないわ」
「夏永は俺だけの特別で俺が夏永にとって特別であればそれでいい」
大切そうにその言葉を斗翔さんは言う。
夏永さんを思い出してか、少しだけ微笑んでいる表情にイライラした。
「まだわからないの?私は斗翔さんの婚約者なのよ」
「そうだね。俺は好きじゃないけど」
「好きになってもらうわ!」
「人の心はそんな簡単に変えられない」
戻ってきた斗翔さんの目は前とは違う。
強さを取り戻しつつあった。
だから、私はもっと彼に酷いことをしなくちゃいけなくなるの。
「わかったわ。私をもっと理解してもらわないとね?一緒に暮らしましょう。婚約者だもの、当り前よね?」
「そっちが勝手に決めただけのね」
「私が森崎建設の将来を握ってるってこと忘れないでよ。社員のみんなから恨まれるのは斗翔さんだけじゃないのよ?夏永さんを選んだら、森崎建設は潰れるんだから!そうなれば、夏永さんも恨まれるでしょうね」
「最低だな」
嫌悪感でにじんだ声と軽蔑の眼差し。
近寄ってその頬に触れる。
これはわたしのもの。
わたしだけのものよ。
「私を最低な女にしてるのは斗翔さんなの。それに気づいてね」
顔を歪ませた彼の耳元に唇を寄せて囁いた。
「斗翔さんが帰る場所は私のところだけ。家はもういらないわよね?」
「なにをする気だ」
「夏永さんとの思い出なんか何一ついらない。全部捨ててもらうわ」
スマホを手にすると父の秘書に電話をした。
あの古い家を壊して、過去の荷物をすべて処分してもらうために―――過去の清算ってやつかしら?
さよなら、夏永さん。
あなたはもう斗翔さんに思い出してもらえないわ。
全部、消えて。
「それじゃあ、斗翔さん、ここを出ましょうか?」
逃げ出せるような場所に置いておくわけにはいかない。
その日のうちにホテルを引き払いマンションに引っ越した。
昔の物は一切ない。
全部新しく買いそろえられてあったのが、かなりこたえたのか、おとなしい。
「ねえ、斗翔さん。素敵な部屋でしょ?広くて眺めもいいし」
斗翔さんは無言で外を眺めていた。
窓ガラスに映った彼の顔は険しい。
後ろからそっと彼を抱きしめた。
「斗翔さん。好きよ」
前に回した手で彼の体をなでた。
そして、服を脱いでいく。
「もういいわよね?」
下着姿になって斗翔さんの体に密着させ、そっと上目遣いで彼を見上げた。
熱のない目で私を見下し、手を体からほどくと、落ちた服を拾って体にかけた。
「俺が抱きたいのは夏永だけだ」
「まだそんなこと言えるのね。もうあなたには何一つ残ってないのよ?夏永さんだって、あなたをもう忘れたわ!」
バンッと壁を叩かれた。
「今、なんて?」
「だ、だから、夏永さんはあなたを忘れたって」
「忘れないよ、夏永は」
凶暴な目は私ではなく違う場所を睨みつけていた。
まるで人が変わったように。
なに―――なんなの。
「俺を忘れられない」
そう言って、離れるといつの間に私から鍵を奪ったのか、マンションの鍵を彼は手にして笑った。
「寝る。入ってこないで。入れないだろうけど」
「えっ!?ちょっと!
寝室のドアを閉めて、中から鍵がかけられたのがわかった。
私が抱きしめた時に奪われてしまうなんて思わなった。
油断ならない。
彼は私が思うより、一筋縄ではいかない人間のようだった。
扱いが難しい。
「……まあ、いいわ。そのほうが手に入れた時が楽しいものね」
ぐっと悔しさを堪えた。
下着姿にまでなって、こんな扱いされるとは思ってもなかったわ……
無様な私の姿が窓ガラスに映っていた。
けれど、この怒りの矛先を向ける場所がない。
夏永さんはどこまで私の幸せの邪魔をするつもりなの?
私なら彼が欲しいものも必要なものもなんだって揃えてあげれるのに何が足りないというのだろう。
「彼は天才だからこだわりが強いのかもね」
それなら、少しずつ距離を縮めてみせる。
そう、彼は私の手の中にあるのだから。
ここに彼はいる。
あなたのそばではないわ。
夏永さん―――
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