婚約者を奪われ無職になった私は田舎で暮らすことにします

椿蛍

文字の大きさ
41 / 44

41 招待

しおりを挟む

「あのー、納多のださん。これってどんなプレイですか?」

「人を変態みたいに言わないでください」

ぎろりとにらみつけられた。
えー!?なんでー!
こっちは青のパーティードレスを着せられ、美容院で髪をセットし、メイクまでフルコースのダメ出しをされ―――いやいや、これはもうダメ出しとかじゃない。
どこぞのパーティーに行くスタイルよ?

「よくお似合いですよー!」

「は、はあ」

この状況を飲み込めない私は店員さんの褒め言葉も素直に喜べずにいた。
ひきつった笑みを浮かべる自分が鏡に映っている。

「もしかして!星名せなちゃん達とすごいところでランチとか!?で、でも、こんな服装じゃバーゲンは行けないし」

「バーゲンは諦めてください」

「は?バーゲンを!?星名ちゃん達と約束しているんですけど?バーゲンという名のパーティーに行く約束をですね……」

「そんなにバーゲンが好きですか」

「好きですよ!高くて諦めていた服がバーゲンの時に値引きされていたあの喜びを教えてあげたいですね。もう勝利のガッツポーズを心の中でするくらいにはっ!」

「バーゲンまで売れ残るということはそんな素敵な服というわけではないのでは?」

「わかってないですね。バーゲンは祭りなんですよ、祭り!基本的に祭りには率先して参加していくタイプなんです。私はっ!」

「なるほど。大衆に迎合すると」

ムッカー!
本当に正論ぶちかましてくれるんだからっ!
もうちょっと優しい言葉を言えないものなの?
ねえー!

「どうせ私は俗物ですよ」

「そうですね。準備ができたみたいですから、行きましょうか」

どうでもいいとばかりに納多さんは私の言葉をさらっと流すとドレスに合わせたバッグと靴、それから今まで着ていたものを綺麗に袋に詰めて渡してくれた。
本当にどこにいくのか……と思った瞬間、頭にふっとあるパーティーを思い出した。
私が知っているパーティーは一つだけある。

「まさか私を斗翔とわ優奈子ゆなこさんの婚約パーティーに連れていくつもりですか!?」

「そうですよ」

「い、行きません!どうして私がいかなきゃいけないんですか!」

駄々をこねる私を車の前で納多さんは振り返った。
気のせいじゃなければ、わずかに表情を崩して口の端をあげた。

「行けばわかります。そっちのほうが説明するより早い。星名さん達も招待されていらっしゃいます」

招待されて?
なぜ、斗翔と優奈子さんの婚約パーティーに星名ちゃん達が招待されるのかわからなかった。
けれど、納多さんの難しい顔を見ていると聞かないほうがいいのかもしれないと思って黙り込んだ。
納多さんが表情を崩すなんてことめったにないことだったから―――


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


納多さんが連れてきてくれたのは高級ホテルで確かに婚約パーティー会場としてはふさわしい場所だった。

「心配しなくても大丈夫ですよ」

「心配と不安しかないです」

ふっと納多さんが笑った。

「短い間でしたが、夏永かえさんには笑わせてもらいました。ありがとうございました」

「笑わせ……!?え?お別れの挨拶ですか?」

「島での仕事が終わりましたので、本業の社長秘書に戻ります」

「そう、なんですか」

寂しいと言ってもいいのだろうか。
今までたくさん助けてもらった。

「会えなくなるわけじゃありませんよ。島にはまた来ますから」

「でも、今みたいに顔が見れなくなりますよね」

「少しは―――」

納多さんはなにか言おうとして口をつぐんだ。

「まあ、皆さんに迷惑をかけないよう今後も頑張ってください」

「なんですか、その業務的な挨拶は!」

「いつもどおりです」

納多さんの声は抑揚のない声に戻っていた。
迷惑って、迷惑かけたくてかけてるわけじゃ―――

「そうだ!納多さんに渡すものがあったんです」

後部座席のカゴバッグに手を伸ばし、袋を取り出した。

「納多さんにお世話になったお礼をしようと思って、ちょっとしたものなんですけど、よかったら使ってください」

驚いた顔で私を見ていた。
そんな驚く?

「みんなにはストールをあげましたけど、納多さんにはまだだったなって」

「ありがとうございます」

中身は濃い緑のポロシャツ。
重ね染めをすることで深い緑の色にした。
納多さんには緑が似合う。
それも深い色が。

「渡せてよかったです」

私の顔を納多さんはまるで見納めというように見て、車から降りた。
そんな深刻なこと?

「さあ、行きますよ」

さっきまでパーティー会場に行くのが嫌だったのに今は違っていた。
なぜだろう。
これは悪いことじゃないという予感がした。
まるで、プレゼントの箱を開けるみたいな気分で会場のドアを開いた。
会場の中心には『朝日奈建設、森崎建設合併記念パーティー』と書いてあった。

「幸せになってください」

背後から納多さんの声がしたけれど、ふりむけなかった。
なぜなら、私の視線の先には斗翔がいて私の姿を見つけると幸せそうな顔で微笑んだから。
斗翔は舞台から飛び降りるとタッと駆け出した。

「夏永!」

私のところまでくると両手を伸ばして、私を抱き締めた。
やっと私達はみんなの前で堂々と会うことを許されたのだと知った―――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...