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1章 異世界転移

8,俺の魔力

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 「カケル様は、お強いのですな」
部屋に残された大賢者さんが、俺に話しかけてきた。

 強い?
「いや、強くなんてないけど」
別に、特技を持っていない。
「いいえ。力や外見的な事ではなくて、精神力の事ですじゃ」
にっこりと笑い、シワを深くした。
「精神力?」
 
 よく分からないけど、褒められたんだよな?
「ありがとうございます? ……かな」
大賢者さんはニコニコしながら、俺を見ている。
「この世界の、生活の事をカケル様にお教えしよう」
大賢者さんは俺に、簡単にこの世界の事を話し始めた。

 この世界は魔力を動力源として生活していること。
魔力検査の結果、魔力が高い者はお城で手厚い保護を受けること。そして、ほとんどこの王都に住む者は聖・魔力の持ちということ。
他の大陸に他の種族がいて、その中でも高い闇・魔力の持つ者は魔族と言われている……と教えてくれた。

「おお、そうじゃ。カケル様も水晶で魔力検査してみないかね?」
思いついたように、大賢者さんが聞いてきた。
 魔力検査か。やってみようかな? 愛里は聖女クラスの魔力の持ち主だったし、俺も凄い魔力持ちかもな!
「やります!」

 ワクワクドキドキしながら水晶の置いてあるテーブルの前に立ち、水晶に手をかざした。
「これでいいのかな?」
大賢者さんに尋ねた。
「はい。手をそのままに……」

 「戻ったよ、カケル」
ガチャリと扉が開いた。父が戻ってきたようだ。
「あ、父さん」
水晶に手をかざしたまま、父を見た。すると、父が驚いた顔をして急ぎ足でこちらにきた。

 「勝手にするなと、言ったはずだが?」
「あっ!?」
父が俺の手首を掴んで、水晶から離してしまった。
「大賢者。探るようなことは、やめろ」
父は、大賢者さんを咎めた。

 俺は部屋の気温が下がったような気がした。父に睨まれた大賢者さんはオロオロしている。
「俺が知りたかったの! まだ途中だったのに!」
ガッチリと父に手首を掴まれていた手を、払った。
「カケル」

 「……いえ、この水晶はすぐに魔力を測れます。何も反応が無かったようなので、カケル様はほぼ……」
大賢者さんが申し訳ない態度で話しかけてきた。
「ほぼ、何?」
嫌な予感がした。
「大賢者、言わなくていい……「俺は聞きたい!」」

 俺は父をキッと睨んだ。
「大賢者さん、言って下さい」
知りたかった。俺に何かあるのか。
「……めずらしいタイプじゃ」
めずらしい?
「どういうこと、ですか?」
俺が大賢者さんに聞いてみると、少し戸惑いながら教えてくれた。
「魔力が、聖・魔力が “ゼロ” じゃ……」

「え?」
“ゼロ”?
「ゼロ……? いや、俺は異世界人だし。王都にゼロの人も居てもおかしく無いですよね? ハハ……」
「……」
大賢者さんが無言になった。

 「大賢者さん?」
俺は心配になって大賢者さんに話しかけた。
「ハッ! あ、ああ。すまん、カケル様」
何か考えていたのか、大賢者さんがびっくりして返事をした。

「聖・魔力が “ゼロ”だと何か問題があるのか?」
父が大賢者さんに話しかけてきた。
「ま、魔力 “ゼロ”だと、生活するのに不便じゃ。それに……」
父に怯えながら大賢者さんが答えた。父はゆっくりと近寄って大賢者さんを見下ろした。
「“魔力石”があるだろう」
父は大賢者に言った。

 「ありますな。だが、一般人には高価なもので実用的ではありません」
「カケルの為だけに、愛里に“魔力石”を作らせれば問題ない。石は私が持っている」
父は大賢者さんにそう言って首からヒモに通してある石を指で、摘まんで見せた。
「おお……!」
大賢者さんから声が思わず漏れ出した。
「綺麗な石だ」

 青黒く、鈍く光っている。中で渦を巻いているように見えた。
「人によって、使える魔法や魔力量が違うために“魔力石”が作られた。これがあれば、王都で生活出来る」
父は俺に説明してくれた。
「だから、心配するな? カケル」
ニコッと父は笑って、背中をポンと叩いた。
「分かった」
俺は父に笑い返した。

「聖・魔力が “ゼロ”の人間はめずらしいのじゃ……」と大賢者が、小さな声で呟いたのはカケルには聞こえなかった。


「あっ! そういえば、愛里は大丈夫?」
俺は父に、愛里の様子を聞いた。
「カナがついているから大丈夫。急な環境の変化で疲れたのだろうから、休ませれば明日には回復するだろうとの話だ」
良かった。

 「愛里が心配だからこれで失礼する。部屋で休ませてくれ」
父が大賢者さんにそう言った。
「……分かりました。お部屋へ案内させます。お待ち下さい」
また、何か呪文を唱えている。メイドさんに連絡しているようだ。

 「失礼いたします。お部屋へ案内いたします」
さっきいた美人のメイドさんが案内してくれる。
「では、また明日にでも。ジン様、カケル様」
大賢者さんが頭を下げた。

俺達は、異世界転移してから一日が過ぎようとしていた。部屋に案内されて父と少し話をしてから、俺は一人部屋で過ごした。

 父と母は直ぐにでも帰る気だったが、何だか直ぐには帰れないような予感がした。
こちらの一年が向こうでは十年だなんて……。ちゃんと帰れるのか?

 それに俺の魔力 “ゼロ”だなんて!
はぁぁぁぁ……。異世界に来たらチートがあると思ってたんだけどなー?
「まあ、仕方がない……か?」

 考えていたら中々寝付け無かったが、そのうちに疲れてきてふわふわのベッドでいつの間にか眠りについていた。




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