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1章 異世界転移

13,アカツキ

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 「父さん! 俺、どうしたらいい!?」

 母と愛里が聖・魔法の “守りの盾” で俺達を守ってくれている。だが、いつまで持つか。
「くっ……! ジン! 今のうちにカケルを連れて逃げて!」
母は両手で “守りの盾” を作りながら父に言った。俺を連れて逃げろ!? 愛里や母は?

 二人の聖魔法でも何とか防げているようだ。いきなり俺達に向けて放ったえぐるような闇魔法は、じりじりと母と愛里の聖魔法を押しているようだった。
「カケル……」
父は俺の名を呼んだ。二人を残して逃げるのに戸惑っている。……当たり前だ。今、四人が離れたら、駄目な気がする。

 「お前は何なんだ!! 急に現れて攻撃してくるなんて、ふざけるな!!」
俺は何だか頭に来て、奴に向かって叫んだ。
「「カケル!?」」
父と母の声が被った。


 ふ……、と奴からの攻撃がやんだ。
「お兄ちゃん……」
愛里と母の手から聖魔法が消えた。愛里の額には汗がうっすらと浮かんでいて、ペタンとお尻を地面に着けた。
 母は背中に庇うように愛里の前に立ち、剣を握っていた。

 「何なんだよ!? いきなり攻撃してくるし、ふざけんな!」
俺は思わず奴に向かってまた叫んでしまった。
「カケル……」
父と母はびっくりした顔で俺を見ている。愛里を見ると、顔を真っ青にしている。


 「……へぇ? 俺様の魔力に怯まないとは、オマエ、何者だ?」
俺達に攻撃してきた奴は、虚を衝かれたかのように腕をダラリと下げて地面に降りてきた。そしてこちらに歩き近づいて来る。

 「カケル……、刺激させるな」
奴が降りてきたのを見て母は、コソリと小声で言った。剣を握った母の手に力が込められていた。真っ直ぐに奴を険しい顔で見つめている。普段の母の穏やかな表情とうって変わって別人のようだ。ピリピリとしたオーラのようなモノが伝わってきた。

 「そこの女のその魔力……。お前まさか?」

 奴にも母のピリピリとしたオーラを感じたのか、一歩だけ後ろに下がった。奴との距離は……十メートル位。
「おにい、ちゃん……」
座りこんだ愛里を見ると、母の服に掴んで震えていた。泣きそうだ。

「カナ、僕の……いや、俺の封印を解け」
愛里の肩をそっと撫でた父が母に話しかけた。封印? なにそれ?
「ジン、駄目だ。絶対に駄目だ」
母は、一歩一歩とこちらに進んで来る黒い魔力を纏った者から目を逸らさずに言った。



 「オマエ、勇者だな?」

 ゾクリ……!
黒い魔力を纏った奴は、禍々しい黒い魔力を更に高めた。
「きゃあ!」
「愛里!」
悲鳴を上げた愛里は、くたり……と父の腕の中で気を失っていた。
「愛里!? 大丈夫か!?」
青い顔をしている愛里を父は抱えた。

 「……ジン」
母が父の名を呼んだ。俺と父は視線を母に向けた。
「私が奴に一撃をくらわせてる隙に、皆で逃げろ」
父と俺は耳を疑った。母を置いて、逃げる?
 母が勇者だとしても、強いだろうとも……。近づいてくる奴は、ヤバい。俺でもヤバいと感じる。
「カナ……」

 父は迷っている。
母と、俺と愛里を。どちらかなんて選べない。

 「生かしておけば、後々面倒だな。勇者……か、ケッ!」
奴は顔を歪めた。
「反吐が出る。正義の味方気取りか?」
奴の手に力が集まっていくのが分かった。母はスッと立ち上がり、剣を抜いた。

 母が掲げた剣の鋭利な刃は、太陽の光を反射してキラキラと光っている。何か加護がたくさん付属していそうな、聖なる物のようだった。

 

 空気がピンと張りつめる。どちらかが動いたら、戦いが始まってしまう。イヤな汗がこめかみを流れた。
ヤバいヤバい、ヤバいヤバい、ヤバいヤバい!
「やめろー!!」
 何とかとめないと!
それだけ頭に浮かんで俺は飛び出した。そして一直線に奴へ向かって行った。

「グェッ!?」

 何も考えずに俺は奴に体当たりをしていた。
ドガッ!! と鈍い音がして奴と俺は地面に倒れ込んだ。
「「カケル?!」」

 「痛たた……。うわっ!」
気が付き顔を上げると、奴を下敷きにしていた。見ると、唇を切ったのか少し血を流して痛みに顔を歪めていた。
「ぐっ……。なぜだ……? 防護膜を張っていたのに!」

 俺は素早く上半身を起こして、体重をかけたまま奴の腹辺りに跨がった。上から両手首を掴んで地面に押しつけた。同じくらいの体格だと思ったので、マウントをとってやった。
「はぁ!? キサマ、どけ!!」
仰向けになった奴はジタバタと暴れている。だが、思ったより体が細くて俺より華奢だった。多分……俺より体重が無いし、食べてないのかと思うくらい腕も細かった。同じくらいの歳なのにガリガリだった。

 「お前……、名は?」
真っ直ぐに奴の顔を見て、聞いた。なぜ、奴に名前なんか聞いたのか自分でも不思議だった。俺達をオモチャのように殺そうとしていたのに、なぜだろう。

 「は、離せっ!!!」
グッと、押さえている手首に力を入れる。
「名を教えてくれたら、離すよ」
ビクリと奴は体をすぼめて唇を噛んだ。奴の噛んだ唇から血が流れる。
「噛むな。血が出てる」
そう言って俺は片手を離して、ポケットからハンカチを取り出した。
「なっ!? やめろ!」
奴の言葉を聞かずに、血が出てる所にハンカチで拭いた。
「もう、唇を噛むなよ」
奴にそう言って、笑った。

 パン!
「っ! 痛って……」
自由になった奴の片手で頬をぶたれた。
「退けっ!!」
目の前に黒い魔力の固まりが、奴の重ねた両手から放たれた。
「うわっ!」
咄嗟に奴から避けて地面の横に飛んだ。直撃を避けられたようだ。俺の運動神経に感謝だ!

「チッ! ……お前、カケルと言ったな? 次はお前を消してやるからな!! 俺は、次の魔王 アカツキ。覚えておけ!」
「あっ!」
奴は俺に向かって叫び、あっという間に魔法を使ってその場から消えてしまった。

「アカツキ……。次の魔王だって?」
アカツキが消えた地面を見ながら俺は呟いた。
「魔王? 魔王って!?」
振り返って父と母、父の腕の中の愛里を見た。
「アイツ、次の魔王とか言った!」

 父と母は何とも言えない顔で俺を見ていた。

 
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