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ニコル
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それからは僕がエリザベスと結婚し、エリスに婚約者が出来て、マデリン姉様も結婚した。ただ、姉様のお相手が西の辺境伯と呼ばれるエルデガルド辺境伯だったのには、驚かされたけれど。
僕の姉様たちは人を驚かせるのが得意らしい。
「王太子殿下の婚約者がようやく決まったから、私もようやく結婚出来るわ。もう20歳もとっくに過ぎてたから少しばかり焦ったけれど」
そう言いつつも、王太子殿下の婚約者の発表から三か月も経たないうちに式を挙げたということは、前々から準備は整えていたのだと思う。
もちろん式にはルーベンス子爵家も呼ばれているが、屋敷を空にするわけにもいかないし、一番下のシルヴィアがまだ七歳だ。こういった事に参加させるには心もとない。それに僕の妻になってくれたエリザベスも出産を控えていた。
だからシルヴィアは僕たちが見ているから、と言ったにも関わらず、バーバラはエリザベス姉様に何かあったら嫌だと、それにシルヴィアの面倒は私が見たいから屋敷に残りたいと言う。
まあ、無理に連れ出すこともないだろうと、父母とアベルとエリスがマデリン姉様の式に参加することになった。
西の辺境伯と呼ばれるエルデガルド辺境伯領までは、ルーベンス子爵領からだと馬車で一週間はかかるだろうか。なにせルーベンス子爵家の領地は、東の辺境伯の方が近い。
そういう立地のためと、結婚式に親族が遅れるわけにもいかないという理由で、家族は式の10日以上も前に出発していった。馬車での長旅はトラブルが付きものなので仕方がないとは思うものの、余り早く着きすぎても相手の家の迷惑にはならないだろうか。ルーベンス子爵家の次期当主としては、逆にそちらの方が気にかかった。
けれど父も母上もおらず、自分たちとバーバラしか居ない(まあ、シルヴィアはいるが)この状況は僕取っても都合がいいとも言える。何故なら僕はバーバラに聞いてみたいことがあったからだ。
「ねえ、バーバラちょっといいかな?」
「なんでしょう、ニコル兄様」
バーバラは亜麻色の髪と少しくすんだ青緑色の瞳をしている。
ルーベンス子爵家は、嫡男のみ暗めのオレンジ色の髪とオパールグリーンの瞳で生まれてくるけれど、嫡男以外はブラウン系統の髪と緑系統の瞳を持って生まれてくるのだ。
ちなみにサーシャ姉様とアベルがライトブラウンで、マデリン姉様とシルヴィアがブラウンの髪色をしている。エリスはやはりバーバラと同じ亜麻色だ。
だから兄弟姉妹で並んでみても、逆に僕の髪色や瞳の色が浮いてしまうくらい。
小さい頃は何だか僕だけ仲間外れのような気がして、みんなと一緒の色が良かった、なんて我儘も言ったそうだけど、まあ、これがルーベンス子爵家の当主の色だと言われれば諦めるしかなかったーー自分が父と同じ色なのは物凄く不本意だったけれど。
きっと今度生まれてくる僕の子供も、男の子なら同じ色味で生まれてくるんだろう。もちろん女の子が生まれても何も問題はない。僕はどちらでも自分の子供が生まれてくれることが、凄く嬉しいんだ。
「バーバラは、お付きあいしている人とか結婚したい人とか、誰かいないのかい?」
言い方が少しばかりお節介な親戚のようになってしまったけれど、聞きたいのはバーバラの本心だった。けれど、バーバラほんのりと笑って、戸惑ったような困ったような曖昧な表情を浮かべ、緩く首を振る。
「……特におりませんわ。私は三女ですし、エリスやシルヴィアもおりますから、別に結婚しなくても」
落ち着いた声で話しているバーバラは、本当にそう思っているように見えた。しかし、三女だから、結婚しなくても、というその言葉が、僕におばあ様を思い起こさせる。
「本当に? 結婚したいとも思わない?」
「もちろん、貴族の子女としてお父様に嫁げと言われたら嫁ぎますけれど」
そして続いた言葉に、眉をしかめそうになった。けれど、これはどこの貴族子女でも言われる言葉だ。特別うちだけ、という訳でもない。
だって、僕の同級生にも、いた。
学院に通わせてもらうことはできたけれど、卒業したらすぐに結婚しなくてはならないの、本当は官吏になりたいのだけれど、と諦めに似た表情をしていた同級生が。
そして彼女は本当に卒業後すぐに嫁いでいったのだ。
僕たち貴族の子息だって、なんでも自由に選べるわけではない。特に嫡男として生まれてきたら家を継ぐのは絶対だ。逃げたいなんて言っても許しては貰えない。しかし次男や三男に生まれたからと言って、自由なのかと聞かれたらそうでもないのだ。
貴族子息の次男や三男など、嫡男がいる限り家を継ぐことなんてできはしない。とは言え、嫡男に何かあった場合は次男が家を継がなくてはならないから、大抵の場合、妻を娶って別邸暮らしか、取り合えず近隣の家に婿養子に入るかだ。
三男以降など家にいても無駄飯ぐらいの扱いで、自立するかどこかに婿養子に入るか、平民として暮らすしか道がない。貴族として生活していたにも関わらず、だ。
だから嫡男以外の貴族子息は、騎士団に入るか、官吏になるか、中には執事見習いや侍従見習いになって高位貴族の屋敷に入る、なんてこともある。
自由そうに見えてそこまで自由ではないのが貴族の子弟たちだった。
「そうか、結婚したいと思わないなら、せっかく腕がいいのだし、自分の店を持ってみるのもいいかもしれないね」
そんな事を口にしながら、僕は少しだけ悔しい気持ちになる。
なぜならバーバラの刺繍やレース編みの腕が素晴らしいのも、おばあ様の指導があったからだと理解してしまったからだ。もちろんおばあ様だけでなくバーバラの努力があった事はもちろんよく分かっている。
でも、それでも。
自立のためには手に職が必要と、バーバラにそれを教えたのはおばあ様だった。
僕からの提案に、バーバラはほんのりと頬を染める。
「まあ、自分のお店を持つなんて、とても素敵な夢ですわ」
しかし、まるでそれは叶わないかのようにバーバラは言った。それは貴族子女だから店を持つのが無理なのか、父が決して許しはしないだろうという意味での無理なのか。
もし問いかけたらバーバラは応えてくれるだろうか。
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ニコル回あともう一話ありました。
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