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王都にて
コリンナ 3
しおりを挟む食堂は夫婦二人でやっていて、料理は旦那さんが作って、それ以外のことは全部おかみさんがやってるお店。
店の中も、なんかあったかい感じがして。
それに少し話しただけでも、おかみさんも旦那さんもいい人だって分かったし、料理は美味しくて、いいなぁって思ったんですよ。
あたしもいつか旦那さんみたいな優しい男の人と結婚して、こんな風にあったかい家庭をつくりたいなぁって。
たぶん、あのまま村に居ても幸せな家庭ってやつは築けたとは思うんです。
でも、あの頃は、ずっと村で暮らさなくちゃいけないのが、訳もなく嫌で。
貧しかったわけじゃないけんですけどね、日々の暮らしで精いっぱいで、楽しい事なんてほんのわずかしかなくて。
だから、勢いで王都に出てきた事は、あんまり後悔はしてないです。
それからおかみさんがあたしを給仕として住み込みで雇ってくれて。
その食堂、元は別の人が経営してたらしいんですけど、旦那さんはもともと騎士団に勤めていたらしくて。
でも足を怪我したから辞めることになって、ちょうどいいから引き継いでくれないかっていわれて譲ってもらったんだって言ってました。
旦那さん、遠征に行くとよく料理をしていたんですって。だから料理は得意なんだって言ってましたし、旦那さんの料理は本当に美味しいんです。
できたらバーバラさんとそこのお兄さんにも食べに来てもらいたいぐらいです。
店の場所も大通りにも面してないちょっと寂れた場所にあるんですけど、騎士団の訓練所の近くで。
騎士見習いの子供たちが暮らしてる寮も近くにあって、そこの人たちがお昼を食べに来てくれるんですよ。寮では朝と晩しかご飯が出ないからって。
みんな身体は小さいのに大飯ぐらいでね。本当に良く食べるんです。
騎士見習いって、一応給金が出るみたいなんですけど、それでもお腹いっぱい食べようとするとお金かかるからって、うちに来るんですよ。
うちもうちでね、銅貨三枚くらいで、どれだけ食べさせられるかって、肉とか野菜とか安く卸してくれる店を探したりして。
あと、パンだとどうしても腹持ちが悪いからって、コメとかいう食べ物も仕入れるようにしたりもしてるんです。
コメって知ってます?
東の辺境伯のところで作られてる作物らしいんですけど、王都とかではまだ食べられてない穀物らしくて、うちと付き合いのある商人さんが大量に仕入れたみたいだけど売れなくて困ってるっていうから旦那さんが買い取ったの。
料理の仕方もちょっと変わってるんですよ。
売れないのはそのせいもあるんじゃないかなって思いましたね。
でも、よく噛むと甘みもあって、腹持ちはいいし、肉でも野菜でも魚でもなんにでも合うからって、みんなも良く食べてくれるようになったんです。
だから今じゃあ、うちの食堂のお昼の定番メニューになってるんですよ。
商人さんもね、コメってこんなに美味しいんですねって喜んでくれて、うちには格安で卸してくれるようになりました。
「ううっ……」
あたしが話をしていたら、バーバラさんの膝の上で、男の人が呻き声を上げました。
するとバーバラさんは慌てたように相手の顔を覗きこんで、どうやら目が覚めたみたいです。
ぱちぱちと男の人は瞬きをして、自分の置かれている状況が分かったのでしょう。
「わっ、なんで膝枕って、あたっ」
凄く慌てたように身体を起こそうとして、失敗したみたい。
そりゃあそうだよね。両手は後ろ手で縛られてるし、両足も足首のところでぐるぐる巻きにされているもの。
男の人はバーバラさんの膝の上から床に転がり落ちて、バーバラさんが慌てて起こそうとして、でも二人とも両手を縛られてるから、思うようにはいかないみたい。
なんだか二人を邪魔するのも悪い気がして、あたしはずっと二人を見ていた。
そしてやっぱり思ったんだ。
この男の人なんとなくリカルド様に似ているなって。
鈍色の髪は長めだし、それに瞳もブルーグレーでなくてマルベリー色をしているけれど。
でも、この男の人とバーバラさんはお似合いだと思う。
できたらこんなところから早く逃げ出して、二人で幸せになってくれたらいいな、なんてあたしは思った。
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