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17.それはある意味、誘拐だろうか
しおりを挟む「このまま話してても仕方がない、クストディオ、彼女を担げ」
小さな声でエルネストがそう囁いた。仕方ない。
俺は、失礼する、とだけ言い放って、レオノーラ嬢の身体を横抱きにした。
「え? きゃっ、クストディオ殿下、お、下ろして」
「落とすと危ないからな、ちゃんと掴まって」
わざと大股で歩き出せば、レオノーラ嬢はぎゅっと俺にしがみついてくる。いつの間にかレオノーラ嬢の手から離されていたカバンは、ちゃっかりエルネストが運んでいた。
それにしても軽いな、と余所事を俺は考える。だって仕方がないだろう。女性の身体に触れるなんて、子供の頃ならいざ知らず、早々あるもんじゃないんだ。しかもレオノーラ嬢からは何だかいい匂いがする。
「まあ、どうなさったの」
王家の馬車へと乗り込むと、アリソン嬢が目を丸くして驚いていた。それもそうだろう、先ほど別れたばかりのレオノーラ嬢を俺が横抱きにして現れたのだから。
だが、俺は俺でレオノーラ嬢を横抱きにしたまま固まっていた。なぜか? 横抱きで馬車に乗り込んだのはいいものの、俺はその後の事を考えていなかったから。
王家の馬車はかなり大きくて広いものを使用している。それは王族2人にその婚約者が1人、それぞれにつくメイドや侍従で最低でも6名が馬車内にいることになるからだ。そこにレオノーラ嬢を連れてきた俺は、レオノーラ嬢をどこに座らせたらいいのか分からない。
「クストディオ殿下、そちらのご令嬢はお怪我でもされましたか」
俺の侍従であるクレメンスが、どこか笑いを堪えるかのような表情で尋ねてきた。幼少から俺に仕えてきた2つ年上の彼には、俺の動揺が手に取るように分かるのだろう。
「いや……帰りの馬車を呼んでいないと言うので、連れてきた」
「おや、それはまた」
「ですから、わたくしは大丈夫ですので、下ろしてくださいまし」
一応、暴れると危ないという意識があるのか、俺の腕の中でおとなしくしてはいるが、それでも下ろしてくれとレオノーラ嬢は言い募った。俺は思わず抱きかかえている腕に力を籠める。
「今日はそこまで遅くなっていないから、このままレオノーラ様をエイムズ伯爵家のタウンハウスまでお連れすればよろしいのでは」
すかさずアリソン嬢の援護が入った。ありがたいと思う。
「そんな、ご迷惑をおかけする訳には」
「迷惑ではない」
「で、でも、王子殿下方がいきなりいらっしゃるなんて、家の執事が目を回してしまいます」
レオノーラ嬢に言われて、それもそうかと思った。普通、王族は一貴族の屋敷やタウンハウスを訪れることはない。もしあるとすれば、婚約者になった者の家に行くくらいか。それだって、日程の調整をして先触れを出すのが普通だ。
「クレメンス、エイムズ伯爵家に先触れを」
「はい、直ぐに手配いたします」
「ですから、わたくしを馬車から下ろしてくだされば、それでいいのですわ」
なんだかこのまま手を離すと、レオノーラ嬢は馬車から飛び降りてしまいそうな気がする。確かに外が薄暗くなるにはまだ時間がある。だから彼女の言うように、そこまで心配する事はないのかもしれない。
だが、俺は嫌だった。
もし、このままレオノーラ嬢を1人で帰したとして、万が一怪我をしたらどうする? 何か事故に巻き込まれでもしたら? どう見ても貴族の令嬢であるレオノーラ嬢を、賊が攫わないという保障は誰がしてくれる?
そんな心配をするくらいなら、俺たちがこのままエイムズ伯爵家のタウンハウスに連れて行けばいいだけだ。俺はそう決断した。
「このまま1人で帰して怪我でもされたら困る。だから、レオノーラ嬢をエイムズ伯爵家のタウンハウスまで送るのは決定事項だ」
「……殿下がお困りになりますの?」
困ったような、戸惑うような小さな問いかけに、俺は頷く。
「そうだ、俺が困る。だから大人しく送られてくれ」
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