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5.どうやら大成功のようですわ
しおりを挟む鍛冶職人の親方さんの工房の裏にある井戸の側では、かなりの数の人間がお父様を見つめております。
「さあ、お父様、このハンドルをぐるぐる回してくださいますか」
桶に水が入るように、少しだけ時間をおいてから、お父様はハンドルをぐいっと回しました。今回の場合、水の量が多いので多少力はいるはずですが、お父様は重さも気にならないのかするするとハンドルを回し、あっという間に水でいっぱいになった桶が現れました。
「おおっ!」
またもや皆さま大合唱です。確かにお父様はさほど力を入れて回しているようには見えませんでした。なのに桶には満杯の水が入っております。もしこれだけ水の入った桶を持ち上げようとしたら、かなり大変であることはやった事のないわたくしにも分かります。だから皆さま驚いていらっしゃるのでしょうけれど。
「大成功だな。後は木材で作っているからどれくらい持つか分からないが、それもまた実験のうちだろう」
「おう、かなり持つと思うぞ? かなりしっかり作ったからな」
鍛冶職人の親方さんに木工職人の親方さんが応えます。二人してにっこり笑ってがしっと握手しましたわ。
「どうですかねご領主様」
「いやあ、これはびっくりしたな。それほど力を込めてもいないのに。これなら女性でも水汲みがだいぶ楽になるだろう」
「ですよね。鉄製の滑車も試作は進んでおりますが、中々きれいな円を作るのは難しいですや。とりあえず暫くは木製の滑車を作って貰えますかい?」
親方さんの言葉にお父様が頷きます。
「まずはうちの屋敷と、街の共同井戸数か所に取り付けよう。共同井戸には暫くの間は、見張りを付ける。壊されると困るからな、と言っても使い方が分かれば大丈夫だとは思うが」
「共同井戸って、大きな楕円形の井戸のことですよね、お父様」
その井戸を初めて見たときには、とても井戸には見えなかったのです。だからわたくしもよく覚えておりますの。
「うむ、そうだな」
「でしたら、共同井戸につけるのは滑車を二台取り付けたらいいと思いますわ。今でも皆さま一人ずつ使われている訳ではありませんでしょう?」
「そういや、そうですね。小せえ子どもなんかは、ちっちぇ桶にロープ結わえて勝手に水汲んでますからね」
あら、それは可愛らしいですわね。それにちゃんとお手伝いしてるのですね、偉いですわ。
「うちの分と共同井戸の分は、滑車の製作費と取り付け料をうちが持つ。後は取り付けの日程だな、細かい事はこの後、屋敷で打ち合わせをしよう。鍛冶職人と木工職人と、あとは街役を呼ばないとな」
「あ、ご領主様、あと大工の棟梁も呼んでください」
木工職人の親方さんがそう言いました。たぶん、枠組みというのでしょうか。滑車を吊るすためのそれは大工さんにお任せした方がいいと、親方さんがそう判断したのでしょう。
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鍛冶職人の工房の裏庭の筋肉率が異様に高い。
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