死配人ー勒死の狂ーCRIMSON CHAIN of DEATHー

不幸中の幸い

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Chain_1

通知 - Message from Unknown

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Scene1:曇天の下で
2025年12月15日(月) 午前07時32分
南秋大学キャンパス内
 
その朝は、曇っていた。
 
曇り空といっても、ただの天気の話ではない。
雲は灰色に垂れこめ、
どこか湿った膜のように空と地面を一体化させていた。
遠くで雀が一声鳴き、それが霧の中で鈍く消える。
 
神谷千咲は、正門をくぐった瞬間にその“違和感”を感じていた。
 
芝生のはずれにあるベンチには、
いつもなら学生たちがコンビニのサンドイッチをかじったり、
だらしなくイヤホンを垂らしたままスマホをタップしていたりしていたのに、今朝は、誰もいなかった。
 
いや、誰もいないわけではない。
学生の姿はある。けれど彼らはみな、同じ方向に目を向けて立ち止まり、
まるで止まった映像の一部のように動きが乏しかった。
 
千咲は、ポケットに両手を突っ込んだまま歩を進めた。
足元で石畳が湿っていて、スニーカーの裏が微かにきゅ、と鳴いた。
 
文系棟の手前で、彼女の足は止まる。
 
女子トイレの前。黄色いテープ。何重にも巻かれたビニールの境界線が、
空間を異物に変えていた。
警官が二人、大学職員が三人。
無言で手帳を見つめる者、足元のコーンを並べ直す者、
互いに目を合わせない者。
 
千咲の隣を、見覚えのない女子学生が通りすぎた。
茶色いニットにベージュのマフラー。
小さく呟いた声が、千咲の耳に届いた。
 
「……本当に、芦原さんだったの……?」
 
その名前に、千咲はまぶたをひとつ瞬いた。
 
ざわつく声。
聞きたくなくても耳が拾ってしまう。
 
「自殺じゃないって……LANケーブルで首締めって、マジ……?」
 
「紅い紐……だったらしい。動画、回ってるやつ」
 
「潰れた目とか……笑ってたって……」
 
「作り物でしょ。フェイクじゃね?」
 
「でも、トイレのドア、開かなくなってたって……」
 
千咲は顔を上げ、空を見た。
どこまでも灰色。影も光もない、均質な色だった。
ポケットの中のスマホが、一瞬、震えた。
いや、気のせいかもしれない。
 
それでも、彼女は構内のカフェテリア裏、
誰もいない木製の丸テーブルまで足を運んだ。
テーブルの表面には雨のしずくが散っていて、
その一部を袖で拭き取ってから腰を下ろした。
 
カバンからスマホを取り出し、画面を見る。
 
【Message_REVERB】
未読メッセージ(1)
 
その表示を見た瞬間、千咲は小さくまばたきをした。
“Unknown”ではなかった。
まるで、自分が知っているはずの形式が、
どこかで歪められて戻ってきたような。
 
差出人:不明
添付ファイル:《matrimurder_final_send.mp4》
 本文:
 神谷千咲 様
お待たせしました。次はあなたです。
 
その文面を、彼女はじっと見つめた。
 
押すつもりはなかった。
けれど、指先は動いていた。
 
動画が再生される。
暗く、粒子の粗い画面。女子トイレ。個室の扉が軋んで開く。
芦原茉莉。
首に巻かれた紅いLANケーブル。
片目が潰れ、口が裂けて笑っていた。
 
画面が暗転し、白い文字。
 
「次は、あなた」
 
千咲は無言でスマホを伏せた。
遠くで風が旗を揺らし、何かが軋む音がした。
 
 
Scene2:中庭の沈黙、通知を受け取る
2025年12月15日(月) 午前08時32分。
南秋大学内カフェテリア
 
木製テーブルの縁には、誰かが彫った名前があった。
「S.T. 2019.4」
薄くて、指先でなぞっても感じられないほど摩耗していた。
風雨に晒されて、削れた木目のなかに文字の痕跡だけが染みついていた。
 
神谷千咲はそれを見つめながら、両手を膝の上に置いた。
 
背後では、カフェテリアの自動ドアが何度か開いては閉まる音がしていた。
そのたびにドアに取り付けられた電子音声が「開きます」「閉まります」と機械的に繰り返す。
 
誰もこちらには来ない。
ここは中庭の奥の、木々に囲まれた半分死角のようなスペースだ。
春には桜が咲き、夏は毛虫が大量発生し、
秋には落ち葉が積もって学生が滑り、冬は誰も来なくなる。
 
いまは冬の始まり。葉の落ちた枝が風に揺れ、硬い影を地面に刻んでいた。
 
スマホの画面がまだ光っていた。
 
《matrimurder_final_send.mp4》
 
さっき再生した映像。
いや、再生された、のかもしれない。
自分の意思で再生した、という実感がなかった。
指が、勝手に画面に触れたように思える。
指先に汗はなかったはずだ。
なのに、再生された。
 
映像の最後に現れた文字。
「次は、あなた」
 
それを見たときの感覚。
何かが壊れるというよりも、
何かが“もともとなかったこと”に気づくような感覚だった。
 
千咲はスマホをホーム画面に戻し、通知バーを開いた。
 
《Message 0:READ》
《Message 1:UNREAD(再送)》
《Message 1:UNREAD(システム自動再送信)》
《Message 1:UNREAD(保持中)》
 
「再送……?」
 
誰に向けられた言葉でもなかった。
ただ、独り言のように呟いたその一語が、
乾いた空気の中で自分の耳に帰ってくる。
 
視線を上げると、ガラス越しに学食の内部が見えた。
スープバーのカップが山積みになっている。
誰かがカレーを受け取っていた。メニューは「ココナッツチキンカレー」。
 
その隣のカウンターで、女子学生二人が笑いながらスマホを覗いている。
ひとりが口元を手で覆いながら、何かを指差していた。
 
一瞬、彼女たちの視線が、千咲の方を向いた気がした。
でも、それは勘違いかもしれない。
彼女たちはすぐにまた笑って、スマホを向き直った。
 
千咲は席を立った。
テーブルの上には、彼女の体温だけがかすかに残っていた。
 
 
Scene3:部室と狂気の無関心
2025年12月15日(月) 午前09時47分。
南秋大学内都市伝説研究会・部室
 
都市伝説研究会の部室は、サークル棟の3階にあった。
階段を上がると、空気が一段と薄くなる。
天井が低いせいか、あるいは廊下の蛍光灯が半分切れているせいか。
 
部室のドアはいつも通り少しだけ開いていた。
蝶番の片方が緩んでいて、ドアが完全には閉まらない。
誰が言ったか「開かずの扉、閉じずの扉」とあだ名がついている。
 
中に入ると、先客が三人いた。
 
ソファの上で足を投げ出す宇田川梓。
窓際でノートPCを開いている伊藤歩夢。
ホワイトボードの前でプロテインバーをかじっている堀川。
 
千咲が入ってきたことに、誰も特別な反応は見せなかった。
 
代わりに、話の続きが流れるように再開される。
「……で、LANケーブルだったらしいのよ、首」
 
「うわ、まじ? じゃあ都市伝説でよくある“紅い紐”ってそれ?」
 
「いやさー、茉莉ってさ、ああいうのガチで信じるタイプだったじゃん? 
 マジメというか、バカというか」
 
「てか、動画見た? 送られてきたやつ」
 
「見たけど、あれ完全に演出だよ。照明とかさ、
 音が入ってないのが逆に不自然」
 
「演出だとしたら悪質だよね。茉莉本当に死んだのにね」
 
千咲は無言で鞄を棚の上に置いた。
中身はノートと文庫本、ペットボトルの水。どれも昨日と変わらない。
なのに、触れるたびに違和感がある。
 
「真央は?」
 
ふと誰かが聞いた。声の主は宇田川だった。
千咲は視線だけを動かし、彼女を見た。
 
「今日、来てなくない? 
 昨日は一緒に茉莉と交番行ったって言ってたけど……」
 
「連絡、取れない」
 
千咲が静かに言う。
 
「未読?」
 
「うん」
 
堀川菜月が口をもぐもぐさせたまま言った。
 
「てか、警察って何かしてくれるの? 
 ああいうの。メッセージだけでさ、証拠ないんじゃない?」
 
「マジで死んでるんだよ?」
 
「でも自殺って処理されたって、Xで言ってる人いたよ。“フェイク動画”って
 タグもバズってたし」
 
歩夢がPCを回して見せた。
画面にはSNSの投稿が並んでいる。
 
『南秋大のやつマジで草』
『LANケーブルで死ぬ女子大生、令和最強の都市伝説』
『作り物感すげー、てかAI演出やろこれ』
『紅い紐ってワードだけでバズるのチョロい』
 
「……てかさ」堀川が言った。
「茉莉と交番行ったのって真央だったよね? でも“千咲と一緒だった”って言ってる奴いた気がするんだけど」
「あー、それ見た。写真じゃ分かんなかったけど、後ろ姿似てたわ」
「髪の長さとか輪郭とか、なんか雰囲気近いんだよね」
「服の感じも落ち着いてるし、パッと見で間違えてもおかしくないかも」

千咲は画面を見なかった。
かわりに壁のホワイトボードに目を向けた。
 
そこには誰かがマジックで書いたスケジュールがあった。
今月の活動予定。「第4週:都市伝説実地検証(キャンパス編)」とある。
 
誰が書いたのか分からない。
自分も一度は確認したはずのその文字が、
今日だけ異様に“意味を持って”見えた。
 
「千咲も、見たんでしょ。動画」
 
宇田川梓が、飲みかけの缶コーヒーを机に置きながら言った。
 
千咲は、わずかに息を止めた。
 
「……見たよ」
 
「怖くなかった?」
 
「動画だけ?それとも何か書いてあったの?」
 
「“次は、あなた”」
 
笑い声が起きた。冗談として処理されていく。
 
「じゃあ、千咲が次じゃんw」
「殺す? 殺される? 選べ~w」
 
「都市伝説研究会としてはさ、そこを実地検証すべきじゃね?」
 
「お前が殺される側でやってくれよw」
 
千咲はその声を背中で聞きながら、ノートを開いた。
中には、昨日のメモがある。
 
“紅い紐 結界性質?”
“都市伝説が自律進化する条件”
“動機なき殺意が連鎖する要因”
 
自分が書いた文字なのに、まるで他人の思考のようだった。
 
 
Scene4:真央の不在、空白の記憶
2025年12月15日(月) 午後01時02分。
南秋大学内キャンパス警察詰め所
 
午後の講義が始まる時間だった。
 
構内にはチャイムの音も、鐘の音もない。静かすぎて、
かえって自分の足音がやけに目立った。
千咲は文学部棟からゼミ棟を抜け、渡り廊下の先にあるキャンパス内交番を目指して歩いていた。
 
途中、掲示板が視界に入った。
 
「冬季休暇前 施設清掃のお知らせ」
「感染症予防にご協力ください」
「心理実験モニター募集(謝礼あり)」
 
その中に一枚、端がめくれかけた紙があった。
手書きでこう書かれている。
 
「失せもの求む:紅いシュシュ(毛混)
 3号棟女子トイレ前にて紛失。拾った方、学生課まで」
 
毛混のシュシュ。紅い。
無関係だと分かっていても、指が止まる。
 
足元のコンクリートに染みついた泥の痕。誰かの靴跡が、
歩幅もまばらに続いている。
その先で、小さな落し物。濡れた飴の包装紙が一枚、
くしゃくしゃになって潰れていた。
 
千咲は文学部棟からゼミ棟を抜け、
渡り廊下の先にあるキャンパス内交番を目指して歩いていた。

(……そういえば、うちの大学って、構内に交番があるのって珍しいよね。
昔、“紅紐事件”ってのがあった……学生が連続で亡くなって、それ以来、
大学と警察の間で安全協定が結ばれたって聞いたことがある。
……でも、それで本当に守れるものなんて、あるのかな)

交番の扉を開けると、チャイム音が鳴る。
 
中にいたのは、昨日と同じ警官——小瀬将人。
年齢は二十代半ばか、もう少し上か。柔らかい髪と愛想の良い口元。
その彼が、カウンター越しに顔を上げた。
 
「あっ、どうも。何か……?」
 
千咲は一瞬だけ黙ったあと、静かに言った。
 
「昨日の夜、芦原茉莉と佐原真央が、ここで相談を——」
 
「……ああ……んー……どなたでしたっけ?ああ、あなた昨日来てませんでしたっけ?え?…あなたが真央さんじゃないの?違いましたっけ?
うーん……ちょっと曖昧で……雰囲気が似てたような気がしたので
……ごめんなさいね」
 
千咲は、わずかに表情を動かした。
その名を“忘れる”という反応が、何より異常に思えたからだ。
さっきまでの空気とは、何かが違う。
 
まるで、茉莉と真央が
——最初からこの世に存在していなかったかのように。
言葉に詰まりかける警官の表情。眉間に浅い皺。
記憶をなぞろうとして、失敗した顔。
 
「紅い紐の話……LANケーブル……」
 
「あああ、それ? うん、来てたかな、そんな子。曖昧でごめんなさい。
 昨日いろいろあったから」
 
「いろいろ?」
 
「いや、ほら、何かあったじゃないですか、あの件。
 ネットで話題になってる……女子トイレのやつ」
 
女子トイレの“やつ”。
 
まるで、事故のような、あるいは都市伝説の一部のような言い方。
 
「で、結局、AI編集だったってことです。刑事課の方からの通達で」
 
「茉莉は、死んでるんですよ」
 
「……えっと、そうですね……確かに異常だったんですけど……上から“事件性なし”って通達があって。それ以上、動けなくて……
自分でも信じられなかったんです。あの映像、どう見ても……でも、なぜか記録も……抜けてるんですよ。あの日の報告……」

小瀬は、どこか納得しきれない様子で言葉を濁した。 
言葉を継ぐ間、小瀬が視線をカウンターの奥に向けた。
何かの指示を思い出そうとするように。だが、その先に答えはなかった。
 
「で…佐原さんは?」
 
「それが、記録が……あまりはっきりしていなくて。
 もしかしたら、帰ったのかもしれませんし」
 
千咲は沈黙した。
その間、交番の隅でプリンターが唸り、未使用のコピー用紙がトレイに吸い込まれていった。
カレンダーは12月。日付のマスに「◎」と「×」が何日か記されている。
 
「……何か分かったら、また来てください。
 こちらも、なにかあれば連絡しますんで」
 
名刺のようなものは差し出されなかった。
 
千咲は交番を出た。
空はまだ曇っている。
寒さは変わらない。だが、自分だけが別の世界を歩いているような感覚。
 
カバンの中で、スマホが振動した。
 
【Message_REVERB】
新着メッセージ:差出人不明
添付ファイル:《chisaki_gamma_rev2.mp4》
再生。
そこに映っていたのは、自分の部屋。
カーテンが閉じてあるのに、外から差し込む光が微かに揺れていた。
画面の隅に、自分が寝ている姿。
 
誰かが、スマホで撮影している。
画面がゆっくりと近づく。
自分が寝返りを打つと、画面に白い文字が浮かぶ。
 
「……視ているよ」
 
動画は、そこで終わる。
 

Scene5:自室の監視、記録される日常
2025年12月15日(月) 午後03時32分。
南秋大学女子寮・神谷千咲自室
 
部屋に戻ったとき、カーテンは閉じていた。
出かける前に閉めた記憶はある。けれど、今はその“記憶”すら曖昧だった。
 
神谷千咲は、玄関の鍵を二重に閉めた。
ドアノブを2回、確かめるように捻った。ガチャリ。カチリ。
玄関の小窓には目隠しのレースがかかっていたが、その布の端がわずかにほつれていた。
リビングのライトはつけなかった。
薄暗い。けれど、それが落ち着く。
蛍光灯の音。台所の時計のカチカチというリズム。
足元でフローリングがわずかに鳴るたびに、誰かが後ろにいるような錯覚に襲われる。
 
スマホの通知はまだ消えていなかった。
【Message_REVERB】
《chisaki_gamma_rev2.mp4》
再生ボタンは、既に紅い縁を帯びていた。
「開いてください」と言っているような気配。
 
千咲は、布団の縁に座り、スマホをテーブルの上に置いた。
そのまま、額を膝に預けるようにして丸まる。
画面から、音が流れてきた。
初めてだった。今までの動画には、音がなかったはずだ。
それは微かに、誰かの呼吸だった。
録音された、部屋の空気だった。
“ここ”の音だ。
 
彼女の寝ている姿。
シーツの皺。枕元のカップ、カーテンの動き。
撮った覚えがないのに、映っている。
 
その視点は、人間の背丈から撮影されている。
それが最も不気味だった。
機械ではなく、“誰か”がそこに立っていたという証拠。
 
映像の最後、画面が暗転する。
白い文字がゆっくりと浮かび上がる。
 
「……まだ、見ている」
 
千咲は、スマホを閉じた。
テーブルの木目が、汗ばんだ指で濡れていた。
彼女は台所へ向かった。
水を一杯、飲んだ。
ガラスのコップはうっすらと曇り、冷たい水の感触だけが現実だった。
 
カウンターに置かれた封筒。
誰から届いたのか、記憶にない。
紅い線で宛名が囲まれていて、中には白紙の便箋が入っていた。
何も書かれていない。ただ、紙の隅に埃のような紅い繊維が一筋ついていた。
 
彼女は封筒を戻し、引き出しにしまった。
鍵はかけなかった。
意味があるのか分からなかった。
 
部屋の隅、観葉植物のポトスが一部だけしおれていた。
数日前に水をやったはずなのに。
葉の裏に小さな虫の痕。
そういえば、昼間に小さな羽音を聞いた気がする。
 
そんなことを思い出している自分が、異常なのかどうか分からなかった。
 
スマホが震えた。
通知音ではなく、音声通話の着信音。
 
差出人:Unknown
 
着信画面には何も表示されていない。番号も、アイコンも。
ただ、電話のボタンだけが淡く明滅している。
 
千咲は、それを見ていた。
5秒、10秒、20秒……
出なかった。
 
やがて、着信は切れた。
 
数秒後、留守番メッセージが届く。
 
再生すると、音声はなかった。
けれど、再生バーが少しずつ進んでいる。
 
何もない、1分間。
 
その沈黙の中で、部屋のどこかから“カチッ”と音がした。
コンセントか、家具か、あるいは——別の何か。
 千咲は、目を閉じた。
 

Scene6:無視できない“誰かの声”
12月16日(火) 午前07時32分。
LINE通知。
 
【都市伝説研究会】グループチャット
 
宇田川梓:
≪ちさきー? 最近顔色ヤバいって。寝てる?≫
 
伊藤歩夢:
≪真央まだ来てないよね? もしかして連絡きた?≫
 
堀川菜月:
≪てかさ、マジな話だけど……“次の番”って、アンタの名前じゃね?w≫
 
千咲はスマホを見つめた。
既読をつけるかどうか、数秒だけ迷い——つけた。
 
その直後、再び通知。
 
堀川:
≪うわ、既読早w 監視してたんかよww≫
 
伊藤:
≪てか動画って見たんでしょ? 最後、ホントに“あなたの番です”って書いてあったの?≫
 
宇田川:
≪なんかそれ、都市伝説で昔あったよね。“名前を呼ばれたら死ぬ系”≫
 
堀川:
≪ねーちさき、今なにしてんのー?≫
 
千咲は、返信しなかった。
誰かの指が、背中をなぞっているような錯覚。
部屋の外から聞こえる“誰かの笑い声”。
 
それは、誰でもなかった。
ただ、“聞こえる”という事実だけがあった。
 
スマホに新着メッセージ。
 
【Message_REVERB】
差出人:Unknown
添付ファイル:《countdown_chisaki01.mov》
 
 
Scene7:カウントダウン
2025年12月16日(火) 午前08時12分。
南秋大学女子寮・神谷千咲自室
 
再生ボタンを押すと、画面が真っ白に変わる。
 
そこに、紅い文字がひとつずつ現れる。
 
「残り時間:23時間58分」
 
その文字は数秒ごとにカウントされる。
背景には、何も映っていない。音もない。
ただ、時計のように刻まれるタイムスタンプ。
 
23:58:12
23:58:11
23:58:10
 
数字が進む。
否、減っていく。
時間は、失われる。
 
画面の奥、まったく関係のないような音が微かに聞こえる。
スリッパで床をこする音。
誰かの咳払い。
水道のしずく。
 
映像が終わると、スマホの画面には何も表示されなくなった。
 
千咲はベッドに横たわった。
毛布の端を胸元まで引き寄せる。
そのまま、ただ、目を閉じた。
時計の音が、どこかで鳴っていた。
それはアナログなのか、デジタルなのか、判断できない音だった。
 

 
そして部屋の奥、机の上で
スマホがもう一度震えた。
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