拾ってくれたスパダリ(?)が優しすぎて怖い

澪尽

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 今日の昼食は、トマトにレタス、冷しゃぶを挟んだサンドイッチ、それと保冷剤代わりのミートボールとグラタン。朝、仙崎が詰めて手渡してくれたお手製ランチだった。彩が美しくて、野菜と肉のバランスが嬉しい。野菜は水っぽくないし、冷しゃぶも油が濃すぎず、とても口当たりがいい。次の授業に備えて大講義室でひとり、味わうようにゆっくりとたいらげたそれは、空腹どころか心まで満たしてくれるようだった。きっと元々料理が好きなのだろう質のいい食材を使用していることはもちろん、調理技術の高さも窺えた。キッチンには、何に使うのかわからない調理器具や高級そうなフォルムのピーラーや計量カップが並んでいた。

 そっと胸の前で両手を合わせて「ごちそうさまでした」と呟いたとき、机に置きっぱなしだったスマホが軽く振動した。指紋認証でロックを解くと、現在時刻の下にアプリの通知がいくつか並んでいる。一番上に鎮座した『仙崎』の名を見止め、朝哉の胸がどきりと高鳴った。朝、何かあったときのためにと連絡先を交換し合っていたのだ。

「ええと……『大学終わったらここ寄れる?』……?」

 メッセージの下には、駅の裏手にある美容室のリンクが貼られていた。仙崎の職場らしく、そういえば寝ぼけた頭で美容師をしているのだと聞いたような気がする。

 ――ああ、弁当箱を返しに来いってことかな。

 大学と仙崎の家の中間にある美容室の方が、互いの負担が少ない。仙崎はまた来客を迎える必要がないし、家を追い出された朝哉に至ってはもうあの住宅地へ向かう理由がない。再び駅へとんぼ返りしてネカフェに行くことになるため、ありがたい申し出だった。

 『分かりました』と返信し、一応、都合のいい時間を尋ねておく。途中、駅前かどこかでお礼の品を用意しようと思い至った。趣味や嗜好が分からないからかたちに残るものは除外して、消費しやすい無難なものがいい。そこまでは考えつくけれど、具体的な品物は浮かんでこなかった。

 こういうとき、自分の人生経験の浅さを思い知らされるようで少し落ち込む。可愛がってくれている先輩や、多趣味で年齢を問わず知人の多い友達に連絡してみようか。

 トーク画面を開いて、そこで指がぴたりと止まった。

 なぜか、他人に頼ることに躊躇いを感じる自分がいた。いつも他人の意見を参考に、流れに逆らわずに過ごしてきて、その方が自分で選ぶよりも良い選択が出来ると思っている。二十歳を過ぎても自分の決定に自信が持てない。
 そんな中で、仙崎との出会いは晴天の霹靂というか、朝哉にとってとてつもなくイレギュラーな出来事だった。ただ流されたのではなかった。言葉も交わしたこともない、怪しげな人物を、自分の意思で信用したのだ。そのためかは分からない。ただ何となく、彼との関係は最後まで自分一人の選択で区切りをつけたい、と思った。まるで自分というものが存在しない性格が嘘のように、他人に介入されたくなくて胸がざわざわする。

「……よし」

 朝哉は僅かに表情を強張らせながら、トーク画面を閉じた。
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