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警察での聴取を終え帰宅したのは、夜もすっかり更けてからのことだった。話せたことはそう多くはない。掲示板の書き込みへの件も打ち明けたが、特に叱責などもなく流された。被害届を提出し、今後は家族とも連絡を取り合いながら話を詰めていくことになりそうだ。
「すみません、仙崎さんまで巻き込んでしまって……」
「いやいや、怪我がなくてよかったよ。……しかし、まさか強硬手段に出るなんて思わなかった。ごめんね、一応、形だけでも警察に相談しておくべきだったんだ」
食欲のない中、コンビニ飯をどうにか胃に押し込め、二人はソファの上でくつろいでいた。
「そんなことないです! 俺が優柔不断だったから……あの、俺、仙崎さんに謝らなくちゃいけないことがあって……」
「何だい?」
「……お、俺、途中まで、ストーカーが仙崎さんなんじゃないかって……失礼なこと考えたりしてました、すみません!」
がばりと頭を下げると、少しの間の後、くつくつと喉の奥を鳴らすような笑いが聞こえだした。
「ふ、ふふっ……いや、ごめん。言わなくてもいいことだろうに、素直で健気だなって」
「あっ……すみません……」
「いや、まあ、半分遠からず、だし」
狼狽する朝哉の顎をそっととられたと思った次の瞬間、口の端に、軽く触れるようなキスを落とされた。
「……え……い、え……⁉」
「キミのことを、そういう意味で好きなんだ」
突然の告白に眩暈がしそうだ。夢でも見ているのだろうか。
「怯えさせたくなくて堪えてたけど、案外まんざらじゃないように見えて、色々思い出したら可愛くて、つい」
「えっ……えっ……」
「あはは、急すぎたよね、しかも吊り橋効果が凄い時に、卑怯な真似してごめん。今日はもう――」
今を逃したら、臆病な自分は今後しばらくこの想いを伝えることなんてできないだろう。立ち上がろうとした仙崎の腕に咄嗟にしがみつき、舌を噛みそうになりながら、朝哉は必死に声を紡いだ。
「おっ俺も……! 俺も、仙崎さんが好き、です!」
仙崎は間の抜けた顔をして、幾度となく目を瞬かせた。
「……本当に?」
「ほんとう、です」
「無理をしているわけじゃ」
「ないですっ!」
ぶんぶんと首を横に振り、勇気を振り絞って自ら顔を寄せ、ぶつかるような口づけを交わす。
「ん……んんっ、ん……」
即座に離れようとしたのに、頭を抱えられて身動きを封じられてしまった。固く閉じた口を、舌の先で、口唇で啄むように解され、根負けした。薄く開いた口を覆うように深いキスに溺れてしまう。ぬるつく表面をくすぐられると、背筋をぞくぞくしたものが伝って腰へ沈んでゆく。優しく確かめ合うような口づけは、曝け出したものを受け入れあうようで、とても心地よかった。
ぐいぐいと押しやられる力に抗えず、気づいた時にはソファへ押し倒されていた。
「っん、ふ……ぁ……」
――う、わ、これ、やばいのかも。
覆いかぶさる仙崎の瞳が、そういう欲に濡れているのが分かる。何度も向けられた覚えのある視線だ。あれだけ嫌悪していたはずのものが、全く忌まわしくない。むしろ、嬉しいとさえ胸が高鳴る。
「……なんか、すごくいけないことしてる気分だな。怖い思いをして吊り橋効果を勘違いしてるきみを、丸め込んで手籠めにしようとしてる、みたいな」
茶化すように言うわりに、仙崎の目は真剣そのものだ。その言葉が朝哉に逃げ道と拒否権を与えようとしているのだということにはすぐ気づけた。
仙崎が、少なくとも今この時は、本当に朝哉に想いを寄せてくれているのだということも。
それを拒むなんて選択肢は、朝哉にはなかった。
「すみません、仙崎さんまで巻き込んでしまって……」
「いやいや、怪我がなくてよかったよ。……しかし、まさか強硬手段に出るなんて思わなかった。ごめんね、一応、形だけでも警察に相談しておくべきだったんだ」
食欲のない中、コンビニ飯をどうにか胃に押し込め、二人はソファの上でくつろいでいた。
「そんなことないです! 俺が優柔不断だったから……あの、俺、仙崎さんに謝らなくちゃいけないことがあって……」
「何だい?」
「……お、俺、途中まで、ストーカーが仙崎さんなんじゃないかって……失礼なこと考えたりしてました、すみません!」
がばりと頭を下げると、少しの間の後、くつくつと喉の奥を鳴らすような笑いが聞こえだした。
「ふ、ふふっ……いや、ごめん。言わなくてもいいことだろうに、素直で健気だなって」
「あっ……すみません……」
「いや、まあ、半分遠からず、だし」
狼狽する朝哉の顎をそっととられたと思った次の瞬間、口の端に、軽く触れるようなキスを落とされた。
「……え……い、え……⁉」
「キミのことを、そういう意味で好きなんだ」
突然の告白に眩暈がしそうだ。夢でも見ているのだろうか。
「怯えさせたくなくて堪えてたけど、案外まんざらじゃないように見えて、色々思い出したら可愛くて、つい」
「えっ……えっ……」
「あはは、急すぎたよね、しかも吊り橋効果が凄い時に、卑怯な真似してごめん。今日はもう――」
今を逃したら、臆病な自分は今後しばらくこの想いを伝えることなんてできないだろう。立ち上がろうとした仙崎の腕に咄嗟にしがみつき、舌を噛みそうになりながら、朝哉は必死に声を紡いだ。
「おっ俺も……! 俺も、仙崎さんが好き、です!」
仙崎は間の抜けた顔をして、幾度となく目を瞬かせた。
「……本当に?」
「ほんとう、です」
「無理をしているわけじゃ」
「ないですっ!」
ぶんぶんと首を横に振り、勇気を振り絞って自ら顔を寄せ、ぶつかるような口づけを交わす。
「ん……んんっ、ん……」
即座に離れようとしたのに、頭を抱えられて身動きを封じられてしまった。固く閉じた口を、舌の先で、口唇で啄むように解され、根負けした。薄く開いた口を覆うように深いキスに溺れてしまう。ぬるつく表面をくすぐられると、背筋をぞくぞくしたものが伝って腰へ沈んでゆく。優しく確かめ合うような口づけは、曝け出したものを受け入れあうようで、とても心地よかった。
ぐいぐいと押しやられる力に抗えず、気づいた時にはソファへ押し倒されていた。
「っん、ふ……ぁ……」
――う、わ、これ、やばいのかも。
覆いかぶさる仙崎の瞳が、そういう欲に濡れているのが分かる。何度も向けられた覚えのある視線だ。あれだけ嫌悪していたはずのものが、全く忌まわしくない。むしろ、嬉しいとさえ胸が高鳴る。
「……なんか、すごくいけないことしてる気分だな。怖い思いをして吊り橋効果を勘違いしてるきみを、丸め込んで手籠めにしようとしてる、みたいな」
茶化すように言うわりに、仙崎の目は真剣そのものだ。その言葉が朝哉に逃げ道と拒否権を与えようとしているのだということにはすぐ気づけた。
仙崎が、少なくとも今この時は、本当に朝哉に想いを寄せてくれているのだということも。
それを拒むなんて選択肢は、朝哉にはなかった。
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■執筆過程の一部にchatGPT、Claude、Grok BateなどのAIを使用しています。
使用後には、加筆・修正を加えています。
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