夜明けの丿怪物

カミーユ R-35

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第12話『汚れた轍』

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ハッ…とした時、ソラの後ろで誰かの呻き声が聞こえ慌てて振り返るとそこには拳銃を持った見知らぬ男性が倒れていた。(う、撃たれたのかと…思った⁉)ソラは自分に向けて発泡したと思いギョッとしたものの結果的に自分では無かったことに安堵した。すると目の前にいた任堂が何故か怖い顔で眉をひそめて言った。
「まさかこの銃でお前さんを撃つと思って勘違いしたな」図星を突かれソラは口籠る。(え…表情に出てた?)
「ち、違うんですか?」あまりにも鋭い指摘を受けたのでドキドキしていると、任堂が呆れた口調で「俺がお前さんを撃つわけねえだろうが」と不機嫌に言われた。まるで心外がとでも言うかのような表情でだ。

「あ……。すみません、僕の早とちりでしたね。ははは…」ソラは一様疑問が解決し安心したのだが、まだ任堂の険しい表情が残っている。
「どうしたんですか?えと……そんなに怖い顔でこっちみないで下さい」まだ怒っているのかと思い、すると、何故か任堂は暫くこちらを睨んだあと溜め息をついてこう答えたのだ。

「ああ、すまない。お前さんを見てるとつい昔の事を思い出させるからつい…な」(昔のこと?)ソラはなんの事やらと頭を傾げ任堂の発言に疑問符を浮かべると、それに対し任堂は「気にするな」と言った。しかし気にするなと言われたら余計気になるもので、ソラはどうにか聞き出そうとしていた。

「でも気になります。教えてくださいよ」任堂は数秒考え混む仕草をとると、少し間をおいてからやっと重い口を開いた。
「お前さんと同じ感じの子が昔いたんだよ」予想だにしなかったその発言にソラはびっくりした。それは単なる驚きでは無く、彼の口から他人の事を聞いたのは初めてだったからだ。

「昔いたって……その人は今どこにいるんですか?」その質問の意図は多分単なる好奇心だったと思う。ソラは『自分と同じ感じの子』とはどの様に同じなのか。興味を抱き、食い気味に質問した。すると任堂は怪訝そうな顔でどこか遠い場所の方を向いた。「ああ、そいつはな……」その時だった。
遠くの方から、銃声が聞こえソラは驚き、固まる。しかし任堂は焦るどころかソラの方を見てこう答えたのだ。
「もういないよ。この世界にはもうな」
「え?それってどういう……」
「さあな……。もう昔の事だし忘れちまったよ」



----夜が完全に染まり出した頃、何処かで足音がし、唐突に響いた声に、ソラと任堂は振り返る。そこには一人の女性が立っており、こちらに向けてゆっくりと近づいてきた。
「誰だ」任堂は問う。それに対しその女性は淡々と答えた。
「私はずっとあなた達を監視していた者よ」その言葉に驚きつつも、任堂が口を開く。

「いつからだ」するとその女性は表情を変えずこう返した。
「最初からよ」その言葉を聞き任堂は舌打ちをする。そしてソラに向かってこう告げた。
「お前さん、早く逃げろ!」その言葉に反応し、一瞬戸惑うも直ぐに理解したようで慌てて走り出そうとしたが、自分の顔すれすれに弾丸が通り、足を止める。「なっ!?」ソラは驚き声を上げ後恐怖で立ち止まる。

「ああ、残念」女が呟くと同時に、背後に気配を感じたソラは恐る恐る振り向くと任堂がコチラを背に立っていた。
「任堂さん?」一瞬ソラの声に反応したがそれも直ぐに消え、任堂は何も言わずに敵の方を睨んでいた。
「お前は誰だ」
「さぁ。普通聞かれて馬鹿みたいにペラペラ喋ると思う?」女は余裕そうに、妖艶な笑みを浮かべる。
「だろうな」
「フフッ、でしょうね」二人が話している間にソラは急いで距離を取りつつ逃げる機会を伺っていた。だが、そんな簡単にはいかないだろうと思い警戒をしながら様子を見守っていると任堂が口を開いた。

「米系華人にしちゃ、日本語が堪能なんだな」任堂の嫌味に対し女は怒るどころか嘲笑した。
「それはそうよ。私はここで生まれたもの」その言葉を聞いた瞬間ソラの脳に衝撃が走る。(え?米系華人ってならあの人は米国人って事?)そんな事を悠長に考えている間にも状況は進んでいく。
「なるほど…。通りで何か嫌な感じの正体が掴めた」

「へえ?」女は興味深そうに尋ねる。それに対し任堂は不敵な笑みを浮かべながら告げた。
「お前さん、合衆国の殺し屋だな」
「あら。正解よ」その発言にソラはまたもや驚くが同時に納得した。(なるほど確かにそれなら納得だ)だが任堂の発言に対しては不服があるらしく女は少し眉間にシワを寄せた。
「でもちょっと違うわね。私は米国人じゃないし、ましてや米帝でもないわ」
「なら何だ」
「私はね、ただの雇われなの。だから雇い主に命令された事だけをするだけ。私の意思なんて関係ないのよ」
「雇われだと?誰にだ」任堂の問いに女は淡々と答える。
「誰だと思う?」何処か楽しげに言う女に任堂は興味無さそうに「さあな」と答えた。
「あら残念」「だが、一つだけ言えるのは、お前はもう終わりだ」その言葉に対し女は鼻で笑う。
「それはどうかしらね?」すると任堂は懐に手を入れ何かを取り出した。それを見た途端ソラは嫌な予感を感じ取る。(あれってまさか!?)その予想は当たりだったようで、女が一瞬驚いた後すぐに笑みを浮かべた。
「あなた、それを何処で手に入れたの?それかなり貴重な物よね?」
「さあな」任堂が取り出したのは拳銃だ。しかもただの拳銃ではない。『M1911』それは米帝特殊部隊が正式採用している拳銃。だかソラはその手の物は無知だ。(正直あの拳銃がどんなに凄いものか知らないけど、あの女の人が驚くくらいだから相当な代物なのだろう…)だが何故そんな物を持っているのかという疑問より、ソラは女の表情の方が気になった。何故なら先程まで浮かべていた余裕に満ちた笑みではなく何処か焦燥しているように見えたからだ。

「ねぇ…取引しない?」「取引だと?」女は頷く。「そう、私達の目的はあなたが持ってるホンラン・マオの情報。だから、その情報を私達に譲ってくれないかしら?」
「断ると言ったら」
「殺すわ。そしてあなたを殺した後、後ろの彼もね」女の言う『後ろの彼』とはきっとソラのことに違い無い。ソラはまさか自分が殺される立場になるとは思ってもいなかったのでかなり焦っていた。(死ぬ…の?僕)不安げに任堂を見ると彼はただ黙って敵を見ていた。

「ねぇ、どうなの?悪い条件じゃないと思うけど」女は再度問いかける。だが任堂は何も答えずに黙ったままだ。(どうするんだろ…任堂)ソラが任堂の返答を待っていると、彼はゆっくりと口を開いた。
「なるほどな」任堂は鼻を鳴らすと拳銃を構え、引き金に指をかける。それを見た女は青ざめた顔で後退りをするが、それでもなお強気な態度でいる。
「あら?私を殺す気?」だが、そんな女に対し任堂は冷静に答える。
「ああそうだ」すると女は突然笑いだした。
「フフッ…あはは…」その反応にソラは動揺し、任堂も怪訝そうにしている。だが女はそんな二人など気にせず笑い続けた後、こう告げた。「馬鹿ね」その言葉を聞いた瞬間、ソラが小さく悲鳴をあげた。それに気づいた任堂だが、既に遅かった。いつの間にか背後を取られたソラの首には女の部下らしき男の腕が宛がわれている。

「や、やだ!」ソラが抵抗するも男はびくともしない。
「あら?随分と威勢が良いわね、彼」女は楽しそうにその光景を見て笑う。しかし次の瞬間、ソラを拘束していた男がナイフを取り出しソラの首へと突き付けた。
「動くな」その一言でソラは動きを止め、恐怖で体が震える。そんな光景を見た任堂は舌打ちをした。


「ソイツから手を離せッ」低く唸るような声を出す任堂に対し女は笑う。
「それは無理なお願いね」そう言うと、ソラの首元にナイフを当てている男がそのまま動かないようにと告げると、女は言葉を続けた。
「分かってる?どちらが有用か、そしてどちらの命が軽いのか」「ッチ……クズどもが」
「あらありがとう」嘲笑する女に任堂は眉のシワを深めた。
「じゃあ取引の前に、今貴方が持ってる拳銃をコチラに…。話はそれからよ」そう言って任堂に近付く女だったが、任堂は少し考えた後、素直に渡した。「あら、素直ね」女が意外そうな顔をするが、気にせずこう続ける。

「じゃあ取引の続きだけど、さっきも言ったように、私達の目的はあなたが持つホンラン・マオの情報。それを素直に渡してくれたら人質を解放するわ。どうかしら?」女の提案にソラは眉を顰めた。だがこの取引に応じなければ確実にソラが殺されるかもしれないと思い悩んだ末、任堂は了承した。
「良かった。貴方は賢い人だから賢明な判断が出来る人だと信じてたわ」嬉しそうにに目を細める女を見て、任堂は鼻で笑った。
「何が賢明だ。ただの卑怯者だろ」すると女が鋭い眼光で任堂を睨みつけた。「何よ?」
「何がだ?俺は事実を言っただけだが」
「意地の悪い人……」女は静かに言うとそれ以上何も言わなかった。しかしその直後女の態度が一変した。まるで別人のように冷酷な表情になったのだ。
「でも残念ね。貴方もこの子と同じ末路を辿るんだから」その発言にソラは驚きを隠せなかった。(え!?僕と同じってどういう…)だが、そんなソラの疑問など関係無いと言うように任堂が鼻を鳴らす。
「そうか」
「そうよ」女はニヤリと笑うと、そのままナイフを任堂へ向け勢いよく振りかざした。その光景に驚いたソラは「だ、駄目⁉」だと叫ぶと同時に、女の身体に銃弾が貫いた。
「え?」女の身体からは血飛沫を上げゆっくりと膝から地面に崩れ落ちた。

「な⁉」何が起こったのか理解が追いつかず混乱しているソラに対し、後ろにいた男にも一瞬隙ができ、その隙をつきソラは男の拘束から逃れる。男も驚き直ぐにソラを捕まえようと手を伸ばした時、もう一つの銃弾が放たれる。
「な!?誰だ!」男が叫び、銃弾の飛んできた方向を見るとそこには先程女が回収した筈の拳銃を構えた任堂の姿と、もう1人の影があった。
「任堂さんッ!援助が遅れてすみません!」暗がりの中から拳銃を構えながらこちらに近づく赤髪の男が突如現れると、男は勝ち目が無いと分かり、すぐさま両手を上げその場に跪いた。(助かったのか?)ソラが安堵のため息を洩らす中、任堂は何も言わず銃口を向け、そのままトリガーを引いた。(えっ⁉)銃弾が男の肩に当たり痛みに悶えた声を上げる。
「ギャアァッ!」痛々しい悲鳴と共に、ソラの脳に最悪の光景が甦る。
「な…何で」思わず駆け寄る足が止まった。すると任堂は冷たい視線をソラに向け一言こう言った。
「ソラ…コッチに来い」その迫力に気圧されたソラは何も言えず、ただその場に立ちすくんでいた。すると男の方は撃たれた肩を押さえつつ立ち上がり、そのまま逃げ去ろうとした。だがそれを見逃す程任堂は甘くなかったようで、赤髪の男はすぐさま発砲し男の足を撃ち抜く。
「うあッ!」男は倒れ込み苦悶の表情を浮かべるが、そんな男に構うこと無く赤髪の男は拳銃を向けたまま質問を投げかけた。

「お前達の目的は何だ」すると男は痛みに悶えながら必死に口を動かそうとする。だが上手く言葉を発せないようだ。それを見て再び質問した。
「もう一度聞くぞ、目的はなんだ?」その問いに対して男は何も答えない。
「おい、答えろ」
「あの女の言う通り、ホンラン・マオの情報を手に入れろと言われただけで、俺はただ雇われてやっただけだ!」男の返答に任堂は小さく舌打ちをする。
「そうか、答えたくないならもういい」そう言うと任堂はソラの方へ視線をやるが、ソラは目を逸らした。そんな反応を見て任堂は再び男に銃口を向けた。それを見た男は慌てるが、それでも口を開こうとしない。すると再び発砲音が響き渡り、男の反対の足から血が吹き出す。
「うあッ!」痛みに耐えきれず声を上げる男に対して任堂が冷たく言い放った。
「次は頭だ」その一言に恐怖を感じたのか男はやっと口を開いた。
「お……俺達はただ雇われただけだ!俺達は金儲けのためにやってるだけなんだよ!」
「で、その雇い主とやらの名前は?」その問いに男は首を横に振った。
「し、知らねえ!本当だ信じてくれッ」涙目になりながら必死に訴えかける男に対して任堂は再び銃弾を放った。放たれた弾丸は男の身体に命中するも致命傷には至らず、銃弾が掠った箇所からは血が流れる。顔を背けていた為、その光景を見ることは無かったが、やはり間近で聞く銃声に恐怖を感じざるを得なかった。(あんなのが僕に向けられていたと思うとゾッする……)しかし任堂はそんなソラの心情などお構い無しに、今度は銃口を男の頭へ向けた。

「し、知らないんだ!本当だ信じてくれよ」男は必死に命乞をするも任堂は冷たい声で言い放つ。
「ならもう用は無いな」
その一言で男の表情が絶望へと変わった───…。
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