夜明けの丿怪物

カミーユ R-35

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第14話『ぬくもり』

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【菅本視点】
(まだ寝ているだろうか…?)そう思いながら、律儀に扉の前で声を掛ける。するとかぼそい声で「だ、誰?」との声が返ってきた。菅本は少し驚いた。(起きてたのか…)菅本の予想ではもう暫くしないと目が冷めないと見込んでいたからだ。

「菅本です」そう伝えれば、少しの沈黙のあと震える声で「か、帰って……お願い!今は誰とも会いたくないんです」と返事が返ってきた。(正直、一般人の彼からすれば、あの様な事件に巻き込まれるとは災難でしょうがない)しかしこのまま引き下がる訳にもいかず、強引に話を持っていた。

「ですが、一様顔色くらいは見させてもらいますよ」相手の了承も得ず、私はガチャ…部屋の扉を開く。すると目にしたものに私は驚いた。何故ならそこにいたのは、布団の上でカタカタッと小さく震えいるソラさんが居たから。(声のトーンからして、まだ恐怖心が抜けきれてないとは思っていたが…)『まさか泣いてる』とは思わなかった。私は彼の側に近付き菅本は安心させる為、直ぐにいつもの優しい顔を作る。

すると今度はソラさんが驚いた表情を見せた。そしてソラさんから出てきた言葉は『すみません』だったと思う。私は敢えてソラさんの言葉を聞き直さなかった。何故なら、ソラさんが謝る理由など何一つないからだ。(悪いのは、任堂さんに喧嘩を売ったUGMの連中だ)

「私がもっと早く駆け付けていれば、こんなことには」謝る菅本にソラは慌てた様子で「な、何言ってるんですか?菅本さんは何も悪くないですよ」と言った。(ああ…貴方は素直で優しい方なのですね)菅本でソラの純粋な優しさに心打たれた。(この純粋さが、いつまで続けばいいですが…)

「もしよければですが私と少しだけお話し致しませんか?」ソラさんの表情を見ても、まだ恐怖心が抜けきれていない様子が見て取れる。それに彼の目の下には薄っすらクマが出来ており顔色も悪い。(これは酷いな)彼に今必要なモノは『時間』と『安らぎ』だ。今のソラさんは精神が不安定な状態で、まだ夢の中にいるようだった。私は正直今この場は余り得策ではないと感じてはいた。だが彼をこのままにしておく訳にもいかず、菅本はソラさんに提案をしたのだが……。どうも私の提案に驚いている様子。たがしかし少し考えた後彼はやや小さめに頷ずいてくれた。(良かった…)

久しぶりに、任堂さん相手以外に緊張する者が現れるとは…。(任堂さんが惚れるのも頷ける)私は近くにあった椅子に腰掛けた。(さて…どんな話をしようかと思い悩んだが、取り敢えず彼の好きな物の話題を出すことにした。
「ソラさんは元々カメラをやっていたそうですね。お好きなんですか?」その質問にソラさんは答える。
「はい、好きです。でもカメラはあくまで趣味の範囲ですけどね」力無く笑うソラさん。どこか意味有りげな雰囲気にも関わらず、菅本はにこやかに続ける。

「良いじゃないですか、趣味でも。私も少し興味がありますよ」コレは適当だった。相手の興味を引くにはまず、自分が興味あるとアピールすることです。

「そうなんですか?」
「はい、私の場合、ソラさんのように本格的なカメラは持ち合わせていませんが、偶にふと…空を見上げた時。綺麗な夕焼け空とか風景とかは撮ったりしますね。まぁ スマホのカメラですけどね」私の方便にも彼は、素直に喜んだ。(単純…。と言えば少し聞こえは悪いですが、その純粋さ故の愛らしさが湧くと言うもの)するとソラさんの表情が少しだけ明るくなったように感じた。
「……意外です」(でしょうね)全ては、ソラさん
を少しでも楽しませる為の嘘。いえ、方便です。
「ええ…そうでしょうね。この手の話は誰にも言ったことが無かったのでね」少し自嘲する様に肩を竦める。そんな私の仕草をソラさんはまた『意外』という顔をしていた。だが直ぐに元の表情に戻れば小さな声で「……僕も同じかもしれません」と呟いた。その返しに私はついまた笑ってしまう。
「ところでソラさんは、どの様なきっかけで撮るようになったんですか?」今度は違う意味で驚いている様だった。本当に感情表現が豊かな方だと改めて思う。(そろそろ本題に入るか)
「……多分、父の影響だと思います」どこか遠くを見るようにソラさんは言った。
「父様ですか?」
「はい、父はカメラマンでした」(調べによれば確かソラさんのお父様は世界的な写真家さんで、お名前は「桜庭 総真」さん……か)お恥ずかしい限りですが、私は名前しか存じ上げない。私が言える事はただ一つ。

「それは、凄いですね」率直に思った事を口にした。すると、ソラさんの反応は悪くない。寧ろ、どこか嬉しそうな表情だ。
「では今も?」本当は知っていた。彼の親御さんは既に……。(きっと彼はこの回答を望んでいないはずだ)しかし、私は敢えてこう言うのだ。彼は少しだが、少しだけ躊躇いつつ答えた。
「いえ、父も母も既に亡くなりました」

「えっ?」ソラさんが今どんな気持ちでいるのかは想像もつかない。その事を考えると胸が痛いが私は努めて平静を装い「そう……でしたか。すみません、辛いことを聞いてしまいましたね」と言葉を零す。しかしソラさんは謙虚にも『気にしないでくれと』おっしゃった。(可愛そうな子供。天涯孤独で、親戚の身内に売られた挙げ句、拐われて戻ってきた途端銃撃戦に巻き込まれ。その挙句に唯一の肉親が亡くなっているなんて)不幸だ、と思った。いや、これは私の思い上がりなのだろう。だが、この子供が今まで経験して来たことを考えればそう思わずにはいられない。

「もしよろしければ聞かせて頂けませんか?貴方の過去を」彼は本当に強い子だと感じた。(だからこそ、私はこの子の心の拠り所にでもなれれば、と…)
不意に言われた私の言葉に少し驚き目を丸くさせた。しかし少しの沈黙のあと、彼はゆっくりと口を開き少しづつ語り始めた。自分の過去や……。父がどんな人だったか、母との出会いや別れの日のこと、そして事故の事など自分が聞いた話を大まかに話し終えると少し間を置いた後、私は理解する。彼の心を知る。
「いえ、大丈夫です。"もう過去"のことですから」強い口調で彼は言う。私の目を真っ直ぐに見つめながら……。『過去……と』
その目を見て、私は再確認させられる。彼は本当に強い子だと。だから私は彼に言ったのだ。
「貴方の夢何ですか?」するとソラさんは少し驚いたような顔をした後、直ぐにこう言った。


「僕の夢ですか?そうですね……今は特にありませんけどいつか撮りたいものが撮れたら良いなって思います」少し困った様に、けれどどこか嬉しそうな笑みに私は思わず見惚れてしまうのだった。そんな私に気付いたのか、少し恥ずかしそうに顔を背ける姿がまた何とも可愛らしく思えた。(任堂さんにもこの表情を是非見せてあげたかった)内心で悶えつつ、少しだけ冷静になると私は落ち着いた口調で言うのだ。
「そうですか、"叶う"と良いですね」そう彼に言うと彼は満面の笑みを浮かべるそんな彼の純粋な笑顔を見て自然と私も釣られてしまうのだった。それから私たちはまた他愛ない話を続け、ソラさんとの距離も少しだけ縮まった様な気がした。
「では私は、これで失礼させて頂きます」と言い残し部屋を後にした。



一人になった部屋の中で少年は思い出す。初めて誰かに自分の過去を話した事をそして自分自身のことを語れた事に対しての幸福感を。
「僕の夢か……叶うと良いな……」そう呟いた後、少年はベッドに潜り込むと直ぐに眠りについた。
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