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第1章 遭遇
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湿り気の残った生ぬるい風が、少しずつ体に纏わりつきだす季節になった。昼下がりの学食で、いつもと同じ会話を繰り返す。
「おはよー」
日差しのような、琉依の明るい声、
「……早……?」
周はそれに疑問を投げ掛け、
「……もう昼過ぎだぞ……」
呆れたように、秀人が返す。
普段との違いは、
「なんか、岡さんテンション高いね」
琉依の様子がいつもよりご機嫌であることだ。
「実はねえ……」
本に視線を落とし、素っ気ない素振りを見せる秀人は、碌な話を持ってこない彼女の二の句を待つ。
「じゃじゃーん、これ見て!」
琉依は、とにかく嬉しそうに、持っているリュックサックから一枚のパンフレットを取り出す。
「……若葉学園創立五十周年記念特別講演……?」
周はパンフレットの文字を読み上げる。秀人は相変わらず、本ばかり読んでいる。
「そうそう! 講師で横溝 誠也先生が来るの!」
その言葉を聞き、秀人の肩が僅かに跳ねる。しかし、微妙すぎる変化に、二人が気付くことはなかった。
「最近テレビでよくみる人じゃん!」
横溝誠也ーー余りニュースに関心のない周でも、その名を聞いたことがある。心臓外科の神様と称される程の腕を持ち、国内外で、手術の予定に追われているとかーーその人物が、自分達の学校にやってくるのだ。
「すごいお医者様なんだよー!」
琉依は声を弾ませ、
「確かに気になる!」
周は野次馬根性を滲ませる。その間、秀人の手は、ページを捲ることを忘れていた。
「そういえばね」
来る有名人に夢中になり、すっかり本題を忘れていたとばかりに、琉依は会話を持ち直す。
「秀人くんって、何か好きなものあるの?」
「……」
嬉々として問う琉依に、秀人は反応を示さない。正に、心ここに在らずといったところか。
秀人が論文で快挙をあげたのは、今から1ヶ月程前のこと。お祝いをしようとした周と琉依だったが、如何せん本人の好みが何一つ分からない。二人で考え抜いた末、分からないなら聞いてしまえーーという訳で、今に至る。
「おーい、秀人?」
「なんだ……」
周に肩を揺さぶられてようやく気付いたのか、秀人は無表情に周を見る。
「だから、お前の好きなもの! 食べ物……とか?」
周のフォローに、琉依が心中で感謝する。秀人の視線は宙を泳ぎ、
「カロ○ーメイト」
「いや、それ好物っスかね!?」
やっと探した答えに、怪異でさえ違和感を覚える。
「おにぎりとか、サンドイッチとか……」
「やっとまともなものが出てきたっス!」
指摘され、変える秀人と安堵するよっしん。
「あんた、さっきから食べるのに時間を取らないものしか言わないわね!」
なぜか少し怒ったような口調のメリーさんに、
「ホントだ!」
周は先ほどから感じていた違和感の正体を知る。
「この単細胞みたいに『肉!』とか言えないわけ?」
「たんさいぼう……?」
あらぬ方向からの攻撃に、周は呆気にとられる。
「お肉のうた……」
「やめて、それ言わない約束!」
ボソッとしたメリーさんの声を、周は全力で止めにいく。
「……酒とツマミしか常備してない奴と一緒にされても……」
無表情ながらも、おどけたように返す秀人。
「……泣いてもいいかな?」
二方向からの攻めに、周は心が折れる音を聞く。
「おはよー」
日差しのような、琉依の明るい声、
「……早……?」
周はそれに疑問を投げ掛け、
「……もう昼過ぎだぞ……」
呆れたように、秀人が返す。
普段との違いは、
「なんか、岡さんテンション高いね」
琉依の様子がいつもよりご機嫌であることだ。
「実はねえ……」
本に視線を落とし、素っ気ない素振りを見せる秀人は、碌な話を持ってこない彼女の二の句を待つ。
「じゃじゃーん、これ見て!」
琉依は、とにかく嬉しそうに、持っているリュックサックから一枚のパンフレットを取り出す。
「……若葉学園創立五十周年記念特別講演……?」
周はパンフレットの文字を読み上げる。秀人は相変わらず、本ばかり読んでいる。
「そうそう! 講師で横溝 誠也先生が来るの!」
その言葉を聞き、秀人の肩が僅かに跳ねる。しかし、微妙すぎる変化に、二人が気付くことはなかった。
「最近テレビでよくみる人じゃん!」
横溝誠也ーー余りニュースに関心のない周でも、その名を聞いたことがある。心臓外科の神様と称される程の腕を持ち、国内外で、手術の予定に追われているとかーーその人物が、自分達の学校にやってくるのだ。
「すごいお医者様なんだよー!」
琉依は声を弾ませ、
「確かに気になる!」
周は野次馬根性を滲ませる。その間、秀人の手は、ページを捲ることを忘れていた。
「そういえばね」
来る有名人に夢中になり、すっかり本題を忘れていたとばかりに、琉依は会話を持ち直す。
「秀人くんって、何か好きなものあるの?」
「……」
嬉々として問う琉依に、秀人は反応を示さない。正に、心ここに在らずといったところか。
秀人が論文で快挙をあげたのは、今から1ヶ月程前のこと。お祝いをしようとした周と琉依だったが、如何せん本人の好みが何一つ分からない。二人で考え抜いた末、分からないなら聞いてしまえーーという訳で、今に至る。
「おーい、秀人?」
「なんだ……」
周に肩を揺さぶられてようやく気付いたのか、秀人は無表情に周を見る。
「だから、お前の好きなもの! 食べ物……とか?」
周のフォローに、琉依が心中で感謝する。秀人の視線は宙を泳ぎ、
「カロ○ーメイト」
「いや、それ好物っスかね!?」
やっと探した答えに、怪異でさえ違和感を覚える。
「おにぎりとか、サンドイッチとか……」
「やっとまともなものが出てきたっス!」
指摘され、変える秀人と安堵するよっしん。
「あんた、さっきから食べるのに時間を取らないものしか言わないわね!」
なぜか少し怒ったような口調のメリーさんに、
「ホントだ!」
周は先ほどから感じていた違和感の正体を知る。
「この単細胞みたいに『肉!』とか言えないわけ?」
「たんさいぼう……?」
あらぬ方向からの攻撃に、周は呆気にとられる。
「お肉のうた……」
「やめて、それ言わない約束!」
ボソッとしたメリーさんの声を、周は全力で止めにいく。
「……酒とツマミしか常備してない奴と一緒にされても……」
無表情ながらも、おどけたように返す秀人。
「……泣いてもいいかな?」
二方向からの攻めに、周は心が折れる音を聞く。
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