理解されないモノたちへ~オカルト研究開④

釜借 イサキ

文字の大きさ
4 / 10
第1章 遭遇

2

しおりを挟む
 同日の夜、一人が欠けた夕食後の部室にて、琉依と周は何やら唸っていた。
「……結局……分かんなかったねえ……」
琉依は頬杖をついて窓の外を見る。
「……そうだね。」
何故だろうか、泣きたい気持ちのまま、周は応える。それを見守る人形は微動だにしない。
「何かあったんっスか?」
携帯電話から聞こえるのは、興味津々なよっしんの声。琉依は簡単に、事の経緯を説明する。
「へえ、論文……さすがアニキかっこいいや!」
「……あいつ、中々やるわね」
感心げな二人の怪異に、琉依の顔は思わず綻ぶ。
「……その割に普通ね。もうちょっと浮き足立っても良さそうだけど。」
その後の、メリーさんの刺すような指摘に、人間二人は沈黙を返すしかなかった。
 気を取り直した琉依。
「だからね、何かお祝いをしたいんだけど……」
向けられた視線に、複雑な胸中の周は頷く。
「本人が買わなくて、好きそうなもの……難しいんだよな……」
ぼそりと呟く声に、返事はない。
「じゃあ……」
これ名案というように、携帯越しに興奮気味な声が一つ。
「エロ本とか、どうっスかね。」
無邪気な提案は
「……は?」
場を凍りつかせるのには十分だった。
ーーやっちまったな
メリーさんは心のなかで毒づく。
「アニキ、そういうの自分で買わなさそうじゃないっスか? 皆好きっス!」
そんな空気はどこ吹く風、よっしんは嬉々として続ける。
「いやあ、……好みがあるから……」
頓珍漢な否定を返す周。その顔は、茹で蛸の様だ。
「よっしんさん、不潔です。」
珍しく不快そうな声をだす琉依。その顔には羞恥やら怒りやら、様々な感情が読み取れる。
「ちょんぎる?」
「どこをっスか!?」
携帯電話からは、何やら不穏な空気。見えない筈のよっしんが、焦っている顔が手に取るように見える気がした。
「それはちょっと……」
困惑したように微笑む琉依の顔には、やはり羞恥の朱が差していた。
 場の凍りついた空気に居たたまれなくなり、
「やっぱ祝勝会とか?」
周は苦し紛れの案を出す。何度も二人で考え付いては、結局却下となった案だ。
「……好きなもの分かんないからねえ……今日行っちゃったし。」
琉依は困ったように窓の外に再び視線を送る。今頃、秀人はどこかの居酒屋にいるのだろう。
 周は渋い顔で腕を組む。全く案が思い浮かばない。
「っていうかさ、あいつ飲み会嫌いそうじゃない? 想像つかないんだけど」
呆れ声のメリーさん。
「意外と酔いつぶれちゃったり……とか?」
どこか楽しそうな琉依は、実際に飲んだくれているところを想像しているのだろうか。
「いや、あいついくら飲んでも顔色変わんないよ。」
寧ろ、自分が酔っぱらって介抱されてしまったことは伏せておく。
「なにそれー、いいなあ!」
拗ねた子供のように、琉依はぷっくり頬を膨らませる。
「俺ん家に泊まったときの事だから……また今度。」
言いながら、今年の春口の出来事を思い出す。あれから色々なことがあった。
「うん。」
満足げに頷く琉依は、とても嬉しそうだ。
「えへへ、案外アニキ、女の子のコト侍らしてたりして」
浮き足立ったよっちゃんは、見えない顔をニヤつかせているようだ。
「あんたねえ……。」
先ほどから呆れっぱなしのメリーさん。
「ないない、堅物すぎだって……女の子近寄れないっしょ!」
周はいつも通り軽口を叩くが、そこには僅かな願望も混ざっている。
「秀人くん、結構女の子に人気だよ?」
さも当然げな琉依の言葉に、周の願望はものの見事に打ち砕かれた。
「あの陰険野郎が……?」
信じられないといった風に、訝しむメリーさんの声。
「頭が良くて寡黙な感じがいいんだって。秀人くん、私たちの学年だと有名人だし」
「え、そうなの?」
『有名人』の一言に疑問符が浮かぶ。あいつはそんなに目立ちたい方だったか……周は考える。
「覚えてない? 私たちの学年、入学式の総代、秀人くんだったんだよね」
もう殆ど覚えていない入学式の記憶を辿る周。しかし、その記憶は一切ない。
 身近な人物の思わぬ活躍と、意外な人気に驚きながら、勝手に結成した生涯独身同盟が崩れ去ってゆく音を聞いた。
「……涙拭きなさいよ。」
携帯電話から、切なげな声が聞こえる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...