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第1章 遭遇
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部活メンバーが、あれやこれやと話し合っている頃、その話題の中心となっていた秀人は、ある居酒屋にいた。
「横溝くん、おめでとう。皆もご苦労様……乾杯!」
「乾杯!」
教授の音頭で、その場にいる一同がグラスを掲げる。秀人は今、ゼミの飲み会に参加していた。
「横溝くん、今日は君が主役なんだぞ! ほら、真ん中に……」
瞬く間にグラスを空にした教授は、秀人に酒を勧める。とても気分が良さそうだ。
「……はい。」
多少の酒が入っても表情一つ変えず、秀人はグラスを教授に差し出す。
「いやあ、しかしお前、やっぱり凄いよな!」
頬を上気させながら話しかけて来るのは、広中圭人といって、秀人の同級生だ。
「なんだっけ、なんかAIも絡んでたよな?」
秀人の肩に手を掛けて来たのは佐藤良樹。これまた同級生だ。二人とも大分出来上がっている。
秀人のゼミは、主に景気等を分析し、どのようにして経済成長を促すかという討論を行っている。教授はその第一人者で、かなり人気も高い。今回注目された論文は、それらとAI技術を絡めたもので、実際のプログラムまで組み込んだ上で発表されたものだった。陳腐なようだが目新しい仕組みに、注目が集まった結果だ。
「……大したことじゃない。」
謙遜でもなく、傲慢でもない、秀人は静かに返す。
「流石特待生! やっぱりお前凄いわ。」
佐藤は、ばしばし秀人の背中を叩く。秀人はなされるがまま、酒を飲み干した。
居心地の悪いような、落ち着かないような、そんな気分を抱えながら、秀人は大皿の料理を取り分けようとする。
「いいよいいよ、私がやるって!」
「え、いやでも……」
別の学生からトングを取られ、秀人は思わず背中を丸める。
「お前、あんなのどうやって考えたんだよ?」
「っていうか、プログラミングまでできるとか……横溝くん凄すぎない?」
酒も入り、皆からの称賛が大きくなる一方、秀人の視線は段々とテーブルに向けられてゆく。何故だか、この場から逃げてしまいたくなる。
「いや、あれは教授から助言をいただいたからこそ……」
「何を言っているんだ? 君から案を聞いたときは驚いたぞ! よくもあそこまで練り上げたものだよ!」
「お前、謙虚すぎだって!」
「そこがいいんだよねえ……」
自分から逸らそうとした筈の視線が、更に強くなる。その状況に、秀人は思わず溜め息を吐く。目の前に、次から次へと並べられてゆく料理を、ただただ見つめていた。
自分のために開催してもらった飲み会を無碍にもできず、結局二次会まで参加したその後、
「……おい、お前ら大丈夫か?」
へべれけになった二人の同級生を支えながら、秀人はその二人を交互に見る。
「おええ……」
「うぷっ……飲みすぎた」
元々酒癖が良いとは言えない広中と佐藤は、顔を真っ青にして秀人に寄りかかる。
「……君たち、タクシーでも呼ぶか?」
呆れ顔の教授に、広中の顔が歪む。
「……吐きそう……」
口を押さえる広中に、秀人は溜め息を一つ。
「……三人、家同じ方向だったよね……」
おずおずと、一人の学生が口を開く。
「さすがに大変だろ……一緒に連れていこうか……?」
見かねたもう一人が佐藤を支えようとするが、
「いいです。二人の家の場所は何となく分かるので、送り届けておきます。」
秀人はそれを丁重に断る。二人は、自分で歩けないほどには酔っ払っていないように見えた。家に帰るついでといったところだ。
「……まあ、横溝くんがいてくれるのなら安心か。よろしく頼んだぞ。」
教授は一旦思案したものの、秀人に二人の酔っぱらいを託すことにする。
「はい。」
溜め息混じりに返す秀人に、
「悪いな……」
「うひゃひゃー、まだ飲み足りねえぞー」
申し訳なさそうな佐藤とは対照的に、前後不覚の広中は何やら楽しげだ。その息には、まだまだ酒の香りが強烈に残っている。
「……ああ」
毒づくことも、否定することもできず、秀人はただ、首を縦に降る。
生温い風が停滞しきった夜道の中で、三人の後ろ姿は闇の中に消えていった。
「横溝くん、おめでとう。皆もご苦労様……乾杯!」
「乾杯!」
教授の音頭で、その場にいる一同がグラスを掲げる。秀人は今、ゼミの飲み会に参加していた。
「横溝くん、今日は君が主役なんだぞ! ほら、真ん中に……」
瞬く間にグラスを空にした教授は、秀人に酒を勧める。とても気分が良さそうだ。
「……はい。」
多少の酒が入っても表情一つ変えず、秀人はグラスを教授に差し出す。
「いやあ、しかしお前、やっぱり凄いよな!」
頬を上気させながら話しかけて来るのは、広中圭人といって、秀人の同級生だ。
「なんだっけ、なんかAIも絡んでたよな?」
秀人の肩に手を掛けて来たのは佐藤良樹。これまた同級生だ。二人とも大分出来上がっている。
秀人のゼミは、主に景気等を分析し、どのようにして経済成長を促すかという討論を行っている。教授はその第一人者で、かなり人気も高い。今回注目された論文は、それらとAI技術を絡めたもので、実際のプログラムまで組み込んだ上で発表されたものだった。陳腐なようだが目新しい仕組みに、注目が集まった結果だ。
「……大したことじゃない。」
謙遜でもなく、傲慢でもない、秀人は静かに返す。
「流石特待生! やっぱりお前凄いわ。」
佐藤は、ばしばし秀人の背中を叩く。秀人はなされるがまま、酒を飲み干した。
居心地の悪いような、落ち着かないような、そんな気分を抱えながら、秀人は大皿の料理を取り分けようとする。
「いいよいいよ、私がやるって!」
「え、いやでも……」
別の学生からトングを取られ、秀人は思わず背中を丸める。
「お前、あんなのどうやって考えたんだよ?」
「っていうか、プログラミングまでできるとか……横溝くん凄すぎない?」
酒も入り、皆からの称賛が大きくなる一方、秀人の視線は段々とテーブルに向けられてゆく。何故だか、この場から逃げてしまいたくなる。
「いや、あれは教授から助言をいただいたからこそ……」
「何を言っているんだ? 君から案を聞いたときは驚いたぞ! よくもあそこまで練り上げたものだよ!」
「お前、謙虚すぎだって!」
「そこがいいんだよねえ……」
自分から逸らそうとした筈の視線が、更に強くなる。その状況に、秀人は思わず溜め息を吐く。目の前に、次から次へと並べられてゆく料理を、ただただ見つめていた。
自分のために開催してもらった飲み会を無碍にもできず、結局二次会まで参加したその後、
「……おい、お前ら大丈夫か?」
へべれけになった二人の同級生を支えながら、秀人はその二人を交互に見る。
「おええ……」
「うぷっ……飲みすぎた」
元々酒癖が良いとは言えない広中と佐藤は、顔を真っ青にして秀人に寄りかかる。
「……君たち、タクシーでも呼ぶか?」
呆れ顔の教授に、広中の顔が歪む。
「……吐きそう……」
口を押さえる広中に、秀人は溜め息を一つ。
「……三人、家同じ方向だったよね……」
おずおずと、一人の学生が口を開く。
「さすがに大変だろ……一緒に連れていこうか……?」
見かねたもう一人が佐藤を支えようとするが、
「いいです。二人の家の場所は何となく分かるので、送り届けておきます。」
秀人はそれを丁重に断る。二人は、自分で歩けないほどには酔っ払っていないように見えた。家に帰るついでといったところだ。
「……まあ、横溝くんがいてくれるのなら安心か。よろしく頼んだぞ。」
教授は一旦思案したものの、秀人に二人の酔っぱらいを託すことにする。
「はい。」
溜め息混じりに返す秀人に、
「悪いな……」
「うひゃひゃー、まだ飲み足りねえぞー」
申し訳なさそうな佐藤とは対照的に、前後不覚の広中は何やら楽しげだ。その息には、まだまだ酒の香りが強烈に残っている。
「……ああ」
毒づくことも、否定することもできず、秀人はただ、首を縦に降る。
生温い風が停滞しきった夜道の中で、三人の後ろ姿は闇の中に消えていった。
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