理解されないモノたちへ~オカルト研究会④

釜借 イサキ

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第2章 侵食

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 週末明けの月曜日、周は気怠さを引きずりながら、昼前にもかかわらず、一人、学食にいた。月曜日の午前は、講義を入れないようにしているのだ。
「はあ……何がいいんだろう……」
どれだけ考えても、祝い方が分からない。秀人のことも琉依のことも、知らないことを改めて思い知らされる。誰に向けるでもない呟きは、人も疎な学食の中、誰にも届かない。
「……平木」
悩みすぎて、本人の声まで聞こえてくる。これは末期だ。考えるのをやめようーー
「……おい」
そんなことを考える周の前には、
「あれ、秀人……?」
いるはずのない本人がいた。
 秀人は月曜日の午前中、講義で埋まっていたはずだ。しかも、この超堅物真面目人間っぷりだ。当然、自主休講など、可能性としては全くあり得ない。休講の可能性も、あるにはあるが、
「……どうしたの?」
きょとんという擬音がしっくり来る表情で、周は秀人に取り敢えず聞いてみる。
「いや……」
なんとなく、青ざめているような気もするが、相変わらず秀人の表情は動かない。微かな違和感を抱きながらも、周はそれ以上立ち入ったことを質問できなかった。
 ふと、秀人の視線が、周の足元に落ちる。その瞳が、一瞬、揺れたような気がした。しばし、気まずい沈黙が、その場を支配する。
「熱でもあるんじゃ……?」
その割りに青い気もするが……
「いや、何でもない。」
踵を返そうとする秀人。
「ちょ、お前……」
「体調が悪いんだ。今日は帰る。」
『大丈夫か?』という言葉を、秀人は周に続けさせなかった。
「……飯だけでも食べていけば……」
今別れると、もう二度と会えないのではないかーー意味の分からない不安に苛まれる。
「……食欲ない。」
引き留める為の言葉でさえ、いとも容易く秀人は絶ってしまう。既に背を向けた秀人の表情を、窺い知ることはできない。
「……」
繋ぎ止めようと、必死に言葉を探す周に構わず、秀人は周から遠ざかる。
「えっと……早く治るといいな。」
やけに頼りない背中に投げ掛けた言葉を、当の本人が受け取ることはなかった。
 それからしばらく経つが、周は落ち着かない。気休めにスマホを見るが、どの情報も頭の中を素通りしていく。
「……」
昼食時が近づき、段々と学食が活気で溢れる。その喧騒を、なぜか色褪せて感じていた頃ーー
「周くん、秀人くんは?」
いつもと違う、慌てた様子の琉依が、学食に飛び込んできた。
「えーっと……秀人ならさっき帰ったけど……」
膨らんでいくいやな予感から、敢えて目を逸らす。
「今まで一緒だったの?」
縋るような琉依の視線に、周は思わず顔を背ける。
「……一瞬ここに来て、体調悪いから帰るって……」
頭を掻く周の言葉に、琉依の顔が絶望に染まってゆく。
「……岡さん、落ち着いて……何が……」
その場にへたり込むような琉依の様子に、胸騒ぎが止まらない。
「講義が同じ経済学部の子から聞いたんだけど……」
琉依は言い淀む。
「この前の飲み会の時、お友達が酔っ払っちゃったらしくて……」
琉依は涙を堪えながら、自分が聞いてきた噂話を伝える。
「秀人くん、その二人を介抱してあげてたんだって……」
それは想像に易い。なんやかんや言いつつ、面倒見は良い奴だと思う。
「ああ……」
周は軽く相槌を打つ。
「その二人とね、帰り道……例の廃墟に入っちゃって……」
「例の廃墟って、あの?」
確かこの前、琉依が新聞部の学生から仕入れてきたあの話……秀人は、それだけは頑なに却下していた。
「……!」
いつの間にか電源の入っていた例の携帯電話越しに、誰かが息を呑む気配を感じる。
「お友達、二人いたらしいんだけど、一人は原因不明の熱で目が覚めなくて……」
堪えていた涙が、琉依の頬を伝う。
「一人は飛び下りちゃったんだって……」
その言葉と共に、琉依は泣き崩れる。堪え続けてきた不安が、一気に押し寄せてしまったらしい。
「……」
周の鼓動が、早鐘を打つ。先程会った秀人の様子を思い出す。青白い顔、どこか動揺を隠せない瞳ーー何故、気づかなかったのか、否
  何故、気づいていないフリをしたのか……
「秀人くん……大丈夫、だよねえ……」
人目を憚らず、子供のように泣きじゃくる。
「……だ……」
『大丈夫だよ』ーー軽はずみな慰めは、周の喉につっかえて出てこなかった。
「……あいつの家、どこだか知ってる……?」
取り返しがつかなくなる前に、何とかしないと……焦りが、周を突き動かした。
「……経済……がっ……学部のおどっ……お友達に……聞いてみるね……」
涙を拭きながら、琉依はしゃくりあげる声を押さえながら、スマホを手に取る。
 どうか、これが杞憂であるようにーーそう、強く、祈る。
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