理解されないモノたちへ~オカルト研究会④

釜借 イサキ

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第3章 過去

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 周は目を閉じる。ふと、今まで、怪異に出会った時のことを思い出す。
ーー壁のシミ、音声サービス、バーチャルアイドル
笑って聞いていた。こいつでも、怖がることがあるのかと、自分と同じ様に人間味があることに、心のどこかで安心していた。けれど……
「……」
きっと、自分の想像よりも遥かに重かった言葉の意味に、今更ながら気づかされた。つくづく自分は、何も知らなかった。その事実を痛感する。周は、ずっと穏やかなままの秀人の顔を、何とも言えない表情で見つめた。
 意識が、暗闇から引き戻される。薄く開いた目に、眩しい光が差し込む。思わず顔をしかめると、
「お、気づいた」
「おはよう、秀人くん。」
聞き慣れた二人の友人の声が聞こえた。心なしか弾んでいるようにも聞こえるその声に、回らない頭で理由を探す。
「……お……」
ぼんやりと、いつも通りの言葉を返そうとした瞬間、
「……っ」
見えるが、それを赦さない。その瞬間、全てを思い出す。あの日、飲み会の帰り道から今日に至るまで、鮮明に、記憶が甦る。
「……まだ何か用か。」
先程の会話も思い出し、突き放すような言葉を投げつける。案の定、周の表情は暗くなる。
「……えへへ、心配で戻ってきちゃった」
ぎこちなく笑う琉依に、
「……そしたらお前が倒れてたからビックリしたよ。」
頭を搔きながら、不貞腐れたように言う周。秀人は敢えて、何も言葉を返さない。
 よく見たら、もう二年は顔を見ていない両親の姿が見えた。大方、病院から呼び出しを食らって駆けつけたのだろう。
「……出ていけ。」
精一杯の拒絶。その一言に、空気が固まる。は、病室の中を、無い筈の瞳で見回している。
「出ていけ。」
今度は強い口調で。震えそうになる声を、懸命に押さえる。却って今度は低い声になった。
「お前さあ、この期に及んで……」
相変わらずバツの悪そうな周の顔が目に映る。
「……誰も頼んでない。」
差し伸べようとする手を、静かに振り払う。
「……お前っ……」
怒ったような、悲しむような、何とも言えない表情で掴みかかってくる周の横から、
ーーぱしっ
平手打ちが飛んでくる。母の手だった。反射的に、左頬を押さえる。
「折角お友達がお見舞いに来てくれたのに、何てこと言うの。」
初めて聞く、母の怒鳴り声。制止しようとする父の声も、意味はない。
「お母さん……」
多分、自分が目を覚ます前に何か話したのだろう。琉依は居たたまれないように、力なく呟く。
「……お手数お掛けしました。」
口をついて出たのは、断絶した両親への他人行儀な言葉。絶望したような視線を送る両親には構わない。少しだけ、バレないように息を吸う。
「もう大丈夫なので、どうぞお引き取りを。」
研ぎ澄まされた刃のような言葉が、病室内の空気を支配する。
「秀人、話を……」
久方ぶりに聞く、父の声。
「話すことはありません。とうぞお引き取りを。」
丁寧に丁寧に、秀人は関わりを裁っていく。その目には、鈍い光が籠っている。悲哀も怒りも現すことなく、ただ淡々と、自分の中の事実を連ねる。
「分かった。出直す。」
最初に踵を返すのは周、
「周くん!」
次は、その背中を追いかける琉依。
「学食で、待ってるからね」
立ち止まった彼女は、振り向き様に言い残す。
「秀人、また来るからな……」
時計を気にしていた両親も、次々と去っていく。おおよそ、次の仕事の予定に間に合わないのだろう。
 静かになった病室の中で、秀人はを直視する。そしてまた、目を閉じる。息を吸う。もう、戻ってくることも無いだろう日常に、想いを馳せながら。
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