理解されないモノたちへ~オカルト研究会④

釜借 イサキ

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第3章 過去

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 病室から出てすぐのこと、四人は気まずさの中で、ただひたすらに、足を動かす。
「折角来てくださったのに……本当にごめんなさい。」
母は、丁重に頭を下げる。
「いえいえ、お気になさらないでください。きっと秀人くん、混乱しちゃったんですよ。」
すかさずフォローする琉依の表情も、今回ばかりはぎこちなさを隠せなかった。周は、病室の方を振り返る。秀人の家から付きまとって来ていた厭な気配を思い出す。
「あの、こういうのも難だが、今回の事に懲りずに付き合ってやってもらえると……」
琉依と周の方に向き直り、改めて頭を下げ続ける秀人の父。そこに、凄腕の外科医の面影は微塵もない。
「私たち、秀人くんにはとてもお世話になってるんです。……ね、周くん。」
そんな会話は、周の耳に入らない。ただ、あの気配の事を考えていた。
「周くん?」
「へ……?」
不意に肘でつついてくる琉依に、素っ頓狂な声を返す。
「無理にお願いすることじゃないもの……ごめんなさいね。」
申し訳なさそうな秀人の母に、何か取り返しのつかない反応を返してしまったようだ。
「何が?」
思わず、琉依に聞く。
「秀人くんの事だよ……」
「ああ、大丈夫大丈夫! 任せてください。」
琉依の言葉を全て聞かぬまま、自分でもよく分からない安請け合いをする。父母は申し訳なさそうに一礼し、そのまま去った。
 二人きりになった病院の前。顔をださぬまま去ろうとする太陽が、来る日没の声を告げる。
「やっぱり、怒ってるんだよね……秀人くんの事。」
雨上がりの夕暮れ時、全てが真っ赤に染まる中、琉依は酷く悲しそうな表情を見せる。
「え、なんで?」
自覚の無いその問いに、周は思わず首を傾げる。
「だって、秀人くんのお父さんとお母さんのお願い……」
俯く琉依に、そう言うことかと合点がいった。
「正直、まだ分からない。」
正直な感想だ。自分の感情に、整理がつかない。だが一つだけ、どうしても確認したい、否、確認しなければならないことがある。
 至らない頭で、ずっと考え続けていた。先程病室で感じた違和感について。
「ねえ、岡さん、メリーさんの携帯、貸してくれる?」
知るのは怖い。立ち入れば、きっと危険。でも、知らなければならない。立ち入らなければ、きっと元に戻らない。
「……うん、わかった。」
周に、琉依はそれを渡す。怪異と人間との、唯一の通信手段。聞いた通り、発信する。
「……もしもし。」
電話に出た相手は、諦めたように吐き捨てた。確信を得るために、周は声の主に訊く。
「なあ、メリーさん、、教えてくれないか。」
 急いで帰った部室には、いつも通り呪物が一つ、怪異が一体。いつも和やかなその部屋は、今は緊張感に満ちている。いつも陽気な怪異の表情が、今日は頗る暗かった。
「まず訊くけど。」
聞こえてくる声は、相変わらず電話越し。
「あんたら、怪異のことどう思ってる?」
「……なんだよ急に……」
求めていた答えとは違う唐突な問いに、周は顔をしかめる。
「いいから答えなさい。」
いつになく切羽詰まるメリーさんの声に、これ以上言葉が出ない。
「……ちょっぴり怖いけど、皆いい人達……ですよね?」
琉依は不安げに、おずおずと答える。
「半分正解。」
「じゃあ……」
琉依の顔に、光が差す。
「確かに、気が良い奴もいる。それは間違いない。」
先程から表情の優れないよっちんなど、いい例ではないか。周は内心そう思う。
「でも、手に負えない奴もいる。」
メリーさんは、淡々と事実を告げる。想定内の言葉だが、当の怪異が告げる事実は、酷く重くのし掛かる。
「……秀人、何かに憑かれてるんだよな……」
震える周の問いに、メリーさんは沈黙を以て肯定する。
「アレ、何なんだよ……」
一時付きまとってきた厭な気配ーーあんなものが四六時中着いてきたら……想像するだけで、全身が総毛立つ。
「あの廃墟で、何かあったんですよね……?」
恐る恐る、琉依も訊く。幽かに空気が揺れる気配がする。
「……あんたが説明なさい。」
メリーさんは、となりに居るであろうよっちんにそあ促す。
「……はい。」
浮かないよっちんの声。真っ赤に染まる部屋。
「俺、」
ぽつりと、よっちんは話す。
「アイツに殺されたっス……」
震える声に反応できるものは、誰も、いない。
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