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第五十三話:紅茶の香りが満ちた時、人は最も紳士になれる
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AM 6:00|紅茶に始まり紅茶に終わる
「ふむ、朝日がいい具合に紅い……ローズヒップの抽出時間も完璧だな」
古代遺跡を改装した、何とも言えない雰囲気の一室。
白手袋の男(紳士)は、朝日に照らされた紅茶カップを音もなく傾ける。
机上には不自然に分厚い書物と、まったく読んでいない謎の新聞。
BGMはクラシック……のつもりだが、実際は彼の口笛。
「さて、今日もこの世界をちょっとだけ良くしてやるとしようか……フッ」
AM 9:00|山の怪物を、回し蹴りで黙らせる
通りがかりの村人が叫んだ。
「紳士さーん! あの谷に現れた怪物、兵士じゃ歯が立たなくて!」
「ふむ、火器はあるのかね?」
「いえ、鉄の槍と……石ころです」
「……ならば、私の“足”の出番だな」
何の前触れもなく、地面を抉る跳び後ろ回し蹴りが唸る。
「うおおおお!?何ですかその動き!?」
「美学だよ。美しきものは、無駄でも良い」
村人は感動していたが、地面のクレーターは鍬が通らなくなるレベルの被害だった。
PM 12:00|自分で作った紅茶を、自分で批評する
「香りよし。温度よし。だが……まだだな」
5杯目のダージリンを一口飲んで捨てた。
誰もいない部屋で、ティーカップを優雅に磨きながら一人つぶやく。
「あと3種……いや、面倒だ。全部ブレンドしてしまおう」
できあがったのは、超高濃度カフェイン紅茶『紅き断罪(レッドヴァーディクト)』
──飲んだ村の鍛冶屋が5秒で目が覚めて50キロ走破した。
PM 15:00喫茶にこっそり来店
静かな午後の陽射しが、木製の扉と硝子越しに柔らかく差し込んでいる。
──カラン、という微かな鈴の音。
風など吹いていないのに、入り口のベルが一度だけ鳴った。
だが誰も来た様子はない。
リィナは皿洗い中、ミナトはカウンターで帳簿整理、月影と静月は奥で仕込み中。
そんな店内の、窓辺の端の席に──なぜか、すでにあの男が座っていた。
深紅の燕尾服、光沢のある革靴、紅茶を啜るその姿。
彼は一切の違和感なく、あたかも“最初から存在していた”ような態度で、杏仁豆腐をひと匙口に運ぶ。
「……ほう。この透明感、そして表面に微かに浮くバニラの気配……
甘すぎず、香りが立っている……ふふ、悪くない」
片手で紅茶を傾けながら、目を細めて静かに微笑んだ。
その横には、常連専用の厚手帳簿。
ごく自然な動作でペンを取り出し、そこに“1000G 寄付”と記入して立ち上がる。
テーブルには金貨が5枚置かれ、並べ方はなぜか英国風の五芒星配置。
──彼が扉に手をかけたとき、ようやくミナトが違和感に気づいた。
「……あれ? 帳簿に“寄付”って書いてある……? え、何これ……?」
パラパラとページを捲りながら眉をひそめる。
「いやいや、金額デカすぎ……ていうか、誰だこの達筆……“本日も紅茶と豆腐に感謝す”……?」
横から覗き込んでいたレーアの瞳が、淡く輝いた。
「情報照合中……──あ、前に逃げたやつです」
「ええっ!?」
バタッと振り向くも、入り口にはもう誰もいない。
ドアの先には風の残滓だけが漂っていた。
PM 17:00|誰も見ていないところで謎の修行
「跳び蹴り100回。フットワーク10分。ポーズ確認……鏡よし!」
誰にも頼まれていない“かっこいい蹴りのフォーム”だけを延々と確認。
「ふむ……夕陽に映えるな。やはりこの角度か……」
※その背後、爆発四散した隠しボスの残骸が転がっていたが、
本人は「風が強かったから」と言い張っている。
PM 22:00|独白(だいたい意味はない)
「……今日も実に、有意義な一日だった。
だが、まだこの世界には“説教”という文化が残っているようだな……避けねば」
夜空を仰ぎながら、自作転送装置に足を引っかけて転倒。
「……フッ。油断もまた、紳士の嗜み。明日も良い一日になるさ」
そう言って紅茶を飲み、寝た。
そして明日も、たぶん蹴る。
※本編にはあまり関係ない。が、強い。
「ふむ、朝日がいい具合に紅い……ローズヒップの抽出時間も完璧だな」
古代遺跡を改装した、何とも言えない雰囲気の一室。
白手袋の男(紳士)は、朝日に照らされた紅茶カップを音もなく傾ける。
机上には不自然に分厚い書物と、まったく読んでいない謎の新聞。
BGMはクラシック……のつもりだが、実際は彼の口笛。
「さて、今日もこの世界をちょっとだけ良くしてやるとしようか……フッ」
AM 9:00|山の怪物を、回し蹴りで黙らせる
通りがかりの村人が叫んだ。
「紳士さーん! あの谷に現れた怪物、兵士じゃ歯が立たなくて!」
「ふむ、火器はあるのかね?」
「いえ、鉄の槍と……石ころです」
「……ならば、私の“足”の出番だな」
何の前触れもなく、地面を抉る跳び後ろ回し蹴りが唸る。
「うおおおお!?何ですかその動き!?」
「美学だよ。美しきものは、無駄でも良い」
村人は感動していたが、地面のクレーターは鍬が通らなくなるレベルの被害だった。
PM 12:00|自分で作った紅茶を、自分で批評する
「香りよし。温度よし。だが……まだだな」
5杯目のダージリンを一口飲んで捨てた。
誰もいない部屋で、ティーカップを優雅に磨きながら一人つぶやく。
「あと3種……いや、面倒だ。全部ブレンドしてしまおう」
できあがったのは、超高濃度カフェイン紅茶『紅き断罪(レッドヴァーディクト)』
──飲んだ村の鍛冶屋が5秒で目が覚めて50キロ走破した。
PM 15:00喫茶にこっそり来店
静かな午後の陽射しが、木製の扉と硝子越しに柔らかく差し込んでいる。
──カラン、という微かな鈴の音。
風など吹いていないのに、入り口のベルが一度だけ鳴った。
だが誰も来た様子はない。
リィナは皿洗い中、ミナトはカウンターで帳簿整理、月影と静月は奥で仕込み中。
そんな店内の、窓辺の端の席に──なぜか、すでにあの男が座っていた。
深紅の燕尾服、光沢のある革靴、紅茶を啜るその姿。
彼は一切の違和感なく、あたかも“最初から存在していた”ような態度で、杏仁豆腐をひと匙口に運ぶ。
「……ほう。この透明感、そして表面に微かに浮くバニラの気配……
甘すぎず、香りが立っている……ふふ、悪くない」
片手で紅茶を傾けながら、目を細めて静かに微笑んだ。
その横には、常連専用の厚手帳簿。
ごく自然な動作でペンを取り出し、そこに“1000G 寄付”と記入して立ち上がる。
テーブルには金貨が5枚置かれ、並べ方はなぜか英国風の五芒星配置。
──彼が扉に手をかけたとき、ようやくミナトが違和感に気づいた。
「……あれ? 帳簿に“寄付”って書いてある……? え、何これ……?」
パラパラとページを捲りながら眉をひそめる。
「いやいや、金額デカすぎ……ていうか、誰だこの達筆……“本日も紅茶と豆腐に感謝す”……?」
横から覗き込んでいたレーアの瞳が、淡く輝いた。
「情報照合中……──あ、前に逃げたやつです」
「ええっ!?」
バタッと振り向くも、入り口にはもう誰もいない。
ドアの先には風の残滓だけが漂っていた。
PM 17:00|誰も見ていないところで謎の修行
「跳び蹴り100回。フットワーク10分。ポーズ確認……鏡よし!」
誰にも頼まれていない“かっこいい蹴りのフォーム”だけを延々と確認。
「ふむ……夕陽に映えるな。やはりこの角度か……」
※その背後、爆発四散した隠しボスの残骸が転がっていたが、
本人は「風が強かったから」と言い張っている。
PM 22:00|独白(だいたい意味はない)
「……今日も実に、有意義な一日だった。
だが、まだこの世界には“説教”という文化が残っているようだな……避けねば」
夜空を仰ぎながら、自作転送装置に足を引っかけて転倒。
「……フッ。油断もまた、紳士の嗜み。明日も良い一日になるさ」
そう言って紅茶を飲み、寝た。
そして明日も、たぶん蹴る。
※本編にはあまり関係ない。が、強い。
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