僕たちはその歪みに気付くべきだった。

AT限定

文字の大きさ
39 / 54

ホタカ先生の痛み③

しおりを挟む
「いえ。根に持ってるだなんて……。そんなこと、あるわけないじゃないですか……」
「嘘を吐け。こうしているだけでも、一杯一杯のクセに……」

 高島先生はそう言ってホタカ先生に近付き、その華奢な腕を力強く掴む。

「きゃっ!?」

 そのまま彼女を強引に壁際に追いやり、両腕を頭上に拘束する。
 ホタカ先生は必死に抗うも、やはり相手は大人の男性であり、ましてや体育教師だ。彼女の劣勢は明らかだった。
 一向に思考が追い付かないが、流石にこの状況にさらされ、でいるわけにもいかない。

「おいっ!! あんた、何してんだっ!!」

「うるせぇっ! 黙ってろっ!」

 僕は何とか声を張り上げるも、普段とは違う気迫で威圧してくる高島先生を前に、怯んでしまう。
 僕の戦意の喪失を確認すると、彼は再びホタカ先生に向き合う。

「こんなに震えてるじゃねぇか……。まだ男が恐いんだろ?」

「……っ!?」

 為す術なくなった彼女は、高島先生の鋭い眼光から逃れるように、虚ろになったその目を背ける。
 そして一気に脱力し、その場にへたり込んでしまった。

「……そんな顔すんなって。お前は何も悪くないんだからよ」

 高島先生は静かに語り掛ける。
 すると、次の瞬間には僕に向き直ってきた。

「天ヶ瀬」
「は、はい」
「お前、コイツからどこまで聞いてるんだ?」
「どこまで、と言われても……」

 何も聞いていない、と答えるのが正解なのか。
 実際、僕はホタカ先生のことを何も知らない。
 今のやり取りを見て、二人にはただならぬ因縁があることも初めて知った。
 言い淀む僕に、高島先生はハァと、深く息を吐く。

「安堂寺。俺の口から言った方がいいのか?」

 高島先生は、脱力するホタカ先生に向けて、呆れるように言う。

「いえ……。これは私のですから」

「そうか……」

 高島先生が静かに呟くと、ホタカ先生はゆっくりと立ち上がり、僕の方を向く。

「トーキくん、ごめんね。何がなにやら、って感じかな?」

 疲れたように微笑みながら、ホタカ先生は聞いてくる。

「……分かってるなら、話は早いです」

「だよね。一応、確認しておくね。聞きたい?」

 ホタカ先生は、念を押すように聞いてくる。
 引くに引けない、とはこのことだ。
 きっと、これから彼女が話す内容は、重いだとか軽いだとか、そんな陳腐な形容詞で語るには相応しくない。
 僕は彼女にとって、ただの生徒であり、ただの他人かつ、ただの一クライアントでしかない。
 一般論的に言えば、守備範囲外だ。
 聞いたところで、僕が彼女に対して出来ることなど、恐らく何もない。
 そうだ。彼女から見て、僕は明らかに『安全地帯』にいる。

 ただ、一つだけ、事実がある。
 彼女は今こうして、自分自身の過去、いや……。
 と向き合おうとしている。
 ともすれば荒療治とも言える方法で。
 僕如きがおこがましいが、そこまでして覚悟を決めた相手の言葉に耳を塞ぐことは、不誠実のような気がしてならない。

「ホタカ先生」

 僕の呼びかけに、彼女は『うん?』と首を傾け、心なしか普段よりも優しく微笑む。
 少し悔しい。
 ホタカ先生にはこういうところがあるのだ。
 彼女は時折、こうして思い出したかのように一端の大人のように振る舞い、僕にマウントを取ろうとしてくる。
 彼女の悪いクセだ。
 この数日間で、なんとかそれに気付けたのであれば、いつまでも彼女のペースでいるわけにはいかない。
 それに……、彼女は肝心なことを忘れている。

「さっき言ったこと。もう忘れたんですか?」

 僕がそう言うと、彼女はキョトンとした顔をする。
 普段とのギャップに、不覚にも少し可愛らしいと思ってしまった。
 彼女からこの表情を引き出すことが出来ただけでも、ここまで追ってきた価値はある。

「ホタカ先生。自分で言いましたよね? ここまでが僕のカウンセリングの最終章だって」

「……フフ。流石だね。私が育てただけのことはあるね!」

 そう言って、彼女は満足そうに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...