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「はあ……ん、あっ」
目元を淡く染め、苦しそうな息を漏らすマルが、崇嗣の愛撫に身体を震わせる。マルの身体はひどく敏感だった。始めはさらさらしていた肌は、触れるたびにしっとりと指に吸いつくような感触へと変わる。
「あ、ん、やっ、これは何ですか……ああっ」
羞恥のためか全身を淡く染め、崇嗣の愛撫にびくびくと跳ねながら、その反応はいちいち初心だった。自分でも快感の意味がわかっていないように、崇嗣が与える刺激に驚き、戸惑っていた。そのくせ、ひどく従順でいやらしく、また淫らだった。そう、まるで娼婦の身体にバージンが入っているみたいだ。
「あっ、あん、あぁ……っ」
「く……っ」
崇嗣の額から汗が伝い落ちる。少年だけをいかせるつもりが、いつの間にか自分のほうが彼に流されそうになっている。
「ああ……っ!」
マルは身体を突っぱねると、崇嗣の手の中に吐精した。
「も、申し訳ありませ……っ」
慌てて身体を起こそうとしたマルにキスをする。マルの唇は柔らかく、甘かった。口づけていると、腕の中の少年の身体が次第にほどけてゆくのがわかった。
「……謝らなくていい」
不意に、愛しさにも似た気持ちがわき上がり、崇嗣は愕然とした。
俺はこの少年に惹かれているのか。出会って間もない、しかも人間ですらない少年に。
「あの……? どうかしましたか?」
崇嗣の瞳に困惑の色を見たのだろう、マルが不安そうな顔になった。崇嗣は毛布を引き上げると、マルの身体を包み込むように背後から抱きしめた。
「崇嗣さん? あの……?」
「いいから、もう寝ろ。話はまたあしただ」
崇嗣はベッドサイドライトの明かりを落とすと、反論は聞かないとばかりに反対側を向き、無理矢理目を閉じた。
マルは気づかなかったが、崇嗣のそれは勃起していた。腕の中で甘い声を上げ、うっとりとした瞳で崇嗣の愛撫に応える少年の身体に押し入り、自分の言うことを聞かせたい欲望にかられる。おそらく崇嗣が望めば、マルは拒否しないだろう。しかし、それは少年の純粋な思いにつけ込むのと同じであることを崇嗣は理解していた。薄闇に包まれた部屋で、こちらのようすを窺う少年の気配を感じた。
「……っ」
寝たふりを決め込む崇嗣の背中に、マルがそっと身を寄せた。触れるか触れないか、遠慮するように寄せられた温もりは、崇嗣に拒まれるのを恐れているようでもあった。
「……ありがとうございます」
崇嗣が黙っていると、しばらくして、眠りに落ちたマルの規則正しい寝息が聞こえてきた。崇嗣は身体を起こすと、長い睫毛に伏せられた少年の寝顔を見つめた。
「……そんなに簡単に他人を信用するな」
安心しきったようすで眠る少年を見ていると、思わずため息が零れそうになる。
まだ会ったばかりのよく知らない人間に対して、いじらしいほどの好意を向けてくる少年が、腹立たしいような、同時に愛おしいような、自分でもよくわからない気持ちになる。そう、この少年といると、ひどく調子が狂うのだ。これまでの自分を保てなくなる。
崇嗣がこれまで独りで生きてきたのは、そう必然に迫られたからだ。決して人に誇れる生き方をしてきたわけじゃない。それでも自分にとっては必要なことだった。誰とも関わらず、面倒には巻き込まれないように。少年を助けたことは、いままでの自分なら到底考えられないことだった。しかし、自分を信じ切ったような少年を、いまさら自分は手放すことができるのだろうか。
「くそっ」
思わず悪態が漏れる。自分が何かとてつもないどつぼにはまった気がした。
窓の外でカタンと何かがぶつかる音が聞こえた。何気なく音がしたほうを見上げてぎくりとした。一匹の黒猫がじっと部屋の中を眺めている。すべてを見透かすような金色の瞳に、崇嗣は目を眇めた。黒猫は身を翻すと、夜の闇へと消えた。
「何だ?」
いま起きたことの状況が飲み込めずに、崇嗣は眉をひそめる。
「……んっ」
崇嗣の声に反応するように、マルが身動きした。崇嗣は毛布を引き上げると、諦めて目をつむった。今夜は眠れそうになかった。
目元を淡く染め、苦しそうな息を漏らすマルが、崇嗣の愛撫に身体を震わせる。マルの身体はひどく敏感だった。始めはさらさらしていた肌は、触れるたびにしっとりと指に吸いつくような感触へと変わる。
「あ、ん、やっ、これは何ですか……ああっ」
羞恥のためか全身を淡く染め、崇嗣の愛撫にびくびくと跳ねながら、その反応はいちいち初心だった。自分でも快感の意味がわかっていないように、崇嗣が与える刺激に驚き、戸惑っていた。そのくせ、ひどく従順でいやらしく、また淫らだった。そう、まるで娼婦の身体にバージンが入っているみたいだ。
「あっ、あん、あぁ……っ」
「く……っ」
崇嗣の額から汗が伝い落ちる。少年だけをいかせるつもりが、いつの間にか自分のほうが彼に流されそうになっている。
「ああ……っ!」
マルは身体を突っぱねると、崇嗣の手の中に吐精した。
「も、申し訳ありませ……っ」
慌てて身体を起こそうとしたマルにキスをする。マルの唇は柔らかく、甘かった。口づけていると、腕の中の少年の身体が次第にほどけてゆくのがわかった。
「……謝らなくていい」
不意に、愛しさにも似た気持ちがわき上がり、崇嗣は愕然とした。
俺はこの少年に惹かれているのか。出会って間もない、しかも人間ですらない少年に。
「あの……? どうかしましたか?」
崇嗣の瞳に困惑の色を見たのだろう、マルが不安そうな顔になった。崇嗣は毛布を引き上げると、マルの身体を包み込むように背後から抱きしめた。
「崇嗣さん? あの……?」
「いいから、もう寝ろ。話はまたあしただ」
崇嗣はベッドサイドライトの明かりを落とすと、反論は聞かないとばかりに反対側を向き、無理矢理目を閉じた。
マルは気づかなかったが、崇嗣のそれは勃起していた。腕の中で甘い声を上げ、うっとりとした瞳で崇嗣の愛撫に応える少年の身体に押し入り、自分の言うことを聞かせたい欲望にかられる。おそらく崇嗣が望めば、マルは拒否しないだろう。しかし、それは少年の純粋な思いにつけ込むのと同じであることを崇嗣は理解していた。薄闇に包まれた部屋で、こちらのようすを窺う少年の気配を感じた。
「……っ」
寝たふりを決め込む崇嗣の背中に、マルがそっと身を寄せた。触れるか触れないか、遠慮するように寄せられた温もりは、崇嗣に拒まれるのを恐れているようでもあった。
「……ありがとうございます」
崇嗣が黙っていると、しばらくして、眠りに落ちたマルの規則正しい寝息が聞こえてきた。崇嗣は身体を起こすと、長い睫毛に伏せられた少年の寝顔を見つめた。
「……そんなに簡単に他人を信用するな」
安心しきったようすで眠る少年を見ていると、思わずため息が零れそうになる。
まだ会ったばかりのよく知らない人間に対して、いじらしいほどの好意を向けてくる少年が、腹立たしいような、同時に愛おしいような、自分でもよくわからない気持ちになる。そう、この少年といると、ひどく調子が狂うのだ。これまでの自分を保てなくなる。
崇嗣がこれまで独りで生きてきたのは、そう必然に迫られたからだ。決して人に誇れる生き方をしてきたわけじゃない。それでも自分にとっては必要なことだった。誰とも関わらず、面倒には巻き込まれないように。少年を助けたことは、いままでの自分なら到底考えられないことだった。しかし、自分を信じ切ったような少年を、いまさら自分は手放すことができるのだろうか。
「くそっ」
思わず悪態が漏れる。自分が何かとてつもないどつぼにはまった気がした。
窓の外でカタンと何かがぶつかる音が聞こえた。何気なく音がしたほうを見上げてぎくりとした。一匹の黒猫がじっと部屋の中を眺めている。すべてを見透かすような金色の瞳に、崇嗣は目を眇めた。黒猫は身を翻すと、夜の闇へと消えた。
「何だ?」
いま起きたことの状況が飲み込めずに、崇嗣は眉をひそめる。
「……んっ」
崇嗣の声に反応するように、マルが身動きした。崇嗣は毛布を引き上げると、諦めて目をつむった。今夜は眠れそうになかった。
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