転生したら人魚姫いやもといオスなので王子でしたが失礼それはさておき隣国の王女に負けたくないですハピエンになりたいです

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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海の上の大人の世界に憧れる末っ子の人魚王子キリンエット

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 遠い遠い外国の、深い深い海の底に人魚のお城がありました。
 珊瑚や貝殻でできたきらびやかな城には七体の愛らしい人魚の王子たちが仲良く暮らしていて、中でも末っ子のキリンエットは兄たちにとても可愛がられていました。

「兄さん、お話を早く聞かせて」

 ある時、キリンエットは十六になったばかりの六番めの兄にねだりました。
 人魚の世界では十六の誕生日を迎えると一人前と見なされて、海の上にまで泳ぎに行くことが許されるのでした。
 人間社会で言うところの成人です。
 要するに、いざ解禁と雄叫びを上げて、やらかしちゃいましたねをあえてしたくなる制限解除の祝祭日です。
 禁欲生活もうんざりするほど続くと、誰しもあれやらこれやらをしたくなっちゃうでしょう。
 それがやっと見られたり、ほにゃららができたりするのですから、それはもう最高なわけです。
 ですので、

「ね、なにを見てきたの?」

 と未成年者のキリンエットに目をキラキラとしながら聞かれたところで、正直に答えることなんてまずできません。
 一体どこのどなたさまができるというのでしょうか。
 言ったら最後、未成年への不適切な猥褻行為の一環と見なされ、もれなく牢屋に入れられてしまいます。
 話してはならないのです。
 ならぬことはならぬものなのです。
 そこで五体の兄たちは遠い目をしながら、星々や夕焼け、豪華な船や河を遡って着いた陸地の様子、または耳にした音楽や人の話など。
 とりあえずは無難な内容だけをキリンエットに話して聞かせました。
 ですがそれでも、

「わぁ、すごいなぁ」

 と海の底しか知らないキリンエットからすれば、マジかよ海上ハンパねぇなと驚くばかりのお話でした。

「ねぇねぇ兄さん、教えてよ」
「ん、キリンエット、ぼくが見てきたのはね…」

 こうして六番目の兄もまた、冬の寒い日だったことも幸いしてね、きれいな氷山が目の前に流れてきたんだよと。
 それこそ本当に適当に、嘘も方便とばかりにしれっと話をして聞かせました。

(いいなぁ…)

 もはやキリンエットの中で羨望は膨らむばかりです。
 早く十六になりたいと。
 自分も海の上の大人の世界を知りたいと。
 夜になるとそれはそれは楽しそうに、浮き足だっているのがバレバレの見え見えだというのに。
 しずしずとした感をわざとらしく装って仲良く泳いで出かけていく兄たちの背中を、それはそれは暗くすさんだ視線で見送るのでした。

 そんな人格形成期における健全な精神の育成がやや不安視されたキリンエットではありましたが、とうとう念願の十六歳の誕生日を迎えることができました。

「今日は特別におしゃれをしていかないとね」

 目に入れても痛くないほどに末の孫息子をかわいがる、おばあさまが嬉しそうに言いました。

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