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第4章 ケリュネイア山の黄金の羊
1 監獄で誰かが
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私はこわくないわ
ねぇ 愛するあなた
私はこわくなんてないの
こわくなんてね
――どこからか歌が聞こえてきた。
私はこわくないわ
ねぇ 愛するあなた
私はこわくなんてないの
こわくなんてね
同じ旋律を何度も繰り返している。
鼻歌交じりでずいぶんと楽しそうだなと。
ぼんやりと遠くに、それでいて徐々に近づいてくるようにも感じながら聞き入る。
誰が歌っているのだろうと心を向けた途端にサァーーッと、まるで風に乗ったかのように浮遊する感覚がした。
うっすらと光景が入りこんでくる。
石畳の階段だ。
薄暗い闇の中でぼやんとそこだけが浮かんで見えてきた。
その螺旋の階段をまるで鳥になって飛んでいるかのような視線のまま上へ上へと上昇していく。
高い塔の中にいるようだ。
ガシャンッ…ガシャン…ガシャンッ…
突如として荒々しい音が加わった。
なんだと緊張が走る。
ガシャンッ…ガシャン…ガシャンッ…
硬い金属に何かが勢いよくぶつかっているかのような音だ。
幾度となく鳴り響いている。
階段が終わり、最上階に着いたと感じ取るや否や、檻が目に飛びこんできた。
『ぅああっ、くっ、あああぁーーっ』
黒い影が縋りつくようにして鉄の格子を両手で握っていた。
この存在が鉄窓を揺らす音を出していたのかとわかるや否や、その背後に水色に覆われた人影が現れた。
『いやだぁっ、も、もぅ、やめぇっ、やぁだぁあーっ』
逃れようと抗う下半身が青みがかった闇色の両手によって強く引き戻され、荒々しい金属音とともに激しく後ろから前後に揺さぶられた。
『ひっああぁーーっ!!』
ひときわ甲高い叫び声が響き渡ったその刹那、ハッと目が覚めた――ガバッと跳ね起きる。
(なん…だ…今のは…)
ハァ、ハァ、ハァ、ハァと。
思いも寄らないほどに乱れていた息を整えながら現状を振り返った。
場所は見慣れた獣車だ。
自分は今ここで横になって寝ていたのだ。
つまりは夢だ。
現実ではない。
けれどもかなり後味が悪い。
(なんで…こんな夢を…)
監獄に入れられていた誰かが非道な目にあわされていたのだ。
拷問ではない。あれはおそらく――
(強姦だ…)
性行為を後背位で無理矢理に強いられていたと直感した。
一体誰だったのか。
もちろん監獄という場所から元囚人である自分の可能性は高い。
けれどもタイタロスの監獄は地中世界の王ハデスの管理下だ。
地上の高い塔とは印象がそぐわない。
だから、自分ではないと。
違うはずだと。
強く否定した。
そうであって欲しくないという想いが強い。
淫行を強いられる方も強いる方も自分であって欲しくないのだ。
(オレじゃない…多分…)
だが、だとしたら何を見たのか。
やはり自分の過去に関することじゃないのだろうかと。
それともたまたま無関係の夢を見ただけなのかと。
何度も何度も反芻する。
夢を見たのはこの生活になってから初めてだ。
こんなことは今までなかったというのに。
ねぇ 愛するあなた
私はこわくなんてないの
こわくなんてね
――どこからか歌が聞こえてきた。
私はこわくないわ
ねぇ 愛するあなた
私はこわくなんてないの
こわくなんてね
同じ旋律を何度も繰り返している。
鼻歌交じりでずいぶんと楽しそうだなと。
ぼんやりと遠くに、それでいて徐々に近づいてくるようにも感じながら聞き入る。
誰が歌っているのだろうと心を向けた途端にサァーーッと、まるで風に乗ったかのように浮遊する感覚がした。
うっすらと光景が入りこんでくる。
石畳の階段だ。
薄暗い闇の中でぼやんとそこだけが浮かんで見えてきた。
その螺旋の階段をまるで鳥になって飛んでいるかのような視線のまま上へ上へと上昇していく。
高い塔の中にいるようだ。
ガシャンッ…ガシャン…ガシャンッ…
突如として荒々しい音が加わった。
なんだと緊張が走る。
ガシャンッ…ガシャン…ガシャンッ…
硬い金属に何かが勢いよくぶつかっているかのような音だ。
幾度となく鳴り響いている。
階段が終わり、最上階に着いたと感じ取るや否や、檻が目に飛びこんできた。
『ぅああっ、くっ、あああぁーーっ』
黒い影が縋りつくようにして鉄の格子を両手で握っていた。
この存在が鉄窓を揺らす音を出していたのかとわかるや否や、その背後に水色に覆われた人影が現れた。
『いやだぁっ、も、もぅ、やめぇっ、やぁだぁあーっ』
逃れようと抗う下半身が青みがかった闇色の両手によって強く引き戻され、荒々しい金属音とともに激しく後ろから前後に揺さぶられた。
『ひっああぁーーっ!!』
ひときわ甲高い叫び声が響き渡ったその刹那、ハッと目が覚めた――ガバッと跳ね起きる。
(なん…だ…今のは…)
ハァ、ハァ、ハァ、ハァと。
思いも寄らないほどに乱れていた息を整えながら現状を振り返った。
場所は見慣れた獣車だ。
自分は今ここで横になって寝ていたのだ。
つまりは夢だ。
現実ではない。
けれどもかなり後味が悪い。
(なんで…こんな夢を…)
監獄に入れられていた誰かが非道な目にあわされていたのだ。
拷問ではない。あれはおそらく――
(強姦だ…)
性行為を後背位で無理矢理に強いられていたと直感した。
一体誰だったのか。
もちろん監獄という場所から元囚人である自分の可能性は高い。
けれどもタイタロスの監獄は地中世界の王ハデスの管理下だ。
地上の高い塔とは印象がそぐわない。
だから、自分ではないと。
違うはずだと。
強く否定した。
そうであって欲しくないという想いが強い。
淫行を強いられる方も強いる方も自分であって欲しくないのだ。
(オレじゃない…多分…)
だが、だとしたら何を見たのか。
やはり自分の過去に関することじゃないのだろうかと。
それともたまたま無関係の夢を見ただけなのかと。
何度も何度も反芻する。
夢を見たのはこの生活になってから初めてだ。
こんなことは今までなかったというのに。
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