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13:スフィンクスの館と再生の泉と
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スフィンクスに誘導されながら、松明が焚かれた色鮮やかで美しい庭園を横目に。左右二列の白い石柱に挟まれた、長く屈折した回廊を歩んでいく。
「私どもはヘラさまを始め、雌性のお強い多くの女神さまにご贔屓頂いている館でございます。
とりわけ、処女性を回復するための再生の泉は大変、ご好評を頂いておりまして、テセウスさまもぜひ、お使いになって、ごゆっくりとおくつろぎ下さいませ」
「再生の泉があったのか」
「はい。残念なことに、雄性が秀でている殿方にはご活用頂けませんが、発祥の地ナフプリオに劣らずとも勝らずの効力を誇っております。アルファ属性の方以外には、よく知られている場所かと。
皆さま、お相手の方との愛を深めるために、こぞってご予約を取られ、それはそれは念入りにお身体を再生されて帰られていきますから。フフフ・・・」
談笑に近いほど穏やかに。話をしながら歩んでいると、垂れ幕のかかった出入り口が突き当たりに見えてくる。
両脇に控えていた猫頭の召使いたちがすぐさま紐を引っ張り、バサッと幕が開いた。中へと足を踏み入れる。
「どうぞ、このお部屋を我が家のようにお使い下さいませ。右側が庭園に通じ、左側に寝室がございます。さらにその奥の出口が、泉へと通じております。
沐浴をなさっている間に、お食事と・・・奥さまのために喉によく効く香草茶もご用意いたしましょう」
大人数で団らんしながら、食事をするための部屋なのか。同行させた多くの従者を待機させるための空間なのか。
異様なほど、縦に長く広々とした室内の。奥にまでは進もうとせずに、スフィンクスが頭を下げ、退室しようとする。
「妻のために、着替え一式も頼む」
「かしこまりました」
「従者も警備も不要だ。下げてくれ」
「かしこまりました。ご用の際は、こちらの呼び鈴をお鳴らし下さい」
入り口近くの天井から垂れている金色の紐を。スフィンクスが長い尻尾で丁寧に示し、アトラスがチラリと視線を向け、わずかに頷いた。
「では、ごゆるりと。失礼いたします」
バサッと。垂れ幕が背後で閉ざされ、アトラスが前方へと歩み始める。わきまえている小型の魔獣がピョンと胸の上から地面に降りた。
黄白色を下地にした壁面や床には。金箔や朱色、緑色、青色といった鮮やかな絵具がふんだんに使われていて。
輪や葉の形、流線を組み合わせた美しい幾何学紋様で飾られ、煌びやかな調度品とが相まって、実に豪華絢爛だ。だが、そんな艶やかさよりも。
「アトラス・・・おかしいと・・・思わないか・・・」
「なにがだ」
自分たちだけの空間となって、ようやく遠慮なくかすれた声で疑問を口にする。
「オレには、あのスフィンクスが・・・王妃を・・・その・・・王妃の望まない妊娠の・・・だから、その・・・元凶になるとは思えないんだけれど・・・」
左側の寝室へと通じる扉の中に。アトラスが迷いなく進むと、天蓋付きの大きな寝具が見えてくる。
美麗な刺繍がふんだんに縫われた白い上品な布が。緩やかな弛みを描いて、四隅の柱に黄金の紐で括り付けられている。
「私どもはヘラさまを始め、雌性のお強い多くの女神さまにご贔屓頂いている館でございます。
とりわけ、処女性を回復するための再生の泉は大変、ご好評を頂いておりまして、テセウスさまもぜひ、お使いになって、ごゆっくりとおくつろぎ下さいませ」
「再生の泉があったのか」
「はい。残念なことに、雄性が秀でている殿方にはご活用頂けませんが、発祥の地ナフプリオに劣らずとも勝らずの効力を誇っております。アルファ属性の方以外には、よく知られている場所かと。
皆さま、お相手の方との愛を深めるために、こぞってご予約を取られ、それはそれは念入りにお身体を再生されて帰られていきますから。フフフ・・・」
談笑に近いほど穏やかに。話をしながら歩んでいると、垂れ幕のかかった出入り口が突き当たりに見えてくる。
両脇に控えていた猫頭の召使いたちがすぐさま紐を引っ張り、バサッと幕が開いた。中へと足を踏み入れる。
「どうぞ、このお部屋を我が家のようにお使い下さいませ。右側が庭園に通じ、左側に寝室がございます。さらにその奥の出口が、泉へと通じております。
沐浴をなさっている間に、お食事と・・・奥さまのために喉によく効く香草茶もご用意いたしましょう」
大人数で団らんしながら、食事をするための部屋なのか。同行させた多くの従者を待機させるための空間なのか。
異様なほど、縦に長く広々とした室内の。奥にまでは進もうとせずに、スフィンクスが頭を下げ、退室しようとする。
「妻のために、着替え一式も頼む」
「かしこまりました」
「従者も警備も不要だ。下げてくれ」
「かしこまりました。ご用の際は、こちらの呼び鈴をお鳴らし下さい」
入り口近くの天井から垂れている金色の紐を。スフィンクスが長い尻尾で丁寧に示し、アトラスがチラリと視線を向け、わずかに頷いた。
「では、ごゆるりと。失礼いたします」
バサッと。垂れ幕が背後で閉ざされ、アトラスが前方へと歩み始める。わきまえている小型の魔獣がピョンと胸の上から地面に降りた。
黄白色を下地にした壁面や床には。金箔や朱色、緑色、青色といった鮮やかな絵具がふんだんに使われていて。
輪や葉の形、流線を組み合わせた美しい幾何学紋様で飾られ、煌びやかな調度品とが相まって、実に豪華絢爛だ。だが、そんな艶やかさよりも。
「アトラス・・・おかしいと・・・思わないか・・・」
「なにがだ」
自分たちだけの空間となって、ようやく遠慮なくかすれた声で疑問を口にする。
「オレには、あのスフィンクスが・・・王妃を・・・その・・・王妃の望まない妊娠の・・・だから、その・・・元凶になるとは思えないんだけれど・・・」
左側の寝室へと通じる扉の中に。アトラスが迷いなく進むと、天蓋付きの大きな寝具が見えてくる。
美麗な刺繍がふんだんに縫われた白い上品な布が。緩やかな弛みを描いて、四隅の柱に黄金の紐で括り付けられている。
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