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13:スフィンクスの館と再生の泉と
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「あぁ・・・グライアイの霊託のことか」
その優美なベッドの前でアトラスが立ち止まった。
「霊託が的外れだったということなのか? どう思う?」
「・・・異形どもの邪霊を使った予言は、的中させることで定評があった。だが、あのように癖の強い連中でもあったわけで、つまり霊視した未来の口伝が不正確であった、もしくは歪曲された、または聞き手の解釈が誤解であった可能性もあり得る」
(不正確であった・・・か・・・歪曲された・・・か・・・誤解の可能性・・・か・・・)
言われた言葉を心の中で繰り返す。
(オレが聞き間違えたのか・・・グライアイが読み違いしたのか・・・)
だとするならば、どこからどこまでが正しいのか。望まぬ妊娠は起きる出来事なのか、起きないのか。果たして、どちらなのか。
「いずれにせよ、スフィンクスの館にこうして到着し、棺が冥府の王に関与するモノであると知らしめた以上、心配には及ばないだろう。それよりも・・・」
アトラスがチラリとベッドに視線を向けた。
「テセウス・・・オレはお前のその、オレに愛された身体をこのまま愛でていたい・・・だが、再生の泉を使いたいか?」
「それは・・・もちろん・・・使うに・・・決まってる」
聞かれるまでもない。愚問に近いかもしれない。使わないはずがない。はっきりと答えた。
「棺が無事に・・・開いたら、冥府の王妃に会うことになるんだ。当然、身綺麗にしないと・・・」
こんな情交後と一目でわかる姿で対面できるはずがない。そしてまた。相手の心情を汲んで避妊の話はあえて避ける。本音としては浄化により重きを置いていたとしても。
「・・・わかった。では、行こう。ケール、ルーベ、来い」
背後で待機していた魔獣に声をかけ、アトラスがまた歩き始める。奥の出入り口から部屋を出て、松明が控えめに焚かれた石畳の薄暗い通路を進んでいく。
「なぁ、王妃はどんな方なんだろう・・・どう思う? グライアイは・・・オレがその、棺の鍵だって・・・告げたけど・・・スフィンクスは防御と秘匿の呪符がされてるって・・・言ってただろ? それって・・・何だろうか・・・本当に・・・開くだろうか」
カツ・・・カツ・・・カツ・・・と。アトラスの分厚い靴底が出す音の響く中、不安な気持ちから。無言のまま歩み続ける相手に尋ねる。
「棺が開かなかったら・・・どうしようか・・・」
自分に特別な力があるとは到底、思えない。鍵とは一体、どういう意味なのか。
「それに・・・開いたら、開いたで・・・」
王妃を冥府に連れて行くことになるのだ。そうなると―――現実味を帯びてきた、冥府の王との謁見に否が応でも気が引き締まる。
(オレは・・・ハデスに会ったら・・・どうしよう・・・)
まずは元罪人という、今の自分からすれば汚名だとしか思えない現実と。そして、失われた記憶と。どう向き合っていいのか。どう掛け合うべきなのか。
(記憶を・・・取り戻したいのか・・・戻したくないのか・・・)
過去を知りたいのか、知りたくないのか。心の準備がまだできていない。そのことだけが確かだ。
その優美なベッドの前でアトラスが立ち止まった。
「霊託が的外れだったということなのか? どう思う?」
「・・・異形どもの邪霊を使った予言は、的中させることで定評があった。だが、あのように癖の強い連中でもあったわけで、つまり霊視した未来の口伝が不正確であった、もしくは歪曲された、または聞き手の解釈が誤解であった可能性もあり得る」
(不正確であった・・・か・・・歪曲された・・・か・・・誤解の可能性・・・か・・・)
言われた言葉を心の中で繰り返す。
(オレが聞き間違えたのか・・・グライアイが読み違いしたのか・・・)
だとするならば、どこからどこまでが正しいのか。望まぬ妊娠は起きる出来事なのか、起きないのか。果たして、どちらなのか。
「いずれにせよ、スフィンクスの館にこうして到着し、棺が冥府の王に関与するモノであると知らしめた以上、心配には及ばないだろう。それよりも・・・」
アトラスがチラリとベッドに視線を向けた。
「テセウス・・・オレはお前のその、オレに愛された身体をこのまま愛でていたい・・・だが、再生の泉を使いたいか?」
「それは・・・もちろん・・・使うに・・・決まってる」
聞かれるまでもない。愚問に近いかもしれない。使わないはずがない。はっきりと答えた。
「棺が無事に・・・開いたら、冥府の王妃に会うことになるんだ。当然、身綺麗にしないと・・・」
こんな情交後と一目でわかる姿で対面できるはずがない。そしてまた。相手の心情を汲んで避妊の話はあえて避ける。本音としては浄化により重きを置いていたとしても。
「・・・わかった。では、行こう。ケール、ルーベ、来い」
背後で待機していた魔獣に声をかけ、アトラスがまた歩き始める。奥の出入り口から部屋を出て、松明が控えめに焚かれた石畳の薄暗い通路を進んでいく。
「なぁ、王妃はどんな方なんだろう・・・どう思う? グライアイは・・・オレがその、棺の鍵だって・・・告げたけど・・・スフィンクスは防御と秘匿の呪符がされてるって・・・言ってただろ? それって・・・何だろうか・・・本当に・・・開くだろうか」
カツ・・・カツ・・・カツ・・・と。アトラスの分厚い靴底が出す音の響く中、不安な気持ちから。無言のまま歩み続ける相手に尋ねる。
「棺が開かなかったら・・・どうしようか・・・」
自分に特別な力があるとは到底、思えない。鍵とは一体、どういう意味なのか。
「それに・・・開いたら、開いたで・・・」
王妃を冥府に連れて行くことになるのだ。そうなると―――現実味を帯びてきた、冥府の王との謁見に否が応でも気が引き締まる。
(オレは・・・ハデスに会ったら・・・どうしよう・・・)
まずは元罪人という、今の自分からすれば汚名だとしか思えない現実と。そして、失われた記憶と。どう向き合っていいのか。どう掛け合うべきなのか。
(記憶を・・・取り戻したいのか・・・戻したくないのか・・・)
過去を知りたいのか、知りたくないのか。心の準備がまだできていない。そのことだけが確かだ。
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