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序章:呪われちゃいました

くそみたいな呪い

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 昔々、とある国に長らく子供を望む仲睦なかむつまじい王と王妃がいた。
 よく晴れた日の午後、王妃が庭を散策していると一匹のカエルが現れて「あなたは近いうちにとても素晴らしいオメガの王子を産むでしょう…ケロ」と告げた。

 それからしばらくして王妃は身籠もり、その予言通りに玉のような男の子が生まれた。
 これには王も民もみんなして大喜び。
 是非とも祝福を与えてもらおうと名だたる魔法使いたちをこぞって祝宴に招待した。
 が、ひねくれ者で名の知れたグリィム・ドゥーワだけは除外した。

 祝宴に招待された魔法使いたちはあまりにも愛らしい赤子を目にして、これまた大喜び。
 率先して「美貌」「知性」「体力」「富」「健康」「美声」「武技」など多岐にわたる贈り物を次々と魔力で授けた。

 だが、その宴もたけなわ、盛り上がる盛り上がる、どこぞのイベント会場かというくらいの大盛況の中、グリィム・ドゥーワが魔術のこもった「呪いですノート」たる本をもって現れた。
 グリィム・ドゥーワは鬱々としたねちっこい眼差しで周囲を見渡すと、

「ふぅーん、貴重な麗しのオメガとして王子さまが生まれたんだって?
 それはそれはよかったねぇ。
 なによりなにより、よかったじゃん、おめでとーだ。
 けどね、王子は愛した者からは絶っ対に抱かれず、オメガとしての幸せは絶っ対に得られないから!!
 もう、この本にそう書いちゃったからね!!
 招かなかったことを今さら謝ったって遅いんだからね、ふーんだ!!」

 と捨て台詞以外の何物でもない呪いを言うだけ言って立ち去った。
 それはあまりにもあっという間の出来事で。
 一瞬呆気にとられた一同だったが、すぐさま我に返ると、あぁ、なんという迷惑このうえない呪いなのかと。
 呼ばれなかったからって、器があまりにも小さくないかと。
 だから嫌われるんだよと。
 わかってるのかよ、お前と。
 王と王妃を始めとする全員が怒り心頭となった。

 けれども、どんなにいきどおろうとも厄介なことにグリィム・ドゥーワの魔力は桁違いに強く、呪いを解くことは不可能だった。

「せっかく見目麗しいオメガとして生まれたというのに愛する者から抱かれることはないなんて、それではこの子があまりにも不憫ふびんです」

 と王妃が悲しみにたえきれずに泣き崩れ、シーンと場が水を打ったように静まりかえった。
 そんな沈鬱で重たい空気が流れる中、まだ贈り物をしていなかった老魔術師イソップドゥ・ワーが立ち上がった。

「王よ、王妃よ、さすがに一度なされた呪いを取り消すことはできない、だが…」

 とイソップドゥ・ワーは赤子の眠るゆりかごの前に立つと持っていた大きな魔術本「祝福ですノート」を神々しく開いた。
 そして魔法の羽根ペンを手に取って高々と掲げると、

「王子はオメガとしての幸せを得られずともそれにまさる魅力を得て、必ずや愛する者と結ばれて幸せになる」

 と告げ、サラサラとそれはそれは誰も読めないような見事な達筆で見開きのページに書き入れた。

 パァァンと本から虹色の光が四方に向けて放たれ、偉大なる魔術師の予告が間違いなく約束されたことを人々に知らしめた。

 さらに、そのイソップドゥ・ワーの機転とも一種の呪い返しとも言える偉業に感銘を受けた若手の魔術師アンデル・センドゥーワもまた奮い立った。

「こんなくそみたいな嫌がらせに負けてはいけません。
 私からは王子に困難に立ち向かう強靱な精神力をお贈りしましょう」

 と手にしていた魔術本「自由帳」にこれまたサラサラと象形文字なんだかミミズの絵文字なんだかわからない様で書き入れた。

 こうして――人生の初っ端からくそみたいな呪いをかけられた王子だったが、善良たる魔法使いたちの祝福に守られ、やがて王となった。

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