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1章:恋に落ちちゃいました~呪われたオメガの王カール・オージー・サンデス・メイ・ジセイカ~

若き黄金の獅子王のそわそわする午後

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「陛下、お時間でございます」

 傍らに控えていたチェルシー料理長がポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。

「ん…」

 優雅な長い指先がカタンと銀製の食卓用刃物カトラリーを卓上に置いてナフキンで唇を拭う。

「料理長、今日も美味しかった。
 ありがとう」

 と告げたちょうどそのタイミングで開け放たれていた扉の前に人影が現れた。

「陛下、アフタヌーンティーはお済みでしょうか」

 年老いた宰相クリス・タルミントキ・シリッシュのやたらと張り切った声が広い居間に響いた。
 こちらも高級な懐中時計を白い手袋をはめた手に持って定刻通りにやってきた。
 実に見慣れた光景だ。
 この生活リズムも六年目になると違う予定に変えようなんて気は一切起きない。

「ん、大丈夫だ」 
「デザートはあちらにお持ちしますか?」

 コツコツコツとかかとの高い革靴の音を立てながら名宰相が近づき、ティースタンドの上の手の付いていない果物を目にしながら尋ねてくる。

「ん、そうだな、そうしてくれ」

「珍しいですね、お残しになるとは。
 お身体の調子でも? 医者を手配いたしましょうか?」

 おそらくは毎日きちんと時間内に完食しているのに、どういうことだと思ったのだろう。
 相変わらず考察に長けている。
 だが、特に体調が悪いわけではない。

「いや、大丈夫だ。問題ない」

 と立ちながら応じた。
 そう、何も不都合はない。
 ただなんとなく、そわそわするだけだ。
 今日は朝からなぜかそわそわと落ち着かない。
 気もそぞろというのか。
 それで食べる速度がいつもより遅かった――自分ではそう分析している。

「デザートを運んでくれ」
「かしこまりました」

 歩き出した背後で宰相が料理長にテキパキと命じ、すぐさま後に続いてくる。
 そのままかしずく家来たちの前を通って、幅広く長い大理石の通路を進み始めた。

 いつもなら、その弓なりアーチ状に高い天井の下、豪勢で煌びやかな彫像と壁画、そして所々に配置された衛兵に見守られる中をカツーン、カツーンと冷ややかな足音だけで時が過ぎる。
 だが今日は、

「陛下、本日の謁見なのですが…」

 と後ろから声がかけられた。
 視線をわずかに向けると一歩引いた立ち位置から様子を窺うような目で見つめてくる。

「なんだ?」
「はい。
 実は少し変わった拝顔希望者がおりまして…ご許可を頂きたく」

(少し変わった…?)

 その変化球とも取れる意外な言葉に思わず片眉が上がってしまう。
 けれども、すぐにフッと笑みを浮かべた。

「万人に分け隔てなく接するのが持てる者の義務だ、問題ない」

 誰であろうと動じる事なかれ。
 貴人は高貴であるがゆえに義務を背負うのだ。
 そう、それがノブレス・オブリージュ。
 ましてや自分はただの貴族ではない。
 若き黄金の獅子王とも称される、この国の頂点なのだから。

「ですが…」
「問題ない」

 少し変わっていようがなんだろうが動じるわけがない。
 何を今さらと。
 詳細を聞くこともなく歩みを止めることもなく、何度も言わせるなとばかりにピシャリとはねつける。

 そのまま開かれた重厚な扉の間を通り抜けると、兵士が恭しく跪いて用意している上品な踏み台に足をのせ、壮麗な専用馬車の中へと颯爽さっそうと乗りこむ。

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