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1章:恋に落ちちゃいました~呪われたオメガの王カール・オージー・サンデス・メイ・ジセイカ~
発情なさっておられますか?
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もはや黙劇の域を越えている。
そこは演技台なんかではない。
青々と作物が茂る豊かな農地そのものだ。
彼の者は農作物を生み出す大地をこの上なく愛し、その恵みを守る守護者なのだ。
そうか、だから椅子ではなく地面に膝抱え座りだったのかと合点がいく。
彼は魂の底から土を愛しているのだ。
水の属性であるとも言える身だというのに。
吸盤が付いた手先から繰り出されるのは一点の淀みなき収穫物への愛だ。
そのあまりにも神々しい農作業ぶりに。
持ち時間を遙かに越えているにもかかわらず名司会者ですら鐘を鳴らすのを忘れて、その場の全員が一体と化して見守った。
大きな瞳を上げてペコリとお辞儀をした姿に、ブラボーッと引きこまれていた観客が拍手をしながらスタンディングオベーションの波を発生させる。
一緒になって立ち上がった。
「素晴らしい…」
この胸の感動を直に伝えたい。
場に居合わせた誰もがみな、彼の立つその地に「生きていくんだ、それでいいんだ、愛はここにある」の田園風景を視たのだ。
いても立ってもいられずに幕へと手を伸ばす。
がその時――
「お待ちください、陛下ーっ!!」
と行く手を阻まれた。
「宰相、どういうことだ…」
足下に跪き、ヒシッとまるで縋りつくように。
頑なに帳を両手で合わせている老家来を冷ややかに見下ろした。
なぜ邪魔をするのか。
思わずムッとする。
けれども――
「おそれながら陛下におかれましては…発情なさっておられますか?」
眼下から予想もしない形で続いた言葉に、
「!!」
と目を見開いた。
一体どういうことなのか。
なんだ、その直球も直球、ド直球の問いかけは。
なぜ、バレているんだと激しく動揺させられる。
だが微塵とも感じさせない声で、
「そのような状態ではないが」
とものすごく嘘をついた。
いや、本当にそれは大嘘で。
この滾りをどう言い表していいのかわからない。
人生で初めての経験だ。
もどかしくて仕方がない。
特に下半身が。
「大いに感動はしているがな」
と飄々と付け加えた。
同時に自身でも納得する。
そうだ、よくよく振り返れば嘘ではない。
感動も発情も広義の意味での昂ぶりだ。
多少、頭か下半身かの発生の箇所が違ってもこの際だ。
興奮の一言で括ってしまえばなんの問題もない。
(危なかった…)
そう、有史以来の聖君とも称される限りは前々王時代からの忠臣を欺くなどあってはならない。
ましてや相手は勤続六十年の老練家だ。
王以外は定年制はないとはいえ、六十年以上務めてもまだ辞めないと言い張って職にしがみつくなんてことはそうそうできることではない。
「それを聞いて…安心いたしました。
陛下の性フェロモンが前例にないくらいお強く、記録を更新なさっていました故に思い乱れてしまいました」
膝を付いた状態のまま、そっと蓋が開いた懐中時計を手のひらにのせて上げて見せてくる。
じっと眺めた。
詳しい見方はよくわからないが、文字盤に内蔵されている小さな円の内部でグルグル、グルグルと針が壊れたかのように回っている。
独立した秒針の表示だと思っていたが、よもやの別機能だったとは。
しかも性フェロモンだと。
いつの時点から測ってたんだと問い詰めたくなる。
だが、それよりも先に相手が口を開いた。
そこは演技台なんかではない。
青々と作物が茂る豊かな農地そのものだ。
彼の者は農作物を生み出す大地をこの上なく愛し、その恵みを守る守護者なのだ。
そうか、だから椅子ではなく地面に膝抱え座りだったのかと合点がいく。
彼は魂の底から土を愛しているのだ。
水の属性であるとも言える身だというのに。
吸盤が付いた手先から繰り出されるのは一点の淀みなき収穫物への愛だ。
そのあまりにも神々しい農作業ぶりに。
持ち時間を遙かに越えているにもかかわらず名司会者ですら鐘を鳴らすのを忘れて、その場の全員が一体と化して見守った。
大きな瞳を上げてペコリとお辞儀をした姿に、ブラボーッと引きこまれていた観客が拍手をしながらスタンディングオベーションの波を発生させる。
一緒になって立ち上がった。
「素晴らしい…」
この胸の感動を直に伝えたい。
場に居合わせた誰もがみな、彼の立つその地に「生きていくんだ、それでいいんだ、愛はここにある」の田園風景を視たのだ。
いても立ってもいられずに幕へと手を伸ばす。
がその時――
「お待ちください、陛下ーっ!!」
と行く手を阻まれた。
「宰相、どういうことだ…」
足下に跪き、ヒシッとまるで縋りつくように。
頑なに帳を両手で合わせている老家来を冷ややかに見下ろした。
なぜ邪魔をするのか。
思わずムッとする。
けれども――
「おそれながら陛下におかれましては…発情なさっておられますか?」
眼下から予想もしない形で続いた言葉に、
「!!」
と目を見開いた。
一体どういうことなのか。
なんだ、その直球も直球、ド直球の問いかけは。
なぜ、バレているんだと激しく動揺させられる。
だが微塵とも感じさせない声で、
「そのような状態ではないが」
とものすごく嘘をついた。
いや、本当にそれは大嘘で。
この滾りをどう言い表していいのかわからない。
人生で初めての経験だ。
もどかしくて仕方がない。
特に下半身が。
「大いに感動はしているがな」
と飄々と付け加えた。
同時に自身でも納得する。
そうだ、よくよく振り返れば嘘ではない。
感動も発情も広義の意味での昂ぶりだ。
多少、頭か下半身かの発生の箇所が違ってもこの際だ。
興奮の一言で括ってしまえばなんの問題もない。
(危なかった…)
そう、有史以来の聖君とも称される限りは前々王時代からの忠臣を欺くなどあってはならない。
ましてや相手は勤続六十年の老練家だ。
王以外は定年制はないとはいえ、六十年以上務めてもまだ辞めないと言い張って職にしがみつくなんてことはそうそうできることではない。
「それを聞いて…安心いたしました。
陛下の性フェロモンが前例にないくらいお強く、記録を更新なさっていました故に思い乱れてしまいました」
膝を付いた状態のまま、そっと蓋が開いた懐中時計を手のひらにのせて上げて見せてくる。
じっと眺めた。
詳しい見方はよくわからないが、文字盤に内蔵されている小さな円の内部でグルグル、グルグルと針が壊れたかのように回っている。
独立した秒針の表示だと思っていたが、よもやの別機能だったとは。
しかも性フェロモンだと。
いつの時点から測ってたんだと問い詰めたくなる。
だが、それよりも先に相手が口を開いた。
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