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4章:返り咲いちゃいました~そしてカエルは王妃に~

やめるをやめてもらうということで

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「どういうことだ、これは」

 地面に膝をついてかしずいている目の前の存在に尋ねた。
 場所は本土と島を繋ぐ橋のたもとだ。
 改修作業を確認するために訪れた場所で奇妙な展開になっている。

 ズラッと厳かに跪いている団体の背後には青空のもと清んだ北ジセイカ海峡が美しく広がっていて。
 実に雄大な景色だ。
 けれども、その海面はというとびっしりと無数の帆船で覆い尽されている。
 ハタハタと風になびく白い帆には赤い文字で刻まれた国名がはっきりと見て取れて。
 見間違えるはずがない。
 無敵と称されるジセイカ艦隊だ。

 一体どれほどの数で何をしにやってきたのか。
 北方の蛮族と戦でも起こすつもりなのかと眉間に皺が寄る。

「陛下、少々お待ち下さいませ。
 ただいまこちらに臨時の玉座を設けますので」

 と相手が答えれば、まるでその返答を合図にするかのようにザッと従者たちが一斉に立ち上がった。
 すぐさま老宰相が指揮棒を振るかのように身振り手振りで指示を出し、まずはコロコロコロコロ…と。
 侍従たちによって厚く太く巻かれていた赤い絨毯が土の上に大きく広げられる。
 次にえっほ、えっほと頑丈で高級な長椅子が運ばれてきた。
 ドンッと置かれると「ささっ、陛下、どうぞ」と流れるような手のひらの動きでもって勧められた。

(長椅子か…)

 これが独り用の椅子だったら馬上から用件を速やかに言えと追求するところだが、ヘケロを考慮したかと思うと悪い気はしない。
 ヒラリと降り立つと目を白黒させている小柄な身体の腰に両手を添えて、そっと下へと降ろした。

「ひとまず座るか」

「えっ……ケロ」

 戸惑う様子を見せる相手の肩を抱き寄せて歩き始める。
 先に腰掛けるとぼんやりと突っ立ったままでいる腕を優しく引っ張って横に座らせた。

「退位した身で陛下と呼ばれ続けることには違和感を覚える。
 新王にも失礼にあたる」

 やんわりと戒めながら用を尋ねようとすると遮られた。

「陛下、お言葉ですが、陛下は退位なさっておりません」

「……どういう意味だ」

「言葉通りの意味でございます」

「先日、効力の付与を希望した退位宣言書を提出したはずだが」

「えぇ、その効力の付与の希望ですが評議会で付与が却下されました」

「なんだって」

「はい、結果無効となり、さらに陛下にはやめるをやめてもらうということで満場一致で議決されました」

「!?」

 いま自分は何を言われたのだろうか。
 ん?と空を目だけで見上げる。

(やめるを…やめてもらう…?)

 そう聞こえたが、聞き間違いではないだろうか。
 やめるとはつまりは退位のことで。
 一般的に言うところの退職願いを出した状況だが、本人がやめたいと言っているのにやめるをやめてもらうって、そんなことがあるのか。
 しかもこの場合の本人とは王だぞ。
 どんな力関係なんだ。
 労働環境が悪質すぎるだろ。

「宰相、意味がわからないのだが…」

「陛下、ご安心下さい。
 王たる者、どうぞ玉座にてお待ちくださいとお伝えしたにもかかわらず、生涯の伴侶を自分のこの手で確保しに行くんだと唐突に我欲を通された陛下ではございましたが、理性を回復してゆとりある政務を保障するために付与される休暇、つまり王には有給休暇の方が必要と議会で認可されました」

(有給休暇…だと?)

 それまたどういう思考回路によるどんな変化球なんだ。

「ちょっと待ってくれ、ちょっと待ってくれ…」
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