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終章:幸せになっちゃいました

お菓子みたいな呪い

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「王さま、じゃ、行ってきます…ケロ」

「ん、今日は弁当は持っていかないのか」

「は、はい、何回か肥料を取りに帰ってくるので家で食べようと思います…ケロ」

「そうか、オレも一緒に食べたいけどな」

 と微笑む。
 もちろんしようと思えば、できることだろう。
 けれども移動時間を踏まえればやめておくべきだ。
 その分、帰り時間に影響が出ては元も子もない。

「えっと、えっと…ケロ」

「夕飯を楽しみにしてるよ」

 どう応じたらいいのだろうと狼狽えているカエル姿の、その頬にチュッと口づけた。

「気をつけてな」

「は、はい、王さまも気をつけて。
 では、行ってきます…ケロ」

 ペコリとお辞儀して「アポロ、行くよ…ケロ」と愛馬に声をかけると御者台にちょこんと座る。
 カッポ、カッポと出かけていく馬車を見送るのは毎日の日課だ。
 そう、ここはオラーガ村でまだ婚姻式はしていない、内縁の妻との家だ。

 愛しい妻はそれはそれは恥ずかしがり屋さんで。
 カエルの着ぐるみをいまだに身に着けている。
 着ていないとなんだか裸で歩いているようでとても落ち着かない――というのだから仕方あるまい。
 試しに暑くないのか、動きにくくないのかと尋ねても、服を着ている感覚や違和感が全くないらしい。
 それもまた不思議な話で、もはや身体の一部なのかもしれない。
 こちらとしてはそのかわいい顔を他の男に見られて、不愉快な懸想される可能性が減るわけだからやめさせる理由も特にないが。

「さてと、オレも行くか」

 黄緑色の小さな身体が遠ざかり、農道へと入ったところで腰から魔道具を外した。

「ザーバス、来い!!」

 とそのV字型の飛去来器ブーメランを空に向かって勢いよく投げる。
 ヒュン、ヒュン、ヒュン…と。
 日が昇りつつある空を風を切るようにして回転して跳んでいく。
 円形の軌跡を大きく描いて戻ってきた物体をパシッと受けとめるとまた空高く放り投げた。
 エサに夢中だと気が付かない時がある。
 最近は定時に呼び出しているので問題ないとは思いつつも念のため二回飛ばした。

 しばらくすると山の上に黒い影が現れる。
 すぐに巨大になるだろう、その光景を見て家から歩いて離れる。

「クエェエエェエェェーーー!!」

 と上空を大きく旋回しながら鳴き声を上げ、大気が轟いた。
 バッサ、バッサ、バッサと。
 普通の人間ならば飛ばされているだろう風圧で降りてくる。
 ズゥンと降り立ち、かしずくようにして身を下げた怪鳥に慣れた足取りで近づき、その背中に上る。
 鎖を握ると「飛べ」と命じた。

 バッサ、バッサ、バッサと飛び上がり、目指すは王都だ。
 もちろん遷都はまだしていない。
 要するに通勤だ。
 愛する妻を仮に今の古めかしい伝統が息づく王宮に住まわせた場合、もれなく大奥に入れることになる。
 そんなことは誰が許すか。
 だが、既存のルールを変えるにしたって一筋縄でいかないのが宰相だ。
 結果、いろいろと面倒くさいので通勤する道を選んだ。
 王が通勤ってどう考えてもおかしいだろ。
 ところがおそろしいことに王が一番労働条件が悪いのだ、この国は。
 けれども心は幸せで満たされている。

(あぁ、ヘケロ…)

 いま別れたばかりだというのにもう会いたい。
 妻が愛しくてたまらない。

(今夜はあの格好のままでするか…)

 なんだかんだいって、自分もあのカエルの姿を相当気に入っている。
 全裸にならないとケロと付く語尾もだ。
 先日も着衣させたままコトに及んだが、正直かなり興奮した。
 かわいくてたまらない。
 けれども、それもこれも瓢箪ひょうたんから駒というか、偶然の産物だったのだから驚きだ。

『えぇっと…はてさて、どう書きましたかな』

 とはイソップドゥ・ワーの言葉だ。
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