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復興編
第二十八章 共同戦線-3
しおりを挟む西側の海では夕日が今日一日の最後の輝きを放っていた。
セディーユ地方は、暗くなると気温が急激に低くなり、夜はかなり冷える。
王女は暖かいショールを纏い、生まれたばかりの赤ん坊をあやしていた。
「……わからない? 王宮の情報が?」
「はい、王宮の回線に入れず、ブルグ博士からの連絡も途絶えてしまいまして。申し訳ありませんが、私ではサーバーのハッキングまでは困難を極めます」
婆やが王女に温かいお茶を淹れながら説明した。
彼女は元は死の軍の一人で、それなりに情報収集の技術も伝手も持っている。
今も王都にいるはずの宮廷博士ブルグの協力の元、王宮の情報は逐一チェックしていたのだが、最近連絡すらとれなくなってしまったのだという。
「それがなんといいますか、王宮のシステムが変わったというよりは、むしろ狂っていると申しますか……」
王女は首を傾げる。
科学世界最大の技術を駆使したシステムが狂うなんてことがあるのだろうかと。
優秀なスタッフが常に二重三重のチェックも行っているし、自動修復システムもある。
実際、狂ったなんてことは過去に一度もなかった。
「しかし、狂ったり壊れたりしたならばシステム暴走なども考えられるのですが、ミサイルが突然発射されたとか、衛星軌道が突然変わったとか、そういったこともなくてですね……」
婆やはお茶を王女に渡しながら続ける。
「ですから、狂った……というよりは、狂わされたのかと……」
王女がその言葉に思考を巡らせようとしたその時、扉がノックされ、サヤが顔を出した。
彼女の表情は少し強張っている。
その様子に疑問を感じた王女が理由を聞こうとすると、突然脇をすり抜け入って来た元気な少女に阻まれた。
「こんにちは、お邪魔しますー! わぁかわいぃ、ややや!」
「おいこら、リーニャ、出しゃばりすぎだって! あ、どうも、お邪魔しています」
よく見るとその少女と同じくらいの年頃の少年もいる。
誰だろうーー王女がサヤに視線を向けると、先に少年が姿勢を正し毅然と名乗った。
「お初にお目にかかります! 俺、いや、私はキジャ・フレフィルノ。我が師東聖ディルシャルクより命を受け、ここに参ったしだいにぃ……っ」
「……噛んどるやん。慣れないことするからや……」
リーニャがジト目で突っ込みを入れる。続けて王子が一人の男性と共に入って来た。
「はは、私もびっくりしたよ。ディルシャルクが生きていて、しかも弟子をとってたなんてね!」
言いながら顔がにやけているのが隠せていない。親友の生存が相当に嬉しいのだ。
「え、じゃあ、もしかして……ライサが……!?」
「その辺は私からお話しましょう、姫様。……お久しぶりでございます。突然の訪問の無礼をおゆるしくだされ」
「ヴィクルー博士!!」
王女が驚いて立ち上がると、抱いていた赤子が泣き出し、落ち着くのに小一時間を要した。
◇◆◇◆◇
科学世界の王宮は混乱を極めていた。
何もしていないのに、突然警報は鳴り、防災シャッターは閉まり、スプリンクラーが作動し明かりも消え、大混乱である。
王宮のシステムを管理するスタッフ達が、休む暇もなく動き回っていた。
だが、どうコントロールを駆使しても、機械が言うことをきかない。
人形軍も停止していたが、それどころではない。全てが制御不能状態となっていた。
「駄目です! 第五システム、エラー!」
「A棟で警備システム作動しました!」
「城内、冷暖房システムが制御不能! 氷点下を記録しています!」
「軍事施設、兵器のリセットが起こりました!」
あちこちで嫌な報告の声ばかりあがる。
管理室も電源こそ落ちていないものの、警報が鳴り響き、人々の慌てふためく姿が後を絶たない。
「これは一体どういうことだ、ニーマ・ロイヤル博士!」
ヒスターも予想外の出来事に、戸惑うばかりである。
先程からスタッフ達が彼に指示を求めてくるが、もう思いつく対策は全て行った。
しかしロイヤル氏は王宮のシステムに関してはまだまだ使用経験が浅く、宮廷博士といえどもあてにはならない。
「まさか……コンピュータウイルス!?」
ある考えに辿り着いたヒスターは、慌てて王宮の全てのシステムとつながっている、城内のサーバーの元へ向かった。
だが、その部屋もパスワード、指紋照合システムが壊れている。認証されている筈なのに、何度試してもエラーがでてくる。
ヒスターは携帯用のパソコンをとりだし、やっとのことでそのシステムをリセットし、ようやく部屋に入り込んだ。
その部屋は無人で、複数のサーバーはエラー表示もなく、普通に作動しているように見えた。
しかしそのデータをひとつひとつ確かめてみると、身に覚えのないプログラムに書き換わっている。
ヒスターは、冷や汗を流した。
「そんな……一体誰が、王宮のサーバーにウイルスなんて……」
ガシャガシャといろいろ操作しながらヒスターは考える。
そもそもそこらのものとは訳が違う。何重にもプロテクトがかけられ、アクセスも簡単にできるものではない。
ましてやウイルスに感染させるなど、彼にも出来るかどうか不明だ。
だがよくよく考えると、完全に狂わせているというのなら、ミサイル暴発くらいあってもおかしくない。
「……コントロール、しているのか?」
この科学世界は、まさに科学で全てが成り立っている。
その科学を自由自在に操れる存在がいるとすれば、それはまさに最強であり、そんな存在は現在四人もいる。
ヒスターは背筋が凍りつくのを感じた。
彼らを敵に回してしまったら、この世界はいとも簡単に崩壊するだろうと。
「ロイヤルは初心者、ヴィクルーは王都にいない、ブルグは情報漏洩の疑いで軟禁中……今王宮にいるのは……あの女か、ライサ・ユースティン!」
ヒスターは部屋をすぐさまとび出した。ライサは既に脱出してると気付いたからだ。
人を呼び、彼女の捜索と、ブルグの確認を早急に手配しようとする。だが、その司令系統すらも機械任せだ。
自ら確かめに行った時には、ブルグの部屋は既にもぬけの殻、ライサの姿も痕跡も全く捉えることが出来なかったのである。
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